建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ1997年10月号〉

interview

キーワードは『総合化』と『事業連携』

人間性の回復を目指した河川空間を

北海道開発局石狩川開発建設部長 金子正之 氏

金子 正之 かねこ・まさゆき
昭和16年生。43年北海道大農卒。
昭和 52年 道開発局帯広開発建設部河川第1工務課長
51年 下水道局第二下水道建設事務所長
53年 道開発局石狩川開発建設部工務第1課長補佐
54年 道開発局石狩川開発建設部滝里ダム調査所長
57年 道開発局石狩川開発建設部工務第1課長
58年 道開発局河川計画課長補佐
61年 道開発局函館開発建設部美利河ダム建設所長
62年 道開発局河川計画課河川企画官
63年 道開発局函館開発建設次長
平成 元年 道開発局室蘭開発建設部次長
2年 道開発局石狩川開発建設部次長
3年 道開発局河川管理課長
5年 6月 道開発局河川工事課長
8年 7月 帯広開建部長
9年 7月 現職
この7月に石狩川開発建設部長に就任した金子正之氏にご登場いただいた。本道の母なる川・石狩川を中心に取り組んできた治水事業は、築堤や掘削による外水氾濫対策に続き、内水処理が懸案となっており、その一環として雨竜川捷水路事業、幾春別川新水路事業などが着々と進んでいる。「21世紀の河川事業を見通して、流域の土地利用計画とのリンク、他事業との連携が事業の手法として重要になる」と、強調する金子部長に河川事業の将来展望などを聞いた。
―平成3年の計画担当次長以来6年ぶりの勤務ですね
金子
そうですね。当時には着手直前だったり実施に向けて準備していたいくつかの事業が、今では実施段階に入っています。
幾春別川新水路事業や雨竜川捷水路事業などはそうですね。砂川遊水地も完成に近付いてきています。明治以来の治水事業として営々と続けてきた築堤、掘削、浚渫とは別にプロジェクト形式の事業も着実に進展しており、土煙を上げながら本格的な工事に入っているという印象を改めて受けました。
―治水事業も時代とともに変遷しているようですね
金子
北海道での治水事業は明治43年から本格化しましたが、低水路の時代といって、川の水をスムーズに流す、つまり川の水位を下げて有効な土地利用を図るとの発想で実施してきた治水事業が昭和30年代まで続きました。昭和40年代初頭の砂川捷水路が、石狩川のショートカットの最後で、あれで低水路工事が一段落したと思います。
その後、堤防を連続堤にする工事が40年代に本格化し、50年、56年の洪水で工事に拍車がかかりました。その結果、外水氾濫は治まっていますが、一方で支川の内水処理がクローズアップされてきています。石狩川の支川の内水処理として、幾春別川と旧美唄川の合流点を新水路によって下流に移す『幾春別川新水路事業』を平成3年度から、また、雨竜川の湾曲部をショートカットし、安全に洪水の流下を促す『雨竜川捷水路事業』を7年度から推進しています。
利便性を確保する事業とは違って、治水事業は地道に取り組むしかありせん。それでも、この5、6年で懸案の事業はかなり進んできたと思います。
―最近は環境との共生が治水事業でも欠かせない視点になっていますが
金子
確かに地球環境に対する意識は高まっています。治水事業は、従前は水と土とコンクリートの世界でしたが、最近では『アクアグリーン』のように鳥や魚に配慮するようになりました。
―本年度は第九次治水事業計画の初年度ですが、事業の手法は変わってきますか
金子
計画策定のプロセスを含めて関係住民との合意形成がますます重要になるでしょう。これまでは河川審議会などの専門家集団に諮ってきましたが、広く沿川住民の意見を聴き、合意形成のうえ一つの計画を決定するなど、新たな手法を考えなければならないと思います。しかし、事業決定に時間がかかるので、緊急的な事業にはどう対応するのか、という問題もあります。
そのためにも、われわれとしては普段から関係自治体のほか、まちづくりのリーダーや河川愛好者らとの人的なネットワークを形成していく必要があります。行政の役人の枠にとらわれず、幅広い知見、人間性を磨き、皆さんと対等に、自由に意見を交わす環境がなければ、立派な計画づくりも出来ないし、速やかに実行出来ません。その辺が大事であり、また、難しい面でもありますし、今後、充分研究する必要があります。
―事業のあり方そのものも変わってくるのではないでしょうか
金子
堤内側で生活している住民の生命、財産を守るだけでなく、経済、産業活動が洪水からのダメージを受けることなく、常に発展していく土地利用を確保するのがわれわれの役目ですから、将来の土地利用の動向を見据えて治水と堤内地を総合的に捉える河川事業の展開が重要視されるでしょう。その意味でも『総合化』がこれからの河川事業のキーワードになると思っています。
あらゆる価値観の総合化というのか、土地利用と治水の安全の総合化、つまり地域の総合的な展開を図る中で治水事業は具体的に何をすべきか。このことは以前からかなり議論されてきたことですが、流域管理的な考えなり理念が新しい国土計画では一層明確に打ち出されるでしょう。国土の利用計画と自然との共生の両面は通常の算数の世界では解決できません。利害得失を乗り越えて、人間のあり方を考えなければ結論はなかなか見い出せないと思います。
―内水被害も大きな課題になっていますね
金子
そうです。明治以来、営々と続けてきた『堤内へ水を出さない』治水事業は着実に効果をあげています。一方で、低平地では、その内水が川に流れ込めずに氾濫する内水被害が課題となっています。いま、内水対策を懸命にやっていますが、千歳川放水路もその範ちゅうなのです。石狩川の水位が上がると千歳川の水が本川つまり石狩川に入りづらくなり、高い水位が長期間続きますから、その結果、千歳川から溢れた内水が一週間以上も流域に滞留し大きな被害をもたらしています。
河川流域はふつう上流から下流に行くにしたがって地盤が低くなりますが、千歳川は千歳市(上流側)に向かって低くなっており、内水被害を出しやすい典型的な河川なので、千歳川ほど広い範囲で長時間本川水位の影響を受ける河川は、全国的にも例がなく、従来の手法では抜本的な治水対策が難しいのです。
また、千歳川流域は火山灰や泥炭が広く分布しているため、堤防もそれほど高くできませんし、ダムを建設するにも限界があります。近年になってこれほどの規模の河川で頻繁に洪水被害を受ける河川は、全国的にも例がないでしょう。千歳川は、そんな宿命を背負っています。
現在、千歳川の抜本的治水事業対策のコンセンサスづくりに北海道庁に一生懸命頑張っていただいているところですが、千歳川の特性を充分踏まえた結論が出ることになると思います。
―政府の財政構造改革に伴って公共投資の効率化が議論されています。この点についてはどのようにお考えですか
金子
最小の経費で最大の効果といいますが、その効果をどう評価するかですね。公共事業の推進によって新しい産業を立地できたか、既存の産業がパワーアップしたのかまでを考えた公共投資効果の評価法を確立する必要があります。そのためにも各種の産業プロジェクトなど他の事業との連携をいかに図るかが重要です。キーワードは『事業連携』です。しかし、ひと口に『事業連携』といっても、道路、港湾、農業関係は平時から比較的具体化しやすいのですが、治水は非常時にしか効果が上げられないので難しい面があるのは確かです。
今回の河川法の一部改正では『365日の河川』を一つのうたい文句にしています。どういうことかといえば、平常時に河川空間を地域づくりに活用し、ゆとりや潤い、人間性回復の場として役立ててもらうことです。直接の経済効果にはつながりませんが、人づくりに役立つ面は期待できると思います。それだけに河川事業は地道な仕事なのです。
―管内の自治体には何か要望はありませんか
金子
まちづくりは地元市町村が主体的に取り組むことですが、地域のオピニオンリーダーなど広く一般市民の意見をよく吸い上げてほしいと思っています。

HOME