建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2001年12月号〉

interview

諸外国の首都高速は、国が主体的に整備

日本の再生、首都再生には、首都高速道路が不可欠

首都高速道路公団 橋本 鋼太郎 氏

橋本 鋼太郎 はしもと・こうたろう
昭和 15年 9月 11日生
東京都出身
昭和 39年 3月 東京大学工学部土木工学科卒業
昭和 39年 4月 建設省採用
平成 元年 9月  同 道路局高速国道課長
平成 3年 2月  同 道路局企画課長
平成 5年 6月  同 近畿地方建設局長
平成 7年 6月  同 道路局長
平成 8年 7月 建設技監
平成 10年 6月 建設事務次官
平成 11年 7月 建設省顧問
平成 13年 1月 首都高速道路公団副理事長
特殊法人改革の論議で、日本道路公団、首都高速道路公団など四公団の動向が注目されている。かつて、建設省事務次官として省庁再編の準備にあたった、首都高速道路公団の橋本鋼太郎副理事長は「諸外国と違い、独自の料金収入に基づいて運営しつつ、使命を果たしてきた公団の役割を、よく認識して欲しい」と語る。首都再生が日本再生のカギとなる今日、その足を引っ張る首都圏の交通渋滞解消に有力な路線の整備運営に当たる同公団は、今日の世論をどう受け止めているのか。
──省庁再編に向けて、準備の真っ最中に事務次官・技監を勤めましたね
橋本
中央省庁再編に向けての基本法や設置法が成立し、そのための対応に当りました。
やはり、建設省、運輸省、国土庁、北海道開発庁と、4省庁を一つにまとめるというのは、前例のないことですから、一体となって業務に当たれるような体制づくりに苦心しました。
──各省庁の職員には、それぞれ所属省庁のブランドに対するプライドもあり、省名を決めるにも大変だったのでは
橋本
省庁統合は国の政策ですから、今まで進めてきた業務が引き続がれていくならば、協力していこうという意識が、比較的早くから醸成されていました。
ただ、今日もなお国土交通省は、組織が巨大すぎると指摘されています。統合に向けての基本的な考え方を決める段階で、この点にもう少し配慮があっても良かったのではないかと感じます。
──省庁再編により、地方組織は一つにまとまったことで、風通しが良くなり、部局間の連携が取りやすくなったと評価する声も聞かれます
橋本
確かに、地方強化の意味ではメリットは、充分にあると思います。
──一方、特殊法人のあり方も議論の対象になっています。とりわけ関心の的となっているのが道路関係公団ですが、四公団の一つである首都高速道路公団として、どう受け止めていますか
橋本
小泉総理が、行革に努力していますから、基本的には、それに協力していく方針です。
ただ、私の個人的見解では、公団という組織は、決められた事業を実施し、管理するための手段ですから、必要なものと、必要でないものをよく見極め、その結果、直轄とすべきか、公団方式が良いか、民間委託が良いのかを選択するための議論をしていただきたいと思います。
逆に、何が必要であるか、そして限界はどこにあるかを政治レベルで議論しきれ無かった場合に、安直に民営化して公団方式を全廃しようという、短絡的な結論に至ることに、懸念を抱いています。
──今日の論議を見ると、公団がこれまで、どのような役割を果たし、成果を得てきたのかを検証している様子が見られませんね
橋本
道路公団に3,000億円の国費を投入することで、赤字を補填していることを批判する主張もありますが、高速国道を作るには、本来、国費が必要なのです。支出ゼロで整備しようというのはムシの良すぎる話です。ただ、国費負担の範囲について、適正なレベルを検討することは、必要だと思います。経営赤字を補填するために、無制限に国費負担を増やしていくのは、正しいこととは思いません。
ただ、アメリカやドイツでは、すでに数十年も以前に高速道路を国費で整備していたのです。しかし、日本では公団が債務を負いながら整備しているという現状を、よく認識して欲しいところです。
──最近はpfiという新たな民活が注目されています。その受け皿として見るなら、特殊法人の評価はまた違ってくるのでは
橋本
PFI、独立行政法人、エージェンシーなどいろいろな手法が話題に上ります。果たしてイギリスのように成功するのかどうかは疑問ですが、それらも今後の事業執行における手法の一つとして評価できます。
ただ、公団というのは、どうしても行政機関的な色彩が濃くなってくるので、改革は必要だと思います。私としては、改革をせざるを得ない状況に追い込んでいくことが、正しいと考えています。放置したり、自己改革のできる範囲で黙認していたのでは、やはり甘過ぎます。厳しく条件をつけてゆくことは必要です。ただし、それに至るためのルールや手順を定めておくことが大事です。
──公団の置かれている状況と、歴史的な役割、諸外国との比較などを、公団当事者としてアピールしても、良いのでは
橋本
それは、国土交通省が代弁していると思います。特殊法人改革は、政府の方針ですから、個人的には論議はあっても、政策的に論議されて決定したならそれを遵守します。
その結果が、良かったのか悪かったのかは、後世の人々が判断することで、悪ければ再び改善しなければなりません。何ごとによらず、絶対という証明はないもので、時代とともに情勢は変わるものです。したがって、その点は柔軟に構えておくことが必要でしょう
ただし、現場を与る公団の立場として言うべきことは、事業主体が特殊法人であろうと、民間企業であろうと、現在、整備中の都内区部の環状線は、都民のため国民のために必要な事業です。また、すでに供用している営業路線は交通量も多く、管理がかなり大変です。それを円滑に運営すべく、職員は必死に努力していますから、改革にあたっては、せめて職員が働きやすい組織となるよう配慮していただきたいですね。
──確かに、東京都も、あまりにひどい交通渋滞に危機感を覚えて、その対策にはかなり真剣に取り組んでいます。首都圏における首都高速道路の重要性などは、今さら論議の余地はないと感じますね
橋本
したがって、少なくとも環状線は完成させなければなりません。ただ、その整備・運営を公団が担わないとなると、東京都や横浜市といった自治体の税収で賄わなければならなくなるかも知れません。それでは自治体の負担が重すぎます。
公団の赤字を税金で埋めているという側面ばかりを見ずに、公団という手法だからこそ、税金ではできない事業を料金収入でカバーしつつ実施できるという、本来の機能に目を向けて欲しいですね。
──諸外国の首都高速交通体系はどのような状況でしょうか
橋本
都市によって、それぞれ違います。例えば、ロンドンでは、外郭環状道路(M25)が整備されていますが、事業主体は国です。そして、路線の大半は無料で、テムズ川を渡る箇所だけが有料です。パリには、ペリフェリックとa86という二つの環状線が整備されていますが、ともに国費で整備されているので無料です。パリでは、この他に、民間企業により、一部の区間を有料で新たに整備しようとしています。
いずれにせよ整備状況は、日本よりはかなり進んでいますが、それでも両都市とも、交通渋滞はひどく、東京都と同じくらいですね。
 しかし、日本の首都高のメリットは、銀座や霞ヶ関など都心部を通っているところです。パリやロンドンは、中心部より外側にしか無いため、高速道で中心部に入ることはできません。そのために、一般道を通る必要があるのです。
──一部だけを有料でということは、基本的に高速道路を行政が公共事業として、一般会計で整備することに、国民が合意しているわけですね
橋本
外国で国の財源が乏しくなってきたから、民営化するという方法が考えられ始めたのは、最近になってからです。現在、施工中の新宿線も、pfiではどうかという意見もありますが、山手通りを拡張し、大口径のトンネルを掘る事業は、民間企業ではまず採算が合いません。
──これは、アクアラインと同じ工法が採用されているのですか
橋本
以前は、路面上から開削して進めようと考えたのですが、現道の交通量が多いので、可能な区間はシールド工法にしました。
トンネル外径は、アクアラインよりも一回り小さく、アクアラインが13.9mだったのに対し、首都高は12〜13mです。しかし、規模はあまり違いません。
ただ、地下を掘るにも、多くの埋設物があり、作業は困難です。また地下工事ですから、天候によってストップすることは無いのですが、土砂の搬出は土日には行わないとか、埋設物を露出するにも、色々と条件があり、かなり煩雑です。地域住民への説明会も必要です。
工事は、一台のシールドマシンが、上り線と下り線をuターンして戻ってくるという前例のない施工法も採用しました。3000tという巨大なマシンのUターンは、史上でも初めてでしょう。Uターンには、ベアリングのような鉄の球体を床に敷き詰め、その上にマシンを乗せて、ずらしながら回転させたのです。さすがに珍しい事例なので、テレビで放映されました。
──地元の反響はいかがでしょうか
橋本
概ね協力的です。用地買収も難航していましたが、ようやく進み始めました。この路線が必要であることは、みな認識していますからね。
ただ、用地買収で大変なのは、バブル時に坪単価が概ね2,000万円だったのが、今は5分の1ですから、抵抗があったのです。また、その用地に抵当権が設定されたりしていると、さらに難しいですね。
 一方、一般者に対しては、見学会なども開催しました。高速道路が、人を排除するものであってはなりません。
──環状線が全て繋がると、利便性と経済効率の向上は、図り知れませんね。東京都は、年間の損失額を5兆円と試算していますが
橋本
確かに、今日の渋滞による速度が20kmくらいとするならば、整備によって30〜40kmくらいに上がりますからね。先日、石原都知事が新宿線、王子線の現場を視察され、「これはすばらしい、予算はかかるかも知れないが効果も大きい、是非とも進めて欲しい」と言っていました。

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