建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2001年12月号〉

interview

いかにして周辺環境に手を加えずに施設整備を実現するか

ウトナイ湖の自然と共生する野生鳥獣保護センター

(株)北海道岡田新一設計事務所 代表取締役 高月 捷治 氏

 【高月捷冶氏がこれまでに設計に参加した作品】
警視庁本部庁舎、岡山市立オリエント美術館、日本歯科大学新潟歯学部校舎、苫小牧市庁舎、北海道三岸好太郎美術館、北海道立中央水産試験場、陸別町役場庁舎コミュニティセンター他
バードサンクチュアリーとして知られる北海道のウトナイ湖に、野生鳥獣保護センターが整備されている。広く市民が野鳥と自然に触れながら、それらを理解する場とすべく環境省が整備に乗り出したものだ。その設計・施工監理を担うのは株式会社北海道岡田新一設計事務所・高月捷治社長は「自然保護のための施設であるため、周辺の自然を損ねずにセンターの目的を実現することが課題だ」と語っている。
──ウトナイの野生鳥獣保護センターは、野鳥保護のための機能向上が主目的なのですね
高月
野生鳥獣保護センターだけでなく、この地にはユースホステルやネイチャーセンターがすでにあり、これらを経由して観察舎まで行けるようになっています。それぞれが「集い」、「調査」、「自然観察」といった3つのゾーンに分かれていて、それら一連の機能が一体的に整備されるということです。したがって野生鳥獣保護センター単体で考えるより、全体でとらえる方が適切ですね。
──ゾーニングはあらかじめ決まっていたのですか
高月
これは基本計画段階で決まっていました。それを設計段階で具体化したわけです。
今回の野生鳥獣保護センターと、ネイチャーセンターとを遊歩道で結ぶことによって機能分担しながら連携を取っていくというのが全体構想です。野生鳥獣センターを整備することによってウトナイを幅広く見られ、さらに魅力的な地域にしていくというのが目標です。
──今回はその全体計画の時から携わってきたのですか
高月
基本設計から実施設計までを担当しました。ゾーニングの位置づけなどは、基本計画の段階で設定されています。遊歩道のルートには踏分け道というのか、けもの道があり、今ある自然を壊してルートを造るのではなく、今まであった踏分け道を、そのまま整備したのです。環境省の基本方針として、木は一本たりとも伐採しないことを基本方針としています。
構造についても、木製の遊歩道になっています。
──そうした環境の保護を前提とした施工は、以前にも手がけたことがありますか
高月
前例というほどではありませんが、かつては釧路でシマフクロウのケージを手掛けましたが、その時も、植生を傷めないことを前提に施工しました。
──野生鳥獣保護センターの基本設計に当たって、思い描いたイメージは
高月
鳥獣センターについての考え方はいろいろありますが、立地環境を見ると、近くを国道36号線が通っています。これはかなり交通量の多いところです。配置においても、建築設計においてもこれがポイントでした。道路は、いわば都市施設ですが、野生鳥獣保護センターは、自然環境重視の施設です。つまり、都市ゾーンと自然ゾーンとが極めて近く、両者が近接したところに建物を位置させることになるのです。
この理由は、自然環境に対する啓蒙・啓発が目的ですから、一人でも多くの市民に利用してもらわねばなりません。そのためには、秘境のようなところにあったのでは無意味で、なるべく幹線道路に近い方が好都合です。したがって、乗用車で気軽に来られるような都市化したゾーンと、守るべき自然ゾーンの接点に配置することが必要です。
ただし、反面では、都会に近すぎることがネックで、これを建築においてどう解決するかが、大きな課題でした。
そこで、国道に面した配置とはせず、少しでも距離を取って、極力、都市施設から離そうとしました。同時に、建築物としてのセンターも、境界として遮音も兼ねた壁を設けるとともに、自然観察のための窓は、道路とは反対側に集約しました。つまりこのセンターによって、都市と自然を分けた形です。
あくまでも環境省による環境保護の一環として行われる事業であって商業的な施設とは違うのだということを、深く認識しなければなりません。
──施設の内容は、どのような構成になっていますか
高月
施設内容としては、ウトナイの自然や鳥獣について解説し、展示するコーナーや、休憩室、小学生などを集めてレクチャーするレクチャールームなどが主要施設となります。また、大きな特色としては、ボランティアルームの他、傷病鳥獣治療室という傷ついた鳥を治療・保護する設備が用意されます。展示室や休憩室は、湖や森林を眺められる位置に配置し、都市側つまり国道側には、事務室や機械室などを配置しています。つまり、施設の配置においても自然と都会を分ける形にしているのです。
2階には事務室の他、巣箱などの工作や会議が出来る多目的室や、2階から下の展示物を見下ろせるギャラリーもあります。
──障害者の利用には、どのような配慮がされていますか
高月
身障者用のエレベーターやWCが設置されている他、車椅子でそのまま外に出られるような構造の引き戸を設けています。

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