建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ1997年10月号〉

interview

全国に先駆け汚泥処理に着手

世界で初めて燃料電池を開発

横浜市下水道局長 安久津 赳 氏

安久津 赳 あくつ・たけし
昭和14年6月11日生まれ、38年北海道大学工学部衛生工学科卒
昭和 38年 横浜市土木局に入庁
51年 下水道局第二下水道建設事務所長
55年 下水道局中部設計課長
58年 下水道局副主幹(日本下水道事業団派遣)
60年 下水道局施設課長
62年 下水道局担当部長(日本下水道協会派遣)
平成 2年 道路局南土木事務所長
3年 下水道局管理部長
6年 下水道局理事兼経営企画担当部長
7年 下水道局長
横浜市の下水道の歴史は古く、明治2年に外国人居留地に下水管きょが築造されたのが始まりという。しかし、戦前においては系統的な下水道整備はほとんど行われず、下水処理場を備えた本格的な整備がスタートしたのは昭和30年代に入ってから。その後、人口の急増に伴って公共下水道整備を重点的に推進、現在は11処理場と2汚泥処理センター、24ポンプ場が稼働、普及率は98%に達している。全国的にも早くから汚泥処理に取り組み、最近では処理過程で発生するメタンガスを有効利用して、燃料電池の実用化実験に世界で初めて成功、横浜発のニュースはロイター電で世界各国に配信された。また、同局では河川事業も所管しており、都市河川としての先進的な整備と河川の有効利用、また開発業者には遊水池の整備を義務づけるなどの施策を行い、治水対策に万全を期している。横浜市の安久津赳下水道局長にご登場いただき、下水道事業と河川整備事業の現況と課題を伺った。
――局長は北大工学部衛生工学科を卒業されて、昭和38年に横浜市に入庁されたのですね
安久津
大学の恩師から、下水道・水道は都市の仕事だから、なるべく全国展開を考えなさい、つまり本州の大都市で仕事をしろと勧められたこともあって横浜市に奉職したのです。当時は景気がよくて、地方自治体は人手不足でしたから、学生にとって役所は比較的売り手市場でした。
――横浜市の下水道はほぼ行き渡ったようですね
安久津
そうです。しかし、整備率がよく話題になりますが、都市において水道、下水道はあって当たり前のものです。下水道を整備するのは決して目的ではなく手段にすぎない。私は、整備率が100%になって初めて下水道事業は成熟するものと思っています。
一部には、普及率が98%にもなっているので、もはや下水道局は必要ないという意見を耳にしますが、これは本末転倒の論議です。公共事業はモノを作ること自体が目的と思われていますが、下水道は重要なライフラインでもあり、施設の維持管理も重要ですし、機能確保のため施設が老朽化すると改築も必要です。浸水対策となるとまだ6割にも達していない状況です。
現在、磯子第二ポンプ場、北部第二、神奈川下水処理場内ポンプ場、新羽末広幹線を建設中ですが、今後とも段階的に整備水準を上げていきたいと思っています。
――横浜市の下水道整備の変遷は
安久津
横浜の下水道事業は2000年、3年先には50年を迎えますが、最初は民家の周りからドブ川をなくすことを目的に浸水対策として始まったのです。
しかし、その後は水辺環境の改善など市民の要望が多様化してきたことから、今日では公共用水域の水質保全や処理水の再利用のため高度処理技術の開発を行っています。都筑下水処理場では、窒素・リンを除去した高度処理水をさらに凝集ろ過とオゾン処理によって、にごり、色、臭い、大腸菌を除去したあと、せせらぎ用水として再利用しています。
――下水道の維持管理には、どのような工夫をしていますか
安久津
下水道施設の運用を効率的に推進するために、市内に張り巡らされた膨大な下水管きょ台帳のデータベース化(注1)や、横浜市周辺に降る雨の状況を把握するレーダ(注2)を設置し、集中豪雨などに迅速に対応できるようにしています。
また、処理場、ポンプ場のコンピューターによる自動化、汚泥の集約処理、処理水の場内再利用など省力化、資源化に取り組んでいるところです。
ロイター電に乗った燃料電池
―汚泥処理も早くから取り組んでいますね
安久津
下水道普及率の増加や処理水質の向上に伴って、汚泥の発生はますます増えていきます。このため、下水汚泥を緑農地へ還元する技術や、焼却灰を有効利用する技術が注目されています。乾燥肥料は札幌のコンポストより古く、20年前から実施しています。汚泥を燃やすと砂に近い良質の土になり、捨てる灰も少ない。これらはレンガや改良土の原料になっているほか、園芸用培土として活用する研究も進めています。
また、汚泥を処理する際に発生するメタンガスの濃度は60%程度で、都市ガスのメタンガス濃度95%に比べてかなり低いのですが、これまではこのガスでタービンをまわして発電してきました。汚泥センターの電力の60%を賄ってきました。
この度はメタンガス濃度が低く、難しいと言われていましたが、民間との共同研究で燃料電池の開発にも成功しました。これは、国内はもとより世界でも初めてのことで、ロイター通信が全世界にニュース配信しました。
――秀でた技術を次々と開発してきたようですが、技術開発専門のセクションがあるのですか
安久津
昭和40年度に下水道研究室を設置して、これらの技術開発に取り組んできました。その意味でも横浜は下水道事業の先進都市といえるでしょう。
下水処理水を多角的に活用
―処理水は他にも様々な有効利用が可能では
安久津
下水処理水は日量120万〜130万トンに上りますが、このうち1万トンを先に述べたせせらぎ回復に利用しています。本年度からは処理水を横浜国際総合競技場に送り、冷暖房の熱源や雑用水に利用しています。また、隣接している清掃工場の冷却水にも活用されています。
ただ、現段階では高度処理のコストを料金に転嫁することはできませんので、高度処理が施されているのはまだ一部に過ぎません。しかし長期計画の「ゆめはま2010プラン」では、2010年に高度処理50%の目標を掲げています。
――一昨年は、水不足に悩まされましたが、処理水を民生用として供給してみては
安久津
神奈川県では30年ぶりの渇水でしたが、それ以来、街路樹や道路の散水には下水処理水を活用しています。いちいち職員に断わらなくても済むように専用のプリペイドカードを開発して、24時間いつでも利用できる施設を設置しました。
――高度処理によって、処理水を飲料水としてリサイクルすることは、技術的には可能でしょうか
安久津
それは可能です。すでに技術も確立されています。しかし、それを飲料水とするには、市民の抵抗感があり、実情は難しいものがあります。
――河川水の利用も考えられますね
安久津
河川水の場合は、地震対策として消防用水に利用しています。ホースを入れやすいように階段護岸にしているのもそのためです。
――河川整備においては、最近は親水性の高い川づくりに関心が高まっています
安久津
あまり宣伝していませんが、横浜ではすでに多自然型工法に15,6年前から取り組んでいます。とはいえ、都市における河川事業は治水が最も大事ですから、治水を犠牲にしてまで環境整備を進めるわけにはいきません。
川を自然のままにしておくと、大雨が降った時には瞬く間に溢れる可能性がありますから、バランスを考えなければなりません。
横浜には大河川はなく、鶴見川ですら総延長が100キロ程度です。ところが、鶴見川は有名な暴れ川で、治水対策では建設省の最重点河川に指定されているほどです。川幅は以前のままですが、かつては水田地帯だった流域が完全に都市化しているため、拡幅するわけにもいかないのです。
開発業者に遊水池を義務づけ
―そうなると、治水対策はかなり難しくなってきますね
安久津
このため横浜市は開発行為の条件として、開発業者に遊水池の設置を義務付けており、これに伴って現在、市内の遊水池は1千か所を数えます。デベロッパーの間では、この条例は評判が悪かったのですが、敢えて全国に先駆けて導入しました。この結果1千か所のうち800か所は民間の所有です。
私が横浜市役所に入った昭和38年当時の人口は150万人でしたが、最盛期には年間10万人単位で増え続け、現在は330万人ですから、過密都市の治水対策として遊水池は有効であり、重要でもあるのです。

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