建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2001年11月号〉

interview

注目される中部国際空港 (前編)

わが国初のPFI方式による整備、運営

国土交通省中部地方整備局 港湾空港部長 片平 和夫 氏

片平 和夫 かたひら・かずお
昭和28年2月27日
静岡県沼津市
名古屋大学大学院工学研究科博士課程前期 修了(昭和52年)
昭和 52年 4月 運輸省入省
昭和 63年 11月 第三港湾建設局高知港工事事務所長
平成 3年 7月 運輸政策局環境海洋課海洋汚染対策室長
平成 5年 4月 広島県土木建築部空港港湾局港湾課長
平成 8年 4月 第五港湾建設局設計室長
平成 12年 4月 中部国際空港(株)建設部技術室長
平成 12年 6月 名古屋港湾空港工事事務所長
平成 13年 1月 国土交通省中部地方整備局港湾空港部長
中部地方整備局は、わが国の中心に位置する愛知、岐阜、三重、静岡、及び長野の一部の5県を所管し、基盤整備を担っている。管内は、古い歴史と伝統産業を残しつつも、自動車産業をはじめ世界的なものづくりの拠点地域である。この管内の港湾、空港整備を担う港湾空港部の片平和夫部長に、管内における貨物需要の動向と施設整備の重要性について語ってもらった。
――中部管内は、中部国際空港の建設が進んでおり、注目されていますね
片平
現在、運用されている名古屋空港の年間利用者数は1,090万人で、うち420万人が国際線の利用者です。国際線利用者は、成田、関西に次いで3番目の実績で、これは今後も大幅に伸びていくものと予想されます。
ところが、処理能力はというと、年間の離発着数は12万回程度が限界であり、既に限界近くに達しています。とりわけ、愛知県では2005年に愛知万博も控えており、抜本的な対策を行うべく、中部国際空港の整備が進められています。
――計画の概要は
片平
計画の基本方針としては、既存の名古屋空港の路線を新空港に一元化していくことを前提としており、国際・国内航空輸送の拠点として24時間運用とします。
もちろん、環境に配慮しつつ陸海のアクセスを充実させ、乗り継ぎ利便性の高いものとし、地域にも相乗的な発展を促すような空港が期待されています。
想定される輸送需要は、2020年代半ばに旅客の国際便は800万人、国内便は1,200万人。航空貨物は国際便43万トン、国内便8万トンと見込んでいます。
空港用地の面積は470ヘクタールで、滑走路は3,500メートルが1本ですが、将来的には4,000メートル級2本の空港とする構想もあります。現在、用地造成工事等を中部国際空港株式会社が実施していますが、埋立土砂の約2割は名古屋港の浚渫土砂を使いますので、私どももお手伝いをしているところです。
――この空港整備は、pfiとして行われていますね
片平
空港整備におけるpfiの第一号とも言われており、完成後の運用も、中部国際空港株式会社が担当します。
この中部国際空港株式会社は、国及び地方公共団体が資本金の半分を出資したもので、民間では、トヨタ、中部電力、東海銀行、jr東海、名鉄などが株主となっています。職員は国、地方公共団体、民間が3分の1ずつの割合で構成されていますが、社長等の経営陣は民間出身者が多数を占めています。
この会社の経営に“世界のトヨタ”をはじめとする民間の経営センスが生かされることが期待されているのだと思います。
――空港と周辺地域の土地利用計画は
片平
空港島には、滑走路、ターミナルなどの空港用地の他に、地域開発用地として製造業用地や流通施設用地等が計画されています。製造業用地には航空宇宙産業や、空輸型企業の立地が想定されています。また、流通施設用地には、ロジスティクスパーク、フォワーダー用地、物流加工施設用地が想定されています。その他、港湾埠頭用地、商業業務用地、そして緑地が計画されています。
さらに、常滑市側の前島にも製造業用地、流通施設用地の他に、交流レリェレーション用地、港湾埠頭用地、商業業務用地、港湾・物流関連用地、公共用地、そして緑地が計画されています。地域開発用地の造成は愛知県企業庁が実施しています。
――空港へのアクセスは
片平
道路は、名古屋市中心部からは30分から40分で、空港を中心として60キロ圏域内の主要都市からは、ほぼ1時間でアクセス出来るようになります。広域的にとらえると、東名、名神、第二東名、東海環状、などと連結するようになります。半島部については、現在知多横断道路、空港島との間の橋梁を含む空港連絡道路等の整備が進められています。
鉄道は、名鉄常滑線から空港に至る連絡鉄道施設を、中部国際空港連絡鉄道株式会社が、整備を進めています。これにより、名古屋駅から30分でアクセスできるようになります。将来の話になりますが、名古屋駅から名古屋港金城ふ頭に至る、西名古屋港線を延伸する鉄道の整備構想もあります。
さらに、三重県側からは海上アクセスが検討されており、既に運航事業者が選定された津市からですと、約40分でアクセスできるようになる計画です。
このようにアクセスの整備がくまなく行われるので、極めて利便性が高い空港となります。
――ところで、最近は地方空港の整備について需要予測の甘さ等、批判が起こっています。管内では、静岡空港についても論議があるようですが
片平
静岡空港は静岡県が設置管理する第三種空港ですが、中部国際空港を補う地方空港としての役割は十分に果たし得るものと期待しています。
管内の人口や総生産の全国シェアは約12%、製造品出荷額は20%を超えます。人口はオランダ以上総生産は韓国以上であり世界10位の国に相当します。
このような管内にあって、現在は自衛隊との共用空港である名古屋空港しか無い訳です。今後益々国際・国内の交流が不可欠な時代になっていく訳ですから、名古屋空港の路線が一元化される中部国際空港に加え、静岡空港もぜひ必要な空港だと考えています。
現実に、静岡県からは羽田空港にも名古屋空港にも2時間程度のアクセス時間が必要です。静岡県の人口は400万人弱、これはニュージーランドやシンガポールより多く、総生産もマレーシアやシンガポールよりはるかに多いです。非常にパイの大きな県ですから、利便性の高い空港を整備することにより、旅客、貨物ともに確実な需要が期待できると考えています。
――反対者の理由は
片平
そもそも空港が必要なのかという観点や自然環境への影響を懸念されています。
必要性については申し上げたとおりですが、環境への影響については、空港といわず、道路といわず、生活や経済活動のために開発行為が行われる以上は、環境に無影響と言うことはあり得ません。だからこそ、事業者は環境問題を真剣に考えています。したがって、中部国際空港にせよ静岡空港にせよ、極力環境への悪影響を抑制するための工夫や配慮がなされ、その目的に沿った工法が用いられているわけです。
ただ、一方ではアカウンタビリティへの取り組みや、ピーアールがこれまでは不十分だった現実も、謙虚に受け止めなければならないと思います。
――中部国際空港については
片平
事業がスタートするまでには、漁業者との調整等多くの時間を要しましたが、幸い空港の造成工事は極めて順調に進んでいます。これも中部圏の皆様の、新空港に寄せる期待の大きさのおかげだと思います。しかし、造成工事に加え上物工事が始まり、事業のピークを迎えるのはこれからです。
また、中部国際空港プロジェクトは空港施設は空港会社が整備しますが、地域開発用地は愛知県企業庁、道路、鉄道アクセス等はまた別の事業者というように、多くの事業者が役割分担をし、連携して実施しているプロジェクトです。開港予定の2005年3月に向けて、今後益々連携が重要になります。もちろん空港は作る事が目的ではなく、十分に利用・活用され社会に貢献することが目的ですから、エアポートセールス等開港後に向けた取組みも空港会社等で積極的に行われています。
管内は先程申し上げたように非常にポテンシャルの高い地域ですから、当然、空港に限らず港湾需要も極めて強く、それだけ重要度は高いのです。このことを管内の皆様だけでなく、多くの国民の皆様にも御理解いただきたいと思います。
(以下次号)

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