建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ1999年11月号〉

interview

都市部に商業的施設、郡部に地域還元型施設を配置

PFI導入も検討

北海道建設部長 遠藤禎一 氏

遠藤禎一 えんどう・ていいち
昭和15年4月28日生まれ、小樽市出身、小樽桜陽高、芝浦工大建築科卒
昭和38年 入庁
55年 住宅都市部住宅課建設係長
59年 同建築指導課企画係長
61年 商工観光部企業立地推進局主幹
63年 寒地建築研究所第三研究部長
平成元年 寒地住宅都市研究所生産技術部長
2年 住宅都市部まちづくり推進室都市計画課長
4年 同工営課長
5年 同まちづくり推進室長
6年 同技監兼営繕室長
7年 胆振支庁長
9年 建設部参事監
11年 現職
広大なる北海道にも着実に公共資産の形成、蓄積は進んでいる。課題はどのように運用し、いかに維持費を抑制していくかということになる。また、発注・契約の手法も変革の時期を迎えている。様々な時代的要請を受けながら、今後の地域整備をどう促進するのか。また諸変革に建設業界はどう対処すべきか。北海道建設部の遠藤禎一部長に見解を伺った。
――北海道は面積が広いために、基盤整備による投資効果の現れ方が遅いとの批判があります
遠藤
北海道は、全国の面積の5分の1以上を占め、その中に中心中核都市が点在する広域分散型社会を形成しているのが特徴です。都市間距離は全国と比べ約2倍となっています。
また、世界の同緯度の地域と比較すると積雪量が著しく多く、年間積雪量は5mを超えており、札幌市のように人口170万人を超える都市でこれだけの積雪量があるのは世界的にも珍しい地勢です。
したがって、北海道が全国と同程度の経済活動を行うためには、時間距離の短縮と積雪期間の克服が急務で、そのために必要なのは、通年通行の可能な高速交通体系の整備です。
しかし、北海道の高規格幹線道路の整備率は、全国の約半分であり、大変遅れている状況にあるのです。
社会資本は、生活・産業・経済活動を支える上で必要不可欠な基本的な施設ですから、地域住民のご意見をお聞きしながら緊急度の高いものから効率的な整備を進めていくべきと考えています。
特に、今後、北海道の自主・自律を推進し、全国に比べ遜色のない社会基盤を有しているといえるようになるためには、高速交通ネットワークの確立が緊要と考えています。
――今年は異常気象でかなり気温が高く推移しました。異常気象は往々にして自然災害ももたらすことがありますが、北海道の治水対策は十分でしょうか
遠藤
残念ながら、治水対策も全国に比べて遅れている状況にあり、毎年各地で大きな被害が発生しています。今年も7月28日〜8月2日にかけて日本海側を中心に大雨による大規模な被害が発生しました。したがって、河川や砂防などの治水対策にも強力に取り組んでいかなければなりません。
こうした基盤整備を進めるために、道民にprし、公共事業に対してより理解を深めていただくよう努めていかなければなりません。
――郡部の整備も必要ですが、人口密度の高い都市部においては、今後どのような整備を進める考えでしょうか
遠藤
交通の利便性の向上を図る街路の整備や、災害に強い市街地と建築物づくりが基本となりますが、今後の都市環境に求められる方向としては、いろいろな点が上げられます。
例えば、本道においては、全国平均を上回るスピードで高齢化が進行していますから、この現状を踏まえ、ハートビル法や北海道福祉のまちづくり条例に基づき、誰もが安心して生活できる居住空間や都市環境の整備が必要です。
また、市街地中心部では空洞化が進み、商店街の衰退が懸念されています。その一方で、道路や公園、公共施設や病院などの社会資本のストックが形成されてきていることから、このような地区の効率的な利用促進や再活性化に向けた取り組みを、地元と一体となって進めていくことが必要です。
先にも述べましたが、本道の宿命である積雪寒冷の自然条件を克服し、快適な冬期の生活環境を確保するため、断熱・気密性能の高い住宅や建築物の普及、通行がスムーズな道路環境の整備や維持、さらには冬を楽しみ親しめる空間の整備や、雪の冷熱源としての利用などを積極的に進めていくことが必要です。
さらに「北海道らしさ」を創出するためには、自然や田園景観を守り育てるとともに、潤いのある都市景観の形成が重要となってきます。このため、電線類の地中化、統一性のある広告景観の形成、緑豊かな並木や公園づくり、花を生かしたまちづくりをはじめ、歴史・風土・文化、さらには地域産業といった観点などを踏まえたその都市ならではの景観形成を推進していくことが必要です。
――北海道は確かに広大ですが、全道を概観するなら着実に公共の建築資産が形成されています。建設部としては、どのように公共建築物を配置するのが理想的なグランドデザインと考えますか
遠藤
例えば、札幌市内では新しい総合体育館が9月に完成し、また札幌市ではホワイトドームの建設を進めていますが、これらは営業収益を見込んだ施設です。一方、郡部町村ではコミュニティドームや公民館など、地域住民のための施設整備が進んでいます。これは営業収益を見込むというよりも、地域還元型施設といえます。
このように、商業活動が活発で営業利益が期待できる都市部では、営業型施設を配置し、郡部では地域住民に提供する地域還元型施設を配置するというのが、最も効率的な施設配置ではないかと考えています。
9月に完成した上川合同庁舎 改築工事が大詰めの札幌東商業高等学校
――公共投資の経済効果についてお聞きしますが、建築事業は広範な関連産業への発注を伴うために、その波及効果が期待されてきました。ところが最近では、土木事業の方がやや収益率が高いとの見方が、建設業界では一般的になってきています。公共事業、特に公共建築による経済効果は、薄れたのでしょうか
遠藤
まず最近の本道経済の動向を各種経済指標からみると、鉱工業生産は、前年を下回ったものの、公共事業関連業種などの持ち直しの動きが続いています。住宅建設は、堅調に推移しており、公共工事の請負金額は前年を下回ったものの、年度累計では前年を上回っています。雇用情勢は、依然として厳しい状況にありますが、個人消費は、一部に改善の動きがみられます。
本道経済は、依然厳しい状態が続いてはいますが、このように着実に持ち直しの動きも広がってきているものと認識しています。
このことは、昨年来、道内の厳しい経済情勢に鑑み、国の総合経済対策や緊急経済対策に呼応し、3次にわたる補正予算措置を講ずる中で、早期の景気回復に向け、公共事業をはじめとした各種施策を積極的に実施してきたこと。また、今年度も引き続き早期の発注などに努めたことで、これらの効果が現れてきたものと私は考えています。
――公共建築資産の増加は、同時に維持費の増加も伴うため、これが各自治体の財政を圧迫していると解釈されています。建築物のライフサイクルコストの低減に向けてどんな工夫を考えていますか
遠藤
建築物の生涯コストについて見るなら、例えば竣工して間がない後志支庁庁舎を65年間使用した場合に、建設コストが約3分の1に対し、維持管理コストが約3分の2となるという試算もあります。
道有施設の膨大なストックを考えると、今後、ますます維持コストの管理が重要となってくることは十分認識しています。
したがって、これからの公共施設の建設にあたっては、ライフサイクルコストの削減に向け、建設コストの削減の視点だけではなく、建設費と管理段階での総合的なコスト管理が必要であり、設計段階からのコスト予測によって、省エネルギー、防災、福祉、環境などに対する費用負担を考慮しながら、建設費と維持管理コストの均衡に配慮した設計を行っていく必要があります。
――公共負担の軽減に向けては、PFIという手法も話題になっていますが、その導入は検討されていますか
遠藤
国をはじめ、各自治体の厳しい財政状況が続く中、「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」、いわゆるPFI推進法が7月23日に成立し、民間の高い技術力、経営ノウハウ、豊富な資金力を導入した社会資本などの新たな整備方策が進められようとしています。
北海道としても新設された構造改革推進室に専掌部門を設け、自主・自律の地域社会を構築するため、効率的で質の高い公共サービスを提供するPFI方式の導入に向けた検討を始めたところです。
――昨年6月に北海道は「入札手続等に関する改善策」を策定しましたが、どのように実施していくのですか
遠藤
入札・契約手続きのさらなる改善を図るため、平成10年2月の中央建設業審議会の建議などを踏まえ、改善策を取りまとめ、予定価格の事前公表など逐次、取り組みを進めてきているところです。
平成11年度は、前年度に引き続き、入札・契約手続きなどの透明性、客観性をより高めていくため、地域限定型一般競争入札や予定価格の事前公表の試行について、一層の実施拡大を図り、その影響について検証していくとともに、公募型指名競争入札についても積極的に取り組んでいきたいと考えています。
また、「資格審査に基づく格付け結果の公表」については、今年の4月から実施したところです。
――そうした様々な改善策に、建設業界側も対応していかなければなりませんが、業界の将来像をどう描いていますか
遠藤
道では、昨年11月に本道建設業の自主・自律に向けた取り組みを促進するため、今後の進むべき方向とその具体化に向けた取組方策を示した「北海道建設業振興アクションプログラム」を策定しました。
プログラムには、「社会に開かれた市場システムの形成」、「経営に優れた企業の創造」、「時代の要請に応える技術開発の推進」、「合理的な建設生産システムの確立」、「働く人々の豊かな生活の実現」、「環境との共生と企業市民としての産業活動」の6つを推進目標として掲げています。
今後は建設業界、行政がそれぞれの役割を果たしながら、連携してプログラムの事業編に示されている具体的な取組を進めることにしています。
また、道では「構造改革の基本方向」を策定し、自主・自律の地域社会の実現に向けた取り組に着手したところですが、建設業においても、新しい時代や社会情勢を見据え、建設産業全体として方向転換を図るとともに、企業市民としての立場から、これからの地域社会づくりに積極的に関わっていただきたいと思います。

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