建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ1999年10〜11月号〉

interview

新たな「長期総合計画」につながる21世紀に向けた都市基盤整備を構築中

札幌市建設局長 浅沼勝利 氏

浅沼勝利 あさぬま・かつとし
昭和17年1月生、網走市出身、40年日大理工学部卒。40年4月入庁、建設局土木部鉄道高架部計画課長、同土木部道路建設課長、同土木部長、豊平区理事、平成9年清田区長、11年6月現職。
――21世紀までいよいよ秒読み段階に入りました。新世紀の札幌市がどんな街になるのかは、市の長期計画でビジョンが示されると思いますが、その計画を具体的な形にするのが建設局の役割といえますね
浅沼
そうですね。札幌市は、これからの社会情勢の変化に柔軟に対応し、21世紀にふさわしい理想の都市像を実現するため、現在、新しい「札幌市長期総合計画」の策定に向け作業を進めています。
建設局としても、この新しい長期総合計画につながる21世紀に向けた都市基盤整備を着実に構築するために、厳しい財政状況のなかではありますが、創意工夫を重ねて効率的な事業展開を図っていきます。
――どんな事業や政策が展開されることになりますか
浅沼
札幌市の交通体系の骨格となる「2バイパス2環状13放射道路」を基本とした幹線道路網を完成させなければなりません。
また、地域の生活基盤である生活道路の整備や治水対策としての河川整備など、安全で快適な都市基盤整備を推進することは普遍的なテーマとも言えるでしょう。
――地域の安全性を向上するための基盤整備は、まちづくりの基本ですね
浅沼
それだけではありません。電線類地中化事業や親水性に配慮した河川環境づくりなど、市民が、安らぎと潤いを持てるような施設整備にも、より積極的に取り組んでいきます。
また、市民要望の多い雪対策については、計画スタート後7年を経過している「雪さっぽろ21計画」の検証を行い、路面環境の変化など計画当初に想定していなかった新たな課題に取組む方針です。
現在、新たな時代に対応した「雪対策基本計画」策定に向けて準備を進めており、市民のニーズや地域の実情に的確に対応できるよう、より効率的で効果的な雪対策を推進していきたいと考えています。
――そうしたまちづくりの受け皿となり、地域経済を支える建設業界は、相変わらず景況を厳しいと判断しています。しかし、本道を含め、全国的にはようやく回復軌道に乗り始めたとの論調が大勢を占めています。このギャップをどう考え、どう埋めていく考えですか
浅沼
確かに、依然として経済情勢は厳しいと思いますが、公共工事は地域経済の下支えをするうえからも重要な役割を担っており、建設業のみならず建設資材関連産業のほか、サービス、運輸業などにも経済効果を及ぼすなど、地域経済の活性化策として幅広い分野にわたる波及効果を有しています。
したがって、市の公共工事の発注にあたっては、景気対策とりわけ地場経済の活性化を図るため、早期発注と地元中小建設業者の受注機会の確保に努めていきます。
まず、公共工事の早期発注については、11年度上期(9月末)には9割以上とする高い目標を設けています。次に、地元建設業者の受注機会の確保については、市内業者を優先した指名や、一定規模の工事に採用している特定共同企業体の場合には、市内業者を1社以上含める条件を付けています。
また、地元中小建設業者の受注機会の確保と企業連携による経営力・施工力の強化を促進する経常共同企業体も活用しています。
その他、中小規模の工事を一括して発注するための乙型経常共同企業体についても活用を図っていきたいと考えています。
――一方、入札契約制度改善の取り組みも、いまや時代の要請ではありますが、あまりに急激に改善を進めると、業界への負担が過重になる心配もあるのでは
浅沼
札幌市の建設工事に係る入札・契約制度の改善については、中央建設業審議会の建議内容などを踏まえ、入札・契約手続きの透明性・客観性、競争性を高めることを目標にしています。とはいえ、もちろん地元建設業者の育成には配慮しつつ、逐次制度の改善を行う方針です。
そこで、適正かつ円滑な公共事業の執行に努めている11年度の主な改善内容としては、予定価格の事後公表と予定価格を積算するための設計資材共通単価や労務単価閲覧を開始しました。
また、これまでWTO政府調達協定に基づく24億3千万円以上の工事に適用してきた低入札価格調査制度の摘要範囲を、1億円以上の工事まで対象となるよう拡大しました。
そして、これまで建築工事で2億円以上、建築以外のその他の工事では1億円以上としていた公募型指名競争入札の摘要範囲を、すべての工事について1億円以上に引下げ、その範囲を拡大しました。
のみならず、今年の秋を目途に建設業者の資金繰りの円滑化に関する新しい取組みとして、中間前払金制度の導入を予定しています。
――行政が制度改革の必要に迫られている以上、建設業界側も無策というわけにはいきませんね
浅沼
そうです。中央建設業審議会が発表した建議は、技術と経営に優れた企業が伸びられる透明で競争性の高い市場環境を整備する観点に立っています。そのため、入札・契約制度のさらなる改善と建設業の構造改革の推進が求められています。したがって建設業界は、これまで以上に企業間の競争が求められることになるでしょう。
このため、札幌市が21世紀に向けた都市基盤の整備を図っていく上で、まちづくりのパートナーである建設業界の皆さんが、今後とも健全に発展されることを願っています。
地元建設業界を取り巻く経済環境は大変厳しい状況ですが、このような時にこそ「技術と経営に優れた企業」に成長していくことが、これまで以上に求められます。技術力や専門性を高めるための努力と、健全な経営基盤の確保や生産性向上への取組みを通じて、新しい時代に対応した活力と魅力に溢れた建設業界を築いていただきたいと願っています。
――平成11年度の主な事業の中では、北大構内の地下を貫通する環状通りや、札沼線立体交差などが目を引きます。札幌市も、着実に立体的な街になりつつありますね
浅沼
都市が成長してくると、上空や地下空間の利用は必然的な流れですから、こうした重層的な整備が今後も増えてくるでしょう。環状通は、内環状道路として位置づけられており、未共用部分となっている地下化(環状エルムトンネル)について、引き続き整備促進を図り、平成13年完了を予定しています。
JR札沼線連続立体交差事業は、新川・新琴似地域の市街地の分断と交通混雑の解消を目指すため、複線化事業と連携を図り事業を進めてきましたが、今年の8月には単線で開通し、踏切10ヶ所が廃止となり、踏切による交通渋滞が解消されました。地上の線路跡地は、来年度から歩行者や自動車が利用する緑道として整備する予定です。
――その他の幹線道路の整備状況は
浅沼
主要道道札幌北広島環状線は、西区から北区を経由し江別市へ連絡する骨格幹線道路で、西区宮の沢の国道5号線から江別市・北広島市とを北回り環状で結ぶルートとして整備を継続します。札幌新道は、道央自動車道に併接する主要幹線道路で、札幌南インターチェンジのフル化整備を継続します。事業期間は平成8年から平成13年の6年間で、平成11年度には、国道274号〜厚別中央通間の上り線の整備を完了します。
砥山豊平川沿線は、八剣山区間の不通区間解消のため、また、国道230号を補完する緊急輸送道路を確保するために整備しています。平成9年度に着工した、札幌市で初めての本格的な道路トンネル工事は、今年度中に完成する予定で、観音沢区間については10年度から事業を開始しており、14年度の完成を目指します。
――一方、札幌市の治水はかなり行き届いたとの感があります。今後は治水というよりも環境整備が重点になるのでは
浅沼
確かに治水対策はかなり進みましたが、油断はできません。とはいえ、今年度から河川整備の新規事業として取り組む札幌市北部地区河川「水と緑のネットワーク事業」は、大通から北大構内のサクシュ琴似川(創成川ルート)と、水環境が悪化している北区・東区の雁来新川ルートの2ルートについて、豊平川などから維持用水を導入して水環境の改善を図るとともに、緑地帯整備といった他事業とも連携を図りながら良好な都市環境を創出するものです。
初年度は、各河川に配分する導水路についての概略検討を行い、整備計画は、市民や学識経験者の参加を得た協議会のご意見をいただきながら策定します。
――市民にとっても行政にとっても、頭が痛いのは雪対策ですね
浅沼
札幌市の雪対策は、その推進プログラムとして平成3年に策定された「雪さっぽろ21計画」に基づき、「除雪水準の確立」「雪対策施設の整備」「除雪パートナーシップ体制の確立」「研究開発と国際的ネットワークの形成」をテーマに、除雪のレベルアップに積極的に取り組んできました。
来年度は、札幌を取り巻く厳しい経済情勢や少子高齢化問題といった社会の潮流が大きく変化していることを踏まえ、「第4次長期総合計画」がスタートする予定です。雪対策についても新たな時代に対応した「次期雪対策基本計画」を、この長期総合計画と整合を図って実施すべく計画策定を進めているところです。
いうまでもなく、冬期道路交通の確保は活発な社会経済を支える上で、また安全で快適な市民生活を営む上では不可欠です。したがって次期雪対策基本計画の策定にあたっては、前計画の理念を踏まえながらも、雪対策を取巻く環境の変化に十分配慮しつつ21世紀に相応しい内容にする必要があると考えています。
特に、都市化の進展が著しい本市では多雪都市特有の堆雪スペース不足を背景に、オープンスペースや既存の生活基盤施設を有効に活用した雪処理方法、また除雪作業の支援や除雪パートナーシップ体制の強化に向け、its(高度道路交通システム)技術を導入した雪対策情報提供なども視野に入れて進めていきたいと考えています。
――山間部ならいざ知らず、都市部での積雪のデメリットはかなり大きく無視できません。市民の要望もかなり高いのでは
浅沼
最近の雪対策に関する市民の要望は、凍結路面に対する安全性の確保、歩道や生活道路の一層の除排雪といった日常生活の機能向上に対する関心が高まっています。そうした市民のニーズや地域の実情に的確に対応していくためには、より効率的で効果的な雪対策を進めていかなければならないと考えています。
その一つとして、今年度は、より効率的な除雪体制を目指し直営除雪をマルチゾーン除雪に組み込んだ完全委託化を予定しており、まさに除雪事業も転換期を迎えることになります。今年度の雪対策関係当初予算は、前年度比103.1%の約154億円を計上しており、うち除雪作業に係る予算が約112億円、雪処理施設関係分か約42億円に上っています。
その内訳をみると、バス路線、通学路、地下鉄駅やJR駅等交通結節点周辺の道路を対象に行う「運搬排雪」、市民・企業の皆様と協働して行う生活道路の「パートナーシップ排雪」、凍結防止剤散布による「凍結路面対策」に重点を置いた配分となっています。
また、昨年好評だった家庭用融雪槽やロードヒーティングの設置費用を融資する「融雪施設設置資金融資あっせん制度」については、新規融資件数1,400件を想定し、継続も含めた融資総額で16億円を予算計上いたしました。この融資あっせん制度への申込み増加傾向から、市民の除雪問題に対する意識や取組み方の変化が伺われますが、雪対策においては今後ともパートナーシップによる取り組みが重要であり、市民や企業の皆様のご理解とご協力をお願いする次第であります。

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