建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2000年12月号〉

interview

耐震補強の進捗度は全国でナンバーワン

公共建築への要望高し

横浜市建築局長 田島 秀一 氏

田島 秀一 たじま・しゅういち
昭和 19年 1月1日生(満56才)
学歴  関東学院大学工学部卒業
昭和 39年 4月 横浜市入庁
61年 6月 神奈川区建築課長
61年 12月 建築局副主幹横浜アリーナ派遣
平成 元年 5月 建築局建築部企画管理課長
3年 6月 建築局建築部次長企画管理課長
5年 5月 建築局建築部技術管理担当部長
6年 7月 建築局建築指導部長
8年 4月 建築局住宅部長
10年 5月 建築局理事兼住宅部長
12年 4月 建築局長(現職)

少子高齢化で全国的に人口が減少傾向をたどっているが、港街・横浜市は都市の魅力が大きいだけに増加傾向にある。そのため、公共施設に対する需要は高く、いくら建設しても足りないほどだ。現在、市役所本庁舎は老朽化し、狭隘化しているため、各部局が周辺ビルに分散するタコ足状態にあるが、市としては、市民向け施設の整備と既存施設の耐震補強を優先させているため、庁舎の建て替えも当分は着手できそうにはない。これほどまでに市民から期待されている横浜市の公共施設建築を担う、市建築局の田島秀一局長に公共建築と施策について伺った。
――これからの街づくりを考えるうえで、社会の高齢化は今や考慮すべき最大の要素となりましたね
田島
そうですね。施設面では市の長期総合計画である「ゆめはま2010プラン」に基づいて進めているところです。福祉施設のような市民が利用する身近な施設としては、地域ケアプラザや地域ケアセンターを、毎年10件くらいずつ整備しています。配置基準としては、中学校区程度の範囲に一つという考え方で進めていますから、今後10年くらいはこうしたペースで整備を進めることになります。
――施設内容は在宅看護支援を中心としたものでしょうか
田島
それだけでなく、訪問看護もできるし、バスで送迎し、ケアプラザで入浴サービスを受けることも出来ます。こうした高齢者への対応と同時に、市としては少子化への対応をどうするかということも大きな課題です。
――横浜市民の地元意識を見ると定住志向が強いようですね
田島
市民の意識調査や、その他諸々のアンケート結果などを見ると概ね地域に対して良いイメージを持ってくれているようですね。調査結果では『長く住み続けたい』という人が7〜8割に上っています。全国的に都市人口が減少している中で、横浜市は人口が増えているのが、裏付けでしょう。
したがって、市としては良質の住宅を供給することを心掛けていますが、これだけでなく、さらに文教施設、体育施設の充実も図らなければなりません。
――その場合、いつ、どこに、どのような内容の施設をつくるのかといった配置計画が重要ですね
田島
市の長期計画に規定されていますが、2010年までの基本計画を立て、5年ごとに見直しながら進めています。先のケアプラザなども、この計画に基づいて進めているものですが、今のところ予定通りに進んでいます。さらに地域に密着した地区センターもかなり充実してきました。
――地区センターの利用率、利用状況は
田島
利用率はけっこう高いですね。私自身、各地のセンターに時々足を運んでみるのですが、体育施設の利用だけではなく、調理室で料理を楽しんでいる方もいたり、音楽や陶芸、広場で囲碁・将棋をなさっている方もいたりと、幅広く多くの市民に利用していただいているようです。
反面、こうした施設が未だに整備されていない地域の方々からは、ぜひとも早く整備してほしいとの要望が上がっています。市としては、地域の方々に参加していただきながら開かれた施設を作りたいと考えています。
――施設の維持、管理はどのように行われていますか
田島
地区センターは区民利用施設協議会、地域ケアプラザは福祉法人に委託しています。
――他の自治体の例を見ると、例えばそうした公共施設においては、地域のボランティアを活用した管理システムを確立しているところもあるようです。ただ、問題は地域住民の移住や世代交代があると、そうした活動が引き継がれずに断絶してしまうことが多いため、継続性を持たせて定着させるのが難しいとの指摘も聞かれます
田島
横浜市でも地域に密着した施設については、地域の人たちにボランティアに近い形で、管理をお手伝いしていただいている例があります。
世代交代に伴う活動の継続性についてですが、たとえば地域ケアプラザの多目的ホールでは、若い方々が、地域の方々やお年寄りと交流を深めることができ、そういう機会を通じて、様々な活動を世代間で引き継いでいく可能性があると思います。
――公営住宅の供給についてお聞きしますが、整備状況としてすでに十分行き渡ったといえる状況でしようか。
田島
そうとはいえません。現在重点的に整備しているものに高齢者用の市営住宅があります。高齢者用の市営住宅は、国の関係省庁と連携しシルバーハウジングプロジェクトとして、本市の総合計画であるゆめはま5ヵ年計画(h9〜h13)により毎年450戸の予定で供給しており、現在は1000戸程度完成しています。
高齢者用ですから仕様はバリアフリー設計で、緊急通報システムを設置しています。さらに、生活相談員が週5回派遣され、安否の確認や生活相談に乗ったりしています。
――かつて厚生省がゴールドプランを作成した当初は、民間のデベロッパーやマンション会社がシルバーマンションなどの事業に乗り出すなど、積極的な動きも見えましたが、問題は介護、医療体制におけるバランスが取りづらいこともあって、経営はかなり苦戦を強いられているところが多いと聞きます
田島
確かに制度としてはいろいろ仕組みがあるのですが、行政でも経済的な面やサービスとの兼ね合いなど、個々の要望に対応し切れない面もあります。今後は制度面でももう少しキメ細かなものに、そしてサービス面で民間とどのように連携していくかを考える必要があるでしょう。
―― 一方、将来を担う子供達の教育に係わる学校施設のあり方も、様々に見直す課題があるのでは
田島
実は、かつて私自身が、学校施設の建設に携わった経験があります。昭和60年頃のことですが、当時手掛けたのは小学校で、古い校舎を建て替えてオープンスクールに改造するという、モデル的な事業でした。廊下があって、教室があってという従来の構造とはまったく違うものとなりました。それがいかなる教育的効果をもたらすかについては、これらの施設をどう使いこなしていくかという問題だと思います。
一方、地域の実情や現場教職員の意見もあるでしょうから、教育委員会と連携し個々の地域や学校の特色を大切にしながら今後の事業を進めていきたいと考えています。
――それにしても、市役所本庁舎は、周辺のビルに分散入居しているため、機能も分散しているような印象を受けます。市民の利便のためにも、また、各部の連携強化のうえでも、合同庁舎が必要になってくるのでは
田島
確かに、全部局が―つの庁舎に集約されることが理想ですが、財政の厳しい中では、建て替えは容易ではありません。したがって、既存の公共施設を利用するための耐震補強が優先課題となっています。
――市には多くの公共施設があると思われますが、その耐震対策はどのように進められているのですか
田島
公共施設の耐震対策については、平成10年度に策定した「横浜市公共建築物耐震対策事業計画」により計画的に耐震補強を図つております。これにより、公共施設の耐震補強は、全国的に見ても最も進んでいるのではないでしようか。 
――施設の安全性の向上を第一に考えているようですね。最後に21世紀に向けてどのような方針のもとに取り組もうとしているのですか
田島
建築局の仕事は民間事業の相談、指導はもとより、各部局が推進する事業とも幅広く関わっていますが、基本的には安全で暮らしやすい街づくりを考えており、その実現に全力を尽くしていきたいとかんがえております。

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