建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ1997年12月号〉

interview

分別収集・リサイクル推進には意識改革が絶対条件

ドイツなみにメーカー責任の明確化を

(財)札幌市環境事業公社理事長 前田悦雄 氏

前田 悦雄(まえだ・えつお)

昭和11年3月23日生まれ、札幌市出身、29年3月札幌北高卒。
昭和 29年 5月 入庁・税務部市民税課配属
49年 10月 企画調整局区政部窓口調整係長
52年 4月 東区総合窓口課長
54年 4月 総務局事務管理課長
58年 4月 市教委学校教育部副参事
60年 7月 社会部国民健康保険対策室長
61年 4月 同保険医療部長
平成 元年 4月 東区長
3年 7月 消防局消防長(消防司監)
5年 4月 環境局長
7年 6月 現職
財団法人・札幌市環境事業公社は調査・啓蒙事業、資源化事業、事業系ごみの収集運搬事業を3つの柱とし、毎日の暮らしに身近なごみの収集から、環境保護に関する事業まで、幅広い分野からリサイクル社会の創造に取り組んでいる。資源化事業では、大手スーパーなどから回収した空き缶からアルミ缶を選別・溶解して作るインゴット化、事業系ごみの3割を占める廃木材のチップ化、さらに固形燃料の生産など、その取り組みは全国的に注目されている。札幌市の大きな都市問題であるリサイクル事業の現状と展望を元・札幌市環境局長で、行政経験の長い前田悦雄・公社理事長に聞いた。
――環境事業公社の使命は
前田
札幌市の受託業務として、木くず、廃プラスチックなどを活用した固形燃料(RDF)の生産など、リサイクル事業を推進することが設立目的でした。
また、アルミ缶を風鈴、キーホルダーなどに再生するアルミ工房は、全国でも初めての試みです。
一方、ゴミの収集体制も、平成6年度からは公社が一括許可を受け、各代行業者に全市の区域割をして業務配分するといった効率化も図りました。
――ゴミのリサイクルは、今や、自治体にとって避けて通れない政策テーマとなりましたね
前田
この4月に包装容器リサイクル法が施行され、ビン、缶、ペットボトルの分別収集が、自治体に義務付けられるようになりました。札幌市ではすでにモデル地区でこれらの分別収集に取り組んでいますが、来年10月からは全市で実施しようとしています。
公社はその受け入れ施設として、資源選別工場を市の南部と北部に1箇所ずつ整備しているところです。
――リサイクルを取り巻く現況と問題点は
前田
ドイツでは、ペットボトルの回収はメーカーの責任とされています。ところが、日本では罰則規定もなく、まだ法整備が遅れています。リサイクルの普及定着には、政策的な誘導が必要ですが、今後はpl法のように、メーカー責任に移行していくでしょう。
ただ、プラスチックの油化技術が確立していないことが問題です。現状のままで油化すれば、大量の塩酸が発生してその処理に困るのです。塩酸自体は、独自に生産した方が割安ですから、官・民・住民の三者で役割分担を考え、新しい仕組みを作らなければなりません。
また、リサイクルできないまま野積みされている色付きビンの処理も課題です。これを粉砕し砂にする機械を導入した場合、再利用の方法、採算性などについて研究をしています。
その他、最近注目されているのはごみの焼却灰です。この焼却灰をさらに融解すると、十二分の一のガラス状になり安定します。こうなると埋め立てても、公害を発生しません。ドイツでは既に取り組んでおり、札幌市も第5清掃工場でそれを実施しようとしています。
ただ、投資規模は100億円で、技術的には可能ですが、投資額が大きいのが難点です。リサイクルの問題点は、このようにコストが高くなることで、これが経済の国際競争力低下につながる可能性もあります。地球温暖化防止京都会議に向けて論議されているCO2削減に、経済界が反対しているのも、このためですね。
CO2を減らすには、本来、クルマを減らせばかなり効果はありますが、メーカーにとっては極めて厳しいことになります。
しかし、家電業界では、メーカー責任を少しずつ自覚し始めており、自分たちが作った製品を回収し、再生できるものは使うという仕組みができつつあるようです。
おそらく、今後は、このようなリサイクルに取り組まない企業は、無責任な儲け主義と批判されることになるでしょう。
――公社として政策面で行政側に何か提言は
前田
リサイクルは新しい分野ですから、失敗を恐れずに次々と先手を打って取り組むことです。たとえ失敗しても、取り返しはつくのです。
また、環境問題の視点からアプローチすると、この分野は裾野が広い。関連部局との調整・連携を緊密にすることです。
ゴミは魔物です。常に質・量とも変化しています。景気を如実に反映し、種類も年々変わってきています。
――庶民は、大量生産・大量消費という従来のライフスタイルを変えていくことも必要ですね
前田
人間の欲望には際限がないので、生活を必要最小限で我慢する覚悟を持たなければ、地球破壊を早めることになりかねません。まず、リサイクル商品に対する意識の低さが大きな問題です。リサイクル品は、利用されなければ、結局ごみになるだけです。誰かが苦しんでいるからではなく、国益としての高度な認識を持つべきでしょう。
経済性を反映した悪例では、川原や空き地で見かけるクルマのポイ捨てです。運搬に経費がかかるからで、買うときは金を出すが、処分には金を出さないというのが現実の姿です。
ある国のように原爆のプルトニウムを海中に捨てるなどは論外です。
――経済的苦境を反映しているのでしょうか
前田
財力だけの問題ではなく、モラルの問題でもあります。精神的な貧しさが関係しているのだと思います。ゴミが目前から消えさえすればいいという感覚でしょう。これは意識の問題ですから、リサイクルには、まず個人個人への教育と意識改革が必要ですね。

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