建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ1998年10〜11月号〉

interview

日本にハブポートは必要

港湾整備批判に反論

運輸省港湾局長 川嶋康宏 氏

川嶋 康宏 かわしま・やすひろ
昭和19年8月18日生まれ、兵庫県出身、京都大学工学部土木工学科卒。
昭和44年 運輸省入省(第四港湾建設局)
48年 港湾局計画課
50年 港湾局機材課公害対策室
51年 港湾局環境整備課
   外務省経済協力局経済協力第一課
54年 第二港湾建設局塩釜港工事事務所
56年 総合研究開発機構
58年 港湾局建設課
59年 広島県土木建築部港湾課
62年 経済企画庁総合計画局
平成 元 年 運輸政策局環境課長
3年 港湾局環境整備課長
4年 新潟県港湾空港局次長
5年 新潟県港湾空港局長
6年 港湾局計画課長
8年 第二港湾建設局長
10年 現職
わが国の港湾は、近隣アジア諸国との国際競争に後れをとり、不利な立場に立たされている。それは港湾整備が後れ、使用料、荷役サービス、入港手続きの改善にも遅れをとってしまったことが大きい。四方を海に囲まれた島国・日本は、港湾立国としていつまでも後塵を拝しているわけにはいかない。だが、公共事業批判や港湾事業批判が、その足を引っ張っている一面もある。わが国の港政、港湾整備を担う運輸省港湾局の川嶋康宏局長に、国際規格のハブ港を整備する意義と、それらへの批判に関する見解などを伺った。
――全国の港湾整備の先頭に立つことになりましたが、就任の抱負を
川嶋
港湾整備を社会情勢の中で捉えると、無視できない重要なポイントが二つあります。一つは財政改革という課題です。平成6年度の政府予算案策定時に、「公共投資のシェアが何年も変わらないのはおかしい」との批判が持ち上がり、これを受けて港湾整備は、重点投資のランク付けでcランクになってしまったのです。
“これでは大変だ”ということで、我々としてはアジアのハブ港(ハブポート)を持つことの重要性を主張し続け、昨年は物流大綱が策定されました。国民生活を豊かにするためには、道路や港湾にも重点投資をして物流の効率化を図ることが急務であることを強調してきたわけです。
その結果、10年度予算全体の伸び率はマイナスでも、港湾予算については平均より上、伸び率は5番目となりました。公共投資が抑制され、事業費はダウンしている状況下で、港湾についてはなんとか持ち直しつつあるわけですが、同時に今後、港湾事業をどう方向付けるかが最も重要です。
もう一つは地方分権体制の確立です。他府県と違い、北海道などでは市町村長が港湾管理者として直接管理しているという状況を見るに、港湾の地方分権は、他の事業分野よりも進んでいると思います。
半面、直轄事業として国の関与も必要とされています。運輸省はこれから建設省、国土庁、北海道開発庁と合併して国土交通省となります。その中で適切な国と地方の役割分担を築きあげていくことが必要です。
――ハブ港の整備については様々な論議があるようですが
川嶋
日本の港湾は東京湾、大阪湾、伊勢湾、北部九州の四か所が中枢港湾で、そのほか中核港湾が苫小牧、仙台、新潟、広島、沖縄など八か所にあります。この格付けの意味は、いわゆるハブ港的な拠点港と、それを補助する地方港とを整備しようという考えなのです。
確かにハブポートについて、一部には「シンガポールは横浜の3倍から4倍の貨物を取り扱っており、日本が今から慌ててハブ港を整備しても、どうせ追いつけないまま置き去りになる」との批判もあります。
しかし、この批判には基本的な誤解があります。つまり、ハブポートとは、シンガポールと同じ程度の貨物を扱わなければならないものだと誤解されているのです。私達はハブ港は世界のトップクラスの船が寄港するというサービスが受けられる港だと考えています。
現在、世界中で最大規模の船は積載量6,000teu級ですが、寄港するには水深15mが必要です。そのため、せっかく寄港しても吃水調整して、入港するというムダが生じています。ですから、その規模の大型船が入港できるよう、水深15mの岸壁を整備すること。これがハード面でのサービスです。
一方、ソフト面では「港湾のedi化」と呼ばれていますが、いわゆる情報処理機能の向上です。例えば、入出港手続きなどを見ると、関係機関に30枚以上の類似申請書類を提出しなければならず、極めて非効率的です。しかし、提出書類は、書式形態は違っても基本的な記述事項は共通です。
そこで私たちは、書式を統一して簡素化を進めてきました。そして、その処理をコンピューター化してきております。その結果、来年から6大港湾において導入し、実用できるところまできました。この仕組みは、諸外国のほとんどで既に導入されています。これがハブ港としてのソフト面のサービスです。
いま日本全国の港で扱っているコンテナ貨物量は1,400万teuから1,500万teuで、これはシンガポールのコンテナ量とほぼ同じくらいです。とはいっても、シンガポールは少し事情が異なっており、国内分は全コンテナ量の三割弱で、残りは中継です。そのため入・出港が2回繰り返されるので、コンテナ1個分につき使用回数は4回とカウントされます。中継貿易のために多く数えられているという一面があります。
一方、日本では、日本の経済が必要とするコンテナの量に見合った整備は必要です。もちろん、トップクラスのサービスは受けられるようにしなければなりません。
もう一つは、シンガポールは都市国家ですから、車で2,30分も走れば、隣の港区に行けるわけです。日本は南北2,000kmの国土ですから、全体のバランスを考えてコンテナ港を配置しているのです。宮城、新潟で自県が扱っているコンテナは全体の10%程度、もっと少ない県では2、3%しかありません。残りは東京湾等に集中しています。この陸上輸送に要するコストが太平洋航路のコストと同程度になることもあるのです。全体の流れの中で航路別に仕分けし、それぞれを各港湾が受け持っているわけです。造り過ぎとか、分散しているといったご批判もありますが、それなりに検討して中枢、中核港湾を配置しているわけです。
――地域の歴史や文化、後背地の状況などを考慮すれば、簡単に合理化するわけにもいかないわけですね
川嶋
そうです。例えば地方の人々としては、地元の港がまったく活用されず、貨物の100%が東京、横浜港などを通じて搬入されているとなると、やはり寂しい思いがするでしょうし、無駄にもなっているのです。
――しかしながら、公共投資としての港湾整備に対する一般的な誤解もあるように感じます
川嶋
事業への批判については、直すべきことは直す考えです。直すことは何もないというわけではありませんから、無駄があれば直すということです。地方港湾も限られた予算ですから、300港と200港とでは1港当たりの予算配分が違ってきます。そのため、できるだけ重点的に実施することで、ある期間で事業が完了し効果を発揮するようにしております。その結果、整備する地方港湾を100港以上も減らしており、現在はさらに減らす努力をしているのです。
重要港湾でも実施箇所数について、その優先度に応じて例えば岸壁整備をしばらく休止して防波堤整備を急ぐなどして実施箇所を減らして重点化を図っています。
着工時から5年ないし10年経過したプロジェクトについては、いわゆる「時のアセス」を実施してもう一度見直すこととしています。世間の厳しいご意見にも十分対応するように努めています。
造り過ぎについても誤解があります。例えば、現行の港湾整備7か年計画では大型岸壁50バースを新設することにしています。このうち大井埠頭は現在の水深13m8バースを水深15m7バースにつくり替えます。ですから純粋に50増えるわけではなく、スクラップ・アンド・ビルドされるわけです。資料で50バース新設と書かれていると、なぜそんなに増えるのかと思われるでしょうが、実際は8減7増です。その8減を考慮していない新設50バースなのです。同じことは横浜でも実施することにしております。
このようにご批判はご批判として受け止め時代の要請に応えた、効果的な投資が必要だと思っています。
――国際社会に対応するとなると、港湾使用料などの料金体系の見直しも必要ですね
川嶋
そうです。これまで、係船料は1日単位で計算され、徴収されていましたが、最近のコンテナ船の運航スケジュールはかなり忙しく、荷役が終わればすぐに出港しなければならないので、係船料の基準を12時間単位に変えました。
また、いわゆる港湾使用料における国際的な価格競争力の強化も課題です。現在、東京湾など三大湾の港の施設は、外貿埠頭を各地の埠頭公社が経営していますが、資金は国と地方からの無利子貸付のほかに、財投資金や市中借り入れで賄っています。しかし、バース全体にかかっているコストを回収しなければならないので、貸付料はどうしても高くなります。
そこで、70m幅の岸壁だけは直轄の公共事業として対応する新方式を打ち出すなど、国際競争力を高めるために様々な努力をしているところです。ハブポートとは、国際競争力のある港を造ることです。世界のトップレベルのサービスを受けられずに、外国港のお助けを借りて営業をしているようでは困ります。
――公共投資を通じての港湾経営への助力は、国際社会では一般的なのですか
川嶋
いいえ、一般的という訳ではありません。各国とも種々の制度がとられています。このほか、日本の港湾管理者は港湾の管理運営のほか、起債で土地を造成して分譲する等の事業を行っています。
しかし、外国の例を見ると、例えばシンガポールの「psa」などはゴルフ場やオフィスビルまで経営しており、多角的な収入を得て様々な投資ができるようになっています。
――国際港として機能するには、港湾の荷役時間の延長も、求められますね。そのため、サービス強化のため24時間化という方向性も必要と思いますが、港湾労働者らのコンセンサスを得るのは困難との声も聞かれます
川嶋
それは、それぞれの港で協議し、解決していくべき問題でしょう。しかし、いわば「港湾一家」などという捉え方がありますが、港湾管理者と港湾に関係する者が一丸となって自分たちの港湾を盛り上げていこうという意識を持つことが大事であり、理想的です。
偶然のことですが、神戸の地震があった際に、土曜、日曜の荷役や24時間対応にご協力をいただいたのが契機となって、それが今日まで続いています。こうして、すでに協力が得られているところでは、できる限り定着させていきたいものです。
――廃棄物の事業も実施していますが、これは港の環境整備と合わせた新しい試みですか
川嶋
いいえ、廃棄物の事業はすでに50年代から取り組んでいます。今日、港湾整備の中で重点投資しているのは、これまで述べてきた国際競争力のある港づくりもさることながら、もう一つは生活環境を含めた国民生活を豊かにすることです。
そこで、最近は廃棄物の処理が大きな問題になっているので、処理施設は重点投資の対象になっています。したがって、今回の補正では、大幅に予算化されました。
わが国の廃棄物処理は、四分の一から三分の一が海面処分されています。ところが、そのうち首都圏では、四分の三ないし三分の二近くが海面処理なのです。ちなみに大阪湾では、港の中に広域処理を目的とした処理施設があり、近畿圏内100以上の市町村の廃棄物を受け入れています。これがフェニックス事業と呼ばれているものです。
一方、首都圏では、地下鉄やビル建設に伴って発生する残土を埋立用材などに再利用してもらう、「スーパーフェニックス事業」を各港湾管理者が展開しています。処理に当たるのは、東京都が設立した資源再利用センターという会社です。ここを通じて残土は広島や高知、宮城県などにも運んでいます。
――ところで、港湾整備においては耐震強化に力を入れていますが、耐震化はかなり進みましたか
川嶋
秋田の地震以来、液状化に対応できるよう耐震化を始めました。当初は緊急時に船が着けなくて困ったという話もありまして、5.5mとか7.5mの内貿の船が着岸できるように耐震化を実施していました。
ところが神戸であれほどの規模の地震が起こった結果、コンテナバースは全滅で、耐震構造にしておいた2バースだけしか使えなかったのです。
その反省から、外国貿易のコンテナバースの三分の一くらいは耐震化を図るという方針が出されました。それにしたがって現在、耐震化を図ってきています。
――最後になりますが、国から各港湾管理者にアピールしたいことは
川嶋
そうですね、港湾についてはいろいろなことが言われていますので、それらにきちんと応えていかなければなりません。そして、無駄なことは謹み、必要な事業に取り組むという信念を持つことが大事です。
全国の港湾管理者の皆さんには自信を持って、きちんと説明出来るような港湾の管理運営に当たって頂きたいと思います。

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