建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2001年8月号〉

interview

求められるのは「コミュニケーション」する互いの姿勢

“さいたま新都心プロジェクト”を指揮し、改めて感じた「地域との連携」の重要性

国土交通省 関東地方整備局 営繕部長 齋藤 信春 氏

齋藤 信春 さいとう・のぶはる
 (昭和25年2月10日生)
 北海道大学水産学部卒業、北海道大学大学院(修士課程)修了
昭和 48年 3月 早稲田大学理工学部建築学科卒業(出身地:東京都)
48年 4月 建設省入省
東北地方建設局営繕部 建築課
建設本省官庁営繕部  建築課
       同        営繕計画課
62年 4月 東北地方建設局営繕部 建築課長
63年 6月        同        計画課長
平成 2年 7月 建設本省官庁営繕部 営繕計画課長補佐
4年 4月 関東地方建設局営繕部 移転機関建設準備室長(初代)
6年 7月 建設本省官庁営繕部建築課 建設専門官
8年 7月 中国地方建設局営繕部 四国営繕管理官
10年 4月 建設本省 筑波研究学園都市施設管理センター センター長
11年 7月 北海道開発局営繕部 営繕部長
12年 7月 現職
「戦後の我が国の社会経済構造の転換を促し、より自由かつ公正な社会の形成に資する」ことを目的とした中央省庁改革が1月に実現した。従来の省庁の縦割りを排し、一体となった地域づくりを積極的に進めながら、スピーディに地域ニーズに応えられる“質の高い行政サービス”を提供することが根底にはある。齋藤部長は「自分の持ち分だけでなく、その地域の風土を理解し様々な単位での連携や共同作業が必要」と語り、改めて“何のために国土交通省が存在するか(=使命)”を明らかにし、なお且つその枠を越えた“人としてのコミュニケーション”の在り方を提起する。
中枢的機能を有する“首都圏の公共建築”を担う齋藤部長に聞いた。
――「多極分散型国土形成促進法」に基づき、さいたま市に新都心ができましたが、移転機関建設準備室長当時からこの計画に携わってきた部長としては、「さいたま新都心合同庁舎」の完成に、様々な思いがあるのでは
齋藤
そうですね、昨年の7月に現職に就任しましたが、この「さいたま新都心合同庁舎」に入居出来たということは、非常に感慨深いものがあります。
関東での勤務は2度目で、前回は平成4年の4月から移転プロジェクトの所管部局として発足した移転機関建設準備室の初代室長として2年3ヶ月ほど勤務しました。このさいたま地区を始め、多くの移転プロジェクトの計画が、まさに動き出すタイミングの時でした。特に、この庁舎は最大の懸案課題だったので、21世紀にふさわしい庁舎とはどのようなものか、全体としてのまちづくりにどのように貢献できるのかといった難しいテーマについて、限られた人員ではありましたが、関係機関と調整を図りながら進めたことを思いだします。
 まちづくりという意味では、まだまだ途上ということですが、民間の施設も徐々に建設や計画が進められており、さいたま市の誕生や政令指定都市への移行ともあいまって、今後、どのような発展が見られるか、楽しみにしています。
――他の移転機関の進捗状況はいかがですか
齋藤
さいたま以外の移転プロジェクトも、順次整備が進められ、まだ計画中のものもいくつかはありますが、最終段階に入ってきたといえるのではないでしょうか。
この6月には、府中地区の警察大学校と警視庁警察学校が完成します。情報通信研修所の設計も進んでいます。立川地区では自治大学校が工事中であり、文部科学省の他の3機関と一体的な街区を構成する国立国語研究所も現在設計を進めているところです。また、和光地区では、国立公衆衛生院が施工中です。移転機関としての位置付けはされていませんが、裁判所職員総合研修所(仮称)の設計も一連の敷地の中で進んでいます。
 いずれも大規模なプロジェクトであり、所在地の地域計画への影響も大きいということから責任も重く、大変な苦労はありますが、逆にやりがいもあり、評価もいただいていると考えています。
――公共建築も、デザインの優れたものが多くなりましたが、まちづくりという視点ではいかがですか
齋藤
最近は技術的な進歩により、建築的にも自由度が高まってきていますから、やる気になれば、公共施設の設計においても、その時々のパッション性に重点を置いて何でも出来てしまうのかもしれません。
しかし、かっこいいからというだけで、むりやり東京や大阪にあるものを持ち込んでも、どこかで破綻を来すと思いますし、やはり、地域に即したまちづくりが必要だと思います。
私が札幌に赴任していた時に雪かきというものを体験し、まさにこれだなと感じました。雪かきは自分の持ち分だけで行っても意味がありません。隣近所との関係、一つの路地でのやり方、さらには町内会単位でというように、互いのコミュニケーションや連携、共同作業が必要です。その根底に、各地域の自然条件や風土を考慮し、互いのコミュニケーションや連携を図っていくことの重要性が象徴されています。そして、その積み重ねが、まちづくりには必要なのだと思います。
 私たちが担当している官庁施設は、国の行政などの機能を果たすための施設ですが、加えて、その地域の環境や景観をリードする公共建築物としての社会的な役割も担っています。従って、地域との連携を図っていかなければならず、魅力とにぎわいのある都市の拠点となる地区の形成ですとか地域の特色や創意工夫を生かしたまちづくりを支援するため、関連する都市整備事業との整合を図りつつ、シビックコア地区整備制度等の活用を図りながら、施設整備を進めています。
――面で捉えることが必要ですね
齋藤
もっと「まちづくりの観点」や「地域との関わり」に重点を置き、まちの姿として公共建築がどう配置されるべきか、どうネットワーク化されるべきか、まちづくりの一つの要素としての公共建築という見方が必要だと思います。
また、ハード面のみならず、ソフト面も重要です。管理上の問題などもあり、この「さいたま」でも、まだまだ当初考えていた通りにはなっていませんが、施設・駐車場の開放、食堂・プラザの活用など、市民や利用者の視点に立ったソフト面での仕掛けも同時に考えていく必要があると思います。
具体的には、市町村などとも連携を図りながら、計画の段階から可能な限り情報をオープンにして一般市民の方々にもご参加を頂き、市民と行政が一体となった施設づくり、まちづくりを進められればと考えています。 
――関東地方でシビックコアの指定を受けている都市は
齋藤
関東のシビックコア地区は、まだ「さいたま」だけですが、現在、栃木市、下館市、鰍沢町などで協議が進められています。昨年、公共施設のあり方を明確に展望し、それを具体的な施設整備として展開していくために「関東営繕ビジョン」を策定していますので、今後、このビジョンに基づき、他の自治体も含め、まちづくりに貢献出来ればと考えています。
――公共建築も、いまや免震工法など、新しい工法を積極的に導入するようになりましたね。関東の最近の話題としてはどのようなものがありますか
齋藤
わが国の社会・経済の変革に伴い、国民のニーズやライフスタイルも変化し、かつ多様化していることから、公共建築を取り巻く環境も大きく変化してきています。
例えば、先に触れたまちづくりもそうですが、地球環境問題、高齢化社会への移行、情報化の進展、防災・危機管理への意識の高揚などを背景に、官公庁施設においても、その機能の多様化や一層の安全性の向上等が求められています。
こうした課題に対応するため、営繕部としても様々な施策を展開しています。最近の取り組みをいくつか、ご紹介しますと、まず、地域のまちづくりへの寄与という観点では、市民に親しまれている歴史的・文化的な官庁施設である「横浜地方・簡易裁判所」「横浜税関本関」などについて、都市景観との調和を図りつつ、保存改修、再生を行っています。
横浜地方・簡易裁判所では、歴史的建造物が並ぶ日本大通り側の外観イメージを復元し、その後方に高層建物を配置しており、横浜税関本関では、横浜3塔の一つであるクイーンの塔を持つ既存庁舎の活用を図りながら増築しています。
また、地球環境に配慮した官庁施設(グリーン庁舎)の整備の推進では、環境負荷低減技術を導入した、長野県の「飯田第二合同庁舎」の整備をすすめており、既存施設の改修にあたっても省エネルギー・省資源、エコマテリアル・長寿命材料の使用、廃材の適正処理などの取り組みを行っています。
人にやさしい官庁施設の整備の推進としては、高齢者・障害者はもとより、すべての人が円滑にして快適に施設を利用できるよう、新営施設は勿論ですが、既存施設についても窓口を有する低層施設にエレべータを設置するなど、高度なバリアフリー化を図っています。
安全なくらしを支える官庁施設の整備の推進としては、安全で安心できる生活の実現をめざし、今年度は「八丈島測候所」の整備を行いますが、既存施設についても建築物全体としての総合的な耐震安全性を確保した防災拠点施設の整備を進めています。
 また、上野の「国際子供図書館」では、明治期、昭和期の貴重な建築遺産に増築をし、免震レトロフィットによる保存再生整備なども行っています。
――最近は、建設行政にも説明責任(アカウンタビリティ)が求められるようになりました
齋藤
そうですね、公共事業に対する国民の目は一段と厳しく、事業の効率的・効果的な執行はもとより、事業プロセスの透明性の確保が求められています。情報公開法や、公共工事の入札契約適正化法の施行により、今後益々説明責任(アカウンタビリティ)が重視されることになるでしょう。
そこでコストの縮減やストックの有効活用はもとより、営繕事業の目的や効果を積極的に明らかにして、事業評価あるいは政策評価を的確に行い、行政、発注者としての説明責任を果たすとともに、国民の視点に立った「コミュニケーション型行政」を展開していく必要があると思います。
具体的な施策としては、ホームページの充実や情報発信イベントの実施など国民との直接的な双方向コミュニケーションの推進、地域連携推進計画書の導入や公共建築相談窓口の設置などの地方公共団体との連携の強化、新規採択時評価や施設整備後の事後評価など事業評価の実施とその公表などが考えられます。
 私たちは、従前から必要な施設を着実に整備してきたところですが、今後は整備量(アウトプット)を追求するだけでなく、既存施設の有効な活用も含め、必要な効果(アウトカム)を追求するための様々な施策を展開し、地方公共団体や地域の人々との連携を図りながら国民のニーズを的確に反映し、わかりやすく地域に密着した施策を積極的に展開していくことにしています。

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