建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ1997年11月号〉

interview

公共事業の効率化、重点化に全力

道路は各拠点をはしご状に連結

川崎市建設局長 松田 優 氏

昭和13年7月10日生まれ、鹿児島県姶良郡出身、日本大学理工学部土木工学科卒。
昭和 35年 1月 川崎市役所入所、建設局下水工事事務所勤務
62年 5月 中部下水工事事務所主幹
63年 6月 西部下水工事事務所所長
平成 4年 4月 下水道局建設部計画課課長
5年 4月 下水道局建設部参事
下水道局建設部建設課課長
7年 4月 下水道局建設部長
8年 4月 下水道局長
9年 4月 現職
川崎市は今年4月に組織機構の改正を行い、下水道事業と道路治水事業を一元化して新たに『建設局』を設置した。新局長の松田優る氏は日大理工学部土木工学科出身で、昭和35年に川崎市役所入り。これまで下水道畑が長く、下水道局長から新ポストに就いた。公共事業の効率化と重点化、環境保全、入札における透明性の確保など、さまざまな課題を抱える都市基盤整備の推進に手腕が期待されている。松田新局長に本年度の主要事業などを聞いた。

下水道と道路事業を一元化
――局長は下水道畑を歩んできましたが、今回の機構の改正によって建設局長に就任しました。そこで、まずは抱負からお伺いしたい
松田
最近は国際的な規制緩和、バブル崩壊後の厳しい財政難を背景に、公共事業に対する風当たりが強まっており、公共事業のあり方そのものが問われています。しかし、都市基盤の整備には、まだまだ課題が多いのが実情です。
川崎市としても行財政システムを総点検する中で、下水道事業と道路・治水事業を一元化して建設局がスタートしました。
今後は防災面を含めて公共事業の効率化と重点化、透明性の確保、環境保全の視点を、これまで以上に意識しながら局運営に取り組んでいきたいと思います。
――川崎市の地域事情を含めた現況と、その政策的課題は
松田
ご承知のように、川崎市は多摩川に沿って細長い地形(縦断方向最長約30km、横断方向最短約2km)で、東京・横浜に挟まれており、土地利用も臨海部が工業系、中部は商業系、北部は住宅系と非常に多様です。
そのため、市内の各拠点をラダー(はしご状)型のネットで連結することが基本的な課題となっています。
具体的には、道路交通系では東京、横浜を結ぶ横断方向の交通量が膨大で、横断方向の幹線道路と多摩川橋梁の拡幅が課題です。縦方向については幹線道路が脆弱で、川崎縦貫道路の整備が大きな課題となっています。
この川崎縦貫道路に関しては、現在、浮島―国道15号間の1期工事を首都高速道路公団が実施しており、市としても平成14年度の完成に向けて精力的に取り組んでいるところです。国道15号から東名高速までの2期計画についても、10年度中の都市計画決定を目標としています。
東京湾横断道路、12月18日開通へ
さらに、アクアライン(東京湾横断道路)が今年12月18日に開通しますが、首都圏の業務核都市として広域的な交通拠点としての整備も急務です。
――川崎市としては東京湾横断道路をバネにどのような開発構想を描いていますか
松田
空洞化が進んでいる臨海部の開発が、焦点になるでしょう。東京湾横断道路の開通を起爆剤に、開発構想づくりを推進したいと思っています。
――都市部の道路事業では共同溝が注目されていますね
松田
川崎市でも、電線の地中化には取り組んでいます。国道1号線、国道15号線は、すでに共同溝が完成していますが、市街地での共同溝整備は大変難しい。まして、下水道などの自然流下は、こう配があって共同溝に入りにくい難点がありますね。
――主要拠点地区では交通環境の改善に取り組んでいますが、これはどのような事業内容ですか
松田
新百合ケ丘駅周辺の交通混雑の解消と利便性の向上を図るため、南北駅前広場、接続道路及び関連交差点の改良を行っています。
主要幹線街路の整備では、尻手黒川線(菅早野交差点―吹込交差点)は、環境対策として地元の合意を得て8年度に工事に着手、10年度完成を目指して整備中です。世田谷町田線(万福寺地区)は、新百合ケ丘駅周辺との整合を図りつつ用地取得に取り組んでいます。
溝口駅周辺の道路整備は、南北自由通路と地下駐輪場との整合を図りながら進めます。現在、駅高架通路と東急駅舎との接続、東急田園都市線の線増工事について、それぞれ関係機関と協議中です。
また、同駅南口広場の地下に2,000台収容の自転車などの駐車場を設置する計画で、本年度から詳細設計に入っています。
小杉菅線再開発地区東側(L=164m)は、未買収1箇所を除き9年度完了を目指しています。用地買収が完了している西側(L=193m)は、この9月に供用開始しました。
道路交通騒音対策緊急5ヶ年計画は、9年度のモデル地区に東京大師横浜線が指定されました。ここでは低騒音舗装工事を実施します。また、首都高速道路横羽線騒音対策では、遮音壁と裏面吸音板を設置します。
――京浜急行大師線では、連続立体交差化の計画が進んでいますね
松田
京浜急行川崎駅―川崎大師駅間の一部をルート変更し、ほぼ全線を地中化することで、現在15箇所ある踏切のうち14箇所を除去し、道路交通の円滑化を図るのが目的です。
総事業費は1,470億円を見込んでいます。延長5.0kmのうち地下式が4.5km、地上式が0.5km、連絡線が0.9kmです。
――進捗状況は
松田
現線区間(川崎大師駅−小島新田駅間)の用地取得率は、27%まで進みました。施行協定の締結については現在、関係機関と協議中です。
大師橋の1期架替事業が完成
――橋梁整備では、どんな事業がメインですか
松田
多摩川に架かる大師橋、丸子橋、多摩水道橋の3橋は、近年、交通量の著しい増加に伴って慢性的な交通渋滞や環境悪化の原因になっています。さらに、3橋とも老朽化が進んでいるので、東京都と相互に協力しながら拡幅・架替事業を進めているところです。
大師橋は、1期工事として事業費147億円で、既設橋の下流側に橋長550m、幅員14.75m(3車線)の橋梁を架設、この9月に供用開始しました。その後、既設橋を撤去し、残りの半断面の橋長541m、幅員14.75mの橋梁を架設し、合わせて6車線を確保します。2期工事の事業費は225億円を見込んでいます。
一方、丸子橋と多摩水道橋の架替は東京都にお願いしました。いずれも4車線で、多摩水道橋は7年5月に上り車線が完成しています。
―――大深度地下利用の放水路事業にも取り組んでいますね
松田
二ケ領本川の抜本的な治水対策として、洪水時に五反田川から分水し、多摩川に直接放流する放水路で、総事業費は約315億円を見込んでおります。
分流部の用地買収が概ね完了したため、9年度から分流部立坑の築造に着手します。放流部の用地買収は、約70%が完了しています。
下水の高度処理を導入
――下水道の整備水準は高いようですね
松田
これまで汚水対策を重点にネットワーク整備を進めてきましたが、現在、人口普及率は96%に達し、他の政令都市と肩を並べられるところまできました。そのためか、下水道整備は終わりに近いと言われますが、決してそうではありません。現実には、これまで汚水処理先行できましたので、分流区域における雨水対策や老朽管の改良、高度処理などの事業はこれからです。
人口普及率100%を目指して本年度も引き続き管渠・処理場の整備を進め、新たに市街化調整区域の整備に着手します。雨水対策の推進では浸水対策と合流式下水道の改善を目的として、雨水貯留管の建設を推進し、雨水整備の遅れている分流地区の整備を促進します。
高度処理は、東京湾の水質改善と「せせらぎ水路」などの水源としての利用を目的として、等々力・麻生・入江崎水処理センターへの高度処理導入を積極的に推進します。
このほか、耐用年数を迎えるポンプ場・処理場施設について、地震対策にも配慮した計画的な更新に着手し、管渠の更新計画の策定に取り組みます。また、下水道管利用光ファイバーを行政情報通信として活用するため、既設光ファイバーのループ化を図ります。
社会資本整備に国の財政支援を期待
――最後に国や建設業界への要望、提言は
松田
従来の公共事業は改善すべき点が多く、財政的に厳しいことは承知していますが、大都市の基盤・施設整備にはまだ課題が多いのが実態です。各自治体の実態を無視して、一律に公共事業の抑制に向かうのではなく、将来の都市生活に不可欠な社会資本の整備事業については、十分な財政的な援助を国にはお願いしたいものです。
建設業界に対しては、発注者側のコスト削減や入札制度の多様化に対応して、技術力や施工管理能力の向上に努め、国際的な競争に打ち勝てるような体制づくりに努力していただきたいと思います。

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