建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2000年12月号〉

interview

ワールドカップ開催に向けて、環状2号の完成を急ぐ

都市計画道路整備率の向上を図り、全国最下位の汚名返上を目指す

横浜市道路局長 鳥居 盛男 氏

鳥居盛男 とりい・もりお
昭和40年 横浜市入庁
道路局瀬谷土木事務所長、道路局道路部長、
総務局理事災害対策室長、総務局担当理事など
を経て、平成11年4月から現職。
横浜市はわが国第2の大都市でありながらも、都市計画道路の整備状況は13大都市中、最下位と意外に低い。急激な都市化の進展と人口の急増で、道路整備に十分な予算措置ができなかったことが背景にある。このため、市内は渋滞箇所が多く、しかも鉄道との交差箇所の多さがそれに拍車をかけている。2001年には、ワールドカップの開催も控えており、世界に誇る港湾都市としての名に恥じない道路整備が必要だ。そこで市道路局は、限られた事業予算の中で、市内交通の利便性向上を目指し、効率的な道路整備に取り組んでいる。鳥居盛男局長に、市内の道路整備計画と課題などを伺った。
――横浜市の全体的なグランドデザインの中で、今後は道路のネットワークをどう形成するかが大きな課題ですね
鳥居
そうです。横浜市の道路の現状は、都市計画道路の整備率を全国13大都市の中で比較すると、直近の平成9年のデータで横浜市は55.7%で最低水準です。11年度末では57.7%に到達していますが、他都市の整備率も伸びているでしょうから、最低ランクであることには変わらないと思います。また、都市計画道路の密度は、標準で1平方qにつき3.5qとされていますが、その点でも半分程度でしかありません。したがって、市内の至る所で渋滞を起こしているのが現状です。
その意味で、市が最も力を入れているのは、整備率を上げることですが、とはいっても整備対象路線が多いので、重点を絞って推進していかざるを得ません。
そこで3環状10放射の整備に重点的に取り組んでいます。環状道路4本のうち1号はほぼ出来上がっているので、残る2号、3号、4号、中でも延長24.5qの環状2号は、都心部と郊外部の中間、都心から4-5qの地域を走っており、ここに重点投資をしています。
それまで横浜市には環状の道路がなく、横断移動でも一旦は都心部に入らねばならなかったので混雑していました。ところが、9年度に暫定的な2車線での部分供用をスタートさせたので、早くも都心部の渋滞緩和に効果を発揮しています。引き続き全線6車線化の工事を進めており、12年度末には完成の予定です。これが完成すると、横浜市の道路の骨組みの一つが出来上がります。それだけに、環状2号には横浜市の道路事業費の20%近くを投入しており、3号、4号にも全体の15%程度を投入しています。
一方、東京、町田、横須賀方面への10放射にも重点投資しており、建設改良費の35%を投入しています。
また、ワールドカップ開催を控えていることから、特に新横浜新都心周辺の交通対策にも力を入れており、3環状10放射とワールドカップ関連に、道路予算の75%を充てています。新横浜周辺は13年度中に完成の予定で、3環状10放射はおおむね2010年までに仕上げるつもりです。環状2号の事業費は約70億円、他の路線も1路線あたり10億から20億円を投資しています。
反面、3環状10放射とワールドカップ関連を除く一般市道の整備路線は14本になりますが、その投資額は約80億しかありません。都市計画道路の整備率を上げるためには、もっと予算投入しなければならない路線はあるのですが、思うように予算を確保できないのが現状です。ワールドカップ関連と環状2号の整備が終われば、他の路線に重点配分して取り組んでいきたいと考えています。
――全国的にみてもそうですが、中心部と区部、都市部と郡部の投資バランスをどう取っていくかが課題になりますね
鳥居
新横浜周辺などは、新幹線ひかり、のぞみの運行本数が増えたように、急激に市街化が進み、交通量が増大しています。また、みなとみらい21地区は、新横浜と並んで横浜の二つの顔として発展しています。
このうち新横浜を見ると、昭和38、39年の新幹線駅開業当初から、しばらくの間は原野のままでした。この10年から15年で市街化が進みました。新幹線の本数が増え、道路体系の整備が進んだのが大きな要因です。
横浜市全体では、40年代から50年代にかけて人口が急速に伸びましたが、この時に開発と合わせて道路整備が出来ていれば、今日のような道路渋滞は起きなかったと思います。当時は、人口の急増に伴って学校整備に予算がかなり割かれたことの影響が大きかったわけです。
道路整備に関しては、優先地区を決めて集中的な投資を行っているので、全市的に見渡せば南西部のように立ち遅れている面は否めません。それでも3環状10放射の構想は、市内18区のすべてを通過するように計画されてはいるのです。
――通過交通の状況は
鳥居
最近のデータはありませんが、純粋に横浜市内を通過するだけの交通量は全体の5%から10%程度と見ています。
――一方、鉄道の立体交差化による踏切の解消も重要な課題ですね
鳥居
そうです。これまでは京浜急行や東横線などとの立体交差が課題でしたが、現在、東横線日吉駅周辺で立体交差化事業を推進しています。来年度から本格的に予算付けされますが、相模鉄道の星川−天王町間の連続立体を事業化する予定で準備を進めています。
総額で400億円以上の事業規模となります。鉄道の立体交差化は全体事業費の90%が道路サイドの負担になりますから、これまで都市計画道路の整備に重点を置いてきた横浜市の場合は、一か所か二か所で実施していた程度でした。
――鉄道会社がもう少し負担するようなシステムの確立は不可能でしょうか
鳥居
鉄道会社の負担は、「受益の範囲において」と規定されています。このため、施設更新費や、踏切の管理費が不用になることなどを考慮して積算すると、事業費の10%程度だということです。
――ところで、最近は道路整備においても量より質が問われるようになりました。とはいえ、横浜市の目標が整備率の向上にあるならば、道路環境など道路の質を上げるのは先のことになりますか
鳥居
いえ、幹線道路の騒音対策は、道路改良の機会にできるだけ低音舗装などを導入するなど、同時進行で進めています。
――横浜市の道路建設事業団とはどのような協力関係にあるのですか
鳥居
道路整備への民間資金投入を促進するため、環状2号、4号などの整備を一部担当してもらっています。資金は、銀行やNTT資金を導入していますが、それを市が買収することになるので、事業費が膨らむと市の財政にも影響が出かねません。
しかし、事業団は、ある意味ではPFIに似た先行的な組織だと思います。もとは事業団の資産ですから、横浜市が使用料を払い、一定の年数が経てば市に財産を帰属することにすれば、まさにPFIそのものです。
現在は、事業団の担当区間の完成が近付づいているので、事業団の今後の役割と体制について検討しているところです。
――他府県の道路公社のように、有料道路の整備運営などの可能性は
鳥居
その場合は、公社の独自事業ということになりますね。しかし問題は、市内に有料道路として馴染む場所があるかどうかです。道路公団や首都高速公団であれば、長い区間で運営しているから採算がとれますが、一地方都市で橋梁やトンネルを建設することで利便性が上がるからという理由で、それを有料にしたところで、部分的な区間を有料化するのは難しい面があると思います。
横浜市内は、地価が高いことがネックとなっています。地方であれば1qの整備につき20億円から30億円で出来ますが、横浜市で幹線道路を建設した場合、100億円から200億円にも上ります。例えば、新横浜などは都心から約6qの地点にありますが、一般の街路で結ぶと約1,200億円の事業費が必要なのです。横浜環状線の北線、南線はともに約9qの延長ですが、その整備にはそれぞれ4,170億円と3,600億円かかります。
いずれにしろ、都市部の高速道路は、環境対策等から事業費のかかる地下等を採用しており、単独で採算をとることは難しくなっています。北線は首都高速道路公団事業であるため、既存のネットワークのプール制で対応することになりますが、南線は国道468号であることから、国道の直轄事業と横浜横須賀道路等のプール制を活用した一般有料道路事業との合併施工とすることにより、料金を抑える工夫をしています。   
――高地価ゆえの土地の有効利用として、道路地下の活用も各都市で進められていますね
鳥居
建設省は交通情報ボックスの拡充に取り組んでいますが、自治体として将来のITSに対応する具体的な政策というものが明確になっていません。どう取り組めば良いのか検討するよう、関係部局に課題を出しているところです。
国道レベルであれば、情報化も有効になりますが、横浜市内の道路総延長は約7,500qに上りますから、何が可能で、何が不可能かを模索しているところです。   
――東京都では下水管の空きスペースを、情報インフラとして通信会社などに有料でレンタルするという構想を進めていますね
鳥居
光ファイバーのことですね。道路管理者は電柱の地中化を目的に、CCボックスを設置しています。ただ、難しいのは地上機器です。これまでも地中化が出来ているところは需要が高いため、歩道幅が最低でも2.5メートル以上の所でしか出来ませんでした。そこで、地上機器をコンパクト化したり、地下に収納する方法を検討中とのことですから、それが実現すれば、さらに進むでしょう。
それでも、ホテルや超高層オフィスビル、アミューズメント施設の集積するみなとみらい21地区や、市役所本庁舎、横浜球場のある関内地区では無電柱化としてCCボックス、共同溝の埋設が完了しています。
今後は進出企業の方でケーブルから光ファイバーに切り替えてもらえれば、すぐに対応できる状況です。特にみなとみらい21地区は、情報都市であることがセールスポイントの一つですから、開発当初の段階から共同溝を設置しています。  
――ところで、全国自治体の道路管理者の中でも、比較的珍しい事業に、直営の駐車場がありますね
鳥居
駐車場特別会計として運営しており、最低目標でもある維持管理費の確保は達成していますが、起債の償還を含めると赤字経営であるというのが現状です。駐車場の管理は、事業団や新都市整備公社に委託しています。

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