建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ1997年11月号〉

interview

東西線延長工事が9年度竣工へ

交通事業の規制緩和に向け体質を強化

札幌市交通事業管理者 井原貴男 氏

昭和14年4月12日生まれ、札幌市出身、北大工学部。
昭和 38年 札幌市入庁、建設局下水道部配属
44年 施設局創成川処理場操作係長
46年 施設局下水道部計画第一係長
48年 下水道局工事部計画一係長
51年 同計画課長
56年 同施設部施設管理課長
60年 同業務部部長職(下水道事業団所長)
62年 水道局拡張部施設次長
63年 水道局工務部施設次長
64年 企画調整局開発部長
平成 3年 下水道局長
5年 企画調整局長
9年 現職
札幌市営交通は昭和2年12月1日に路面電車がスタートしてから、今年で開業70周年を迎える。地下鉄、バス、路面電車を運行している同市の公営交通事業は膨大な赤字を抱えて経営面で苦戦しているが、平成4年度から経営健全化計画に取り組み、着実に成果を上げている。市民待望の東西線延長工事(琴似−手稲東)は本年度中に土木工事が竣工、駅舎の建築工事などを経て平成11年3月に開業の運びだ。平成13年には交通事業の規制緩和が実施されるなど、札幌市営交通を取り巻く環境は依然として厳しいが、需要創出など今後の展望を井原貴男交通事業管理者に伺った。

開業70周年の節目
――公営交通事業の経営理念について伺いたい
井原
平成4年度からスタートした交通事業経営健全化計画を推進していますが、この健全化計画の遂行が第一の目標です。
これには五つの柱があって、そのうちの一つが「需要喚起策」です。全国的な傾向ですが、いま、交通公営事業はマイカーに押されて利用客が徐々に減少しているのが現実です。この需要創出を図るのが第一の眼目です。ハード、ソフトの両面から札幌市あげて様々な施策を展開しているところです。
例えば、ハード面ではドーム建設をはじめ近くオープンするコンサートホールやつどーむ、豊平公園に建設中の道立体育センターがあります。ソフト面では数多くのイベントを実施しています。
サービス向上と路線運行の効率化がカギ
今回の料金値上げで利用者の皆様にはご負担をおかけしておりますが、二つ目には「人にやさしい交通機関」として一段とサービス向上に努めるなど、市民に信頼される公営交通になる努力が欠かせません。
また平成13年、つまり2001年には交通事業の規制緩和が実施されます。これまで交通事業は事実上それぞれのエリアのようなものがありましたが、今後は相互乗り入れが可能となり競争原理が働きますから、料金の値下げ競争が予想されます。これが利用者へのサービス向上につながるというのが規制緩和の基本的な考え方です。この規制緩和を乗り切るために企業体としての体力をつけなければなりません。それには合理化を含めた内部効率化に引き続き取り組む決意です。
――競争とは別に同業他社との共同事業の可能性は
井原
路線の再編に伴って、今後はそういうケースも出てくると思います。地下鉄東西線琴似・手稲東間は平成11年3月に開業を予定していますが、この延長部分に一日千便のバスが乗り入れします。その際、路線の調整が必要になりますし、今後、路線のあり方について各社が知恵を絞らなければならないと思います。
先ほどマイカーの増加に触れましたが、平成2年と6年の比較では札幌市の増加率は政令指定都市の中で最も多く、80万台を突破し90万台に近付きつつあります。こういう状況が続きますと、交通事業の経営環境は極めて厳しい状況に追い込まれます。
――JRと鉄輪、タイヤ併用の車両導入について共同研究していますが、状況はいかがですか
井原
引き続き検討していますが、最大のネックはプラツトホームの高さや幅が違う点です。これをクリアできれば、地下鉄に乗って新千歳空港へ行くことも夢ではありません。
路面電車のループ化実現へ
――市営交通事業の今後の展望については、どのように考えていますか
井原
私たちの交通システムは基幹施設の地下鉄にバス、電車が短絡する形になっていますので、地下鉄と電車、バスを一体的に考える必要があります。したがってバスの乗客数が落ち込めば、地下鉄にも影響します。ですからサービスの改善、路線運行の効率化に努めることに知恵を絞っていきたいと思います。
なかでも市電のあり方ですが、現在、路線が"靴"のような形になっている市電のループ化を図っていきたいと考えています。実を言うと私自身、交通渋滞の影響を受けているのではないかと思っていましたが、意外に定時運行をしているのです。採算性も良く、収支は黒字なのです。何とかループにして循環できないものか、検討中です。
特に電車は環境に優しい交通機関なので、国も推奨しています。ウイーンのように路線を歩道側に寄せれば、違法駐車もなくなる効果があります。そんなことも含め、需要や採算性をにらみながらループ化の路線を具体化させたいものです。
――最近は、環境・福祉への関心が高まっており、様々な分野でそれらが検討課題となっています。市営交通では
井原
市営バスについては、北ガスの協力を得て天然ガスを燃料とするバスを1台を導入しました。実は市環境局長の公用車も天然ガス仕様になるとのことです。
もちろん、バス路線の再編や効率的な運行も今後の重要な課題になります。
地下鉄は、これからの高齢化社会に向けて人に優しい交通機関として、エレベーター、エスカレーター未設置の駅がまだありますから、引き続き整備を進めます。
このようにハード、ソフト両面について市民に信頼される交通体系に組み立てていかなければならないと考えています。
――通勤・通学時の混雑対策に関しては、何か具体策はありますか
井原
非常に難しいところですね。札幌市の交通体系は、都心に向かって放射状に延びています。パーソントリップ調査の結果では、渋滞しているのは都心に向かう方向よりも、周辺に向かう幹線道路なのです。例えば、環状線や24条道路のような区と区を結ぶ幹線道路が渋滞しているのです。
この点については、私たちだけでなく他の事業者もどう考えていくかが課題です。それにはバス路線の再編も合わせて対応しなければなりません。
――今後の展望として江別市など周辺都市への地下鉄乗り入れは考えられますか
井原
江別市、北広島市、石狩市を視野に入れた広域的交通体系の必要性は理解できますが、現状では経営健全化計画の達成が局としての至上命令です。広域交通はその次の段階になるでしょう。
――その意味でも、リストラには厳しい姿勢で臨む必要がありますね
井原
経営健全化計画を前倒しして、880人の人員削減を実施したことにより、負債はむしろ当初の計画より減っています。さらに今後は規制緩和に向けた体力づくりに一層努めなければならないので、効率的な運行にはまだまだ贅肉を剥いでいく必要があります。いかにして内部の効率化を図るかが、最大のポイントになります。
交通局庁舎に立体駐車場を設置
――経営改善の一策として、事業の多角化についてはどんな展望を持っていますか
井原
付帯事業としては地下鉄、バス、電車とも広告料の収入が一番大きいのです。平成9年度で約25億円を見込んでいます。
また、交通局は市内数か所に用地を保有していますが、昨年は厚別区の変電所用地にパークアンドライド駐車場を設置したほか、民間の調剤備蓄センター、東区の旧建設事務所跡地に自動車用品店と飲食店の併合施設をオープンさせました。こうした用地の有効活用は引き続き展開していきたいと思います。
庁舎横の平面駐車場では、収容規模300台の立体駐車場を整備して、1階部分は商業施設とする計画を進めているところです。
このように、多角的に可能性を探りながら、交通事業以外でも収益の上がる事業には取り組んでいくつもりです。
手稲東に丸井が進出
――地下鉄手稲東のターミナルに丸井の進出が決まったようですね
井原
企画サイドで進めていますが、隣接地には複合公共施設として生涯学習センター、教育研究所、リサイクルセンターを設置して、人が触れ合うゾーンにしようという計画です。手稲東周辺の開発も含めて交通局としても相当の需要創出を期待しています。
ターミナルビルは、丸井が事業主体となって建設しますが、バスセンター部分は私たちが使用料を負担することにしています。かつて、いすず自動車と共同で整備した福住バスターミナルと同じく、合築して造ってもらいます。
――地下鉄整備の状況は
井原
東西線の延長は順調に推移しています。パイプルーフ工法で発寒川を横断するのが難工事でしたが、最近、貫通式も行いました。現時点の進捗状況は76%くらいですから、土木工事のヤマは越えました。
また、南北線では真駒内駅の大規模改修も、ようやく終盤にさしかかっています。
これらが完成すれば、さらに乗客へのサービスアップにつながるでしょう。

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