建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2001年月9号〉

interview

北国だから実感できる「あたたかさ」あふれる札幌中心部の地下街

民間・行政を通して「札幌」を見つめ続けて来た40年間の思いを新たに

株式会社札幌都市開発公社 代表取締役社長 魚住 昌也 氏

魚住 昌也 うおずみ・まさや
昭和 13年 4月 10日生まれ 東北大学工学部土木工学科卒
昭和41年 8月 札幌市役所採用
58年 6月 下水道局工事部管渠次長
58年 9月 下水道局業務部部長職
60年 7月 下水道局施設部長
62年 6月 建設局長
平成3年 6月 助役就任
13年 3月 助役退任
13年 6月 株式会社札幌都市開発公社代表取締役社長就任
札幌の中心街を地下通路で結び地下鉄大通駅と直結する「札幌地下街」が完成したのは、今から30年前、道都・札幌市が悲願の「人口100万人突破」を達成し、市役所の新庁舎が完成した年でもあった。地下街は雨風を凌ぐとともに、厳しい冬が訪れる本道にあって、市民にはかけがえのない空間であると同時に、新しい都市空間としての可能性を与えてくれる。価格破壊による消費者物価の低迷に加え、消費マインドの低迷が札幌の商業を直撃する中、札幌市中心部の地下街を管理する札幌都市開発公社の魚住昌也社長は、「大切なのは私たちの利益を追求することではなく、テナントのみなさんとささやかなことでも話し合いを持ちながら、常にお客さまに楽しい環境を与え続け、愛される地下街であり続けること」と語る。この6月に就任した魚住新社長に、今後の戦略などを聞いた。
――札幌地下街は、今年で30周年を迎えましたね
魚住
今年の11月で30周年になりますが、その年に就任したのは大変に光栄です。公社のために、地下街のために頑張っていこうという思いでいっぱいです。
公社としては、30周年の記念行事として杉本前社長のアイデアを活かし、特に「バリアフリー化」を進めていく方針です。地下街に通じるエレベーターを設置するほか、点字シートを設置して障害者の方々にも利用しやすい地下街を目指します。
札響(札幌交響管弦楽団)が今年で40周年を迎えますから、これとタイアップし地下街の「オーロラタウン」で、月に1回のコンサートを開きます。こうしたイメージアップを図っていくことは非常に有効です。
いまのところ“30周年記念セレモニー”までは考えていませんが、この30周年を機に、改めてみなさんに「地下街」を見直してもらい、それが販売促進につながるようなイベント戦略を考えていきたいと思っています。
――地下街の防災対策については
魚住
地下街で最も大切なことは、言うまでもなく「楽しい環境」を提供することですが、その意味では「防災対策」も重要です。火災、地震などの様々な災害については、いろいろな事業者と協議会を設け、私が会長となって話し合いをしています。また、地下街に接続するビルの事業者の協力を得ながら、実際に災害の訓練も行っています。
最近では、集中豪雨によって、地下水害が発生した都市もありますが、札幌は幸いにまだ遭遇していません。しかし、防災についても現在の計画と整合性が取れるようにぜひ進めていきたいと考えています。
――地下街運営における今後の展望は
魚住
経済情勢は厳しい状態が続いており、経済行動における一人当たりの単価も安くなっています。最近では大丸、ジャスコなどの大型店舗が進出して来ており、ますます地下街の存在感が薄れてつつある感もありますが、「札幌地下街」は歴史があり、しかも地下鉄大通駅と直結しているため、東西南北の中心部にあるという絶好の立地環境があります。その意味でも、テナントのみなさんと協議して、公社ともども「よりよい地下街」を創り上げていきたいと考えています。
――地下鉄大通駅と札幌駅に通じる地下通路の計画は
魚住
札幌市の“五箇年計画”ではすでに調査費も計上されていますが、財源の問題があるほか、市民とのコンセンサスをもっと深めて、様々な議論を重ねながら、実現に向けて進めていくことが大切と思います。
現在は我々の「大通駅の地下街」と、「札幌駅の地下街」とが分断されているため一体感がない状況ですが、地下通路が実現すれば、札幌駅を降りて「すすきの」まで歩く人が増え、お客さまを共有できるという最大のメリットも生まれるはずです。
――札幌市助役として10年間勤めたので、行政的な視点を活かせるのでは
魚住
私は民間人として5年4ヶ月ほど、行政官として34年8ヶ月ほど従事しましたが、助役職は9年10ヶ月に及びました。在任中は、辞任する4年前の平成9年6月から厚別区「新札幌」の中心的商業施設などを計画・管理する「(株)札幌副都心開発公社」の経営に参画しましたので、公社の置かれている環境については充分理解できますし、これまでの経験を活かしていきたいと思います。
――公社の経営状況は
魚住
順調に推移しており、今年は6%の配当をしました。また利益については、「よりよい地下街づくり」のために活用していきたいと考えています。
――テナントの売り上げ状況は
魚住
昨年は若干持ち直しましたが、決算期には3.8%くらいダウンしています。しかし商店街で3.8%ならば、善戦していると言えます。
しかし、油断できない状況は続いており、ひとつひとつのテナントも危機感を持っています。そのために「公社は何ができるのか」をともに考えていかなければならないのです。
テナントのみなさんにも話しましたが、「何かあれば相談してください」と常に訴えています。こちらもテナントの声を真摯に受け止め、“できるもの”から実行していき、“できないもの”はみなさんと話し合いながら進めていこうと考えています。
――札幌には厳しい冬があり、寒さを凌ぎながら街中を行き来できる地下街は、市民にとっては無くてはならないものです。冬の季節が訪れた時の「地下街の賑わい」に驚かれている観光客の声をよく耳にします
魚住
そうですね、札幌にはやはり降雪をともなう“冬”という特有な風土があり、その反面に「あたたかさ」を感じられる特有な風土でもあります。北方圏にある北国の札幌にとって、地下街は欠かせないもので、炎天下の真夏でも地下街では快適に過ごすことができます。
そのためにも、防災対策は大切で、“楽しい環境づくり”と“安全”のバランスがあってこそ「みなさまに愛される地下街」となるのです。

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