建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ1997年10月号〉

interview

3環状10放射道路を重点的に整備(前)

まだ低い都市計画道路の整備率

横浜市道路局長 杉浦治雄 氏

杉浦 治雄 すぎうら・はるお
昭和17年2月17日生まれ、早稲田大学第一理工学部卒
昭和 42年 11月 金沢土木事務所
63年 5月 都市計画局開発部長
平成 3年 6月 道路局横浜環状道路等担当部長
5年 5月 道路局理事(横浜環状道路等担当部長)
6年 7月 道路局長
国内第2の人口を擁する大都市・横浜市の都市計画は、意外にもその整備率が政令指定都市の中で最下位となっている。そこには、やはり東京一局集中の現実が陰を落としており、市内各地区が横断的に結ばれていないのが現状だ。このため、一刻も早い地域間をつなぐ道路整備が望まれているが、整備にあたっては大都市特有の難題も多く、事業執行者の苦労は並大抵ではない。だが、道路局の杉浦治雄局長は、様々な課題に市民の声を反映する姿勢を崩さずに取り組みながら、着実に道路網の構築を現実のものにしつつある。本誌は同局長のインタビューを、2回シリーズでお伝えする。
―――横浜市の道路の整備は十分ですか
杉浦
港のある都心部から東京や周辺地域へ向かう放射方向の道路は比較的発達していますが、放射状道路を相互に結ぶ環状道路の整備が遅れています。都市計画道路の整備率は、政令都市の中で最低レベルの平成8年3月31日現在53.5%にとどまっています。
地形的に厳しいことと、20年前は100万人だった人口が300万人と急増したことも影響しています。このため、隣の区へ行くのにいったん横浜駅まで出なければならないというところもあります。郊外部は山を切り開いて無秩序に開発された住宅地が多く、最寄り駅や幹線道路に出るための道路がきちんと整備されていません。
大阪や札幌はすでに管理の時代に入っていると思われますが、量的に足りない横浜はまだまだ整備しなければなりません。
――どんな道路整備を理念としていますか
杉浦
政策的には3本の柱を立てています。首都圏の、空港や業務核都市と結ぶ高速道路、国道整備。横浜駅周辺やみなとみらい21地区、新横浜駅などの都心までを30分で結ぶ幹線道路の整備。そして住宅地から最寄り駅まで約15分で行ける道路整備、という構想です。
市内には都心2か所のほか副都心が5か所ありますので、特に副都心をつなぐ環状線の整備を推進したいと考えています。
――大都市の道路整備となると、様々な課題も派生するのでは
杉浦
そうですね。「駅まで15分道路」という構想には皆さん賛成するでしょうが、用地買収になると事情は変わってきます。宅地が半分になるケースもあるので、買収は非常に難しい。ある商店街では逆にこれを機会に廃業するので、全部買収してほしいという主張もありました。時代が変わってきたという感じです。
特に、市内の市街化調整区域はモザイク模様に分散しているので、道路整備も実施となると容易ではありません。
環状線自体も橋梁トンネルが多く、条件は厳しいのですが、現在、進めている42m幅の環状2号線は今年度中に開通させる予定です。
――幹線道路の全体構想は
杉浦
主要な放射環状の道路は3つの環状道路と10の放射道路の整備を重点的に進める計画です。
また、市街地開発関連の路線などを含めて2010年までには、総延長500qの幹線道路ネッワークの形成を計画しています。
――最近、道路の地下利用が注目されていますが、横浜市の取り組みは
杉浦
道路整備の一環として、都心部に6ヶ所の地下駐車場整備地区を計画しており、既に福富町西公園に1か所完成しています。
それにしても1台分につき3千万円(国庫補助3分の1)の事業費がかかり、採算性の確保がなかなか難しいですね。ここは近くに競馬の馬券売り場があり、土、日曜日だけは混雑しているのが実情です。
経営は環状2号線などを建設している道路建設事業団に任せています。
――地下駐車場の経営は今後とも道路建設事業団に任せる方針ですか
杉浦
場所によってはケースバイケースですね。
――量的には6か所で十分でしょうか
杉浦
予測として7万3千台のうち、1万2千台は公共で設置する計画です。うち道路整備として考えている6か所は、1か所につき200台ですから1,200台分になります。
今後は新横浜都心周辺が、駐車場整備地区になるものと考えています。また、副都心地区も検討の対象にしています。
平日と土・日曜の入り込みに大幅な差がある場所に、公共の駐車場を設置するということですから、本来採算は合いにくいと思われます。そうは言っても、「利益が出ないのになぜ開設したのか」と批判されかねませんので、実際なかなか難しい面がありますね。
――橋梁の整備においては、今後も、ベイブリッジのような大型の橋梁建設の構想はありますか
杉浦
街路では多少、大規模なものは造っています。橋梁架け替えでは、最近は横浜駅から保土ヶ谷駅寄りにある東海道線の平沼橋、3代目の橋になりますが、完成しました。電車の走らない深夜の時間帯に工事を行ったのでかなり時間がかかりましたが、この4月に全面開通しました。
みなとみらい21地区の、みなとみらい大橋と北伸橋も開通しました。これも比較的大きな橋です。みなとみらい21地区の24街区も7月にオープンしました。
――最近はライトアップなど、さまざまな演出をするようになりましたね
杉浦
平沼橋もライトアップしています。色を決める際も地元住民の意見を聞いてきめました。みなとみらい大橋と北伸橋の名称も一般から募集して決めました。
ただ、これには若干の曲折もありました。というのは、北伸橋を九州弁で発音すると「汚なか橋(きたなかはし)」となるので関係者の間で議論になったり、また、あわせて募集した別の橋では、橋の形状が幾つもの膨らみで構成されているので単純に「ウィンナブリッジ」と呼びならわしていたのですが、英語圏の人々が聞けば、眉をひそめる表現なのだそうです(苦笑)。
北伸橋については住民の意思を反映する意味で、最も支持の高かったものとして、この名称となりました。
――橋梁についてさらにお聞きしますが、歴史の古い横浜では、補修も大きな課題では
杉浦
新幹線の上を越える橋は東京―大阪間で、130橋ありますが、そのうち横浜市内には新幹線が堀割形状で通っている箇所が多く26橋あります。昭和39年の新幹線の開業にあわせ施工されたため、老朽化も進んだことから、JR東海から補強工事などの要請があったのです。
しかし、これはJR側の都合で整備したのですから、道路側での整備はおかしいと議論していました。その後、阪神淡路大震災が起きまして、建設省と折衝した結果、対策が必要な橋全部の補強工事に補助金が付くことととなり、18橋に国庫補助を受け、補強工事を実施しました。これらの橋のうち、一本でも崩壊すれば新幹線が止まり大事故になりかねないという横浜市の主張が、建設省として補助金を出していただける理由付けの決定打になったようです。
第3京浜道路や東名高速道路にも同じように橋が掛かっていますから、これも直そうと思っています。ただ建設当時とは設計方法も異なり、単純に地震に対する橋脚の補強計算だけでは対処できないものが相当あります。工事は道路公団に委託するわけですが、事業費はこちらで負担しなければなりません。
また橋といえば、環状2号線の橋は、地図上ではまだ存在していませんが、もともと道路がなく自然地形が残っている地域を通過しているため、緑地や公園と共存できるように橋の建設を進めています。
もちろん、デザインにも十分気を遣っており、橋が連続的につながっていますから、相当大きな連続高架橋になります。また、高架部と平面部との二層構造ですので、通過交通は上、地先利用は地上平面部となります。
また、相模鉄道を連続的に高架化するため、鉄道高架事業を計画しており、すでに環境アセスメントがほぼ終わっています。事業費の多くを道路側が負担しなければならず、総事業費が500億円程度かかり、10年がかりの事業となる見込みです。財政状況が厳しいため、資金調達をどうしようかと思案しているところです。
――そうした長期事業の場合は投資効果や工期の問題、事業のタイミングなど検討する要素が多くありますね
杉浦
その意味では、大いに考える所があります。実は、この関内付近の道路パターンは、明治の開港当時とあまり変わらないのです。明治の初期は、日本に蒸気自動車がまだ2台しかなかった時代でした。その当時と今が変わらないということは道路自体は100年ももつ施設といえるのではないかと思います。もちろん、使う人がうまく使っていたからともいえます。
馬車は通っていたでしょうが、必要性から見ると、当時、今のような道路幅が必要だったのかは疑問な点がありますが、現在でもほとんど拡幅せずに同じ幅員で推移しています。先人の知恵には敬服するばかりです。
――やはり、余裕を持って造るのが長期的には有効だということですね
杉浦
そうです。今にしてみればそれほど広くはないのですが、当時からそういう道づくりをしていたということでしょうね。
――防災面から見ても、例えば幹線道路に車が殺到して大混乱となった阪神大震災や奥尻島の津波などは、災害時に道路がいかに重要なものかを示唆していると思います。したがって、多少無理をしてでもグレードの高い道路整備を行うのは理想ではないでしょうか
杉浦
しかしながら、幅広い道路を確保するとなると、なぜ幅広い道路が必要なのか理由付けが求められます。幹線道路整備では環境問題との兼ね合いが難しいところです。
車が渋滞してエンジンを空ふかしするより、スムーズに流れている方が環境にはずっと優しくなります。かといって4車線を6車線にすると、さらに大気汚染が進む原因にもなるとの指摘も受けますから、そのバランスが非常に難しいところです。
――環境アセスメントにおいて科学的に分析はされていないのですか
杉浦
環境アセスメントにおいての分析はもちろん行っています。環境アセスメントや気象調査を実施して進めるわけですが、あくまで予測ですから、現実が予測どおりかという点では課題があります。
ですから鉄道事業などでは、事業実現性のため多少肉付けが必要な場合もあれば、逆に道路は造った後も渋滞して仕方がないという面があり、なかなか予測手法の確立は難しいところです。なにしろ社会状況の変化が予測のベースになるのですから。
――ところで、最近はハード面でも福祉の視点が求められています。道路整備においてそこまで手は回りますか
杉浦
それは何としてもやらなければなりません。例えば、歩道橋は市内に全長で約200キロありますが、体の不自由な人はなかなか利用できません。それでは平面交差がいいのかというと、交通事故の増加という問題も生じます。
本市では都心部や駅前などを中心に、エレベーターを設置するよう努めています。エスカレーターは車椅子が利用しにくいのですが、かといって、エレベーターも石ころで止まったり、密室になるので防犯対策を確立しなければならないなど解決すべき課題はあります。
しかし、横浜駅に近い平沼橋では、架け替えに合わせてエレベーターを設置しました。これはバイクも乗れるようになっています。すぐ横に踏切がありますが、昼間はなんと1時間に3分しか開かないという状況のためこの対策も兼ねています。
――確かに、最近は屋外に青空のエスカレーターを見かけるようになりました。銀座にもエスカレーターのあるx型の歩道橋が開通しましたが、車椅子も乗れるような幅広いエスカレーターは技術的に無理なのでしょうか
杉浦
車椅子の利用には、路面を平にしなければなりませんので、緩いこう配にすると延長がかなり延びてしまいます。都心部でそうした斜路にすると、出入れの問題などから店舗から営業妨害だといわれかねません。以前は普通の階段の歩道橋ですら「売り上げに影響があるので税金を払わない」と、嫌がられたものです。
最近は階段は道路に設置しておいて、大きい店ならビルの中にエレベーターを設け、それに繋げることが出来るようになりましたが、当時はそれさえも了解されませんでした。
一方、福祉事業としてはjr駅などに市が補助金を出してエレベーターやエスカレーターを設置しています。これは、福祉局が所管していますが、このお陰で新都市交通など最近の新駅は、全てエレベーターが付くようになってきています。
一方、市内の歩道の段差解消については、昨年までにすべて切り下げが完了しています。
道路整備はもちろん、各種のハードな事業において、このように福祉政策が徐々にではありますが、着実に浸透しつつあります。

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