建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2001年12月号〉

interview

建設業に対する国民の理解促進が重要

公共事業の評価は、100年単位で

社団法人日本土木工業協会北海道支部長(鹿島建設株式会社札幌支店長)  鵜飼 進 氏

鵜飼 進  うかい・すすむ
昭和 15年 1月 24日生
昭和 38年 3月 北海道大学工学部土木工学科卒業
昭和 38年 4月 鹿島建設株式会社入社
昭和 49年 3月 同社土木設計本部設計主査、設計長
昭和 61年 4月 同社土木設計本部第一設計部長
平成 3年 4月 同社建設総事業本部土木設計本部次長
平成 6年 6月 同社建設総事業本部土木設計本部長
平成 9年 4月 同社札幌支店長
平成 9年 6月 同社取締役札幌支店長
平成 13年 6月 同社常務取締役札幌支店長
<主要公職・団体歴>
平成 9年 4月 (社)日本土木工業協会北海道支部長
平成 9年 5月 (社)北海道土地改良建設協会長
政府は、公共事業費の一律削減を敢行し、しかも入札制度の改正によって、建設業界は、ますます厳しい競争を強いられている。総建設予算の10パーセント・シェアに支えられてきた北海道でも、構造改善プログラムが進む中で、建設業界は、どう生き残るか。日本土木工業協会北海道支部の鵜飼進支部長(鹿島建設札幌支店長)に、対応を伺った。
──去る6月に、恒例の日本土木工業協会と北海道開発局との意見交換会が開かれましたが、どんな話題が多いものでしたか
鵜飼
新聞に報道されましたが、4月から新しく施行された公共工事適正化法が中心でしたね。これについては、いろいろな問い合わせや解釈があるわけです。その対応をどうすべきかと話題になり、窓口を開発局に置くことにしていただきました。土工協の中にも、このための委員会があり、入札制度や契約制度を審議していますが、その委員会を窓口にすることになりました。こうした公共工事の契約適正化法の周知徹底のほか、過度な地元優遇制度の是正と適正な発注ロットについてなどが話題となりました。
適正な発注ロットというのは、工事発注をできるだけ細切れにしないということです。細切れにすれば、どうしても工事費が割高になりますからね。例えば、トンネル工事などは何工区にも分けずに1社か2社で施工すれば、それだけ人も少なくて済み、手数もかからないのです。
この他、デザインビルドや民間の技術活用について、さらに設計条件の明確化や、設計変更の適正化などが論じられました。どれも、一朝一夕には解決しない大きなテーマです。徐々に解決策を模索していくことになるでしょう。
──行政改革の流れの中で、国民にとって、良いものを安く作ることがベストと言われていますが、最終的には設計・施工一括という形を取ることが必要では
鵜飼
現在は会計法で、公共事業の場合は設計・施工は分離することに決められています。デザインビルドは欧米では既に実施されておりますし、日本においても実施に向けて検討中であると聞いています。現在の設計・施工分離では責任の所在が不明確であり、特殊技術の採用も難しいですね。設計・施工一括であれば、責任も明確で、新技術も採用でき、コストや工期においても有利になると思います。
──行政側も人員削減を行っている最中で、これまでとは違う新しい考え方でワークシェアリングと民活導入を検討しています。また価格競争も非常に激しくなりそうですね
鵜飼
行政の規模縮小は、今後の発注形態に変化を及ぼすものと思われます。現在発注者において検討中と聞いておりますが、pm、cmなどの導入が予想されます。
また、建設業の価格競争は、土木、建築を問わず非常に厳しいものがあります。安値受注は既に限界にきており、価格破壊の様相を呈しています。このような状況では、いずれ立ち行かなくなることは必定であり、経営はもとより品質保証の面など非常に憂慮しています。
──過度な地元優遇策制度の是正については、北海道は本州と違った特色が見られますか
鵜飼
土工協は日本を代表する建設会社の上位から170数社で構成され、北海道の場合は70数社ですが、ほとんどの本社は東京、大阪にあります。
官公需法による国の中小への発注率は、本州では約半々ですが、北海道は70%強でありまして、北海道の歴史的背景もありましょうが、多少多いように思われます。この傾向は地方自治体となるとさらに顕著ですね。
──ところで、11月18日には21世紀最初の「土木の日」を迎えますが
鵜飼
昭和62年当時に、札幌で土木学会の全国大会が開催された時に、土木の日が設定されました。一般向けとして土木の二文字を分解すると、十一と十八の四文字になると、説明しています。
土木それ自体の歴史をひもとくと、明治12年に「工学会」が設立され、大正3年に「工学会」から「土木学会」として独立したとのことです。では、土木という概念の由来はというと、諸説がありますが、実は中国の古い文書に『准南子』というのがあり、この中に「築土構木」という語が登場します。土を築いて木を構えるということで、これを起源とする説が有力のようです。
本来、土木工学とは、人類の福祉と平和に貢献する学問だ、と言われていました。人間が安全に生きるために、また人間の暮らしを支え、生活や経済の基盤を作るために、土木技術をもって自然の威嚇を克服し、自然と調和しながら、人間にとって有用なものに変えていくことです。近年は盛んに「共生」という言葉が使われますが、土木は決して自然の敵ではなく、自然と一体になるための重要な仕事なのです。
したがって、国民が安心して安全に暮らせるための社会資本整備、これが公共事業です。公共事業は最近、とかく批判されますが、その必要性と意義を広く国民の皆さんに理解を深めていくことが重要で、これが土木学会や各種建設業協会の事業活動の柱ともなっています。
──「土木の日」に当たって、どんな活動をしてきましたか
鵜飼
11月18日から1週間を「くらしと土木の週間」として、いろいろなイベントを行っています。主催は土木学会ですが、共催団体として土工協ほか各種建設業協会、後援は各発注官庁となっておりまして、主要な行事は現場見学会、講演会、映画会、パネル展などがあります。
──土工協として、独自の活動はどんなものがありますか
鵜飼
現場見学会は、土工協支部として毎年行っています。大学や工業高校の学生、あるいは小学生、また一般の市民の方々に、いろいろと現場を見ていただくことが大事だと思っています。その他、日本の建設技術というのは世界に冠たるものを持っていますから、それを説明するためのパネル展なども行っています。
今年の現場見学会は、忠別ダムに学生をバスで案内し、工事内容と進捗状況などを説明していただきながら、現場を見てもらいました。これからも建設業に従事しようという人々に、大いにアピールしたいですね。
それから、協会の広報誌『建設業界』は、本部で発行していますが、支部としても『ほくと』という広報誌を2,000部ほど発行しています。これには、土工協はどういう組織で、どんな活動をしているかを紹介し、また対談記事なども掲載しています。
──日本は、戦後40数年くらいの間に技術が発達して豊かになりました。そうした技術を、広報誌で広く知らしめていくことも有効では
鵜飼
『ほくと』は年1回、『建設業界』は毎月発行ですが、地道ながらもそうした活動は続けていきたいですね。「プロジェクトX」というテレビ番組シリーズがありますがやはり必要なのはロマンですね。「プロジェクトx」では、備讃瀬戸大橋や超高層ビルが取り上げられましたが、東京湾アクアラインなども好材料だと思います。私たちも施工には参加しましたが、通行料が高くて計画通りの利用がないとか、採算割れしていると、マイナス面ばかりが喧伝されます。しかし、50年、100年が経過した後に、どう評価するかという問題だと思うのです。少なくとも東京湾に人工島を造ってトンネルを掘ったのは初めてのことで、素晴らしいことです。青函トンネルもそうですが、こうした前例のないプロジェクトを成功させることは、私たちにとっては技術者冥利につきること、生きていることを実感させられるものです。
建設業というのは、人間が生きている限り存続します。未来永劫の産業だと思います。周知の通り、公共事業は10%削減などと言われておりますが、国土に必要な社会資本の整備は継続していかなければならないと思っています。それに環境の問題や、リニューアル、今まで作ったものをどうやって維持管理していくかという事業が、今後は増えてくるのではないでしょうか。
──建設事業の意義は50年、100年という歴史の中で判断しなければならないということですね。それと公共事業についてどうお考えですか
鵜飼
そのとおりです。近年の経済情勢は非常に悪く、特にアメリカでの同時多発テロ事件の発生なども影響して、世界的に景気は低迷しています。そうした中で、北海道は全国に比べても特に厳しい状況ですね。1997年に拓銀が破綻して、一番先に悪い流れが来てしまいました。これに連鎖して、建設業の倒産もいろいろに出てきており、そのため雇用情勢も特に悪いですね。民間設備投資も、この数年は連続して低下傾向にあり、どう見ても景気回復に向けては動いていません。
今年度の北海道開発予算は、前年度とほぼ同じで、計画通りに執行されていますが、2001年度の建設見通しは約67兆円で、70兆円を下回り、前年度比マイナス4.6%です。北海道でも前年度比マイナス4.5%。雇用情勢も悪化傾向で、全国を下回るという状況ですね。 
本来、公共事業とは、みんなで使うものをみんなで作ることです。ですから、公共事業が悪者扱いされるのは、極めて不本意なことです。最近は、小泉内閣がスタートしてから、都市vs地方という対立の構図が報じられたりしています。そのため、予算編成における7項目の中に「都市再生」という項目があり、都市部への優遇策と地方への切り捨て論が顕在化していくのではないかと思われます。
従来は、もともと狭い国土ですから、有効に利用しようというのが四全総(第4次全国総合開発計画)の発想でした。均衡ある国土の発展を目指し、東京一極集中の負荷を低減して多極分散型とする。それが国土開発の理念でした。
──集積度の低い北海道のインフラ整備は、効率が悪いと見られますが
鵜飼
最近「費用対効果」について議論がなされていますが、グランドデザインに基づき計画的に進めるべき事業と、ほかの目的を持つ事業とを同列に取り扱うべきではないと思います。例えば、一般に言われています北海道の高速道路について、「つくっても走る車は少なく投資効果がない」という論法は、長期的展望を欠くものであり、投資効率だけで判断するのは危険ですね。
北海道にとってどのような社会資本が必要なのかは、地域の特性から考えて日本に貢献できるものは何かという議論から始めなければなりません。食糧供給基地としての役割を重視し、またit産業に関連した基盤整備についても重点的に投資すること。具体的には高速道路、高規格道路、そして新幹線の基盤整備が求められます。
その他に、農業及び食品関連産業の物流基地や流通網の整備、観光産業のネットワークの整備、及び豊かな自然環境を維持するための廃棄物処理、農業集落排水、そして、現在まさに狂牛病で問題になっていますが、家畜の屎尿処理ですね。さらに風力発電などのエネルギー関連事業。こうした基盤整備が必要だと思います。また、苫東、千歳の臨海工業地区、石狩湾の工業地区などの広大な土地の利用計画、そして幌延で計画されている深地層研究所も注目すべきではないでしょうか。
もう一つは、国際化への対応として新千歳空港のハブ化です。今後は東アジアや北方圏との交流も積極的に進めていかなければならず、また先端情報産業の集積、国際コンベンション施設の整備など、なすべきことは多いと思います。
 これは北海道のためというより、日本の発展のために関わることですから、国の最重点事業とすべきだと思います。
──そうした課題に、土工協はどう取り組みますか
鵜飼
建設業に対する国民の理解を十分に得ることが重要です。そのために、建設業界からの情報公開が必要でしょう。国民によく理解してもらえるなら、公共事業不要論もなくなるでしょう。
今まで土工協は、グランドデザインへの参画や大型プロジェクトの推進、また各現場の共同企業体(jv)のリーダーとして、品質の向上と経営の合理化にも大きく貢献してきました。
しかし、21世紀に残された課題も多く、ローコストで整備できる設計も含めた各種研究開発や、整備されてきた社会資本の補修・改修のノウハウを蓄積していかなければなりません。2030年以降、建設投資に占める維持更新の費用の割合が70〜80%くらいになると言われていますから、土工協会員の持てるポテンシャルを十分に生かしていくためにも、先導的な役割を担っていかなければなりません。
建設業は、日本の国際競争力の向上・発展にはなくてはならない、重要な産業あることは間違いありませんが、日本の経済の逼迫感と公共投資の削減を背景に、限られた建設投資をめぐっての過当競争が恒常化しており、まさに優勝劣敗の色彩がますます濃くなってくるでしょう。そのため、技術と経営に優れた企業が適正に評価され、能力を十分に発揮できる環境が整備されていくことが必要です。一方、土工協会員の力量も試される時代がきます。

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