建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ1999年12月号〉

interview

わが国の食糧供給を担う

北海道農業協同組合中央会会長 宮田 勇 氏

宮田 勇 みやた・いさみ
昭和10年生まれ、札幌南高卒。昭和48年新篠津村農協監事、54年同組合理事、57年同組合専務理事、63年新篠津村農業委員会会長、63年より現在まで、新篠津村農協組合長理事、平成6年からは同組合代表理事組合長。北海道農業協同組合中央会会長には今年の6月に就任した。現在、このほかに、ホクレン農業協同組合連合会理事、全国農業協同組合連合会総代、財団法人北海道農業協同組合学校理事長を務める。
――北海道の農業と営農者の抱えている課題についてお聞きしたい
宮田
国の政策を見ると、本州の兼業農家に対する政策と本道の専業農家に対する政策に、あまり違いがないことに問題があります。
北海道は特に酪農の対全国シェアが大きく、乳製品に対する消費者の期待度も大きい。畑作も、量、質ともに全国の中心的役割を果たしていることは認知されています。
ただ、日本の農業の歴史は稲作からスタートし、水稲中心に発展してきたという経緯があります。そして、それらは府県で発達してきたという背景がありますが、酪農は歴史が浅く、短期間で発展を遂げてきたので、農政上の位置づけが低いのです。
しかもそうした水稲中心の政策において、さらには兼業農家中心の府県と専業農家中心の本道に対する政策が一律です。
新農業基本法には、農業の多面的機能と環境保全機能が明文化されていますから、スケールの小さい府県の農業に生産効率を求めるのは無理でも、多面的機能と景観、環境を維持するという意味では、これも大事です。
しかし、わが国の自給率を上げ、国民に食糧を安定供給するための食糧生産を基調とした本道農業への政策は、別に運用されるべきです。兼業農家と専業農家の区別無き画一的な農政では、どちらも発展しないと私は国に主張しています。
――営農における採算性や収益率を上げていくことも重要では
宮田
まず各農家がコスト意識を強く持つことが大事です。特に自らの経営事情をよく自覚して、安直な横並び意識に甘えるのでなく、もっと経営をシビアに捉えていくことが大切です。農産物の価格が下がったから、すぐに政策要求するのではなく、経営の中に無駄がないか、無理がないかを自己点検していくことが必要です。
一方、外的要因も大きく、営農者の努力の限界を越えている状況もあります。例えば農産物の価格は低下の一途を辿っているのに、農耕機械や肥料、農薬といった生産財の価格がむしろ上昇しているのです。したがって、私は農業者の経営努力も大事ですが、関連産業も経営体質を改善して、もっと食糧生産コストの削減に協力してもらいたいと思います。
わが国の農産物の価格は割高と言われて久しいのですが、それはこうした生産財の高さに起因しています。残念ながら、消費者にはそこには気づいてもらえず、一重に農家の怠慢だと思われてしまっています。
また、流通機構の改革も必要です。農産物が生産者から消費者の手に渡るまでの段階が多すぎるので、もう少しスリム化することが必要ですね。
――農業基盤整備に伴う受益者負担の償還も課題なのでは
宮田
これまで行われた基盤整備事業のお陰で、経営の近代化と大規模経営の基礎を作り上げたという意味では、その効果は計り知れないものがあります。ところが、現在はその償還に喘いでいるのが現状です。以前は、構造改善事業が近代化のシンボルと捉えられた時代的背景の中で、少し過大に事業を展開してしまった感があります。これまでの構造改善事業は、補助率は確かに高いのですが、農家にとっては必要度の低い事業までもがセットにされていたため、償還が負担になっているのです。
とりわけ工事積算の基準が高かったため、工事費がかなり高額になっていたことが追い打ちをかけた格好ですね。だから、町村長らとも国に積算基準を見直してもらうための陳情は、以前から何度も繰り返してきました。
北海道農業の急速な発展は、農家の努力もさることながら、国費、道費による近代化事業も大きく貢献してきたのは事実ですが、これから大事なのは、基盤整備事業が農家の経営規模に見合っているのかどうか、農家と事業者とがよく話し合い、見直すことですね。
――その意味で、中央会として行政に希望することは
宮田
農地は農家の個人資産と思われがちですが、これは国の財産でもあるのです。したがって、新法の下で各農家に経営体力がつくまでの10年間だけは、償還期限を延期し猶予して欲しいと思います。3年程度の延期や、金利の減免程度ではあまり効果は期待できません。離農の最大原因は、他ならぬこの償還の負担にあるのですから。
―― 一方で他産業からは、農家への公共投資を批判する声もあります
宮田
他産業の工場や生産施設には公共投資がないために批判されているのだと思いますが、農業と他の製造業との決定的な違いは、生産調整の難しさにあります。
他産業であれば、工場の稼働率を変更することで生産調整が可能ですが、農業は天候や気象に左右されるため、容易ではありません。平成5年度の冷夏で米不足になったり、今年の猛暑で畜牛が300頭も死亡するなど、人力ではままならぬ影響を受けてしまうのです。いかに品種改良や栽培技術が進んでも、天候だけはコントロールができません。
しかし他産業で製造される製品は、節約して買い控えてもあまり生活に支障は来しませんが、食糧だけはそうもいきません。
したがって、安定供給を可能にしていくためには、政策的なバックアップが必要となるのです。
――ところで自給率の向上は、営農者の利益を守るだけでなく、独立国としてわが国の自治権を維持する上でも大切です。その意味では、来るWTO交渉は、まさに正念場と言えるのでは
宮田
わが国に市場開放を迫ってくることは必至ですが、もしそれを全面的に受け入れてしまうと、食糧安保も新農業基本法も全て水泡に帰してしまいます。輸入圧力で国内の農業が打撃を受け、府県の農業が崩壊したなら、国土保全機能も崩壊するため、国土は荒廃する心配があります。
したがって、交渉においては農業の多面的機能を国際社会に十分に理解させるべく主張し、シアトルの農相会議で予定されている宣言文に明記されなければなりません。適切な国境措置によって、保護すべきものは保護しなければならないのです。
――かつての牛肉、オレンジの自由化、そしてGOTT合意においても、日本は外圧に屈してきました
宮田
外交力の不足が最大の原因です。資源も国防もあまりに他国に依存しすぎていることに問題があるのだと思います。いざという時の外交切札を外国が持っているのですから。
したがって、せめて農業だけは保全され、食糧を自給できる体制は確保すべきです。食糧までもが支配されたのでは、独立国としの存続は危うくなります。そのために自給率を高めることが必要であり、そしてそのリーダーシップを北海道がとることです。本道のすべての営農者は、そのプライドを持って営農に当たっています。

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