建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ1998年11月号〉

interview

大型岸壁整備で北海道の高コスト構造を解消

北海道開発局港湾部長 後藤 七郎 氏

後藤七郎 ごとう・しちろう
昭和19年10月4日生まれ、北海道大院修。
昭和 62年  北海道開発局港湾計画課港湾企画官
63年  北海道開発局開発調整課開発企画官
平成 元 年  函館開発建設部次長
4年  小樽開発建設部次長
5年  北海道開発局港湾計画課長
7年  北海道開発庁港政課長
9年 現職。
国内で最大の面積を持つ北海道は、必然的に陸上輸送距離が長くなり、物流コストが高くなる。これを解消するには各地の港湾に大型岸壁を整備することが不可欠だ。だが、この大型岸壁は、単にコスト削減に役立つだけでなく、環境対策にも役立つという一面もある。北海道開発局港湾部の後藤七郎部長に、大型岸壁整備の本来のメリットと同時に、意外な効用などについて伺った。
――日本は島国ですが、とりわけ北海道は本州とも海で隔てられています。それだけに外国のみならず内国関係においても、港湾の持つ役割は大きいですね
後藤
確かに北海道の特徴は、『島国』ということです。このため、北海道の貨物のうち、9割が港湾を経由して海上輸送により国内外へ出入りしています。つまり、北海道の港湾が果たす役割は、他の地域に比べ非常に大きいのです。
もう一つの特徴は、物流コストが高いということです。「北海道価格」という言葉があるくらい、北海道は高コスト構造の地域だといえます。また、北海道の産業は、農業、観光や素材型産業という産業群があるわけですが、物流コストは、非常に大きなウエイトを占めています。
最近、北海道通産局が行った企業へのアンケート調査の結果を見ると、道内企業の7割が、「物流コストが高い」と実感していますし、約9割の企業が「経営課題において、物流コストは重要課題」と認識しています。私も全くその通りだと思います。つまり、物流コストをいかに抑えるかが、力強い北海道経済を確立することにつながると思うのです。その解決には、いろいろな手法があるとは思いますが、やはり港湾の整備を行うことが重要だと思います。
――首都圏ではハブポート級の水深15m岸壁が整備されていますが、道内港湾では
後藤
道内でも大型岸壁の整備を各港湾で実施していますが、3万重量tの貨物船に対応した水深12m岸壁が主流となっています。しかし、最近は4〜5万重量tの貨物船に対応した水深13〜14m岸壁が必要となってきています。
取り扱い貨物量の推移を表した「北海道への外航商船(1万総t以上)の平均総t数の推移」(図-1)を見ると、平成元年に28,000総t(gt)だったのが、平成7年には31,000総t(gt)を超えています。つまり、外航貨物船が大型化しているということです。このため、4〜5万重量tの貨物船に対応した水深13〜14m岸壁が必要となっているわけです。道内で水深13〜14m岸壁が整備されているのは、小樽港と室蘭港の2バースだけですが、全国では約31バースが整備されていますから、北海道は遅れています。
――大型岸壁の整備により、どんなメリットが期待できますか
後藤
例えば、化学肥料をアメリカのミシシッピ川河口の港から室蘭港へ運ぶのに、満載によるt当たりの輸送費で比較すると、3万重量t級貨物船を利用した場合は2,300円、5万重量t級貨物船を利用した場合は1,700円となります。つまり、25%程度安くなるわけです。
しかし、大型岸壁を整備する場合に、「1カ所に整備すれば十分」という意見と、「道内各地に造るべきだ」という要望がありますが、理論的な計算や現状を認識した上で、どこに造るべきかは、我々の港湾計画に決められています。それによれば、内陸輸送距離を短くするためには留萌港や石狩湾新港、函館港などにも必要となります。この内陸輸送距離が、輸送コストの上で、いかに大切であるかは、先のアメリカのミシシッピ川河口の港から北海道へ飼料を輸送する場合のt当たりの輸送費と、内陸を10tトラックで100qを輸送する輸送費は変わらないことからも理解されます。海上コストはt当たり約2,000円ですが、内陸輸送のt当たりの1qの輸送コストが約16円程度ですから、130q程度でほぼ同じといえるでしょう。
例えば室蘭港から130qの都市といえば、およそ札幌市くらいですが、もしも渋滞などがあれば、もっと短くなってしまうこともあり得ます。内陸輸送距離を短くし、海上輸送には大型の貨物船を利用することが輸送コスト削減の上では鉄則となっているわけです。
これらのことを具体的な数値で表すと、特に内陸輸送コストの大幅な低減が期待される大型岸壁は、函館港、十勝港、留萌港、紋別港の4港で整備していますが、これに計画している石狩湾新港を合わせた5港で、多目的国際ターミナルが完成した場合、現在の貨物量の総陸上輸送距離、いわゆるトンキロが約8割短くなります。これによって、物流コストは年間で約120億円の削減が可能となります。現在の物流コストが約200億円ですから、6割に相当しています。このように、港湾を整備することで物流コストを非常に安くすることができるわけです。
――港湾内での円滑な荷役も重要ですね
後藤
そうです。港湾に着いたなら、滞船がなくバースに入れるようでなければなりません。大型船が1日滞船すると、200万円程度の経費がかかってしまうのです。10日ともなれば、2,000万程度になるわけです。釧路港などは、常に2〜3日間、滞船することが常態化していますが、これは大変なことです。
――道内へ移入されてくる貨物量の偏りが気になりますが
後藤
コンテナ貨物については、現在は苫小牧港に集中していますが、これは、道内のコンテナ貨物の需要と供給は、約65%が道央圏で行われているからです。一定のコンテナ数がないとコンテナ船が寄港しないため、北海道においては苫小牧港で集中的に多目的国際コンテナターミナルを整備しているわけです。
苫小牧港では、水深14m岸壁を有する国際コンテナターミナルを造っていますが、現在は12mで暫定供用し、航路の浚渫などを行い、平成14年頃の全面供用を目指しています。
また、コンテナは、外国からダイレクトに苫小牧港に入ってくる場合と、東京港などを経由して入ってくる、つまり、東京港などで小さな貨物船に積み換えて輸送される場合があります。できれば、積み換えずに直接入ってほしいわけですが、平成7年のデータでは東京港などを経由して輸送される貨物が、約6割もあります。これによるロスは、約50億円にもなります。
現在、道内の港湾の外航路は、9航路ありますが、8航路が苫小牧港となっています。ちなみに、あと1航路は、韓国・釜山と石狩湾新港を結ぶ航路です。つまり、現状としては、コンテナ貨物は、苫小牧港に集中し、それ以外の貨物は、それぞれの近隣の港湾を利用してもらうということです。
――できれば、分散して均等化を図るべきでは
後藤
国内的には、早く、様々なニーズに対応した港湾づくりが必要かと思います。船舶が港に着き、荷物を積み下ろしてそれを運ぶときに、積み下ろしが簡単に済むフェリーであれば、船が着いたらすぐに自動車などで出ていけるので、時間もかからないわけです。このためにフェリーやro/ro船などが利用できる港湾づくりをしていかなければなりません。
また、外国からコンテナを輸送し、積み換えて、また国内に再輸送する「フィーダー輸送」を行うため、内貿用のコンテナターミナルも造らなければなりません。のみならず、背後圏から港湾までの輸送を円滑にする臨港道路の整備も必要となります。こうした、複合一環輸送に資する「内貿ユニットロードターミナル」の整備が必要であり、内貿コンテナ船やro/ro船などの集約や、これに対応したターミナル整備を行っていく必要があるということです。
これは、釧路港で実施していますし、臨港道路は、小樽港、函館港、十勝港でも実施しています。
――港湾の防災機能や、その他、付加価値の向上も求められていますね
後藤
港湾は、安心して生活できる地域づくりにも貢献しています。ご承知の通り、北海道には離島が多くあります。この離島での生活を守るために、フェリーなどが安定的に就航できるようにしていかなければなりません。
離島が点在する日本海側だけでも、地震が数多く発生していますので、耐震強化岸壁を採用した港湾整備を実施しているほか、液状化対策も行っています。また、道南の駒ヶ岳の噴火に端を発した、噴火対策として森港や椴法華港では、緊急物資の輸送や地域住民の避難ができるよう、巡視船が入れる施設整備を目指しています。このような災害時にも強い生活基盤づくりとしての港湾整備が行われています。
特に北海道は、「食料基地」、「日本のオアシス(休養保養基地)」、「北の国際交流拠点」の三つの役割が国民から求められています。観光面で見ると、小樽や函館では、古い町並みを生かしたウォーターフロント開発の整備が行われ、小樽の運河沿いの整備は、港湾の環境整備事業で行われました。こうして美しくなった運河を見に、観光客が数多く足を運んでいるのは周知の通りです。
釧路にある「フィッシャーマンズワーフ」なども好例で、以前の観光客の入り込み数は100万人弱だったのが、現在は250万人以上にも上っています。もちろん、釧路湿原などその他の観光資源も奏功していると思います。
また、紋別港に完成した「流氷タワー」も港湾整備事業で行われており、流氷砕氷船「ガリンコ号」、網走港の「オーロラ号」なども、15万人以上の観光客を呼んでいます。これらの船舶の離着岸に港湾整備事業が貢献していることは、言うまでもありません。
しかし現在の岸壁では、流氷砕氷船でも流氷によって閉ざされ、欠航してしまうことがあるので、港内の河口部へ移動させる計画が検討されています。
さらに、バブル崩壊以降、大型クルーザーの利用が落ち込んでいましたが、最近になって再びそのブームが再燃しているようです。先日、岩内港に大型クルーザー船「飛鳥」が入港しましたが、利尻町長の話しでは、この「飛鳥」が利尻の沓形港に接岸できず、沖合に停泊して、テンダーボートに乗り換えて入港しようとしたのですが、テンダーボートのデッキが低いため、岸壁に直接接岸ができずに艀をその間に設置してようやく上がることができたそうです。
これでは、せっかく来てもらっているのに申し訳ないと言うことで、テンダーボートや現地の観光船用にフローティング方式のさん橋整備を来年度から実施する予定です。このように、観光のための施設づくりも港湾整備事業で行っているのです。
――港湾整備が環境を左右する一面もあるそうですね
後藤
環境面では、水産との共生などを図っていますが、代表例としては釧路港で認定された「エコポートモデル事業」があります。これは、防波堤の背後に浚渫土砂を入れ、水深を4m程度にすることで太陽光が入り、海草類が生え、これによって魚介類を着生させる事業です。
今後は、二酸化炭素対策も講じていかなければなりません。そこで、先に述べた多目的コンテナターミナルを各港湾に配置し、内陸の輸送距離を短くすることで対応していきます。その結果、10tトラックで輸送したとすると、地球1,000周分が短縮されることになり、この分だけ、トラックの排ガスに含まれる二酸化炭素が削減されることになります。その場合に削減される二酸化炭素量は、約8万人規模の都市に相当します。
このように、陸上輸送を海上輸送に切り替えることができるよう、各港湾に施設整備を講じていくことで間接的にも環境対策に貢献できるわけです。

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