建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ1997年11月号〉

interview

北方圏交流を見据えた基盤整備の促進

「サハリン開発後方支援基地」の形成を支援

北海道開発局稚内開発建設部長 永井 豊 氏

昭和22年2月15日生まれ、46年北海道大学工学研究科修士課程土木工学専攻。
昭和 46年 4月 運輸省航空局飛行場部計画課
48年 4月 北海道開発局港湾部港湾建設課空港第1係長
50年 4月 北海道開発局港湾部空港課空港第1係長
51年 5月 函館開建函館港湾建設事務所第3工事課長(空港担当)
54年 5月 室蘭開建苫小牧港湾建設事務所第2計画課長
56年 4月 土木試験場第1研究部港湾研究室副室長
60年 7月 室蘭開建室蘭港湾建設事務所長
62年 4月 北海道開発局長官房開発調査官
63年 4月 北海道開発局港湾部空港課長補佐
平成 2年 1月 室蘭開建苫小牧港湾建設事務所長
5年 6月 室蘭開建次長
7年 6月 北海道開発局港湾部空港課長
9年 7月 現職
7月1日付の人事異動で、開発局空港課長から稚内開発建設部長に就任した永井豊氏にご登場いただいた。初めての稚内勤務となるが「稚内空港のジェット化等で、何度か地元に来ており、あまり初めてという気もしません」という。就任から2ヶ月半の間に管内を2回ほど回ったそうだが、「この地域は、いわゆる国境地域で、ロシアのサハリンとの国境を越えた新しい経済・文化圏を管内全体で育てようとする機運が盛り上がっていると思う。しかし、サハリン開発の後方支援基地や北方圏交流のためには、高速交通体系など社会基盤整備の充実が必要。海外では韓国や、東南アジアにも競争相手がいる。管内の住民の社会生活はもとより、国際貢献を牽引する地域として、国際的視野に立った社会基盤整備を実施すべきではないか」と話している。
――管内の開発にどんな姿勢で臨みますか
永井
これまで、「国境に接した国土の北端で充実した生活を享受していくために、しっかりとした生活・生産基盤と、道央地域や本州との交流基盤を望むとともに、サハリンなど北方圏を見据えた街づくりに地域の夢を託している」ことを各方面からお聞きしてきました。
国を挙げて財政構造改革が進められている中で、これからの事業は新規や継続を問わず、極めて厳しいものがありますが、地域の課題やニーズを的確に開発事業に反映させ、21世紀に向けた宗谷の可能性を最大限に図る努力をしていかなければならないと思います。
――管内の近況と課題は
永井
地域の基幹産業である水産業、農業は依然として厳しい状況にあり、宗谷管内の人口も年間千人規模で減少が続き高齢化も進展しています。
その一方で、観光客は冬を含めて年々増加しており、またサハリンとの交流の活発化により、平成8年度の上陸外国人は5万3,000人と、稚内市人口の1.2倍に達し、市内の買い物だけで年間50億円を越えると言われています。
このように国内・国際の交流人口が増えていることが明るい話題となっています。特にサハリンと国境を越えた新しい経済・文化圏を、宗谷管内全体で育てていく機運が盛り上がっていると感じています。
――サハリン開発の後方支援については、どんな状況ですか
永井
宗谷地域はサハリンとの間において長年にわたり、歴史的に様々な交流を培ってきています。地域をあげて、稚内港を中心に「サハリン石油・天然ガス開発関連後方支援基地」の形成を図り、北方圏に対する日本の玄関口として国内外に大きな役割を担おうとしています。
経済界も非常に熱心で、若手も現地で色々なビジネスチャンスを窺っています。開発支援船は頻繁に稚内港に入港し物資の調達を行っているほか、資機材輸送、資材供給などの調査が進展しています。
サハリン開発関連の支援船の入港や、外国人技術者の稚内港・稚内空港を利用した帰国や交替も行われており、日ロフェリーの就航、サハリン州との行政・経済・文化交流なども活発に行われています。
これらに対応する空港、港湾、道路などは、この地域の高速交通網の一環として元来整備が必要なものですが、国際貢献を牽引する地域として人流や物流が迅速に行えるよう、国際公共財として互いに連携した総合的な拠点形成を早期に図ることが望ましいと考えています。
このように、私たちも後方支援基地や北方圏交流のために出来るだけの支援をしていきたいと考えています。
――国道拡幅などの道路事業について
永井
この地域は、まだ高速交通体系が整っておらず、交通の利便性の低さが生活や経済に大きな影響を及ぼしています。このため、規格の高い道路をはじめとする高速交通ネットワークの形成は緊急課題です。
旭川と稚内を結ぶ主要幹線である一般国道40号では、冬期交通の信頼確保と名寄以北の高速交通ネットワーク形成を推進するため、豊富町において自動車専用道路「豊富バイパス」を促進しています。
渋滞の解消と交通安全の確保とともに緑豊かな景観創造を目指した「一般国道40号稚内拡幅」は今年度で完了します。
また、稚内空港とのアクセス強化と良好な都市環境の創造を目指した「一般国道238号はまなす拡幅」事業も促進しています。
一般国道275号の浜頓別町では、町が進めている旧JR駅跡地を利用した市街地再開発事業「夢ingアメニティタウン計画」と整合を図り、公園と一体化した緑豊かな歩行者空間を形成する「浜頓別道路」を完了させます。
――国道の防災対策はどんな状況ですか
永井
管内においては、防災点検の結果、「対応方針1」として対策が必要となったのは一般国道275号中頓別町「寿トンネル」の1ヶ所で、平成8年度からトンネル巻出し部の地滑り防止対策としてグランドアンカー工を実施しており、今年度完了します。
今後、トンネルの補修を計画していますが、平成11年度までに完了したいと考えています。一般国道238号の斜内及び宗谷においても防災事業を促進しています。
また、この地域は、「ブリザード」と呼ばれる道北特有の猛吹雪により、視程障害の発生や通行止めを余儀なくされる事が多いので、防雪対策として、防雪林、防雪柵、防雪盛土、防雪切土などを実施しています。さらに、リアルタイムに適切な道路情報を提供するため、システムの高度化を検討していきたいと思います。
――港湾・漁港などの整備事業では
永井
今年度は8港湾、3漁港の計11港の整備を実施しています。利尻島、礼文島における整備が6港と全体の半数以上となっています。
重要港湾の稚内港では、バラ荷を扱う天北2号埠頭の整備が完了します。鬼脇港では、待望の水深6m岸壁が完了し、利礼航路に就航している3,200t級フェリーの接岸も可能となります。
沓形港では、島防波堤の建設にあたり、防波堤背後に小段を設置することにより、海草の繁茂を促進して、魚介類の成育環境に配慮した環境共生型工法を採用しています。
また、水中荷捌施設の整備も進めています。平成10年度の施設完成を目指しているところですが、今年度から試験的な利用が可能な状態となりますので、水産物の水中荷捌きの試験の実施を予定しています。
――稚内空港の整備はどのようになりますか
永井
今後は、高速交通ネットワーク形成の要となる空港施設の高質化を図っていかなければなりません。現在のエプロンはアスファルト舗装ですが、わだち掘れ対策のため、来年度にも部分的なコンクリート舗装への打ち替えが出来ればと考えています。
就航率向上、通年運航などの対策については、本局とともに検討していきたいと思います。
――農業農村整備事業の基本的な考え方と内容については
永井
基本的には、将来の世界的な食料需給の逼迫に備え、持続的で生産性の高い生産基盤の整備を行い、自然共生型産業の形成を図りながら、国際競争に耐え得る構造に牽引していかなければならないと考えています。
国営かんがい排水事業は、肥培かんがいを主とした畑地かんがいを導入し、かんばつ被害の防止と糞尿の有効利用によって、牧草の高生産性と営農労力の省力化を図る目的で実施しています。対象地域は、歌登中央(一期)地区と猿払(一期)地区がありますが、歌登については歌登町や受益農家の意向に変化が生じているため、事業を見直す考えであります。
耕地の排水改良を図る直轄明渠排水事業は、今年度完了予定の頓別川地区とポン仁達内地区のほか、稚内西部地区の事業を促進しています。
総合農地開発事業は、農地造成、道路、排水路などの農地開発事業と明渠排水、畑かんなどのかんがい排水事業について総合的に一環して実施するものですが、枝幸南部地区と今年度で完了する東豊富地区の事業を実施しています。
乳用育成牛の預託と乾草供給を行う公共草地を造成する草地開発事業は、南天北地区を実施しています。
また、機能低下した泥炭農地の農業用施設や農地については、機能回復を図り、農地保全や災害の未然防止のための総合農地防災事業として頓別中央地区を実施しています。
――管内の自治体との連携をどう取りますか
永井
厳しい財政事情から、公共事業の重点化、効率化が強く求められており、地域プロジェクトとの連携は大切な要素となっています。したがって、自治体とは密接な連携の下に地域プロジェクト構想を整理するとともに、広域・複合の視点で「事業連携」「地域連携」の取組を進めています。
管内全体の広域・複合プロジェクトとしては、「北海道北部・ロシア極東経済文化交流圏構想」をとりまとめています。今後とも支庁、土木現業所はもとより官民あげて連携を密にしていくことが重要と考えています。

HOME