建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2000年10月号〉

interview

北広島発の文化の発信を目指す

エルフィンパーク、花ホールで市民の心を一つに

北広島市長 本禄 哲英 氏

本禄哲英 もとろく・てつえい
昭和5年10月1日生まれ 
北海道留萌管内天塩町出身
昭和 31年 3月 中央大学法学部卒
昭和 31年 7月 北海道庁入庁
55年 4月 北海道民生部次長
56年 4月 札幌医科大学事務局長
58年 5月 北海道総務部知事室長
60年 4月 北海道議会事務局長
62年 10月 北海道庁退職
62年 10月 株式会社北海道熱供給公社入社(常務取締役)
平成 5年 4月 同社退職
5年 7月 23日 広島町長就任(1期目)
8年 9月 1日 市制施行により北広島市長となる
9年 7月 23日 北広島市長就任(2期目)現在に至る

<主な公職>
北海道道路整備促進協会会長
北海道道路利用者会議副会長
石狩管内公立文教施設整備期成会会長
石狩地方開発促進期成会副会長
平成8年に市制を施行した北広島市は、人口5万7千人。札幌の近郊都市として利便性も高く、またみどり豊かなまちでもある。しかし、市民の心が札幌を向いていたのでは、文字通り札幌の“ベッド・タウン”=眠るだけのまち、になりかねない。
まちづくりの要諦は市民意識にあるといっても過言ではない。だが、その点では、北広島市は様々なボランティア活動や文化活動が盛んで、図書館、市民ホールの運用にも協力している。多くの公共建築物の利用状況が芳しくなく、運営費と使用料とのバランスがとれない中で、同市の施設は近隣市町村の住民の利用もあり、フルに活かされている状況だ。こうした市民の積極的な取り組みを、どのようにして一つにまとめ、まちの発展につなげていくか。北広島市のまちづくりに尽力する本禄哲英市長に聞いた。
――北広島市とは、端的に言えばどんなまちだといえますか
本禄
北広島は明治17年に、広島県人が開拓のために入植し、明治27年には一村を形成、農村として発達してきました。昭和43年には北広島団地の造成を開始し、同年9月に町制を施行しました。それを契機に良好な住宅団地や工業団地を造成し、だんだんと企業も入ってくるようになりました。そして平成8年に市制施行。その後も北海道では1、2の人口増加率を維持しており、今も発展し続けています。
北広島市は、札幌の近郊にあって、非常に利便性が高いまちです。千歳空港まで20分、札幌までは16分です。しかも生活空間は緑に囲まれていて、落ち着いた雰囲気のまちです。このまちは、そういう恵まれた条件にあるんですよ。
ただ、市域が分散しているという特徴もあります。北広島市は、大きく分けると駅を中心とする東地区をはじめ、大曲、輪厚を合わせた西地区と、西の里地区の3地域に分かれているのです。
――まちづくりにおいては、そこがネックとなるのでは
本禄
したがって、市民の心が一つになるような、離れた地区同士の市民が相互に交流し合うようなまちをつくっていかなければなりません。その観点から、私はまちづくりを進めています。
それに基づいて現在、考えているのは、北広島駅の周辺を文化交流の拠点にするということです。都市というものは、その中心にある程度集積された機能が必要です。
そこで、駅の高架の上に開閉式ドーム型の屋根を持つ「エルフィンパーク」という広場を、この3月にオープンしました。この広場では市民が様々なイベントを行っています。文化活動やリサイクル運動、お祭りなど、この広場を自由に使って人々がここで交流し合う。文化を楽しむ。音楽もできる。自由の広場というもので、これは素晴らしいことだと思います。
また、「エルフィンパーク」は、文化性を大事にするという趣旨で、必ず何か芸術的なものを配置します。例えば、山本さんという有名な彫刻家の「森と少女」という作品。子供達が花の形や動物の形など、思い思いにつくった切絵4,000枚などが飾られています。今月の利用状況報告によれば、JRパネル展、農産物直売、平和祈念写真パネル展、川柳会、ふるさとまつり、北方領土写真パネル展などが、毎日のように行われています。
――「エルフィンパーク」は、北広島市民の心を一つにする結節点として大きな期待が持てますね
本禄
私としては、北広島市だけでなく、長沼や南幌、恵庭など、周辺市町村の人達にもここに集まってもらって、一緒に交流し合える文化交流の拠点にしたいと思っています。
また、もう一つの拠点施設としては、芸術文化ホールがあります。597席ですから、規模は大きくはありませんが、まちの中から市民の文化や芸術、子供達の活動を伸ばしていくような施設が必要だと思います。そしてそれは駅から近く、近隣の人が集まりやすい場所が理想的ですから、それで作った芸術文化ホールなのです。
これは、音楽ホールとしてはかなりレベルが高いものです。完全なる音楽専用ホールではありますが、両側壁が動くようになっており、普通の舞台にもなります。そのため、利用稼働率たるや90.7%と、かなり高い状況です。
ホールには「花ホール」という名称をつけました。花を愛して優しい心を持とうという意味を込めているのですが、その花ホールの運営は、「芸術文化ホール運営委員会」という10名の委員で運営しています。
――市民参加型の運営ですね
本禄
その通りです。これは運営だけでなく、作る段階から市民参加型です。「駅前周辺まちづくり委員会」という住民組織があり、まず駅前全体をどう考えるかを論議しました。さらに「文化施設計画委員会」を作り、演劇や音楽、図書館活動に携わっている人々が参加して、この施設の計画を作りました。
さらに特徴的なのは、そのホールのボランティア組織として「花ホールスタッフの会」があるのですが、これが全くのボランティアで、83名もの人が登録されて活動していることです。入場案内や、バーコーナーのサービス、クローク、楽屋、芸術家の接待や場内アナウンスなど、これらをすべてボランティアで行うのです。
花ホールに隣接して図書館がありますが、これも花ホールと同じように作る時から市民参加なのです。現在は「北広島市地域交流センター協議会」が、運営に当たっています。このボランティア組織は「北広島市フィールドネット」のメンバーで、11団体・162人の人々が、この図書館の応援団として活動しています。北広島市文庫の会、お話しの会などを行っています。こういう人達が、図書館の運営をバックアップしてくれているのです。
この図書館は、「平和」と「旅」をテーマにしているのが特徴です。北広島市は広島県人がつくったまちですから、広島県との交流が深いのです。そこで図書館に「平和コーナー」を設け、平和の尊さを積極的にアピールすることにより、恒久平和の実現を目指すというのが一つのテーマとなっています。また、駅前の図書館であることから旅というイメージが連想されます。したがって、旅というのももう一つのテーマです。
図書館のこの1年間の貸し出し冊数は、市民1人当たり7.6冊。この数は、市の中ではおそらくトップクラスではないでしょうか。それほど皆に利用され、愛用されているということです。貸し出し登録カードへの登録者は、北広島市民5万7千人のうち2万4千人で、ほかに札幌市民が1,500人、恵庭市民が680人、千歳市民が360人ですから、近隣の人達にも結構利用してもらっているようです。
――最近は、バブル時に様々な公共施設を建築したものの、稼働率が低かったり、維持コストが財政を圧迫しているというケースが見られますが、市民のボランティアを導入して、公共施設を死蔵させないという取り組みは、理想的ですね
本禄
このまちはボランティア活動が本当に盛んです。このようにボランティアが主体となって、まちづくりに取り組むというところは少ないですよ。先に触れた花ホールにしても、人口規模から言えば、本当は1,300人くらいの大ホールがあってもいいわけですが、それをあえて半分にしたのは、市民にとって最も使いやすいもの、充実した活動ができるようにするためで、この規模が最適と判断したからなのです。
隣のまちがホールを作ったから、うちにもとばかり作ったはいいが、ガラガラのところもたくさんあるわけです。作った以上は、稼働率を上げることが大事です。これからは、こうした観点からまちづくりをしていかなければダメだと思います。
――北広島市では、自転車によるまちづくりも進めていますね
本禄
現代は、クルマ社会ではありますが、人や環境に優しい乗り物である自転車を使って通勤・通学や買い物ができるように、自転車を中心とした生活スタイルの構築を進めたいと思っているのです。昨年12月に、全国で14ヵ所の自転車利用環境整備モデル都市の一つに選ばれました。また、現在札幌までの大規模の自転車道路「札幌北広島自転車道」を、平成15年の完成を目指して北海道が建設中です。これが完成すれば、自転車だけでなく、夏はジョギング・マラソン、冬は歩くスキーなど、いろいろ楽しめるようになります。
このまちは福祉施設、特に障害者の施設などがたくさんあります。ですから私は、障害者の人達がこの自転車道路を大いに利用し、スポーツを楽しんでもらいたい。障害者のマラソン大会、自転車競技など、何でもいいのですが、そういう催しを行って障害者を元気づけたい。これは私の一つの夢でもあるのです。
また、札幌までの自転車道ほど大規模ではありませんが、南空知、長沼、由仁、栗山で、馬追丘陵の周りを廻る自転車道も整備しています。これは農林水産省の補助金で建設されているのですが、将来はこの周遊コースに、札幌までの自転車道を連結させ、サイクリングネットワークの構築を図っていきたいと考えています。
これらの自転車道は、国の補助事業で進めていますが、私達はただ補助金を下さいとお願いするだけではありません。提案型なのです。私達は「こういう自転車道路を作りたいから、こういう補助金にしてほしい。交通安全の補助金ではあるけれども、ただ信号を作るだけでなく休憩施設なども作りたいから、こういう補助金のメニューにしてほしい」と、具体的なアイデアを提示しつつ国に要求しています。
――確かに、地方分権時代に入り、国に対して地方も積極的に声を上げていくという市町村の自主性が求められるようになってきましたね。こうした市町村の力を上げていくためには、近隣市町村との連携・ネットーワーク、または合併も必要になるのでは
本禄
地方分権になり、市町村を単位に行政が進められることになれば、力のある、自分のまちは自分で治めるという自治の力があるまちが必要になります。その意味においては、ある程度の人口規模が必要なことは間違いありません。一方で、小さなまちでも、立派な行政を行う力のあるところもあります。
したがって、単に人口規模だけで市町村合併を強制されると、合併後の姿が歪んでくるのではないかと思います。やはり、市民の気持ちが大事ではないでしょうか。それから市民の生活の実態から離れたような数合わせでは、うまくいかないと思います。市民の生活にとっては、どこのまちとのつながりが一番深いのか、全く行ったことがないようなところと一緒にされても戸惑うばかりでしょう。
しかし、近年は行政そのものの質が高くなってきていますから、何をするにも小さな組織単体だけではなかなか難しい。その意味では、これからも市町村が単体組織ですべてを負うのか、あるいは別の中間団体、例えば郡などを設置するのか議論する必要があります。例えば、アメリカのように教育と消防は郡で行うというケースも参考になります。日本の場合は、様々な仕事を全て市町村が独自に行っているので、ある程度の規模でなければなかなか難しいものがあるかもしれません。介護保険が一つの良い例ですね。我々のような6万都市という規模であれば、介護保険にしても何ら問題はなく、充分に自力で運用できるし、しかも、どこにも負けないサービスの提供も可能だと思います。
――ほとんどの自治体は、市町村合併に否定的で、広域連合による広域事務組合方式を選択したがる傾向がありますね
本禄
私としては、単に合併が悪いと言っているわけではありません。ただ、小さいまちだからといって、必ずしも行政サービスの水準が低いとは限りません。要は住民の生活を豊かにするまちづくりこそが大事だということです。合併は、歴史や文化を充分に踏まえることが前提で、その上で住民の自由な選択に任されるべきだ、ということです。
――成長し続ける自治体として、北広島からの文化の発信、21世紀に向けて、どんなものを発信していこうと考えていますか
本禄
北広島では、特に子供達のスポーツ活動や文化活動がとても盛んです。例えば、作文・絵画コンクールなどでは、全国レベルでも素晴らしい成績を残しています。そこで、そういう子供達の活動を、文化ホールやエルフィンパークで発表し、皆で盛り立てていきたいと思います。
また、今年は「レクの森に歌声が聞こえる」という市民オペラを9月に行います。市民が皆で集まって、北広島のまちの歴史を振り返る、北広島の開拓の時に先頭に立った人達の物語を上演するのです。まずは、こうした身近なところにある子供達の活動、市民の活動を外に向けて発信していくところから始めたいですね。 

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