建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2000年12月号〉

interview

大河と日本有数の急流河川を有する北陸

洪水、土砂流出の恐怖と隣り合わせ

建設省 北陸地方建設局 河川部長 中山 隆 氏

中山 隆 なかやま・たかし
生年月日:昭和26年3月6日
生出身地:北海道
昭和50年3月  北海道大学大学院 工学研究科卒
昭和50年4月1日 建設省入省(三重県へ)
63年5年1日 東北地方建設局 胆沢ダム工事事務所長
平成2年6月11日    〃    山形工事事務所長
5年7月1日 河川局 防災課 建設専門官
                   (災害査定官に併任)
7年4月1日 国際建設技術研究所 研究第二部長
10年4月1日 岩手県 土木部次長
11年10月12日  〃  土木部長
12年8月1日 北陸地方建設局 河川部長

北陸地方は日本のアルプスと呼ばれる高い山脈に囲まれており、信濃川や阿賀野川などの大河を除き、その多くが急流河川であるという特徴を持っている。大河信濃川の越後平野は洪積平野が広がり、低平地が多く、水害を受けやすい地形条件にある。一方、急流河川黒部川・常願寺川等の下流には沖積平野が形成され、典型的な扇状地を形成しており、急流河川の強大なエネルギーを如何に受け止めていくかが課題となっている。こうした北陸管内の治水対策は、どのような状況なのか。北陸地方建設局の中山隆河川部長に伺った。
――北陸地方の河川の特色から伺いたい
中山
北陸地方の河川の特色は大きく見ると、日本有数の大河川と急流河川を有するということだといえます。
信濃川は日本一の長河であり下流に広がる越後平野は低平地が多く古くから水害と戦いながら生活基盤を確保してきた歴史があります。その代表的な事例が大河津分水路であり、関屋分水路です。上流千曲川は新潟県境等に狭窄部を抱え、狭窄部により上流が堰上げられ、水位上昇により水害が発生するという地形的な問題を抱えています。
一方、急流河川は洪水時の流下エネルギーが強力であり、河川の整備として、流下能力の確保と同時に河岸の強度を確保する必要があります。
――平成10年に各地で水害が頻発したと聞いているのですが
中山
平成10年は8月4日に梅雨前線による集中豪雨があり、新潟市周辺で約10,000戸が浸水する大被害が発生しています。
越後平野の成り立ちは信濃川・阿賀野川という日本有数の大河の働きによるものです。享保年間に阿賀野川の河口を人工的に分離するまで両川の河口は合流していたわけで、流域面積は両川合わせ19,610平方キロメートルとなり、日本一の流域面積を誇る利根川の16,840平方キロメートルより大きくなります。このニつの大河の流出土砂により形成された越後平野は海岸部に砂丘列を形成し、背後の低平地は水はけの悪い利用しずらい土地だったわけです。そのため越後平野には約100kmの間に施工中も含めて、18本もの放水路があります。
全国の県庁所在地及び政令指定都市の総面積に対する想定氾濫区域面積の割合を見ると、新潟市は76%で佐賀市、大阪市、富山市に次いで全国第4位に位置しています。新潟市の市街地に隣接する鳥屋野潟は信濃川と阿賀野川に囲まれた約100平方キロメートルの流域を持っており、常時の湖面水位が-2.5mに維持されています。したがって常時ポンプ排水に頼っているということになります。
いま鳥屋野潟に隣接して建設されている2002年ワールドカップ会場のビッグスワンのグラウンドの高さが−0.15mです。ですから排水機場が無ければ海面の高さが約0.5mですから、65cmは水が溜まるということになります。
こうした地域に平成10年8月は時間最大97mm、日265mmの集中豪雨に見舞われ大きな被害が生じたわけです。
――近年都市型水害の問題がいろいろと指摘されていますが、新潟の場合はいかがでしたか
中山
幸い人命に関わる被害は生じておりませんが、地下空間への浸水が15施設で発生しました。また、電力の変電所が寸断されたことによる生活の混乱、動けなくなった車が路上に放置され、著しい交通障害が生じたりしました。また、水害後の大量のゴミ処理が困難を極めるなどの問題もありました。
――平成10年度は台風による豪雨も多かったようですね
中山
平成10年は9月に5号、7号、8号と台風が立て続けに豪雨をもたらし、各地に水害が発生しました。
台風5号による豪雨では、阿賀野川水系の阿賀川、日橋川が増水し、福島県塩川町・会津坂下町・喜多方市で浸水被害が発生しました。
信濃川流域では支川の魚野川では15力所で堤防が決壊して床上、床下浸水の被害が多く発生しました。
一方、台風7号の北上に伴い、石川地方で豪雨となり、梯川流域の小松市では浸水や護岸の決壊など甚大な被害が発生しました。梯川では消防団員や地元の水防団員約550人が水防活動を行い、ようやく越水をまぬがれたという状態でした。
――豪雨が続くと土石流も心配になりますが、いかがでしたか
中山
台風7号と8号による集中豪雨で、岐阜県上宝村の土石流危険渓流「左俣谷」右支渓「穴毛谷」から約10万立方メートルの土石流が流出しましたが、この土砂を下流の2基の砂防ダムがくい止めました。
下流域には年間200万人以上が訪れる奥飛騨温泉郷のひとつ新穂高ロープウェイなどがあり、年間を通して観光客や登山者で賑わっています。このため、ひとたび土砂災害が発生すると、甚大な被害となる恐れがあります。しかし、砂防ダムによって被害を未然にくい止める事が出来ました。
――先の魚野川では、ダムが被害軽減に大きな役割を果たしたようですね
中山
新潟県六日町の三国川の上流部は高度差が最も大きく、しかもv字形の険しい谷を縫うように流れています。そのため、三国川の歴史は洪水の歴史といってもよいほど、大きな被害を受け続けてきました。
三国川ダムができる以前の昭和39年、44年、53年、56年は洪水のくり返しで、中でも昭和44年には農地や家屋が消失し、死者や多数の重傷者が出るほどの被害を受けました。反面、逆に渇水で米作りに打撃を与えた年もありました。
これほど過酷な状況にありましたから、河川の水を安全に流して有効に利用するために三国川ダムが建設されましたが、平成6年に完成して以来、幾多の洪水に対して十分に効果を発揮してきました。
また、台風5号では、昭和56年に魚沼地域に被害を出した大洪水を上回る出水となりましたが、ダムの洪水調節により、三国川ダム下流の魚野川と三国川には被害がありませんでした。
この他、信濃川水系破間川は、その名の通りの暴れ川で、沿川流域は昭和30〜40年代にかけて相次いで洪水に見舞われ、甚大な被害を受けました。
このため、破間川ダムが建設され、昭和61年10月に完成しました。8月4日の集中豪雨では、入広瀬や守門の山間部では総雨量280mmに達し、破間川ダムでも最大流入量620立方メートル/sを記録しました。そこで560立方メートル/sの洪水調節を行いました。
この結果、広神村では橋げたにまで迫る水位となりましたが、破間川ダムの洪水調節により、洪水氾濫を未然に防ぐことができました。
台風7号は、9月22日13時過ぎに和歌山県北部に上陸し、その後も強い勢力を保ちながら速度を速めて、18時には富山市付近に達しました。
これに伴い、その日の夕方から短時間に激しい雨が降り、梯川水系の赤瀬ダムでは、18時38分に最大流入量530立方メートル/sを記録し、410立方メートル/sの洪水調節を行いました。
これによって梯川の植田水位観測所では、20時頃に既往最高水位を記録したものの、洪水氾濫を未然に防ぐことができました
――その他、河川改修によって目覚ましい効果の見られた事例は
中山
かつて魚野川の小出町付近は川幅が狭く、頻繁に水害を受けていました。そこで、川幅を約100mから約200mに広げる引堤と築堤が行われ、平成5年度に完成しましたが、もし改修が行われていなければ、確実に洪水で堤防から水があふれ、市街地に甚大な被害を生じさせたと予想されます。しかし、堤防が1m高くなったことで洪水氾濫はなく、一部の地区の内水被害で治まり、被害は大幅に軽減されました。
――一方、排水施設も威力を発揮しているようですね
中山
そうです。例えば、阿賀野川の右岸に位置する豊栄市は、福島潟から流れる新井郷川や阿賀野川の舟運の要衝として栄えた町ですが、海抜0メートルから5メートルという低地帯のため、過去に幾多の内水湛水被害に見舞われてきました。とりわけ、昭和41年7月17日の水害では、湛水状態が長時間にわたったため、阿賀野川の右岸堤防を開削したという経緯もあるほどです。
このため、昭和53年に胡桃山排水機場に着工し、当初30立方メートル/sで運用し、後に50立方メートル/sに増強されました。
これによって、10年8月4日の水害では福島潟があふれ、周辺の農地が被害を受けましたが、能カアップした胡桃山排水機場が威力を発揮し、被害を最小限に食い止めることができました。
――それほど治水事業が大きな恩恵をもたらしている割には、世論における公共事業批判は治まらないですね
中山
やはり、私たちのピーアールが不足しているのかも知れません。近年は、建設行政の透明性と住民ニーズの反映を求める声が一層の高まりをみせています。その情勢を受けて、建設省は従来の行政のあり方を点検し、国民と行政とのコミュニケーションを一層重視した国土行政の考え方を取り入れ、制度や意識の改革に積極的に取り組んでいます。
いわゆるコミュニケーション型行政の実現ということですが、これは従来の情報提示型の行政から、計画立案、決定の各段階で情報を公開し、住民参加の機会を設ける対話型の行政へと転換することです。これによって地域のニーズを的確に把握し、事業推進に対する円満な合意形成を図り、満足度の向上をめざすというものです。
また、それに関連して説明責任(アカウンタビリティ)の向上も求められています。したがって、地建としても、国民の視点に立ったわかりやすく適切な情報の説明をめざした手法を積極的に進めています。
 
――一方、公共事業批判だけでなく、建設業批判までも聞かれます
中山
入札手法を工夫して、より信頼度を高めることが大事です。地建では公共事業の入札・契約において、透明性や客観性、競争性を高めることを目的に、さまざまな改革に取り組んでいます。新しい入札契約制度では、従来の指名競争方式のほかに、一般競争方式、公募型指名競争方式、工事希望型指名方式の3つの方式を導入しました。
また平成8年度からは、民間の市場競争原理を取り入れて、建設技術の促進とコスト低減を図るためのVE(バリュー・エンジニアリング)制度を試験的に導入しています。veとは、機能を低下させずにコストを低減したり、または同じコストで機能を向上させる技術のことですが、民間の優れた技術提案を受け入れることにより、発注者はより効果的な事業を行うことができ、一方の提案者は工法提案によって受注機会が増えるというメリットがあります。
 
――この他に、事業の低コスト化を図る取り組みは行われていますか
中山
9年度に、新たな「公共工事コスト縮減に関する行動計画」を策定し、この計画に基づいて積極的にコスト縮減に取り組んでいます。推進にあたっては、北陸の地域特性を考慮しつつ、必要機能と品質を保持しながら適正なコストを実現するため、計画手法および設計手法の見直しを行っています。
また、新技術や新工法の普及促進によっても、事業費の低減を図ります。
 
――コスト削減の具体的な基準や目標はありますか
中山
公共工事の設計から施工にいたる各段階において、平成8年度の標準的なコストに対して、平成9年度から3ヶ年間で10%以上の縮減を目標としました。
平成9年度のコスト縮減実績は直接効果・間接効果を合わせて約3%となり平成10年度は約5%、更に11年度は約11%となり、3ヶ年間の目標は達成されました。
 
――問題は、施工結果の性能ですね。いかにコスト減を実現しても、公共事業ですから安かろう悪かろうというのは、許されないですね
中山
そうです。公共工事の品質を確保するためには、国際的に共通な基盤による企業の評価システムが重要になってきています。
そこで今年度からは、一定規模の工事について品質管理・保証システムの国際規格であるISO9000シリーズを適用すべく、地建としては9年度から具体的な手続きや効果を把握するためのパイロット工事を行っています。
今年度も引き続き、パイロット工事での効果と課題を抽出・検証し、効率的な運用のための基盤整備を進めます。
 
――そうしたことを前提に、建設業界へのアドヴァイスは
中山
建設業界は、単に受注機会を増やすという量への関心ばかりでなく、受注した事業の政策的意義や目的、整備後のメリットなどの質への関心をもっと持ってもらいたいと思います。
入札が終わった途端に、次の入札のことばかりに関心を示す場合もありますが、今後、良い施工実績を残し、業界の社会的評価を高め、イメージを改善していくことが今後の量の確保に結びつくと思います。

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