建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ1999年8月号・10月号〉

interview

地域住民も観光客もくつろげる街に

稚内市長 横田耕一 氏

横田耕一 よこた・こういち
昭和23年12月30日生まれ、稚内市出身。
昭和 46年 3月 東洋大学社会学部応用社会学科卒。
47年 4月 千葉県君津市教育委員会勤務
51年 3月      同     退職
51年 5月 横田モータース株式会社入社
54年 3月      同     取締役専務就任
56年 4月      同     代表取締役社長就任
平成 11年 4月      同     退任
11年 5月 現職
<主な公職歴>
昭和 58年 6月 稚内市社会教育委員
平成 5年 6月 稚内市社会教育委員の会議委員長
5年 6月 宗谷管内社会教育委員連絡協議会会長
8年 10月 稚内市教育委員会委員
10年 3月 稚内市総合計画審議会委員
10年 6月 (社)稚内交通安全協会副理事長
今春の統一地方選で、稚内市長に横田耕一氏が当選。新しい横田市政で、稚内市は21世紀を迎えることになる。折からの不況で、自治体は税収不足に悩まされる反面、景気対策としての公共投資も行わなければならない。また介護保険の導入、地方分権への準備など、歴史的な変革の時期を迎えている。こうした状況下に横田市政は、どのように稚内市を方向付けていくのか。
――稚内市の将来像をどう描いていますか
横田
稚内市は水産、酪農の一次産業をベースにして、それに支えられた水産加工業がありますから、いわば「食料供給基地として潤いのある街」というのが理想像です。
その上に交流人口の拡大が図られるよう社会資本の整備を進めつつ、もともと稚内に住んでいる市民と観光客らがゆっくりとくつろげる街を目指したいと思っています。
――敦賀市政との差別化や違いは
横田
敦賀市政との違いとはいっても、敦賀前市長がどのような市政を目指すのか、われわれには明確に示されなかったので違いは分かりませんから単純な比較はできません。ただ、敦賀前市長も市民が安心して暮らせる街作りという理念はお持ちだったでしょうから、首長としての基本的スタンスは、どこの市町村長も変わらないものと思っています。
――在任中にぜひとも手掛けたい新規施策は
横田
財政状況が非常に厳しい中、やりたくても出来ないという現実があります。しかし、かといって何もせずに手をこまねいているわけにはいきません。私としては、ハード面よりソフト部門を優先せざるを得ないだろうと考えています。特に福祉の分野では待ったなしで介護保険サービスを充実させていかなければなりません。
それを踏まえながら、稚内らしさを確立していくために、私はブロックごとのコミュニティーセンターを整備したいと思っています。これはハードで財政的な裏付けも必要ですから、計画はまだ緒にもついていませんが、夢でもあります。このセンターがそれぞれの地域の街づくりの拠点として機能し、様々な福祉活動や教育活動が行われていくというのが望ましい市民生活の在りようではないかと考えています。
――国保会計では、医療施設やサービスが充実している都市部に人が集まってしまうため、地域間での収支の不均衡が見られました。そのため道がこれを解消するために医療計画を策定したことがありましたが、同じように介護保険でも稚内は宗谷管内の中心都市ですから、シワ寄せがくるという心配があるのでは
横田
恐らくあるでしょうね。ただ、全国的に福祉事業は一定の雇用効果が期待できますので、逆にそれを中心に据えた街づくりをすることによって活力を持たせるという動きもあります。
したがってむしろ、自治体の取り組みいかんによっては、逆に稚内から隣接町村に転出する可能性もあります。都市部が良いから都市に移るというのではなく、福祉に対する自治体の力の入れ方次第では、将来性を考えて都市から町村へ移住することが高齢者については言えると思います。
――住民が定着するかどうかは、街づくり次第ということですね
横田
市民として定着してもらうため、その街全体でどのようなサービスを提供できるかが条件になるでしょう。その意味での自治体間競争、地域間競争が強まってくるのではないでしょうか。
住みやすさ、便利さから札幌市周辺に人口が集中していますが、アクセスさえ良くなれば、将来はそれがもっと広がりを持って稚内や猿仏に住むことだってあり得ますから、地方都市がどんな努力をするかが大切だと思います。
――そのためには都市基盤の充実も必要ですね
横田
稚内市の都市基盤はまだまだ不十分です。先にも触れたコミュニティーセンター、図書館の整備充実など、課題は少なくありません。
――北星学園大学も整備されているようですね
横田
そうです。この大学は、市が出資して設立した学校法人で、校舎は市と民間が建てて法人に寄付したものです。いわば公設民営です。今回も4年制に移行するに当たって道と市、それに民間の寄付を仰ぎながら、校舎を新築して補助金の形で活用してもらうものです
――どんな学部が新設されますか
横田
コンピュータ関係で「情報メディア学科」の単科大学となり、平成12年から4年制になる予定です。問題はどれだけの学生が入学してくれるかということですね。
――市街地の下水道はかなり整備が進んでいるようですが、その他、水道、河川、港湾整備などの現況は
横田
それらの整備はかなり進んでいると思いますが、地域が広いため効率性が非常に悪い。下水道でいえば、農村部の整備は遅れています。後継者不足、花嫁対策を考えると、都会並みの整備は必要です。
農家だから都会と違って不便でも仕方がないと言える時代ではありません。トイレの水洗化など生活のしやすい基盤整備は、どこの地域でも求められてくるのではないでしょうか。農村部では、下水道は難しいので合併浄化槽を設備してもらうようになると思います。
――国や道のあらゆる制度を組み合わせて地元負担をなるべく軽減させる工夫が必要ですね
横田
そうです。地方分権に絡む話ですが、いわゆるヒモ付きの補助ではなく、地方自治体がもっと自由裁量に使える予算配分をお願いしたいものです。先にも述べましたが、自治体間競争が強まりつつある中で、一律に同じ基準の制度助成では、特色ある街づくりにはならないと思います。国の交付税にしろ補助金にしろ、目的を限定せずに自由に使えれば、それぞれの自治体が優先順位を決めて取り組むことが可能になりますから、ぜひとも実現してほしい。
もっとも単純に効率性だけで税の配分が行われると、私たちのような税収の少ない過疎地よりも都市部に重点配分される恐れがあるので、そればかりも言っていられませんが。
――最近、首都圏の税収が地方に回り、そのため首都圏の社会資本整備が遅れる要因になったとの主張が聞かれるようになりました。国土庁などは均衡ある発展を目指していますが、日本全体が不況低迷にあるのだから、効果の高い首都圏への配分比率を高めるべきとの論調です。これに関しては、地方としての言い分もあるのでは
横田
端的にいって経済界は、本社機能がすべて大都市にあるわけです。その支店が全国に網羅されていますが、所得の申告は本社で行いますから、首都圏の税収が高くなるのは当たり前です。そういう仕組みですから、主張が正しいとは必ずしも思いません。
現実には、大都市に住んでいる人たちの半数以上が地方出身で、彼らにはふるさと志向があります。ふるさとを守る意味からも応分の負担を求めてもいいはず。東京と稚内の生活の利便さに大きな差があっても良いというものではないでしょう。
――北海道庁は、試される大地のキャンペーンで、自主・自律を訴えています。肝心なのは経済的な自律だと思いますが、市長はどう考えますか。
横田
道内の自治体は自主財源が半分を割っていますから、とにかく税収を増やさなければなりません。現行の所得水準のままで税収を伸ばすのは不可能ですから、産業を興して税収を増やすことです。しかし、農産物は国際競争にさらされており、漁業も近海の漁業資源が不足する中で、以前のような水揚げの確保は難しくなっています。
ではどうすれば良いのか。北海道は全体として、製造業をどう興していくかが課題です。そして一次産品の付加価値をどう高めていくか。いろんなことに取り組んでいますが、なかなかマーケットに乗らない。消費者のニーズを把握し切っていないこともあるかもしれません。
しかし、地方都市といえども元気な製造業もあるのですから、そうした企業に学びながら、稚内も製造業としての食品加工を振興し付加価値を高めていくことに行政も積極的に支援したいと思います。そうして産業の足腰を強くし、税収を上げることが自律への道になるのだと思います。沿岸漁業では、ホタテが順調に所得水準を確保できるまでに育ってきました。それ以外の昆布、アワビ、ウニは、いかにして一定の量を確保しながら育て行くかが一つの課題です。
稚内港全景稚内港全景
――稚内市は、地理上の事情もあって、サハリンとの交流に力を入れてきましたが、今後はどんな方向性を考えていますか
横田
定期航路で多くの観光客を誘致したいのですが、サハリンの社会資本整備が進んでいないため、ホテルなど宿泊施設が足りなかったり、受け入れ側のエージェントが整備されていないなどの問題もあります。
サハリン州を含めて各都市の経済基盤も脆弱ですから、現時点で経済的なメリットはあまり期待できません。先行投資の意味で、私たちの余力で何らかの力を貸すことが出来るかどうか検討しています。本当はODAの対象となれば良いのだと思いますが、ロシアは先進国なので難しいようです。少しでも早く基盤整備が進めば、サハリン州の生活水準が上がるでしょうから、それに期待しながら取り組んでいきたいと思います。
一方、大陸棚の石油開発の進捗に合わせて、我々がどんな仕事を受注できるかが今後の大きなポイントとなってくるでしょう。
――確かに地下資源は大きな魅力ですが、これは国策として政府の所管になるでしょうから、そうなると、自治体同士での外交におけるメリットをどこに見出せば良いのでしょうか
横田
石油掘削事業による利益を獲得するため、サハリン州に対しては一定の割合で社会資本整備の資金が投下されます。そこで、自治体としては友好交流を進めながら、われわれも掘削事業に参入させていただくというのが、もっとも分かりやすいメリットと言えるでしょう。そのためにも相互に支え合うことが大切ではないでしょうか。もっとも、1年や2年で実現する話ではありませんが。
――景気対策についてお聞きします。いま自治体は景気対策として財政支出をしなければならない宿命を背負っていますが、その一方では財政が危機的な状況の中で財政再建の必要にも迫られています。これら矛盾したテーマを抱えているのが現状ですが、どのようにバランスを取りますか
横田
稚内市は、以前から公債費比率を改善する努力を続けてきています。とりあえず、12年度をめどに改善する方針です。一方、投資的事業も執行しなければならないので、必要なものは借金をしてでも取り組もうと考えています。
例えば、不足している公営住宅の建設について、予定より1年前倒ししてでも着手すべきかどうか、庁内で検討を進めています。とりわけ介護保険との関係で高齢者の住環境の改善は緊急の課題です。したがって、借金を返してまた借金と、いわば両ニラミで財政健全化に知恵を出さざるを得ませんね。
稚内の経済そのものを、とりわけ建設産業については沈滞化させない方策を考えなければなりません。その点が難しい。
――公共事業については、波及効果が期待されますが、一方では建設コスト縮減を図った結果、建設業者の利益幅が薄くなってしまうため、投資効果が相殺されるとの懸念も聞かれます
横田
コスト縮減の趣旨として、最低限の費用で最大限の効果を上げようと考えるのは、企業にとっても行政にとっても当たり前のことです。ただ、公共事業は民間工事に比べて単価は標準的ですから、この機会にムリ、無駄がないか見直してもらい、多少利益幅がダウンしても維持できる経営体制を確立してもらいたいと思います。
今後、バブルの再来は期待できないわけですから、取引が少ないときは少ないなりに生き続け、また状況が改善されればそれなりに取引も増えてくるものと考えてもらいたいものです。
――前号でもお聞きした地方分権について、さらにお聞きしますが、これに合わせた体制整備のため市町村の広域連合や、さらには合併も議論されています。しかし、自治体側は一般的に合併には消極的です。ただし、その場合は各自治体とも、単独組織としての存在意義を主張、説明しなければなりません。いわば行政のアカウンタビリティと言えますが、稚内市はどういう立場を取りますか
横田
道内212という市町村数が多いのかどうかは分かりません。ただ、稚内の周辺について見た場合、稚内と豊富、猿払が合併できるのかどうかは疑問です。稚内市だけで香川県くらいの広さがあるのですから、本州の数県に相当するエリアを持って、一つの自治体として機能出来るのかといえば、難しいと思います。
選択するとすれば、私は広域連合だと思います。一つ一つの目的を明確にした上で、事業ごとに広域連合を組むのがむしろ現実的だと思います。広くなることによって効率が悪くなるのもまた事実ですから。
むしろ首都圏のように軒先を接しているところは合併したほうが良いと思いますが、北海道の場合は広域連合で目的別に手を結ぶ方が良いでしょう。
――地方分権が進むと、職員の資質もレベルアップが求められます。職員の研修などにはどう取り組まれますか
横田
稚内市には独立した研修室があります。研修内容についてはまだ検証していませんが、今後は専門的な知識がますます必要になりますから、それを十分、考慮した職員の配置、採用を心掛けなければならないと思っています。
これから必要なことは、自分の与えられた、やりたい仕事に対するプロ意識を持った職員をどう育てるかです。特に福祉、教育、建築土木もそうですが、それらの分野においては総合的なプロ意識、知識が求められているので、職員をどう育成するかが課題です。専門的な職員研修、講習を開催したり、新規採用にあたっては専門職を採用することが必要だと思います。
――最近の国レベルの省庁再編の中では、技術を持った職員を削減して民活化しようという論議が聞かれるようになりました
横田
それはあり得るでしょう。実際、市町村が行う業務にコンサルタント業の関係者が参加する比率が、非常に高くなっています。それならば、最初から彼らに任せれば良いのです。行政サイドから基本的な概念や理念だけを示し、それを実現化していく方法論については彼らに任せる。あえてわれわれがプロを擁する必要はないわけで、そのために委託が進むのは間違いないでしょう。
しかし、委託できないジャンルもありますから、その分野についてのみ行政が責任を持ってプロの職員を配置することは不可欠だと思います。
――最後に、稚内の玄関となる稚内空港や稚内港の現況をお聞きしたいのですが
横田
航路、便数は着実に増えて充実していますが、なかなか集客に難があって苦労しているようです。今後は何らかの戦略を立てる必要がありますね。

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