建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2001年10月号〉

interview

世界に誇るクリーン都市「札幌」をめざして“市政”と“現場”の両輪を初めて陣頭指揮

持ち前の“明るさ”で、職員ひとりひとりと共に「生き生きとした職場」を立ち上げ

札幌市環境局長(財)札幌市環境事業公社理事長 三井 尚 氏

三井 尚 みつい・ひさし
昭和 18年 10月29日生まれ
昭和 62年 3月 室蘭工業大学電気工学科大学院修士課程修了
昭和 43年 4月 札幌市役所採用
平成 7年 6月 白石区長
平成 11年 6月 市民局長
平成 13年 4月 環境局長
平成 13年 7月 財)札幌市環境事業公社理事長就任(環境局長との兼務)
人口が増えると“ごみ”が増える。それは「人が生きている」ことの証左であり、宿命でもある。そこには個々の“暮らし”があり、経済的・精神的にも満たされた社会を築いて行くために、様々な役割を持った多くの人々が協力し合い、支え合っている。しかし、支え合う社会構造は、秩序を守る心と共にそれを乱す甘えの心も生み出す。札幌市環境局長であるとともにごみ収集など直に“市民の現場”と触れあう札幌市環境事業公社の理事長にも新任した三井氏は、「ごみ処理はドーム建設よりも多額な予算を費やす。環境問題に取り組んで来た“成果”は将来になって初めて実を結ぶもので、だからこそ“いま”から始めなければならない」と語る。我が国の環境問題に新たな一石を投じた取り組みが評価されている「札幌市」の環境対策について、三井氏に聞いた。
――札幌市環境局長であると同時に、(財)札幌市環境事業公社の理事長としても就任し、公社の理事長と環境局長の両職を兼任することになりましたが、“公社と市”はどのような関係になりますか
三井
前任の前田理事長も環境局長を勤めていた時に、理事長を兼任していました。公社は、都市廃棄物の適切な処理と市民の快適な生活環境を確保することを目的として平成2年に設立され、リサイクルに関する調査啓発事業、資源ごみの資源化事業、事業系ごみの収集運搬事業を主業務としています。つまり、行政の手ではできないことを公社が現場サイドで対応していくわけです。
しかし、設立から10年が経ち、政策上、お互いに理解し合えないことや遠慮しなければならない状況もございます。そこで今回、私が公社と市の業務を兼任することで、両者の関係がより一層円滑になることと思います。公社や、市の清掃事業への不満をお互いに解決していきたいと思っています。
――市内の“ごみステーション”を廻って“ごみ”の収集運搬作業をしている札幌市と事業系ごみの収集運搬作業をしている公社は、まさしく「市民の生活現場」に直結しており、「公社と市」が連携することにより、市民や現場の職員の声を積極的に政策に活かしていくこともできますね
三井
そうです。それぞれの現場が安心して、お互いに信頼し合いながら仕事をしていく必要があります。私自身、“明るく元気に”がモットーですから、職員ひとりひとりのためにも明るく楽しい職場づくりを目指して、問題があれば気軽に相談できる関係を築いていきたいですね。
仕事とは、決して従事するだけのものではなく、それと同時に「人の心」そのものも生き生きとしたものでなくては意味がありません。それにより、それぞれの役割分担も明確となり、いろいろな問題にも対処できますし、新しいこともできるようになります。市と公社がより一層緊密な連携を図り、その役割を果たしていきたいですね。
――札幌市のごみの量は、その後、どのような傾向を示していますか
三井
桂市長が「一人1日100gダイエット」というスローガンを標榜してから、ピークとなった平成3年度の118万tから、平成10年度には約93万tへと大幅な減量に成功しており、同時に分別収集によって埋め立てごみが減ってきています。これをさらに減らしていこうと考えています。市長が率先して行ってきた成果が目に見えた形で現れたもので、とても良い傾向です。
――札幌市は、そのように「環境問題」に積極的に取り組んでいるという“クリーンな街”としてのイメージアップにつながるpr活動を、日本あるいは世界に向けてもっと展開しても良いのでは
三井
ごみ処理には相当な予算を費やしています。実はハード面で見ると、「札幌ドーム」の建設費よりも、建設中の「第五清掃工場」の方がはるかに整備費を費やしています。
したがって、市民には自分の出すごみを見て、「処理には、それほどのお金が掛かっているのだ」ということを深く認識してもらいたいものです。
――札幌市は、建設廃材などの事業系のごみが多いとのことですが
三井
そうです。平成12年度では家庭系ごみ47万5千tに対し、事業系ごみは50万1千tと多く、建設廃材の占める部分が多い状況にもあります。
現在は相変わらず経済不況の真っ直中にあるにも関わらず、札幌ではまだ多くの工事が実施されているということです。その意味では全国的に見ても、札幌は珍しいのかも知れません。
――リサイクルの進捗度はいかがですか
三井
平成6年度から全国に先駆けて、東区中沼町に「リサイクル団地」を整備しました。ここには、廃油・廃コンクリート・建設系廃材・生ごみ・廃タイヤなどのリサイクル施設があります。建設リサイクル法の施行により分別が期待される建設廃材も、自ら処理できない場合には、リサイクル団地の建設系廃材リサイクルセンターを利用してもらいたいものです。
生ごみのリサイクルについては、食品リサイクル法に先駆けて平成10年から生ごみリサイクルセンターを稼働しています。市内のホテルや学校から排出される良質の生ごみを飼料化し、農林水産省の認定を受け、養漁や家畜用の飼料として、農家などで利用されています。
――世界的な動向の中では、どの程度のものと評価できますか
三井
「世界的」にとなると、まだまだですね。やはり、ドイツなど欧州方面はずっと進んでいますが、歴史や文化も違いますから、一概に比べることは難しい。しかし、現存のわが国の文化や経済性などを考慮しながら、世界的に恥じないことはもちろん、いままでにはない形での新しい政策を持った先駆者的存在になりたいものです。
――資源循環型社会へ向けて、公社の担う役割は
三井
公社事業の大きな柱は、事業系一般廃棄物の収集運搬事業ですが、その際にごみの分別収集や、リサイクル推進を各社各様に行っていたのでは効率的ではありません。そこで公社が一元的に取り扱う方式に改めた上で、実施しています。これにより、初めてリサイクル施設の安定稼働を実現できました。
このほかにも、資源化工場、資源選別工場、リサイクルプラザなどの運営も行っています。資源化工場では、木くずや紙くずを原料に固形燃料を製造しています。事業系ごみだけを原料にしているので、極めて安定した品質を維持できます。資源選別工場では収集されたビン・缶・ペットボトルを個々にリサイクルできるように選別しています。これらの資源物は中沼と駒岡の工場に運ばれ、平成12年度は3万3,370tを処理しています。
リサイクルプラザでは、大型ごみとして出された家具や自転車などを修理して、安価で市民に提供し、リサイクル意識の向上を図っています。平成12年8月にオープンした「リサイクルプラザ宮の沢」は多くの市民にご利用いただいています。このほかにもボランティアの市民運営スタッフと協力して、リサイクルの啓発普及に努めています。
――リサイクル率も、かなり向上したのでは
三井
札幌市では、容器リサイクル法に先駆けてビン・缶・ペットボトルの分別収集を実施しました。平成12年度からは、政令指定都市で初のプラスチック分別収集を実施しています。この結果、札幌市のリサイクル率は、平成12年度で13.7%となっており、今後も増えていくと予想されます。
――市の長期ごみ処理計画については
三井
「さっぽろごみプラン21」ですね。平成26年までを計画期間として、一般廃棄物処理基本計画を策定し、ごみ減量に向けた施策を展開しています。この計画では、廃棄ごみの15%以上減量、リサイクル率の25%以上引き上げ、埋め立て処分量の30%以上減量と、3つの数値目標を掲げています。大事なことは、埋め立て処分量の30%削減ですね。
リサイクルが進んだ結果、処分場の寿命も延びています。埋め立てが完了した処分場については、緑地公園化して市域を緑地で囲もうという「環状夢のグリーンベルト構想」に利用していきたいと思っています。
平成2年に終了したモエレ処理場は、世界的な彫刻家「イサム・ノグチ」が、全体を彫刻に見立てた公園として整備を進めています。雪の冷熱エネルギーを利用した「ガラスのピラミッド」が、平成15年に完成する予定です。
しかし、「環状グリーンベルト構想」の中で埋立地の公園緑地化が遅れていることは事実ですが、私は遅れても良いと思っています。ごみの埋立地が公園になるわけですが、「10年先」のことであったのが「20年先」のことになると言うことは、「ごみが減っている」ことの顕れです。これはむしろ、喜ぶべきことです。
――公社として、今後、新しい事業展開は
年に2回、街路樹の剪定が行われていますが、剪定した枝を堆肥化できないか、研究が進められています。街路樹だけを剪定してきた枝は、堆肥化のめどが立ってきたところです。しかし、このほかにも学校や公園、一般の家庭からも剪定枝は出ますが、どうしても不純物が混ざってしまうので、公社としては受け入れが難しいですが、市と協力しながら、どうすれば堆肥化できるのかを考えていかなければなりません。
これらの作業については、剪定枝のリサイクルについての認識度が高い専門の業者に委託することを想定しています。
この他、ガラスについても研究しています。カレットをどう有効利用するかということですね。公社では、どうしたらリサイクルできるかを、関係する事業者とタイアップしながら研究・事業を進めていきたいと思っています。
今後は、生ごみの飼料化によって燃えるごみが減っていくでしょうし、燃えないごみでリサイクルができない物は利用しないようにしていくことが必要でしょう。
──ごみ問題には教育も必要ですね
三井
そうです。ポイ捨てなどの問題がありますが、ごみを放り捨てるという行為に対して、罪の意識が低いのです。これを家庭教育の中からしっかりと教えて、「自分のごみは自分で処理しなさい」と躾けることが大事ですね。私が子供の頃は、ごみを捨てませんでした。どこかに遊びに行っても、ごみを“ポイ捨て”することはなく、例えば先生が「ごみを持って帰りますよ」と言えば、その通りに持ち帰ったものです。今はそうした話を聞かない子も多いのではないでしょうか。
――例えば、日常的に自然の中を“遊び場所”としているならば、おのずと自分の部屋と同じように「自分だけの大切な空間」として捉えることができるので、ごみを捨てようとはしないはずですが、人口密度が高くなり都市化が進む街中では、自由な創造が膨らむ空き地などの“自然の遊び場所”が減って行きます。このため、以前より自然離れが加速化し、それに比例して、人の心も希薄になっていることが「ごみを放り捨てる」要因になっているのでは
三井
そうですね。人々の暮らしの営みがあるからこそ「ごみ」が出る訳で、様々な方面から、あらゆる環境問題に取り組んで来た「成果」は、たくさんの時間を経た将来になってこそ初めて実を結び、改めてその「成果」が実証されるものです。
これは今日、明日で改善できるものではありません。だからこそ、“いま”から取り組んで行くことが急務なのです。そのためには、ひとりひとりのご理解とあたたかい心がなければなりません。
――今後に向けての課題は
三井
小規模事業所の一部においては、事業系ごみを家庭系ごみとして排出している状況があります。各事業者には、少量のごみであっても事業活動に伴うごみは家庭系ごみとしてごみステーションに排出できないことをご理解いただき、事業系ごみの適正な処理、分別収集へのご協力をお願いしていきたいですね。
今後は、廃棄物等の発生抑制・再使用・再資源化といった循環型社会に向けた施策を展開する中で、都市廃棄物の適正な処理と快適な生活環境の確保に向けて事業展開を進めていきたいと考えています。

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