建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ1998年11月号〉

interview

子どもを社会が育てるという意識

札幌市教育長 山恒夫 氏

山 恒雄 やま・つねお
昭和16年4月24日生まれ、札幌市出身、札幌北高、早大一文卒。
42年4月入庁・施設局住宅課配属、企画調整局企画調査課主査、同調整課ニューメディア対策主幹、同企画調査課長、同副参事(企画)、平成3年中央区役所市民部長、5年教育委員会社会教育部長、7年厚別区長、10年現職。
青少年による犯罪事件の発生件数が過去の記録を破り、しかも内容もかなり凶悪化している一面がある。そのため状況打開に向けて、心の教育が具体化されつつある。しかし、今日の青少年を取り巻く環境は、残念ながら良好とは言えない。これは大人社会の責任でもある。教育は、子どもだけにではなく、大人にも必要だ。子どもも大人も含め、札幌人の教育を与る札幌市教育委員会の山恒夫教育長に、心の教育と生涯教育とについて語ってもらった。
――最近は青少年が引き起こす事件が多発しており、しかも以前では大人の犯罪にしか見られなかった事件も見られます。また、犯罪にまでは至らなくても、青少年の様々な問題行動が指摘されていますが、今日の彼らの行動についてどう見ていますか
私としては、札幌市の多くの青少年は、健全で有意義な生活を送っている思っていますが、私が目にするもの、新聞などで知りうる範囲では、やはり「昔と違うな」と思われる場面が多いですね。私自身は、現実には青少年の一部、一断面しか見ていませんから、必ずしも的を得ていないかもしれませんが、昔と比べて変わってきたように思います。変わってきたというより危機意識に近いものを感じています。
中央教育審議会の「幼児期からの心の教育の在り方について」答申の中に、日本、アメリカ、中国の高校生の「規範意識」を比べたグラフがあります。それを見ますと、「先生に反抗すること」「親に反抗すること」「学校をずる休みすること」「売春など性を売り物にすること」などの項目について「本人の自由でよい」と回答した者の割合は、日本ではアメリカや中国の3倍から6倍の数値を示しています。
私などは、ことこれらの項目については、日本は世界の中でも最も規範が形成されている国だと思っていましたが、意外な結果で大変憂慮すべきことだと考えています。なぜ、このようなことになったのか。戦後、個人の価値が優先され、「自由とは自分のわがままを通してよいこと」という風潮が広まった結果なのでしょうか。もしそうだとしたら、これは大変なことだと思います。
本来、自由とは「自分の思いのままに」ということではありません。自由とは、自分たちには責任を持たなければならない領域があり、それが何人にも侵されないということです。このように、自由には責任と誇りが伴うと思うのです。長い歴史と伝統の上に、先人の努力の積み上げによって築かれた領域なのです。自由を「自分の思いのままに」と同義であると考えることは、人と人との関係を解体し個人をばらばらにし、それがついには自分の責任で何一つできない主体性の欠如した人間を生み出すことになるのではないでしょうか。
子供たちに関するいろいろな報道を見るにつけ、我々が祖先から受け継いだ札幌の貴重な文化と伝統を、「現在」という時間だけで極端に変形させてはいけない。良きものは未来につないでいく責任があると強く感じています。文化とか伝統というものは、長いスパンで見てもそう大きな変化があるものではないと思います。それを忘れたところに今があるのでしょうか。

日・米・中の高校生の規範意識―「本人の自由でよい」と回答した者の割合


  • 各国とも約1,000人を対象に調査、アメリカについては性に関する項目は調査から除外。
  • 資料:「ポケベル等通信媒体調査」平成8年・日本青少年研究所
  • ――そうした事態を憂慮して、最近は「心の教育」が重要課題となっています。札幌市では、これをどう実践する考えですか
    今、国を中心に「心の教育」が叫ばれ、道徳教育の見直しが進められています。私は、このことに大賛成です。しかし一方、これはそう簡単なことではないと思います。「心の教育」とか「道徳」というのは、本来、一家庭で形成されることではないと思うのです。我々が子供だったころには、世間の中に「子供はみんなで育てる」という雰囲気がありました。子供たちは社会で育てるという共通の意識があったように思います。こういう意識というものは、地域の伝統とか慣習とかの「地域性」によるものでありますから、今それがないとなれば、簡単にはいかないと思います。本来、「心の教育」「道徳」というものは、このように地域や社会に基盤があって初めて実現するものだからです。
    しかし、青少年の現状や、われわれ大人の生き方を思うにつけ、これからの「心の教育」「道徳」については、意識的、計画的でなければならないと思うことがあります。そうでなければ今の現状を止めることはできないのではないかということです。これは大変なことです。
    これも文化や伝統というものの重みを感じずに、古いと言っては捨て、結局、振り返ったら個人がばらばらになってしまったということなのかもしれません。
    いずれにしても、「心の教育」や「道徳」「しつけ」など「徳育」といわれるものが、文化や伝統の中で培われるものだとすれば、今からでも懸命になって作り上げる努力をしなければならないと思います。そして、そのことに気づいた人から意識的な生き方が求められるのではないでしょうか。その先頭に立つのが学校や家庭、地域であると思います。
    教育委員会としては、「学校と家庭、地域との連携」とか「開かれた学校」などが主張されることの内実をしっかりと考え、実行に移していくことが大切だと考えています。
    ――そうした心の教育を学校校舎などの教育施設には、どう反映していきますか
    学校整備において、今後は、潤いとゆとりに満ちた「心の休まる空間」を作ろうと努力しています。区役所などと連携し花を育てたり、PTAや地域の協力を得て遊び空間を作るなど、子供たちの学校生活を豊かなものにするために創意工夫をしています。
    教育委員会としては、学校の増改築や余裕教室の有効活用などにあわせて、子供たちに豊かさが広がる学校空間を作ろうと工夫しています。
    ――札幌市としては、将来、彼らがどんな人材として育つことを期待していますか
    札幌の未来像は、青少年によって描かれます。これは確かなことです。そのためにも、青少年には夢を持ってほしいと思います。そして、良き札幌市民として、また、国際社会の中にあって活躍できる人になってほしいと思います。
    ますます少子化が進む現在、子供は札幌市の宝という思いで、みんなで力を合わせて育てていかなければならないのではないでしょうか。
    ―― 一方、生涯教育、成人教育に対する市民の関心は高いようですが、どんな分野への要望が高く、どんな施設設備が求められていますか
    「高齢社会のなかで、豊かで充実した人生を過ごしたい」「社会経済の変化に、的確に対応できる力を身につけたい」「自分の能力を、社会のために何らかの形で生かしたい」というように、市民の学習に対するニーズは多様化してきています。
    これからは単発的な学習ではなく、段階的・継続的に学ぶことができ、さらに学んだ成果が生かされるような環境をつくることが重要です。
    そのためには、教育委員会だけではなく行政、民間、大学など関係機関相互のネットワークを形成しながら、学習の機会、情報、施設などの学習資源を市民の皆様に効果的な方法で提供していく必要があります。
    特に施設の面では、市民の皆様から、さまざまな機能の充実した全市的規模の施設のほか、地域における身近な施設を学習の場として利用できるようにしてほしいとの強い要望があります。
    そこで教育委員会では、平成12年のオープンを目指して、生涯学習推進の全市的な拠点施設である(仮称)「札幌市生涯学習総合センター」を建設しているところです。この総合センターを中心として、区民センター、地区センター、学校など地域の各施設を有機的に結び、市民の学習活動やコミュニティ活動を支援していきたいと考えています。
    仮称里塚北地区中学校A・B工区新築工事
    建設地:札幌市清田区平岡公園東9丁目152番1他
    中学校校舎新築 敷地面積20,049.66u 延床面積4,112.99u
    (A工区)普通教室18 特別教室7
        RC造3階 塔屋1階
    工 期 H10.5.12〜h11.3.5
    (B工区)特別教室10
    管理部門(職員室・校長室ほか)
    RC造3階 塔屋1階
    工 期 H10.4.23〜h11.3.5
    (屋内運動場)
    屋内運動場棟 SRC造2階 1,613.812u
    クラブハウス棟 RC造平屋 245.97u
    格技場棟   SRC造平屋 298.389u
    工 期 H10.4.23〜h11.3.5
    八軒小学校屋内運動場改築工事
    八軒小学校屋内運動場改築工事
    建設地:札幌市西区八軒4条西1丁目1-8
    屋内運動場棟
    敷地面積12,011u SRC造2階 1,707.368u
    既設面積(校舎・その他)6,688.819u
    計8,396.187u
    工 期 H10.5.26〜H11.3.5
    厚別中学校増築工事
    厚別南中学校増築工事
    建設地:札幌市厚別区大谷地東7丁目989番地370他
    中学校校舎増築 RC造4階 敷地面積23,270.3u
    一般教室・美術室・音楽室・相談ラウンジ・進路指
    導資料室・PTA室・会議室・教材準備室・教室相談
    室・特別活動室・図書室・コンピューター教室
    増築1,513.468u 既設面積(校舎屋体等)8,938.969u
    計10,452.437u
    工 期 H10.8.5〜H11.3.8
    伏古北小学校増築工事
    伏古北小学校増築工事
    建設地:札幌市東区伏古11条1丁目2-10
    小学校校舎増築 RC造3階 敷地面積16,378.74u
    一般教室・図工室・特別活動室・コンピューター
    室・教育相談室・音楽室・ワークスペース
    増築1,273.536u 既設面積6,820.351u
    計8,093.887u
    工 期 H10.8.5〜H11.3.23

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