建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2000年11月号〉

interview

スイートバレー構想で全国一のIT立県へ

光ファイバー網の整備が日本の帰趨を決する

岐阜県知事 梶原 拓 氏

梶原 拓 かじわら・たく
昭和8年11月14日岐阜県生まれ、京都大学法学部卒
昭和 31年 4月 建設省入省(道路局路政課)
38年 10月 福島県厚生部婦人児童課長
45年 5月 鳥取県企画部次長
49年 4月 建設省計画局宅地企画室長
50年 7月 建設省計画局公共用地課長
51年 6月 建設省計画局宅地開発課長
52年 5月 岐阜県企画部長
54年 7月 建設省道路局道路総務課長
56年 6月 建設大臣官房会計課長
57年 6月 建設省道路局次長
59年 6月 建設省都市局長
60年 4月 岐阜県副知事
平成 元年 2月 岐阜県知事就任(現在3期目)
今や世界的な趨勢であるIT革命において、岐阜県は先進的な取り組みを進めており、全国一のIT立県としての地歩を固めつつある。米カリフォルニア州のシリコンバレーも意識しながら、スイートバレー構想を進めており、これに基づき世界中からit関連企業が続々と進出。この10月にはitの国際会議を開催し、梶原拓知事自らも、自治体関係者としては唯一政府のit戦略会議メンバーに選任されるなど、他地域の追随を許さぬ状況だ。「itにおいて、日本はアメリカに遅れをとったが、アメリカの優位性を覆し、日本の劣性を挽回する鍵は光ファイバー網の整備にある」として、わが国の将来像を喝破する。歯に衣着せぬ痛快な語り口で、梶原知事に県としてのIT戦略と、わが国の方向性などを語ってもらった。
――岐阜県は、IT革命のリード役を担おうとの意気込みが最近の政策に強く感じられますが、梶原知事はitの本質をどのように考えていますか
梶原
社会構造は、筋肉系、骨格系から頭脳系、神経系構造に転化していきます。それを動かしていく中核がコンピュータ技術と通信技術です。コンピュータを、中国人は「電脳」と訳していますが、これは正しい訳し方です。それに対し「電子計算機」と訳した日本人は失敗したわけです。単なる計算機だと考えたところが、日本人の頭の悪さですね。したがって、コンピュータの導入・応用が全般的に遅れてしまいました。
歴史的に見ると、170万年前に人類が直立歩行を始めた時、背骨で頭脳を支えたことにより、脳の容量が飛躍的に増大しました。これが人類と他の動物との差別化の始まりです。そして現代、「電脳」という、人類にとって第二の人工脳を持つことは、170万年ぶりの頭脳革命だといえます。これを一部特定の専門家の占有物とせず、一般の人達が共有していくことがit革命の本質なのです。この本質をよく理解していなければ、IT革命への対応を誤ることになります。
もう一つは、農業社会から工業社会、情報社会へと移行していますが、これは人類第三の生産革命なのです。工業化に突入した時の産業革命に匹敵する、新産業革命の真っ只中に私たちはいるのです。これによって、生産のメカニズムは一変しました。このことも理解していなければ、対応を誤ります。また、ネットワーク革命も同時並行で進行しています。まさに、約400年ほど前の大航海時代の船舶航路ネットワークで世界が変わりましたが、その後に機関車・鉄道、そして自動車・道路ネットワークと続きました。そして、第四のネットワーク革命がマルチメディアとインターネットなのです。
このように現在は、第二の頭脳革命と第三の生産革命、第四のネットワーク革命が重層的に進行しているのです。そのため、わずか二、三年先すら読めない状態です。そのように人類始まって以来の大変革期に遭遇しているという歴史的認識を欠くと、方向性を誤ることになるでしょう。日本の指導者層は、残念ながらほとんどがそうした基本的認識を持っていません。そこが欧米やアジアの優れたリーダーとの差です。
――IT革命における変革は、現段階では流通システムの変革が最も見えやすい形で先行しているように思いますが
梶原
もちろん流通も変わるし、生産自体も変わってきます。流通革命においては、基本的に光ファイバーのネッワークにより大容量、超ハイスピードでセキュリティが確保され、なおかつ低コストな情報の流通が求められています。
また、生産革命では、土地と機械と水と電気と労働力を必要とした工業社会時代の生産体系から、人的資源中心の生産体系に移行します。
したがって、私は建設省に勤務していた当時から、道路、下水道も情報通信の基盤にならなければならないと主張してきましたが、残念ながら建設省はそのことに対して深い関心を持たないまま、相変わらず筋肉系、骨格系の国土づくりに終始し、頭脳系、神経系の国土づくりに関心を払おうとしませんでした。
――岐阜県では、どんな取り組みを進めていますか
梶原
建設CALSについて、岐阜県は全国に先駆けて開発普及を進めています。設計から建設、監理に至るプロセスをデジタル化することによって、透明性を建設事業に与えていくわけです。それによって、「うさん臭い土建屋」というイメージを払拭することが必要です。時代遅れの建設業のイメージを払拭するためにも、先端技術を駆使した建設事業であり、建設業に変わっていかなければなりません。その点、建設省はまだまだ認識が浅いように思います。
県では、アメリカのシリコンバレーに対し、スイートバレー構想を進めています。その中心の一つがこの8月にオープンした「ソフトピアジャパン・ドリーム・コア」です。郵政省の補助を受けた郵政省支援プロジェクトの「全国マルチメディア専門研修センター」と、通産省の補助を受けた通産省支援プロジェクトの「国際インキュベートセンター」が一体の施設になっています。この全国マルチメディア専門研修センター内にある建設CALS/EC研修センターで、一つの柱として建設CALS/ECを受け持ち、全国の専門家養成を行っています。実は、このドリーム・コアも建設CALS/ECを使って造りました。プランティック総合計画事務所(代表 大江匡氏)のサポートを得ながら設計業界が一緒になり、研修を兼ねて建設CALS/ECを使って行ったのですが、そのお陰で、岐阜県の設計業界レベルが急激に上がりました。間違いなく全国で最高レベルです。
――スイートバレー構想について詳しく伺いたい
梶原
スイートバレー構想は、ソフトピアジャパンプロジェクトとvrテクノジャパンプロジェクトの二つが柱となっています。それに基づき、それぞれの拠点施設が出来ました。ソフトピアジャパンは、マルチメディアによる産業、生活、地域の情報化を推進する国際的なソフトウェア研究開発の拠点です。その中核施設がセンタービル及びドリーム・コアで、130社以上の企業が集積しています。
一方、VRテクノジャパンは、VR(ヴァーチャルリアリティ)関連の情報産業、研究所などが集積し、VR技術を中心とする研究開発の拠点となる団地です。中核施設の「テクノプラザ」は、県の科学技術振興センターと碍Rテクノセンターの合築となっています。
これらを中核としてITをはじめとする先端技術の研究開発のほか、ITの専門家の育成や起業家支援、高速通信網の整備などに取り組んでおり、国内の有力企業でこの構想と無縁の企業はないと言ってよいほどの機能と内容を網羅しています。
 岐阜は地理的にも日本の中心地にあり、ゴルフのクラブでいえばスイートスポットに当たることから、スイートバレーと名づけています。
――技術的には、もう何らかの成果は得られましたか
梶原
現在、IT関連の新しい研究開発と画期的な商品の開発が進んでいるので、大変楽しみです。何しろここには、全国から優秀な人材が集まってきていますから。「国際情報科学芸術アカデミー」(iamas)という、県立としては日本で唯一のメディアマスター養成学校は、教授や生徒には天才的な人材がいて、世界でもトップレベルになっています。
例えば、先日も東京で発表しましたが、ゼロックスと提携し、複写機を端末にして電子政府のネッワークをつくる技術を開発しています。
――スイートバレー構想推進のために、どんなイベントや政策を行っていますか
梶原
この10月に国際IT合同会議IN岐阜として、「日欧IT関連企業ビジネスミーティング2000」、「EVA-GIFU2000国際会議」、「VSMM国際会議2000岐阜」と、三つの国際会議を県内で開催しました。参加国は30か国に上ります。
「日欧IT関連企業ビジネスミーティング2000」は、初めての会議ですが、ヨーロッパと日本のIT企業がビジネスミーティングを行いました。「EVA-GIFU2000国際会議」は、二回目になりますが、ヨーロッパに電子保存事業の会議があり、文化財のデジタル化を促進しています。その代表者と世界遺産である白川郷を有する岐阜県は、以前から交流があります。これまでは毎年、ヨーロッパで会議を開催していましたが、日本では岐阜県だけが開催地になりました。
そして最後のVSMMは、岐阜県から始まったものです。それまではVRの国際学会がなかったので、岐阜県が事務局となって、第一回目のVSMM国際会議を岐阜県で開催しました。その後、スイスなどを回り、今年で六回目になりました。
こうした国際的な会議を頻繁に開催すると、世界の情報を吸収できますから、このIT革命を推進する上では、極めて重要です。
――ITの台頭にともなって、最近、よく特許にからむ話題が聞かれます。たとえば、わが国の企業がいかに優れた商品を開発しても、アイデアの源泉は諸外国にあることから、常に特許料負担を負わされている現状を改善すべきだという主張がありますね
梶原
確かに、特許は知的所有権として重要なポイントになります。県では、東京大学先端技術研究センターの客員教授をスカウトし、11の県立試験研究機関をとりまとめる科学技術振興センターで知的所有権関係を担当してもらい、特許情報のライブラリーを整備しました。これは日本でも有数のライブラリーです。
――知事はさらに、政府のit戦略会議のメンバーに選任されましたが、自治体関係者としてはただ一人とのことですね
梶原
会議はすでに3回行われましたが、9月末の会議で、起草委員会の素案が諮られることになりました。年末までというよりも、13年度の概算要求に間に合うよう結論を出したいと思っています。
基本的な方向性は、ITにおいて日本は立ち遅れているので、アメリカを先回りするような大容量で超ハイスピードの光ファイバーネットワークを、向こう3年間で整備してしまうことを議長から提案され、それに沿ってまとめることになっています。
この光ファイバーネットワークが完成したなら、アメリカを追い越すことができます。アメリカは確かにitにおいては先行していますが、容量やスピードの面で設備が少し古くなっています。したがって、日本の場合は社会資本としてこれを整備すべきだと思います。
ニューインフラですから、公共事業として情報通信ネットワークの基礎づくりを進めるべきでしょう。光ファイバー網は情報社会における道路と言えます。光ファイバー網も、道路と同じように「誰でも、いつでも、安く、簡単に」使えるようにありたいものです。
――問題はNTTの接続料金の高さですね。アメリカからの強い働きかけによって、ようやく向こう3年間で、20パーセント下げることで合意しましたが
梶原
確かに、NTTの通信コストが高いことは、日本の最大のネックになっていました。インターネットにしても24時間接続すると、料金がかさむので、使うときにいちいちコンピュータを起動しなければならない。それでも通話料は高めです。これではインターネットは普及しません。しかも、問題なのは、ISDNにしても容量が小さいために、スピードも遅いのです。
したがって、それとは別に光ファイバー網を敷くのが、IT戦略なのです。
――最近はITリテラシー(ITを使いこなす能力)によって、デジタルデバイド(情報格差)が生じるため、これを解消すべく学校教育にパソコンの導入が進んでいますが、県としての考えは
梶原
まずは、あまりややこしく考えないことです。パソコン、インターネットに日常的に親しむことが大事です。岐阜県では、全国に先駆けて私立幼稚園にパソコンを導入しています。
また、小、中、高等学校へのコンピュータ普及率は、岐阜県が日本一です。案ずるより生むが易しで、どんどん取り組むことですね。
 
――教育現場に戸惑いはありませんか
梶原
教員が一番のネックとなっています。自分が教えることが出来ないために、パソコンを拒否する教員が多かったのです。そこで、岐阜県は「smile」という教育ネットをいち早く導入し、教員同士がお互いにインターネットを教え合ったり、情報を開示し合うことで飛躍的にレベルアップしました。
 しかし、教員が生徒に教える時代はもう終わりました。むしろ、生徒に教えてもらった方が早道ですね。コンピュータとインターネットに関しては、そうした発想の転換も必要です。
――ところで、そうしたit県である岐阜の地域の安全と水需要に応えるべく、徳山ダムが着工になりましたが
梶原
発想を変えなければならない第一のポイントは、利害関係者は地域住民であって、建設省でも水資源開発公団でもないということです。あくまでも、ダムによって影響を受ける地域住民が当事者なのです。そういう人たちの意見を最優先にして進めなければならないのに、これまでは建設省や公団が自らを当事者と錯覚していました。
今後はもう、それは通用しません。旧徳山村の村民代表からは、早期にダムを建設するよう要望がありました。ダム建設のために村外へ出たのに、故郷が荒れたまま放置されているのは忍びないということです。
ただ、マスコミにはかなり事実と違う報道も見られます。そこで、われわれはインターネット上に「県民情報ネットワーク」というホームページを開設し、真の情報をどんどん発信しています。もしも、マスコミが事実とは違う報道をした場合には、直ちに正しい情報を掲載し、訂正しています。
 

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