建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2001年10月号〉

interview

土木技術者には幅広い知識と文化が必要

前例、慣例にとらわれず自由な発想の芽を育てたい

北海道開発局長 平野 道夫 氏

平野 道夫 ひらの・みちお
昭和20年12月3日生まれ、45年北海道大工卒。
昭和 48年 北海道開発局石狩川開発建設部第1課河川調査第1係長
49年 建設省河川局治水課直轄総括係長
52年 北海道開発局石狩川開発建設部札幌河川第1工務課長
53年 北海道開発局河川計画課開発専門官
54年 建設省計画局国際課長補佐
55年 サウジアラビア日本国大使館一等書記官
58年 北海道開発局石狩川開発建設部工務第1課長
61年 北海道開発庁水政課開発専門官
63年 北海道開発局河川計画課河川企画官
平成 2年 北海道開発局旭川開発建設部次長
3年 北海道開発局石狩川開発建設部次長
5年 北海道開発局河川計画課長
7年 北海道開発庁水政課長
8年 北海道開発局室蘭開発建設部長
10年 北海道開発局石狩川開発建設部長
11年 北海道開発局建設部長
13年 7月 現職
省庁再編を経て、北海道開発局もいよいよ国土交通省出先機関の一つとして、再スタートを切った。以前から地域とのコミュニケーションと、局内のコミュニケーションを向上させることに腐心してきた平野道夫局長は、さらに部局間の壁を取り払い、水平的連携を浸透させるべく努める。これによって同局長の理念とする「趣味の広い文化人である土木技術者像」へ一歩でも近づこうと努力している。国土を切り開き、様々な建設構造物を構築するクリエイティブな職務であるだけに、自然に対するデリカシーと、その精神的基盤となる文化が必要であると強調している。
――北海道開発局は、設立50周年を迎えましたね
平野
北海道は、質の高い生活空間の実現を図る上では大きな可能性に富んでいる地域であり、食料基地、観光・保養の場として、わが国の発展に貢献して来ましたし、これからも出来る地域でありながら、本州に比べて開発の歴史が浅く、経済社会の発展基盤が未だ十分とはいえません。国として積極的に開発を行う必要があります。
私たちは、地域のその距離を可能な限り短くし、こうした北海道の持つ特性、課題に対応した事業に重点化を図るとともに、事業間の連携や効率化を促し、北海道の自立・発展に貢献していくよう努力したいと考えています。
――開発局は発足以来、省庁再編とは無関係に、再編後の地方整備局に近い組織形態でしたね
平野
再編以前から、局は農業部門の基盤整備や運輸基盤整備も担ってきました。本来、農業、運輸を別々にとらえるべきではないのです。特に私たちの場合は、地域から見れば、いわゆる「開発さんがやっていること」とされるわけですから、以前から事業間の壁を取り払おうと努力してきました。
また、開発局とそれ以外の地方整備局を比べたときに、違う点の一つは、職員が採用後、早い時点から事務官も技官も一緒に寝食を共にする機会が多い事でしょう。採用時から建設・運輸・農業の各分野の職員が一体であるというのは、強みであり、誇りを持つべきだと思っています。
――分野に垣根がないだけに、広い視野を持っている職員も多いのでは
平野
他部門を他部門と意識せずに育ってくれるということが重要です。ある事業について精通していることも、広い視野と言えるかも知れません。しかし私は、例えば、土木技官でも土木技術とは関係ない分野について知っていること、それを指して広い視野を持っているものと考えます。
――土木技術を核とする公共事業に対する世論の評価は、今ひとつ芳しくないですね
平野
情報のネットワーク化が進み、情報伝達のスピードが早まっているこの時代に、建設業者も私たちも、イメージ改善に向けてのピーアール努力が足りないと思っています。
特に、自分たちの職責、身分を表現するとき、奇妙にも自嘲気味に「いやぁ、土建業です」などと表現しているのを見かけます。私は「その言い方をやめなさい。自分たちが変わらなければ周りも変わりませんよ」と主張しています。まず、ここから始めなければ。
――作家・曾野綾子氏は、文化と民主主義の基盤は土木にありと主張していました
平野
それを担う者としてのプライドを持っていきたいですね。叩かれても叩かれても打たれ強くならなければならないと思います。たとえ、土木バッシングが続き、公共事業に対してどんなに逆風が吹いたとしても、必要なものは必要だという主張をしていかなければならない。
  地域ときちんとコンタクトを取るならば、訴える言葉には力があるはずです。自分達が仕事欲しさのためにやっているわけでは、決してないのですから。
――文学も芸術も、作者本人が存命している間には高い評価を受けず、死後何年も過ぎてから真価が見直され、そうして永く評価され続けたりします。それは作者の視点が百年・二百年後を見越したものであったり、古くて新しい普遍的なテーマを見据えたものであるからでしょう。土木構造物も、50年から100年の大計をもって行われますから、同様のことが言えるのでは
平野
私たちは、身分が上に立てば立つほど責任が重くなってきますが、そうした先を見通す視点、それに基づくアイデアを潰してはならないと思っています。前例にとらわれると、職員が良い発想していても「何を言っているのか」となりかねません。しかし、それが30年後や50年後には「すばらしい仕事をしてきたじゃないか」と評価されるように、そうした芽を私達が摘んではならないのです。むしろ、そういう芽を伸ばすように、私たちは育てていかなければなりません。
有り難いことに、局内にはそうした職員が増えています。仕事は楽しみながらする。例えば滝野公園などは、国が整備したわりには、面白い施設となっています。職員が一丸となって自由にのびのびと設計したからです。コンセプトさえ正しければ、それを評価する応援団も必ず現れます。
――クリエイティブな仕事というものには、必ず遊び心が含まれていますね
平野
その遊び心も、先に触れた教養の内の一つだと思います。
――ところで、省庁再編により、いよいよ全国地方整備局の一部となりましたが、職員の意識や、組織のあり方に変化は見られますか
平野
北海道開発庁の任務と機能は、国土交通省に引き継がれ、開発予算も国土交通省に従来どおり一括計上されます。また、開発局も同省の地方支分部局となり、これまでの直轄事業の実施に加え補助金交付事務、都市計画行政、建設産業の振興などの業行政の事務が加わり、これまで以上に総合的な行政の展開が図られることになりました。
これまで北海道は、他地域に比べて恵まれた資源や国土空間を生かし、その時々のわが国の課題に対応した役割を着実に果たしてきましたが、21世紀においても安全で新鮮な食料を安定的に供給する食料基地、多様な二一ズに対応する観光・保養の場の提供など、広大な国土空間、美しく雄大な自然環境などの豊富な資源を活用して、わが国の長期的な発展に寄与していくことが重要だと考えています。
しかし、先にも述べましたが開発の歴史が浅く、積雪寒冷、広域分散型社会であるといった北海道特有の課題や、少子高齢化社会への対応、it社会の形成などといった課題にも適切に対応していかなければなりません。
この北海道域を、よりよくして後世に残すためにも、地域とのコミュニケーションをよくしていきたいと思っています。手に手を携えてというのではなく、地域の将来に役に立つことを地域と一緒になって考える、一緒になって作ろうとしているのです。
私たちを商店に例えるなら、お客とは地域の方々で、特にその代表者である自治体の首長の方々です。したがって、国と市町村との間には、組織の違いや目的の違いはあっても、壁はあるべきではないと思っています。これまで、その心情できましたし、これからも、ずっとその気持ちを持ち続けていたいですね。

――北海道は、広大なるがゆえの課題もありますね
平野
北海道は国土の2割の面積に市町村が広域に分散しており、都市間距離は全国の2倍に相当します。また、国鉄民営化に伴う特定地域交通網の廃止によって、道内の旅客、貨物輸送における自動車依存度は高まっています。このように国土面積が広く、しかも都市間距離が長いので、地域独自の心構えが必要になると思います。
それだけに、私が入省した頃、開発職員というものは自治体から頼られる存在でした。それが、昨今の公共事業への批判報道などにより、自分の身分を恥じて隠すような職員も出てきていますから、もう一度、私たちの役割と貢献度を再認識し、誇りを持てるようでなければなりません。
そこで、人々が今後とも豊かな暮らしを送るためには、地域の拠点となる都市に医療、教育、行政などの都市機能を集積し周辺地域からのアクセスを向上すること、経済、行政の中枢的機能を有する道央圏との連携を強化することが重要です。
また、日本を代表し、北海道産業の核となる農水産業、観光産業についても、道外との拠点となる港湾や空港と各生産地、観光拠点が点在するため、各拠点間を有機的に連携し、その可能性を最大限に引き出せる交通体系の構築が必要です。
特に北海道は1年の約半分を雪で覆われ、世界的にみても積雪量の多い積雪寒冷地であるため、吹雪や雪崩などによる通行止めによって孤立する地域が多いほか、秋季に比べて冬期の走行速度が著しく下がり、都市や拠点間の移動に支障が生じるなど、生活、産業活動に甚大な影響を与えています。
しかも、平成12年3月に噴火した有珠山をはじめ、5個所の常時観測活火山を有しているほか、過去には釧路路沖(h5.1)、南西沖(h5.7)、東方沖(h6.10)などの大規模な地震や、豊浜、第2白糸トンネルの岩盤崩落にみるような自然災害が多い地域となっています。したがって、リダンダンシーの確保など安全で信頼性の高い道路交通の確保が急務となっています。
北海道の道路における交通量は年々増加傾向にあり、札幌などの都市部では渋滞が著しく、特に、日本有数の観光地であることから、アクセス道路や休日の観光渋滞が激しい状況です。
北海道の交通事故死者数は近年連続して全国一位となっていますが、特に死亡事故は非市街地のカーブやその他の単路で発生しており、冬期にその傾向が強くなっています。
――北海道開発局として、こうした課題にどう取り組みますか
平野
北海道が国際競争力を有し、自立した圏域を形成するためには、空港、港湾などの各拠点の相互連携、都市間の時間短縮、現道の隘路解消、交通安全性の向上に資する高速ネットワークの整備が不可欠です。
このため、北海道経済を支える農水産業・観光を支援し、多様な生活環境の向上に資する高規格幹線道路、地域連携による集積圏の形成、集積圏と交流拠点・物流拠点との連結、他の交通機関との連携そして交通結節機能の強化を図ります(※)。

(※)高規格幹線道路ic1時間カバー率
  全国:74%、北海道37%(h12末)
      75%(概ね10年後)
(※)主要な空港、港湾への連絡率
  全国:36%、北海道22%(h12末)
      55%(概ね10年度)
――有珠山噴火では、現状路線を放棄してルート変更を余儀なくされたことから、道路防災対策の重要性を再認識させられましたね
平野
昨年度の有珠山噴火に起因する復旧・復興対策を実施するとともに、平成8年度に実施された道路防災総点検や平成9年度に実施された岩盤斜面などの緊急調査に基づく要対策箇所の早期解消を図ります。
――その他の冬期対策は
平野
冬期における安全、快適な道路交通を確保するためには、雪堤や吹き溜まりによる幅員減少などの交通障害を解消するための除雪拡幅、流雪溝・融雪槽などの整備を推進するとともに、吹き溜まりや視程障害対策としての各種防雪対策を実施します。
交通安全対策としては、市街地や通学路における安全で快適な歩行者空間を確保するため、幅の広い歩道整備など、道路利用者の視点と積雪寒冷地としての特徴を踏まえた道路交通の安全確保を図ります。
都市部での交通対策としては、第3次渋滞対策プログラムに基づき渋滞ポイントの解消を図ります。
――治水整備の重要性と今後の展開は
平野
北海道の治水整備は、明治期に着手されて以来、北海道開発の基本的な社会基盤整備の一環として重点的に進められてきました。先人たちの営々とした努力が積み重ねられたお陰で、かつてのような水害被害に頻繁に見舞われるといった状況は、今や多くの地域で解消されたのです。
しかしながら、千歳川流域に代表されるように、依然として雨が降る度に水害の心配をしなければならない地域が少なくないことも事実です。
また、昨年の東海地方の大水害のような都市型水害や、強度の強い雨が集中的に降ることによる水害など、斬たなタイプの洪水被害も顕在化しています。
このため引き続き、河川・ダム・砂防・海岸などの整備促進に努めるとともに、防災情報の高度化といったソフト対策を含め、新たなタイプの水害や21世紀の新たな社会に対応する治水対策に取り組んでいきます。
一方、自然環境の保全・整備が、全国的な視点からも重要になります。これまでの多自然型川づくりや、水と緑のネットワーク整備だけでなく、14年度からは、これまでにない新たな取り組みとして、河川環境の復元をも視野に入れた取り組みを釧路湿原や標津川で開始します。
これらの河川整備や河川環境の保全・復元を進めるに当っては、改正された河川法の趣旨を踏まえて、地域の様々な分野の方々のご意見も伺いながら計画を策定することにしていますので、多くの人々に「川」や「水」について関心を持っていただき、ご協力を頂きたいと考えています。

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