建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ1999年9月号〉

interview

不況時こそ経済構造改善のチャンス

北海道建設部長 堀 武 氏

堀 武 ほり・たけし
昭和16年生まれ、旭川市出身、旭川北高、中央大法学部卒。
昭和39年入庁
60年 民生部福祉課長補佐
61年 総務部学事課長補佐
62年 同地方振興室振興課長
63年 企画振興部地域振興室地域振興課長
平成元年 同地域調整課長
3年 総務部学事課長
5年 同道庁西地区整備室長
6年 企画振興部プロジェクト調整推進室長兼新千歳空港運用対策室長
7年 住宅都市部次長
8年 企画振興部参事監
9年 網走支庁長
11年 現職。
6月に発表された日銀短観で、ようやく北海道経済に薄日が射しつつある兆候が見えてきた。経企庁の景気分析はまだ微妙な表現だが、平均株価が上昇し、証券大手で収支改善が見られるなどの明るい話題も聞かれ始めた。とはいえ、まだまだ油断はできない。北海道経済部としては、気を緩めることなく自治体として採りうるあらゆる経済政策に取り組んでいる。堀武部長に、道としての経済戦略を伺った。
――かなり難しい情勢下で、経済部長に就任しましたね
前任地の網走で管内の状況を見てきましたが、つくづく経済政策の重要さを支庁長という立場で痛感しましたね。北海道は、これまで政府や地方でも諸官庁に依存する経済構造で発展してきましたが、21世紀に向けて時代は大きく、また急激に変化しつつあります。日本全体が新しい経済社会システムの構築に向けた改革の取り組みを加速させていますから、北海道は、大変厳しい状況に直面しています。
しかし、このような時にこそ、北海道がこれまでの中央依存、官依存から自主・自律の地域社会へと構造改革を進めていく、絶好のチャンスと考えるべきです。
これまで私たちは、新たな可能性を開く企業活動への支援や、多彩な観光資源に恵まれている本道の特徴を生かした観光振興などに取り組む一方、雇用の安定や職業能力の開発といった、個々の道民に直接関わる分野まで、幅広い業務を担ってきました。
今後もこれらの業務を総合的・効率的に推進することで、本道産業、経済の活性化、さらには21世紀の新しい北海道づくりに向けて尽力したいと考えています,
――6月に日銀短観が発表され、7月には経企庁の経済分析が発表されました。共通しているのは、ようやく底を打って反転に向かおうとする胎動が見られるというニュアンスですが、どう考えますか
最近の景気に対する政府の判断によれば、総括的には、「各種の政策効果に下支えされて下げ止まり、おおむね横這いで推移している」とされていますが、雇用面については悪化しているとの認識が示されています。
道内においては、公共工事の道や市町村での発注増加などから順調に推移しているほか、住宅建設の持ち直しや一部個人消費の改善の動きなどから、「景気は依然厳しい状況が続いているものの下げ止まっている」と見られています。
しかし、雇用状況は、1月から3月期の完全失業率が5.1%、4月の有効求人倍率が0.32倍と前年を下回る水準で推移しているなど、依然として厳しいのが現実です。したがって、引き続き特別の配慮が必要と考えています。
――どんな対策を考えていますか
経済部としては、中小・中堅企業の資金繰りに配慮した金融変動対策特別資金の融資粋の拡大や、再就職の厳しい中高年齢者向けの雇用開発奨励金を支給するなど、必要な景気・経済・雇用対策を、すでに当初予算の段階で講じたところです。
また、今回の補正予算においても、必要とされる対策に係る経費を計上し、六つの政策的柱を立てて、平成11年度の施策を推進していきます。
――その内容は
「可能性をひらく企業活動の展開」、「産業技術を多彩に拡げる製造業の新たな展開」、「豊かな暮らしと産業を支えるサービス・流通業の育成」、「魅力あふれる北海道観光の形成」、「エネルギー等の確保・石炭鉱業の存続・産炭地域の振興」、「時代の要請にこたえる雇用環境の創造」ということです。
――「可能性をひらく企業活動の展開」は、いわばベンチャー事業の支援と思われますが、拓銀の倒産以降、地銀も信組もみな貸し渋り状態の中で、それは可能でしょうか
確かに金融機関の破綻などの影響を受け、事業資金の調達に支障を来している中小企業があります。そこで、融資の一層の円滑化を図るため、「金融変動対策特別資金」融資制度を一部改正し、対象を運転資金に限定していたのを、設備資金にまで拡大し、また、融資期間を3年間延長し、10年としました。
また、創業者に対しては、事業の開始や事業開始後5年未満において必要となる資金の調達を支援するため、中小企業振興資金融資制度(産業活性化資金)の新規開業に関する要件を緩和することで、道内における新規開業を促進したいと考えています。
また状況はどうあれ、本道の自主・自律化に向けた経済構造改革を推進し、新たな雇用の創出を図るためには、新しい産業群を形成することは重要です。
したがって、公募による優秀な起業化計画に対する開業資金補助の採択枠を増加するほか、特に厳しい雇用状況にある中高年齢者の起業化への重点的な支援を実施します。
また、新事業創出の促進も必要です。今年2月に施行された「新事業創出促進法」に基づく新たな事業の創出支援体制を確立するため、重点産業分野などについての基本構想を策定します。これによって、テクノポリス地域などの技術や人材、販路などの地域資源の蓄積を全道で有効に活用でき、新事業を創出するための苗床として活用されることを期待しています。
――北海道は四方が海ですから、港湾振興と、これを支える後背地の産業強化も必要では
そうですね。昨年12月の閣議了解で、国家的プロジェクトである苫東開発プロジェクトは、借入金に依存しない形での土地の一体的確保、造成、分譲を行う新会社が設立されることとなりました。
苫東開発プロジェクトは、北海道の将来にとって極めて重要なプロジェクトですので、地元としての役割を果たすため、新会社に対し出資したいと考えています。
また、道内における有数の産業拠点としての集積が図られている石狩湾新港地域は、今後も本道産業の発展に寄与することから、引き続き開発の推進が必要なので、北海道土地開発公社による公共用地取得に係る債務負担行為を行います。
――本道経済のウィークポイントの一つに、大消費地である首都圏での道産品の販売ルートが乏しかったり、営業力が弱いということもあるのでは
活力ある地域産業の育成のために、販売力の強化は確かに重要です。首都圏におけるマーケティング支援機能や観光相談機能の強化を図ろうと考えています。
すでに道産品の販路拡大を図るためのアンテナショップとして、7月に有楽町の東京交通会館に「北海道どさんこプラザ」を開設し、マーケティング支援や本道観光情報の提供を行っています。
――問題は道産品の品質や、付加価値ですね。道内のメーカーは、製品開発において性能だけを重視して、品質や付加価値である意匠、デザインには無頓着と言われます。同様なことが、工業製品だけでなく他産業の製品にも言えるのでは
しかし、例えば道産食品の安全確保対策として、道はhaccp(ハサップ・危害分析重要管理点)方式の普及・導入を全庁をあげて総合的に推進しており、また中小食品企業における製造工程の品質管理、衛生管理技術の向上を図るため、微生物に関する検査−管理技術の習得を目的とした専門技術研修会の開催を支援しています。
のみならず、地域の特色ある産業集積を促進し、地域経済の活性化を図るため、これまでに道央圏、道南圏、オホーツク圏に地域産業支援センターを整備してきましたが、今年度は、新たに道北画、十勝圏での整備を促進するなど、対応策にはかなり力を入れています。
――道内の経済構造は、以前から地方で生産し、札幌、旭川、函館などの都市部で商業流通する形で捉えられています。しかし、消費の低迷で都市部の消費・流通量が減少しているのでは
空洞化による疲弊が著しい中心市街地の活性化に向けて、中心市街地活性化基本計画の策定を行う市町村への現地指導を行います。また、新たに中心市街地商業活性化基金を設立し、商業活性化の中核的役割を担うタウンマネージメント機関(tmo)への取り組みに対する支援を予定しています。
消費の低迷の一因となっている本道の高コスト構造は、以前から問題視されてきました。これを改善し、中小企業の競争力強化を図らなければなりません。そこで、物流効率化に向けたモデル事業を支援したいと考えています。
――観光産業も、地方にとっては主力産業の一つですが、バブル崩壊後は既存の観光資源だけに頼って、サービス向上や関連産業の確立が手薄になっていませんか
必ずしもそうとは言えませんが、関連産業のすそ野が広く、経済波及効果や雇用創出が期待できる観光を振興させ、本道の主要産業の一つとして、より大きく育成する政策は必要です。
そこで、道の基本的な考え方や取り組むべき施策の方向性を明らかにした北海道観光振興条例(仮称)の制定に向けた調査・検討を予定しています。
――エネルギー政策についてお聞きしますが、道内の産炭地が相次いで閉山する一方、エネルギーの主力は原子力に取って代わろうとしています。しかし、これには運転や廃棄物の処理上の安全性の問題だけでなく、政治やイデオロギーも絡み、行政としての政策的な方向付けは難しいですね
昨年12月に、核燃料リサイクル開発機構から幌延町における深地層研究所計画について申し入れがあったことから、庁内に深地層研究所計面検討委員会を設置しました。放射性廃棄物を持ち込ませないための措置などについて検討を行っています。遠からず、道の考え方を整理することとしています。
その後、有識者による懇談会を開催する一方、道民の皆さんや地元自治体等からの意見を伺うことにしています。
泊発電所3号機の増設計画については、6月2日と6月10日に開催された第1次公開ヒアリングと北海道エネルギーフォーラムにおいて、原子力施設立地地域の住民の方々はもとより、多くの道民の方々からも、幅広い意見をお聞きした所です。
泊発電所3号機の増設については、北海道エネルギー問題委員会の検討の推移や結果などを慎重に見極めるとともに、公開ヒアリングやフォーラムで提出のあった意見についても十分斟酌するなど、道民の意向に配慮した総合的な判断が行われるものと考えています。
――最後の柱は、いわゆる雇用対策に関するものですね。これは流石に誰もが無関心ではいられないテーマです。すでにリストラされた人は、まさに自分のことであり、そうでない人は、「明日は我が身」との不安を抱いているでしょう。
確かに切実な問題ですね。景気低迷に加え企業倒産の増加などにより、完全失業率が5%を上回るなど、厳しい雇用情勢ですから、道としても雇用の場の確保が緊急の課題と考え、5万人の雇用創出を目指すこととしました。
現在、10年度に策定した「北海道雇用推進行動計画」の推進に努めてきていますが、新たに産業界、労働界関係者に参加してもらい「雇用創出推進会議」を設置して、「5万人の雇用創出に向けた実施方針」を、できるだけ早い時期に作成したいと考えています。
特に厳しい雇用環境にあるのは、中高年齢層です。この世代の雇用機会を確保するため、余儀なく失業した45歳から54歳までの中高年齢者を雇い入れた事業主に対しては、緊急中高年齢者雇用開発奨励金を引き続き支給していきたいと考えています。
一方、今春の高卒者の就職状況は、求人倍率、就職率などすべてにおいて過去10年で最低であり、極めて厳しい状況にあります。
このため、企業などにおける職場体験研修などを通じて、自らに適した職場の発見を促すことにより、高卒未就職者の就職促進を図りたいと考えています。
――最後に「試される大地」をキャッチフレーズに、北海道は自主自律の道を歩もうとしていますが、展望については
本道経済を確かな回復軌道に乗せるため、景気・経済対策を着実に推進し、将来にわたり本道経済の持続的な発展を実現し、道民生活の向上を確保していくため、中長期的な観点から、本道経済をこれまでの公共投資依存型から自立型の経済に移行させていくことが必要だと考えます。
そのためには、私たち道民自身が、もっと北海道にこだわり、北海道の価値や可能性を改めて見つめ直す中から、北海道独自の物差しを持って、道民一人ひとりが考え、行動することが大切だと考えています。
この考えに基づいて、経済部としては、新たな産業や事業分野の展開を行おうとする企業の方々の意欲と創意が発揮される条件整備に努めるなど、北海道の自主・自律の実現に向けた取り組みを進めたいと考えています。

HOME