建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ1999年11月号〉

interview

新法の下で重要性を増す北海道の農業・農村

北海道農政部長 福田昭夫 氏

福田 昭夫 ふくだ・あきお
昭和17年10月生、音更町出身、北大農卒。
昭和54年 網走支庁中部耕地出張所工事第1係長
57年 農地開発部耕地整備課圃場整備係長
60年 同耕地整備課主査
61年 日高支庁耕地課長
63年 総務部知事室主幹
平成2年 同知事室参事
4年 農政部農地整備課長
5年 農政部農政課長
7年 農政部技監
8年 留萌支庁長
10年 総務部知事室長
11年6月現職。
農業基本法に代わり、「食料・農業・農村基本法」が制定され、わが国の農政は新時代を迎えた。食料供給基地として試される大地・北海道にとっても、大いなる舞台が用意されたと言えそうだ。実際、道が平成9年に制定した「北海道農業・農村振興条例」は今回の新法の内容を先取りしたものであり、新法の下、本道農業の重要性はさらに大きくなりつつある。これからの北海道を考えていく上で欠くことのできない原点である農業・農村について道の福田部長に語っていただいた。
――新しく制定された食料・農業・農村基本法について、どんな感想を持っていますか
福田
去る7月16日に公布・施行されましたが、これまでの「農業」という産業法から、「食料」、「農業」、「農村」という3つの視点へと広がりを見せたものになっています。
また、「食料の安定供給」と「多面的機能の発揮」という農業・農村の役割をより明らかにし、「農業の持続的な発展」と「農村の振興」を図ることを基本理念としていますね。
こうした基本理念の実現に向けて、国は基本計画を策定し、自給率目標や品目ごとの生産努力目標などを設定するとともに、いくつかの達成すべき政策課題を掲げています。例えば、専業的な農業経営など多様な担い手の育成、優良な農地の確保、所得確保のための経営安定対策、農村の整備などを総合的に推進することなどです。これは私たちが要請してきた基本的な考え方や施策の方向が、ほぼ盛り込まれたものとなっています。
道では、9年4月に全国に先駆けて「北海道農業・農村振興条例」を制定しました。この条例には、農業・農村の持つ食料供給や多面的な機能など、その重要性についてのコンセンサスづくりを進め、「農業・農村を道民の貴重な財産として育み、次代に引き継いでいきたい」という願いが込められています。その理念や内容は、新基本法を先取りしたものであったと自負しています。
――食料供給基地を自認し、農業王国を誇る北海道の役割が今後ますます重要になっていきそうですね。
福田
北海道の農業は前基本法に基づく農政のもとで、経営規模の拡大と近代化を進め、道民のみならず広く国民に食料を安定的に供給する役割を担ってきました。また、国土の保全や良好な景観の形成など多面的な機能を発揮し、地域社会の健全な発展に大きく寄与してきたわけです。
ご承知のとおり、本道の耕地面積は全国の24.3%に相当し、しかもそのシェアは着実に拡大しています。また、耕地利用率も99%です。さらに、専業的な担い手も多いことから、本道農業の果たすべき役割や期待というものが、今後、一層高まっていくものと考えています。(別表1)
○耕地面積(10年)(単位:千ha、%)
全国 北海道 シェア
4,005 1,192 24.3
○耕地利用率(単位:%)
北海道 都府県
60年 99.1 106.9
9年 99 94.2
○主業農家率(10年)(単位:%)
都府県 北海道 北海道/都府県
21.4 71.8 3.4倍

しかし、一方では、農家戸数の減少や後継者不足、就業者の高齢化など生産構造の脆弱化が懸念される状況にあります。
また、米価の下落など、農産物価格の低迷や輸入農産物などとの競争、さらには、環境問題や食品の安全性といった消費者ニーズヘの的確な対応など、多くの課題を抱えています。(別表2)


○農家戸数の減少
95千戸(h2)→76千戸(h10)
○高齢化の進行
農業従事者のうち65歳以上の比率
20.8%(h2)→29.5%(h10)
○輸入農産物の増加
4.19兆円(h2)→4.63兆円(h10)
○農業所得の低下(農家一戸当たり)
424万円(h7)→334万円(h9)

私としては、今後も農業団体をはじめ、関係機関・団体などとの連携を深めながら、必要な施策の実現に向けて、引き続き、積極的に国に働きかけ、大いに北海道の役割を高めていきたいと思っています。
また、来年には次期wto交渉を控えていますが、「食料・農業・農村基本法」の理念である食料の安全保障や多面的機能の重要性について、強く主張するとともに、公平かつ公正な貿易ルールの下で、適切な国境措置等が堅持されるよう、国に対し要請しているところです。

――新法で規定された市場原理導入と経営安定は、政策としては自由放任と保護という背反したもののように感じますが、どうバランスを取るのでしょうか
福田
バランスというよりも、各分野ごとに状況に合わせた政策が採られることになります。例えば、稲作は7月に大綱骨子が出され、今後は販売と連動した米生産や水田における麦・大豆などの本格的生産が推進されます。畑作では、小麦については5月に民間流通への移行に向けた条件整備が出され、麦作経営安定資金の概要が明らかとなりました。大豆は、7月に新たな大豆政策の在り方が明示され、てん菜も9月を目途に検討されています。酪農は、3月に決定された大綱を踏まえ、不足払制度に代わる新たな対策の検討がなされています。このように、本道の基幹作目に関わるすべての価格政策が見直されようとしています。
こうした動きを踏まえながら、農業者が将来に向けて希望と意欲を持って取り組めるよう、本道の実態に即した政策を展開する必要があり、道としては、平成12年度の概算要求に向けて、施策要望を行うとともに、関係団体等と一体となって、具体的な検討を進めているところです。
――具体的には
福田
市場原理導入と経営安定に関し、国に対しては、本道のような専業的な農業地帯に重点を置いた的確な施策の展開を求めており、分野ごとでは、稲作では、大規模で専業的な稲作経営に配慮した新たな米生産調整対策や稲作経営安定対策の拡充強化。畑作では、てん菜及び大豆の経営安定対策の確立、麦作経営安定資金の早期支払措置。酪農では、畜産担い手育成確保対策事業の予算確保などについて要望しております。
――北海道ではクリーン農業を積極的に推進していると伺っております。農作物の衛生管理とともに、最近では遺伝子組み替え作物への消費者の関心が高まっており、本道のクリーンな農作物に対するニーズが今後さらに高まっていくのではないでしょうか
福田
そうですね、食品の安全性などに関する消費者ニーズに的確に対応するためには、安全で良質な本物の農産物を安定的に供給する仕組みづくりが必要と思います。本道の冷涼な気候と恵まれた土地資源を最大限に生かすクリーン農業の取組みを加速化させ、今後の北海道のスタンダードとしなければなりません。
しかし、このためには関連する技術開発や土づくりの促進とともに、クリーン農業の産地づくりを積極的に進め、クリーン農産物の適切な表示と一層のpr活動、そして消費者などとの信頼関係を確立することが大切です。
そこで、しっかりとした基盤整備による土づくりなどのハード面と、技術開発・普及のソフト面の連携プレーを強化して、実践的な取組みにつながるよう努力していかなければなりません。
――平成11年度の道の重点施策は、そこにポイントが置かれたものになりますか
福田
クリーン農業の推進にも力を入れますが、もちろんそれだけではありません。農政部関係の予算総額は、厳しい財政状況を反映し、2定補正後で約2,370億円と、10年度当初予算に比べて11.3%減となっており、道予算一般会計に占める割合は、前年を1.1ポイント下回る7%となっています。
具体的な事業としては、地域の自主性を基本とした農業振興策の拡充強化として、地域の計画に基づいて優良農地の遊休化を防止し、担い手への利用集積を促進する「農地保全管理緊急対策事業」を新たに実施します。 また、「野菜産地育成総合対策事業」や「北海道農業元気づくり事業」を拡充強化し、野菜の価格低落に備えて地域が積み立てる経営安定資金や、地域の創意工夫を生かした経営の多角化への取組みを支援します。
次に、農産物の流通販売対策の拡充強化として、道内外において、消費者や量販店、外食店などの実需者に対する消費拡大を進めるとともに、地場農産物の地元での消費拡大をねらいとする「北の大地の恵み愛食運動」を全道、支庁段階で積極的に展開します。
また、クリーン農産物などの表示システムの検討や、国の「有機農産物検査・認証制度」導入に向けた体制整備を進めるほか、低コスト物流システムの構築に向けた調査研究を行います。
さらに、農村の環境保全や活性化対策の拡充強化として、家畜ふん尿処理施設の整備促進等に加え、ふん尿に起因する環境汚染防止技術の体系化や高度利用技術の開発などを推進します。
――地域・農家へ助言などは
福田
道は自己決定・自己責任を原則に、自らを律する社会への転換を図るため、道民や企業などの自主・自律への意識改革や経済の構造改革に向けた取組みを推進しています。こうした中で、農業・農村においては、これまでも生産性や付加価値の向上をはじめ、経営の多角化や農業を核とした産業クラスターの形成に向けた取組みなど、農業者や関係者の皆さんの主体性と創意工夫に基づく、さまざまな活動が展開されてきました。
今後は、さらに地域の様々な方々との連携を強化し、地域全体の総合力の向上と発展につながるような取組みとすることが必要です。道としても、こうした取組みを積極的に支援していきたいと考えています。
北海道の経済全体が、依然として厳しい状況から抜けていなく、地域においては、商工会などからも基幹産業たる農業に対する期待が大きいことから、ぜひ、農業サイドが先頭に立って、地域発展の牽引力となることを期待しています。

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