建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2000年9月号〉

interview

東海環状自動車道と第二東名神整備に全力

世界に誇れるIT道路に

建設省中部地方建設局道路部 道路調査官 木村 邦久 氏

木村邦久 きむら・くにひさ
昭和34年3月21日生まれ 本籍埼玉県
東京大学大学院土木工学科卒
昭和 59年 4月 建設省入省
平成 4年 10月 関東地方建設局企画課長
6年 7月 道路局道路交通管理課補佐
7年 11月 土木研究所道路研究室主任研究員
10年 4月 中部地方建設局名四国道工事事務所長
11年 9月 中部地方建設局道路部道路調査官
わが国の中心に位置する中部管内は、関東と関西をつなぐ交通の要衝となっている。このため、通過交通の多さがネックとなり環境に様々な負荷が与えられている。この通過交通を迂回させることが、管内にとっての緊急課題だ。そこで中部地方建設局は、これを解決するため、東海環状自動車道の整備を急いでいる。一方、伊勢湾岸には第2東名高速道路と名神高速道路の整備も進められており、管内の交通網は着実に構築されつつある。地建道路部の木村邦久道路調査官に、管内の交通問題と、道路整備の展望などを伺った。
――中部管内の中心都市である名古屋市内を見ると、全体的に道路の幅も広く、よく整備が進んでいるようですね
木村
確かに、名古屋市内に関しては、100m幅の道路もあります。ただ、都市部市街地の一角だけが行き届いているだけで、それ以外の地域では整備も途上にあり、いまだにネットワークはできていないのです。
名古屋圏の環状道路整備率を見ても2割、このため幹線道路には、2割の通過交通が入り込んでいます。そのため、騒音や大気汚染など、環境面で悪い影響を与えています。したがって、これからネットワークをしっかり構築する必要があります。
現在、日本道路公団が、湾岸方面に一本、第二東名、名神高速道路を整備しており、3年後に完成します。また、地建としても環状道路、東海環状自動車道という主要事業を進めています。これについても、東側の半分70キロ分を、向こう5年くらいで完成させようと、集中的に整備を進めています。
管内愛知県では、万博や中部空港整備という大プロジェクトを控えており、これらプロジェクトを支えるためにも、ネットワークの構築を精力的に進めています。
――地域間のアクセスを向上させなければなりませんね
木村
アクセスの向上も必要ですし、都市部の通過交通対策も必要です。それを湾岸、環状道路で迂回させることで、環境面でも向上していきます。
――通過交通の内訳は、東京−大阪間が最も多いのですか
木村
一概に東京とは限りませんが、静岡、神奈川、東京方面と京都、大阪との間での往復が多いようです。最近の景気の低迷から、輸送業者は通行料を節約するため、東名高速道の岡崎インターで降りて国道1号や23号にルート変更してしまうのです。特に夜間ならば、比較的すいてますから。しかし、夜の騒音で沿道住民は大変です。
のみならず、昼間の渋滞にも拍車をかけています。現在は、東西交通といえば、東名名神高速道しかないので、それを補完するために第二東名名神高速道の整備を進めています。
一方、湾岸以外の内陸部に関しては、東海環状自動車道の東半分70キロを急いで完成させようとしているところです。
――東海環状自動車道ができれば、通過交通は、名古屋都市圏を迂回することができますね、その結果、東名名神への負荷も軽減されるのでは
木村
そうですね、ネットワーク効果は非常に大きく、現東名神の混雑解消にも大きく寄与します。また、今年は東海北陸自動車道が、清見へと富山側にさらに伸びます。中京、関西圏と飛騨地域の結びつきはますます深まります。実際、東海北陸自動車道ができて、関西方面からのスキー客、観光客も岐阜に来るようになりました。
最近の道路整備の効果事例としては、平成9年12月に開通した安房トンネルが挙げられます。このトンネルによって、冬季6ヶ月通行止めになっていた安房峠が通年通行可能になりました。開通後1年間高山市での観光客増185万人、観光消費額増200億円。民間誘発投資も60億円と、経済効果が1200億にものぼっています。
また、高山〜東京間の直行高速バスが運行を開始し、関東地方を含めた広域的な交流が可能となりました。
このように、道路整備で人やもの動きはかなり変わってきています。
これまで、中部はどちらかといえば、大阪、東京にしか顔が向いていませんでした。道路網の体系がそうさせていたのですが、東海北陸自動車道によって、北陸との結びつきも深くなるでしょう。
――新しい経済圏域が形成される可能性がありますね
木村
そうですね。したがって、東海環状が主要プロジェクトであるのは、通過交通対策という意味合いだけではないのです。
もちろん、この他にも国道23号、1号など東海道沿いの国道が混んでいるので、そういう箇所のバイパス整備は引き続き重点的に進めています。
現在、整備中の第二東名のほか、国道の方も肝心の立体交差ができずに渋滞を起こしている交差点もあります。そういう地域の立体化や、バイパスの整備事業も行っています。
――新しい中部空港もできてきますね
木村
伊勢湾の知多半島沖にできます。名古屋から30キロのところにあり、都心から、30分くらいで到着できます。関空では都心から1時間かかるし、成田でも2時間以上はかかるといわれます。その意味では、都心と隣接した空港で、3大都市圏の中では、一番使い勝手のいい空港となります。
名古屋は東京のように、狭い地域に人がひしめいているのではなく、適度な集積がありますから、地域連携を支えるインフラ整備により、いよいよこれから大きく発展していく時期だろうと思います。
――難しい問題とは思いますが、都心部と郡部では、発展の度合いが異なります。そのため限られた道路財源の制約の中で、道路整備の優先順位をどうするかが常に関心事となります。中部地建では、当面は東海環状にシフトしているとのことですが、郡部から要望などはありませんか
木村
都市と地方のどちらかが勝ちということではなくて、現状ではどちらも必要だと思います。今までは、都市部は概ね整備が済んでいるから、郡部の整備を急ぐべきという感がありました。しかし、逆に都市部の渋滞、非効率が目立ってきたため、最近では、やはり都市部の整備も必要ということで、現在は都市と地方の両方のバランスを取りながら進めているという状況ですね。
――公共投資の経済効果が現れないのは、投資対象の軸を産業インフラから生活インフラに変えたからだという、見解があります。この考え方からすると、経済効率の良い都市部の道路整備にシフトするのはやむを得ないのでは
木村
しかし、都市部の人々は、地方部に住む人々によって国土が守られているという自覚を持つべきだと思います。例えば、水にしても、地方ではぐくんだ水が都市部で大量に使われています。電力も、地方の原発に全面的に依存し、都市部の人が使いたい放題に使っています。それでいて原発は不要などと理不尽な発言を一部の方がしますね。
国土も同じです。生まれ育ったふるさとにずっと住んでいたいと思う人がいるからこそ、都市の人から見て不便でも先祖代々の土地を守っています。ところが、田畑や山を守るという人が、最近はいなくなってきました。高齢化が進み、山が荒れてきたとのことです。
人口は少なくても、人が住んでいる以上は、そこに最低限の生活の利便性と安全は保証されなければなりません。病気なのに道路が不便で、例えば冬季通行止めで、医者にもいけないのは問題です。したがって、「わずか数百人の村のために道路を造るのは無駄だ」という主張は、経済的側面だけで考えれば理解できますが、郡部の人たちの生活を守ることも大切なのです。
一方、そのために都市部の整備がおざなりになってきたという感はあると思います。郡部重視だった道路整備の方向性、都市部重視へと移行しつつあります。このため今後は、「道路整備によって所要時間が5分早くなります」とピーアールしても、東京のような大都市の人は納得しないでしょう。むしろ、雨で年間何回も通行止めになるような道路では、病人がでても医者にもいけずに大変であること、冬季の降雪で、閉じこめられるため福祉、医療面で切実な問題を抱えていることなどを説明しなければ、理解されないと思います。
我々事業者側も、道路が人の生活にとって、どれだけ必要があるのかを分かるように説明しなければ、説明責任は果たせないでしょう。
――ところが、東京都内では、道路整備そのものに批判的な世論もありますね
木村
要らないというからには、本当にもう十分と思っているのでしょうね。しかし、私個人としては、まだ必要だろうと思うのですが。何しろ、あれほどの満員電車で揺られ、道路は一日中、渋滞しています。首都高の渋滞などは、かなりのものです。
地方部の道路などは、多少、整備が悪くても走れる余裕がありますが、それを見るにつけ、これほど条件の悪い都内で、一部の人とはいえ地元の人々が道路整備を要らないというのは、理解に苦しむところですね。
――ところで中部は、歴史的に領地争いや、権力・家督争いを繰り返してきた戦国の中心地でもあるためか、現代でも地域同士の水争いは熾烈だと聞きます。道路行政を通じてもそれは見られますか
木村
やはり県同士の壁や確執というのはあります。道路の場合は、河川ほどシビアではありませんが、県境で橋を架けようとすると、両県の要望や意見が食い違うことはよくあります。昔から張り合う意識がありましたし、他県ばかりが手厚くされていると憤慨することはあるようです。
以前から、「日本社会は嫉妬の社会だ」という人もいますね。地方はみな、嫉妬の論理にとりつかれているのではないかとのことでしたが、でる杭は打たれ、少し目立つと非難されます。
それよりも、もう少し互いの良いところを認め合うことが必要です。地方は都市に嫉妬するのでなく、都市は都市で良いけども、地方の暮らしも良いのだと誇りに思っていただきたいですね。都市の人は地方に行って、自然文化を楽しみ、一方、地方の人は都市に出かけて買い物などを楽しむというように、互いの特性を活かし合い、互いに生活水準が保たれ、その意味で、都市と地方が一帯の地域だと考えることが必要だと思うのです。
――それが21世紀の新しいグランドデザインの基本ですね
木村
地方の人は、それでも地域振興について、よく考えているなと感じます。市町村は、単に道路整備を要望するだけでなく、その道路を元に、インター周辺をどう開発するか、客をどう呼び込むか、また文化伝統をどう活かすかなどのアイデアを、住民から意見を聞きながら可能性を模索する姿勢が見られるようになっています。
――国でも道の駅をつくって、人が留まるように誘導する施設もつくっていますね
木村
「道の駅」は一つの成功例だと思いますが、もともと休憩施設がなく、国道には、高速道路のパーキングエリアのような、物産館やトイレなどがないということから生まれました。
道の駅はたくさんできてきているので、地元の紹介は当たり前ですが、一本の道路で繋がった前後いくつかの道の駅が集まり、お互い情報発信したり、近隣の他地域を紹介するのもいいでしょう。観光的な使われ方もあり、また地域住民の人が道の駅に行けば、隣町の情報が分かるといった、利便性の向上を図り、単なる休憩と販売の場だけでなく、プラス情報発信情報連携のような使い方が理想です。
――現代はITの時代と言われていますね
木村
そうですね、道路はイコール車の通る道と短絡的に連想されます。しかし、道路というのは場所によって、人が歩くところでもあり、止まってくつろぐ場所でもあり、緑の空間として使える場所でもあります。そして、道路の下を活用すれば、情報網も構築できます。生活インフラが通っている場所ですから、道路を短絡的にただ車のためだけのものという単一な捉え方は、正しくありません。
ただ、その点については我々もピーアール不足だった面もあります。
――アカウンタビリティーも、誰を対象にするかによって、ポイントが変わるのでは
木村
 
いろいろな演出の仕方があると思いますね。求められるものに対して説明していけば、理解も深まるでしょう。地域住民の方にいくら物流効率のことを説明しても、実感は伴いづらいでしょう。むしろ、トラックの通行量が減って、地域環境が良くなると説明した方が理解しやすいでしょう。
したがって、相手の求めに応じて、説明を変えていかなければならず、またそれだけの機能が道路にはあるということですね。
最近は、ようやく道路のバリアフリーも求められるようになり、またitsという道路の情報化も注目されています。最近の代表例は、車用のナビゲーションですが、歩行者用のナビゲーションや、目の見えない人が行き先を告げるとナビゲーションをするようなシステム、また健常者でも、地図機能のある携帯ナビのようなシステムが開発されつつあります。そのために、歩行者用の新しい情報化の取り組みも進めています。
何しろ、10年前にはこれほど携帯電話が普及するとは、誰も予測しなかったでしょう。ナビゲーションも、10年前はわずかでしたが、最近は自動車に標準装備し始めていますね。その意味では、企業が、安全面や利便性を考えた役に立つ製品をつくれば、行政もその対応を考えなくてはならなくなるでしょう。
――実際にその分野は、国の機関で研究されているのですか
木村
歩行者向けITSの研究は、もう始まっています。民間企業にいろいろなアイデアを出して欲しいと呼びかけながら進めています。また、車と道路が連携したITSの研究は、以前から始まっています。障害物警告や出会い頭衝突防止のような安全走行システムは、運輸省と民間の自動車通信メーカーと協力しつつ進めています。
今年からは、高速道路の料金料金所で、停止せずに料金の支払いを可能にするETCも実用化します。そういったITSの成果を、第二東名名神高速を筆頭に、これからできる道路にその技術を導入していこうと思います。それを指して、私たちは「スマートウェイ」と呼んでいます。安全・快適に走るために必要な情報が、車に提供されるという未来の道路を先取りした情報機器を埋め込んだ道路にしようと計画が進んでいます。
――インテリジェントビルの道路版と考えればいいのですか
木村
そうですね。道路と車の双方がインテリジェント化して連携を図って実現するシステムです。
今までも、道路単独、車単独でいろんなシステムが生まれていますが、これからは、連携して、効果的なシステムを目指していく必要があります。例えば、車だけで情報収集するにしても、カーブの先がどうなっているかは、車側から見ようと思っても無理です。そこで道路にセンサー設置し、異常があれば瞬時に後続車に伝えるシステムも考えられますね。
また、万博では人が集中するでしょうから、予約システムができれば、駐車場を予約した車両はスムーズに入っていけることになります。そうすると無意味な混乱はなくなりますね。このように、いろいろな可能性があります。その研究の成果を第二東名名神、東海環状に導入し、モデルケースにする方針です。
当地は、世界のトヨタ自動車の本拠地で、世界に誇る車両技術を持ったところですから、民間とも協力し合って、世界に恥じない道路整備を目指したいと思っています。

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