建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2001年12月号〉

interview

道路整備を進め、後志管内の観光を振興

地域の生活道路・国道229号の安定通行は至上命題

国土交通省北海道開発局 小樽開発建設部長 本名 一夫 氏

本名 一夫 ほんな・かずお

昭和24年8月8日生 
昭和48年北海道大学工学部卒
昭和54年経済企画庁、56年札幌開発建設部道路建設課橋梁係長、57年北海道開発局道路建設課橋梁第2係長、59年札幌開発建設部札幌新道工事課長、60年日本道路公団札幌建設局工務課長代理、62年開発土木研究所構造研究室長、元年建設省企画課長補佐(インドネシア派遣)、3年北海道開発局開発調査官、6年釧路開発建設部次長、8年室蘭開発建設部次長、9年札幌開発建設部次長、10年北海道開発局道路建設課長、13年7月現職

北海道後志支庁管内余市町から積丹半島の海岸沿いを辿り、岩内町、寿都町、島牧村などを経て、檜山支庁管内上ノ国町に至る国道229号。かつては陸の孤島と呼ばれた沿線地域も、積丹半島部分が全通し、奇岩・怪石が連なり海岸美を楽しめる絶好のドライブルートして人気を博している。しかし、229号は全国的にも珍しくトンネルが多く、大型車との擦れ違いに苦慮する狭隘区間もまだ数多く見られる。道路を管理する国土交通省北海道開発局小樽開発建設部では、まさに“地域の生命線”とも言える229号の安定通行を目指して、国道の付け替え、新トンネルの掘削を進めているが、こうした道路整備は地域に眠る観光資源を発掘し、後志管内の振興にとっても大きな期待が寄せられるところだ。同開発建設部長、本名一夫氏に伺った。
――3年前の弊誌インタビュー企画で、元建設事務次官の井上孝氏が、国道229号の工事に携わった当時のことを語ってくださいました。昭和20年〜30年代頃のことで、当時はトンネルも橋梁も、施工技術が不十分で大変だったが、今日ではトンネルの掘削方法も様変わりしたとの談話でした。それにしても、国道の中で、管内の229号ほどトンネルが多い区間というのは全国的に見ても珍しいですね
本名
国道229号は、現在の道路の他にも旧道が残っている部分が結構あります。崖沿いの雑草に埋もれた道なので、目を凝らさないと見分けがつかず、単なる棚のように見えます。それをさらに注意深く見ると、手彫りの小さなトンネルがあったりし、昔の人々はこんなところにトンネルを掘っていたのかと、感慨深いものを感じます。今から見ると、隔世の感があります。
229号は、そうした技術レベルの時代に整備がスタートしたわけですが、今やようやく積丹半島一周分が全通し、「陸の孤島」という状況が解消されました。しかし、平成8年の豊浜トンネル崩落事故、そして翌年の第二白糸トンネルの崩落と、非常に大きな衝撃を二度に渡って受けてしまいました。
――この区間は、地形的・地層的に他地域とは違う特徴があるのでしょうか
本名
北海道の日本海沿岸側の急斜面は独特の地質なのです。ハイアロクラスタイト(水冷破砕岩)を主体とする火砕岩が多く分布し、これは表面が比較的のっぺりしています。ですから、亀裂の多い柱状節理的になっているものとは異質で、固まって落ちる特徴があるのです。これは、私達が二つの事故を通して知り得た一つの知見です。
そこで、この地域については、事故後も多方面からの提言を踏まえ、様々な安全対策を講じています。その安全対策については、ユーザー参加型の体制を構築しています。つまり、通行者や地元地域と関係機関が一体となった防災対策で、事故の教訓を生かした取り組みです。例えば、小さなことですが、道路標識には管理者である道路事務所名と電話番号が表記されており、通行者が落石を発見した場合の通報が非常にスムーズになっています。
トンネル掘削の技術については、最近はNATM工法を採用しています。NATM工法は地山の施工過程におけるゆるみがなく、施工効率も良く、しかも安全とメリットの多い画期的な工法です。この工法によって、地山のゆるみを計測しながら掘削し、すぐに一次覆工も行っています。漏水に対しても強いので、現場も非常に綺麗です。そうした面でも在来工法とは大きな違いがあります。
こうしたNATM工法に加え、機械や計測技術など、様々なものが総合的に発達したので、トンネル施工も早く安く行える時代になりましたね。第二白糸トンネルの施工は、24時間3交代の超突貫工事でしたが、あの目覚ましい迅速な施工も、この工法のお陰です。
――他地域に比べて、このあたりは冬の厳しさは格別です。施工現場もかなり厳しいものだったようですが
本名
厳しい施工環境への対応は、後志管内として特別なものではなく、北海道開発局全体で「通年施工化」への取り組みとして行っています。「通年施工化」は、長年の課題で、例えば仮囲いや防寒養生、舗装で言えば温度管理とか、様々な観点から対策を講じるものです。今は技術的には大体の工種についてはクリアされているものと考えています。
しかし、229号のように急斜面がこれほど続いているところは、国道としては珍しいものです。一時期は、全道の急斜面に防災対策を施すため、重点的に岩切りの工事がたくさん発注されたことがありました。その時には、人手が不足して本州からも作業員が動員されたのですが、彼らは「北海道の山を見たら震える」と言っていたそうです。急勾配、立っているところから見上げるそのあまりの落差に驚いたのでしょう。北海道の地形の厳しさ、難しさを端的に物語っていますね。
――道路防災工事については、今年度は127箇所のうちの110箇所を終えていますが、残された箇所は、今後も継続されるのでしょうか
本名
従前の予算規模でいけば、そうなります。平成14年度に概略は完成しますが、完全に工事が終わるということではありません。ですから、15年度以降にもある程度の工事が残る状態となります。それも既定の予算規模を前提にしたことであって、今後については不透明です。
ただ、地域の人々にとっては、9月11日の大雨で、管内の道路数カ所が通行止めになりました。まさにトンネルを施工中の区間ですね。ですから、この防災工事が完了すれば、規制区間が順次解除されていくわけです。
こうした雨でも、孤立することなく生活できるようにすることは、現在、議論されている構造改革の問題とは、全く次元の違う話だと思うのです。その地域にとっては唯一の国道、生活道路、すべてがかかっている道路ですから、それを安定的に通行できるようにすることは、構造改革以前の、基本的なことです。
――管内は歴史のある地域であり、観光については将来性が期待できます。積丹半島のカムイ岬などは、観光名所としてホームページなどでも数多く紹介されていますね
本名
そうです。したがって、管内の観光振興のためには、小樽から先の移動時間を極力、短縮しなければなりません。この7月には、札幌〜小樽間の国道5号を全線4車線化しました。これで交通渋滞は大幅に緩和されましたが、この区間については高速道路(札樽自動車道)がありますので、高速性については以前から確保されていました。また長橋地区についても、以前に長橋バイパスを整備したので渋滞も解消されています。現在は塩谷地区の拡幅、4車線化工事を行っています。用地問題もありますが、近年中には目途が付くと思います。
しかし、積丹半島までの観光を考えた場合には、少なくとも余市までの高規格道路の整備や、余市から先の国道229号の安全確保、狭小トンネルの解消という課題があります。そうした整備が進んで、はじめて積丹までの観光ルートが安定します。観光を支えるのも、結局は道路ということになるのです。
また国道393号の赤井川の不通区間についても、完成すればキロロ・リゾートを通って倶知安町まで短時間で行けます。これも大事な観光ルートだと考えています。
地域には、パラセーリングやカヌーなど、体験型のスポーツもあります。滞在するところにもいいところがある。他に奇岩名勝地がある。もちろん釣りにもいい。そういった点で非常に観光資源に恵まれたところであり、地場産業も一次産業が基本ですが、食糧生産の場としては豊かな地域ですよ。とにかく、管内は本当に観光資源の宝庫ですから、交通の利便性を高めることは、至上課題です。
――先月末から、小樽開発建設部内にも市町村合併の窓口が作られましたね。ニセコ町やその周辺町村が首長による町村合併に関する討論会を開いたりするなど、合併に関する動きも盛んになってきたようです
本名
そうですね。私達も、できるだけ支援していきたいと思います。例えば、ある町と町が合併した場合、両町間を連絡する道路の整備は当然優先度が高いものと位置づけていくことになります。また、北海道開発局は省庁再編に伴って補助事業も所管するようになりましたから、合併に当たっては補助事業も優先度を高いものにしていきます。
この他、住宅都市行政の中のまちづくり総合支援事業などは、メニューの豊富な事業ですが、このように開発局の持てる業務は多彩なものになっていますから、合併に際して支援できることは多いのではないかと思っています。
――スキー場で言えばリフトが他の町村と共通で乗れるというサービスもありますから、合併する可能性はいろいろと出てくるでしょうね
本名
そうですよね。スキー場のリフトも相互乗り入れしている時代です。ただ、一方では各市町村それぞれに歴史的背景があって今日に至っているので、そう簡単に合併を進めることができない地域もあるようです。
しかし、合併の事例はこれまでにもあるのです。過去には、明治の大合併と昭和の大合併が行われ、そうして現在のバランスに至っているのです。かくして管内は合併議論が盛んなところですので、それが一つの趨勢だとすれば、私たちも大いに支援していきたいと思っています。
――管内のインフラ全体を見渡すに、道路を除く農業基盤や河川については、大体整備は終了したと見てよいのでしょうか
本名
河川については、尻別川の浚渫、光ファイバーの整備、河川管理の高度化など、すべきことはまだあります。重要度で言えば、それぞれの事業はみな重要ですが、規模的には道路事業の占める割合が高くなっています。
その次に占めるのが港湾事業です。管内には歴史的な小樽港、そして対照的な石狩湾新港の2つの重要港湾を擁しています。いずれも、道央圏、後志圏を支える大港湾であり、今後とも更なる整備を計っていかなければなりません。また、岩内港では深層水の利活用を支援します。 
――管内の今後の基盤整備の方針は
本名
管内のポテンシャルを引き出すには、現在の道路網はもっと整備を進めていく必要があるし、また整備できる余地もあります。例えば国道5号の黒松内道路を、今年の3月に事業化しています。これは、高速道路を補完する一般自動車道の専用道路、分かりやすく言えば、高速道路を先取りした形で国の自動車専用道路として整備するというものです。これができれば、道央自動車道と国道5号が直結します。
また、高速道路についても、黒松内小樽間の計画がありますが、将来的にこうしたネットワークが完成すれば、道路交通も安定します。樽前山にしても、いつ噴火するか分かりませんし、そうなると大変なことになります。これは後志管内だけの問題ではなく、道央圏以北のためにも、管内の道路整備というのは重要な意味を持ってくるわけです。

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