建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2000年9月号〉

interview

有珠山復興事業がいよいよスタート

現場の声を政策に活かす仕組みづくりを

北海道建設部長 相馬 秋夫 氏

相馬秋夫 そうま・あきお
昭和19年2月生まれ 帯広市出身、北大法卒。
昭和 53年 十勝支庁振興課企画係長
55年 総務部文書課主査
58年 総務部法制第2係長
60年 総務部人事課職制係長
62年 総務部人事課長補佐
平成 元年 空知支庁地方部長
3年 総務部知事室参事
5年 総務部人事課長
7年 総務部次長
9年 総務部職員監
11年 網走支庁長
12年 現職
有珠山噴火にともなう国道、道道の通行規制は解除され、いよいよ復興事業が始まる。その中心的役割を担う北海道建設部は、前任部長の逮捕、入札問題など、様々なアクシデントに見舞われたが、気落ちしている場合ではない。後任部長には、事務職の相馬秋夫氏が就任したが、人事課長、総務部次長(人事担当)を経験して人事に通じ、また組合対応の窓口となる総務部職員監としての経験もあることから、職員の心情を深く掌握している。建設部は社会の厳しい目に晒されているが、職員を激励しながら技術職とは違う発想で建設行政に取り組もうとしている。
――有珠山周辺の現況は
大石
私が就任したのが有珠山の噴火直後で、急きょ現場を視察しましたが、今では活動が落ち着いてきたことに伴い、避難指示地区の大部分が解除されました。しかし、残された避難指示地区内には202世帯があり、避難指示は解除されたとはいっても、住宅の被災などでいまだに自宅に戻れない人も数多くいます。
道としてはこれまで、国や地元市町など関係機関と密接な連携を取りながら、住民の安全確保を最優先させて対応に努めてきましたが、有珠山周辺道路に関しては、これまで、一時帰宅の拡大に伴って順次路面の降灰除去を行い、7月14日の道道洞爺湖登別線の通行規制の解除をもって、ようやく道道の通行規制はすべて解除されました。
この後、月浦地区と虻田町市街地を結ぶ町道虻田幌向線の6.7kmの区間を区域変更により、道道洞爺虻田幌線に編入し、整備を進める予定です。
また、通行止めとなっている国道230号の代替機能を確保するため、道道豊浦洞爺線、豊浦京極線の一部区間が、国道230号に編入され、国によって整備が進められることになりました。
――現地での対策は万全ですか
大石
応急の仮設住宅については、7月19日に2次分293戸が完成し、1次分440戸と合わせ計733戸の建設を終えています。
洞爺湖温泉地区の下水処理は、「虻田町公共下水道復旧プロジェクトチーム」によって調査が実施され、7月1日から移動式の暫定処理施設が稼働しており、10月末までにこれに代わる仮設処理場の1期分が完成する予定です。
虻田町の市街地を流れる板谷川については、噴火による火山灰が今後の降雨によって流出するおそれがあることから、河川と砂防工事を実施しています。
下流部においては、既存の遊砂地に堆積している土砂を取り除き、大型土のうによる導流工の設置、泥流監視のための監視カメラや雨量計、水位計などを設置しています。また、災害関連緊急砂防事業により道央自動車道の上流側に無人化機械で遊砂地を造成しています。
洞爺湖温泉を流れる西山川では、流出した金比羅橋の撤去を行うとともに流路工内の堆積土砂の除去を行っています。また、泥流対策として、洞爺温泉小学校グラウンドに大型土のうを設置しています。
今後、導流堤などの砂防施設の整備を進めるとともに、監視カメラの設置など警戒避難体制の整備を予定しています。
この他、道としては、周辺地域において将来の災害にも備えた本格的な復旧・復興に向けた対策を早急に推進するため、総合企画部に有珠山火山活動災害復興対策室を設置することにしています。 建設部としても、この対策室と連携を図り、生活基盤の整備などに全力を尽くしていきたいと思います。

――災害時には、建設業界の協力も不可欠ですね
大石
まず噴火以来、道道の降灰や砂防ダム・流路工の土砂の除去など、緊急の作業にあたり、地元を含めた建設業者の方々のご尽力には感謝したいと思います。
多くのホテル・旅館がある地区においても避難指示の解除が進み、既に営業を再開しているところもありますが、今回の災害は、地域の基幹産業である観光への甚大な影響はもちろん、本道全体の観光にも大きな影響を及ぼしています。また、噴火の影響で失業や休業を余儀なくされた方々の雇用の場の確保も大きな課題となっています。
そこで、これまでも業者の皆さんにお願いしていますが、こうした状況を踏まえ、労働者の確保にあたっては、地元のハローワークと連携を取って、極力、地元からの雇用を優先するほか、資材などの購入にあたっては、地場での調達に一層配慮していただきたいと思います。
今後、復旧対策が本格化してきますが、周辺地域の一日も早い復興に向けて、建設業関係者のより一層のご協力をお願いしたいと思います。
――火山灰の処理と有効活用については、どんな取り組みをしていますか
大石
西山川に堆積した土砂は、現在も火山灰の除去作業中ですが、温泉街を通る道道洞爺湖登別線については、すでに火山灰の除去作業も終わり、交通に支障のないようになりました。今後は、清掃など必要に応じて行っていきたいと思っています。
除去作業で集めた火山灰は、長流川の堤防の外側に捨て土しており、周囲に盛土を施すなど、流出防止には万全を期しています。また、これまでの除去量は、仮置き分も含めると4万F近くになっています。
北海道のホームページに「有珠山噴火に伴う火山灰等の処理及び利用に関する技術全般」の募集を行ったところ、20件(8月1日現在)の情報が寄せられました。提供して下さった方には深く感謝しています。提供していただいた技術情報については地元の「有珠山降灰対策連絡会議」に送付し、今後の利活用の検討の際の参考にさせていただくことになっています。

――公共事業の発注方法が批判されていますが、建設部として、今後の発注システムはどう変わるのでしょうか
大石
入札・契約手続の改善について、道は4月に「入札制度改善行動計画」を策定し、公正で透明性・競争性の高い入札制度の確立に向け、この5月から入札制度の改善のための取り組みを進め、これまでの枠組みにとらわれない、抜本的な制度改革を推進していくことにしています。
この行動計画は、「競争性の確保」、「不当な関与の排除」、「実効性の確保」を基本的な視点として、公共事業に係る入札制度を企業の経営努力などが的確に反映される制度に改善することなどを目的としたものです。
この中で一般競争入札、地域限定型一般競争入札、公募型指名競争入札及び工事希望型指名競争入札を合わせて、今後3年間で、工事全入札件数の30パーセントまで拡大するという実施目標が設定され、建築と土木の各部門ごとの年次計画が示されたところです。
また、指名に関する恣意性を排除するため、具体的で明確な指名基準による業者の選考、さらには、この中からの無作為な選定を行う「ランダム・カット式」指名競争入札への移行のため、この方式の試行を実施しています。
――制度改正について、業界側は難色を示しているようです。建設業は、新企画を基に新商品を開発して市場に投入するメーカーと違い、受注産業なので市場競争にはなじまず、また災害時の緊急出動といった公益的な役割も持っていることから、経済競争を促すシステムに移行していくのは疑問という指摘もあります
大石
道民生活や産業振興の基盤づくりに大きく寄与している建設業の振興を図りつつ、道が策定した行動計画について業界団体などを通じ関係者に趣旨を十分説明し、その着実な推進に努めてまいりたいと考えています。

――ところで、インフラ整備については、いろんな意味で道民が感心を持つようになりましたね
大石
確かに、最近は道民の納税者としての意識が高まり、建設行政に対するニーズの多様化や環境問題への意識も高まっており、さらには地方分権の進展によって、社会資本整備の進め方や結果に対する説明責任(アカウンタビリティ)が、一層求められています。
建設部としてはこれまで、地域住民への理解促進のために土木現業所で工事現場見学会やパネル展などを実施し、情報の提供に努めています。また、事業の検討・計画時などには、住民ニーズを反映するための意見交換会を開催しています。
特に河川整備計画の策定に当たっては、地域の意見を反映させる手続きが導入され、各河川ごとに地域住民、学識経験者からなる検討会を設置して策定作業を進めており、また、北海道景観形成基本計画の策定過程においては、広く道民から意見を聞くためにキックオフ・レポート(住民アンケート調査)を実施しました。
また、今年度から取り組む海岸保全基本計画の策定においても、同様に道民の意見を積極的に取り入れることにしています。
一口に説明責任と言っても、非常に幅の広い概念ですが、地域や住民とともに仕事をしていくという行政の姿勢を示したものと考えています。特に、地域においては、住民の行政への参加要求が高まってきており、これに具体的に応えていく必要があるものと思います。
今後も、事業の企画立案から計画策定、維持管理に至る各段階において、道民との情報の共有化を進め、幅広く建設行政への住民参加を推進していきたいと考えています。
そのためには、事業の計画段階から、住民にわかりやすく情報を伝え、道民意見を適切に反映していくための仕組作りを検討していくことが必要です。
――不幸にして建設部は、前任の部長が逮捕されたり、入札の仕方に問題点が指摘されたりで、職員の志気も下がっているのでは
大石
確かに、様々な問題が表面化しましたが、極端に落胆しているというわけでもありません。私としても、職員が意欲を失わないよう出先機関を含めて、職場を回ってみたりしています。特に、室蘭土木現業所職員は不休で有珠山対策に当たっていました。多くの職員は、真面目に頑張っています。
職員の意欲を喚起するために、私が現在、考えているのは、職員のアイデアを政策に活かすための仕組みをつくることです。眠っている良いアイデアをこれから積極的に採用していこうと考えており、それを募っていこうと思っています。

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