建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2001年10月号〉

interview

将来を見据えた復興対策を推進

道道・洞爺虻田線を3年で整備

北海道室蘭土木現業所長 安藤 康宏 氏

安藤 康宏 あんどう・やすひろ
昭和22年10月18日生
北見出身、北見北斗高、室蘭工大卒
昭和 58年 稚内土木現業所舗装
昭和 60年 室蘭土木現業所道路
昭和 62年 街路公園課街路技術
昭和 63年 都市整備課街路技術
平成 1年 同街路計画各係長
平成 3年 道路課主幹(登別市建設部次長)
平成 5年 都市計画課長補佐
平成 7年 函館土木現業所企画調整室長
平成 9年 札幌土木現業所事業部長
平成 11年 道路計画課参事兼高遠道室長兼市町村道室長
平成 12年 道整備課長
平成 13年 現職
有珠山の噴火からおよそ1年半が経過した。この間、室蘭土木現業所は地域インフラの復旧をリードしてきたが、緊急的な復旧対策はほぼ終わり、今後は将来を見据えた、本格的な復興対策に取り組み始める。差し当たり、泥流を留める遊砂池の新設、洞爺湖温泉側と虻田本町側を結ぶ道道・洞爺虻田線の整備などの砂防・道路事業が中心となるが、一方で、地域住民とも協力しあい、被災した洞爺湖温泉の再活性化についても模索している。この4月に所長として着任した安藤康宏氏に、現在の被災地の状況、今後の取り組み等について伺った。
――噴火から1年半が経過しましたが、最終的な被害状況は
安藤
被災した地域は伊達市、虻田町、壮瞥町、洞爺村の4市町村で、平成13年7月20日現在の被害総額は、およそ259億6,300万円。公共土木施設の被害は105箇所、101億1,170万円となっています。その内、北海道の工事は13箇所で7億5,359万円、市町村の工事は92箇所で93億5,810万円でした。
――室蘭土木現業所では噴火以来、復旧に向けた事業を展開してきましたが、やはり道路と砂防が大きなウエイトを占めていますね
安藤
昨年度の1年間は火山活動が継続中で、緊急的な対策が中心でした。災害関連緊急砂防事業は、工事区域には人が立ち入れない避難指示区域になっているところもあるので、無人化施工、つまりショベルカーやクローラーダンプを遠隔操作して流路に溜まった泥流を除去したりすることをメインに行ってきました。
今年度からは、さらに将来を見据えた安全対策を進めていますが、特に大きなものは砂防事業です。道では、洞爺湖温泉街の1/5を占める山麓周辺の約20haを砂防区域に指定し、泥流が発生した場合にそこに留まるように遊砂地を作ります。
今回、噴火したところは有珠山の山頂部ではなく、麓の部分です。しかも、市街地に非常に近く、洞爺湖温泉がすぐに迫っているところでした。噴火により温泉街の直ぐ上流に不安定な土砂が大量に積もっていて、それらが泥流となって流出して被害をもたらすことがないように行われる事業です。また、将来噴火が起こった時に被害を最小限にする効果も期待しています。事業名は「有珠山火山砂防激特事業」と呼びますが、平成13年度に新規に創設され、特に火山に関連する土砂災害が激甚な地域の砂防事業として採択されるもので、この有珠山と、現在、火山噴火で全島民が避難している三宅島が採択されたとのことです。
具体的には、西山川、小有珠川、小有珠右の川各河川の谷出口に、それぞれ遊砂池を築造する計画ですが、今年から5ヶ年で遊砂池の施工や施設内の団地、家屋などの補償、用地買収に着手します。対象地の面積は約20ヘクタールで、道が事業主体となって行います。この春に、地域の方々にも集まっていただき、事業の説明会を行いましたが、地域住民の皆様は大筋で納得していただきました。現在、土地・建物の評価を進めており、秋頃には終了します。関係者が200戸程ありますから、調査が終わり次第、個別に補償額を提示して契約する作業となりますが、建物の場合は、現状のままの形で評価します。つまり、壊れた家は壊れたままで評価額を決め、補償するわけですから、その点で住民感情が難しいところです。
――住民への代替地の用意は
安藤
それについては虻田町のほうで検討していただくことになります。同町の月浦地区には、現在も避難のための仮設住宅が建っていますが、そちらのほうに住宅以外の、小学校などいろいろな公共施設も移していくか、または他の適当な場所に代替の住宅を建設していくことになるのではないかと思います。
――現在、大型ブロックが積んである虻田町洞爺湖温泉地区火口側の区域は、今後は道が管理していくことになるのでしょうか
安藤
そうです。砂防地は道の管理敷地で、20ヘクタールもの空間ですから、いろいろな形で有効活用できるのではないかと思います。
――有効活用について、市民グループの提案もあるようですね
安藤
被害があった町営住宅や流された橋など、遺稿として将来的に見てもらえるように残してほしいという要望もあります。また、地域住民が主体となり「560万人の観光地づくりを考えるワークショップ」を開催し、室蘭土現としても、このワークショップにはオブザーバーとして参加し、砂防空間を有効利用して温泉街の活性化を図ろうと活動しています。
――今後、観光客が大型バスで入ってくるなどすると、道路整備は非常に重要ですね
安藤
既存の道路改良は当然として、物流や観光という観点からだけではなく、新たに避難道路的な観点からの道路網の見直しも必要でしょう。昨年に、町道から道道に昇格したものもありますから、鋭意整備を進めていかなければなりません。
今回の噴火では、高速道路がしばらくの間、通行止めとなり、国道37号やJRも当時は不通となりました。また、洞爺湖と虻田町の本町側(噴火湾側)を結んでいた国道230号は、今回はその中心に火口が出現し、現在も通れません。洞爺湖と噴火湾の間は4qあまりしか離れておらず、この短い区間に北海道の神経が集中しています。高速道路、国道、jrが全滅して、北海道経済がほとんど麻痺する形になりました。それほど、この区間は脆弱な部分であり、それでいて重要な部分でもあります。したがって、新たな道路網を、例えば、高速道路の北回り、小樽から倶知安経由のルートなどについても整備していく必要があるのではないかと思います。
――噴火前には胆振圏だけでも560万人もの観光客が訪れていましたが、それが一気に減ってしまいました。経済的にも相当な打撃になったのでは
安藤
北海道の経済は、観光で支えている部分が非常に大きいですからね。現在は噴火終息宣言も出されていますが、まだ半信半疑のムードもあるのではないでしょうか。聞くところによると、修学旅行が大分減っているそうですね。7、8月は主に一般の観光客が訪れる時期なのですが、5、6月には修学旅行生が洞爺湖温泉に入り、賑わっていたものですが。
来なくなった理由の一つは、病院です。これまでは洞爺協会病院がありましたが、こうした大規模病院があれば、夜間に子供達に何かがあってもすぐに対応できます。これが、修学旅行先選定に当たっての大きなファクターとなるようです。ところが、洞爺協会病院は被災してしまい、今後は移転開業する予定ですが、やっと移転先が決まったところで、こうした医療施設など、それをサポートするいろいろな施設の回復状況が見えてこないという問題があるのではないでしょうか。
観光の周遊メインルートは洞爺湖と登別温泉ですから、洞爺湖に人が入らなければ、登別にも人が向かいません。周辺であるニセコも、影響はあると思います。 
――室蘭土木現業所として復旧を進めてきた公共土木施設は、ある程度使える状態にまでは回復してきたのでしょうか
安藤
幸いにして、道道部分については大きな被害がありませんでした。降灰の除去や路面のひび割れの補修などは必要となりましたが。
――道道に昇格した箇所については
安藤
虻田本町から月浦に抜ける洞爺虻田線などは、すでに発注しています。本町側と温泉側を直結するルートがすぐにでも必要だと思っています。洞爺虻田線は不通区間が2qくらいあるのですが、これを今年から3年で整備します。
ちなみに、この区間では町道虻田ノットコ線が唯一通り抜けられる道路です。しかし、道路の勾配はきつく、カーブも急で、大型車は通れません。 
――砂防ダムの工事については
安藤
板谷川の1号ダムから3号ダムまで3基施工中ですが、今年中にすべて完成する予定です。
また、板谷川の流路工についてもまっすぐにする切り替え工事を行っています。湾曲があると、泥流が溜まって抜けず、溢れたりしますからね。
――漁港の整備も進める予定ですね
安藤
大磯地区に虻田漁港の分港を作ります。ここには、漁港機能だけではなく、巡視船が入れるだけの施設やヘリポートも設置します。漁港にヘリポートを作るというのは全国でも初めてのことですが、ハザードマップ(災害予想区域*)から外れた緊急避難の場所として、救援物資を集め、ベースとなって災害活動ができる場とすべく来年から事業に着手する予定です。
 この他、これから行おうとしているのは、洞爺湖の水位調整施設の整備です。今、北海道電力が発電用に洞爺湖流出口で取水しています。通常時は問題ないのですが、もし災害時に、北電が取水できなくなった場合、湖の水位がどんどん上がっていき、温泉街が水浸しになる危険性があります。そのため、確実に水位調整のできる堰を作ろうと、現在、調査を行っているところです。
(*)過去の噴火の地質(科学)的なデータ・災害記録を参考に、噴火時に想定される災害予想区域を地図上に示したもの。
――現場で工事に当たる業者の安全対策については
安藤
火山灰が山の上部にあるので、それが少しでも動いた場合に関知するセンサーや監視カメラを設置したり、あるいは監視員を置いたりといった安全対策を行っています。一番注意しなければならないのは、春先の雪解け、大雨による泥流です。今年はまだ雨があまり降っていないのですが、例えば、工事の中止、継続を判断するための降雨量の基準を設け、安全の確保に努めています。

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