建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ1999年8月号〉

interview

環状線構想の一翼を担うみなとみらい21線

横浜高速鉄道株式会社 運輸部長 森 廣人 氏

森 廣人 もり・ひろと
昭和 44年 横浜市交通局入局
58年 同 都市計画局
平成 5年 同 交通局設計課長
8年 同 都市計画局 次長兼計画課長[横浜高速鉄道鰹o向]
11年 同  (現職)

横浜市の新しい新興ビジネス街として整備が進むみなとみらい21地区に、唯一の交通動脈となる「みなとみらい21線」が整備されている。全国の多くの鉄道事業や新交通システムが経営不振で苦戦する中、この新線はスタート時点から好調な事業展開が見込まれており、期待度が高い。建設費は2,900億円と莫大だが、その投資効果は図り知れず、様々な夢と希望を乗せて発車することになりそうだ。
――「みなとみらい21線」の計画概要からお聞かせ下さい
この鉄道は横浜駅からみなとみらい21地区を経て元町に至る営業キロ4.1qの鉄道です。平成2年4月に第1種鉄道として事業免許を取得しました。
この路線の通る地域には、周知の通り、みなとみらい21計画が進められています。昭和60年に行われた運輸政策審議会で、この計画を達成するには鉄道の足が不可欠との答申があり、それに基づいてこの路線が計画されました。
現在、東急東横線が渋谷から横浜を経て、桜来町まで通っていますが、この東横線が反町から地下に進入し、横浜駅地下に入ったところで「みなとみらい21線」にドッキングします。つまり相互直通運行となるわけです。したがって、横浜駅ホームの中心から東横線とみなとみらい21線に分かれる格好となります。
一方、東横線は、横浜駅−桜木町駅間を廃線することになります。
――車両は東横線車両を使用するのですか
相互に車両を乗り入れる計画です。鉄道事業法においては第2種鉄道は運行事業だけ、第3種鉄道は施設だけを所有しますが、当鉄道は第1種鉄道事業ですから、施設、車両、要員を独自に抱えて運行を行うのが前提です。
その事業主体が横浜高速鉄道株式会社というわけです。この会社は、横浜市と神奈川県の公共の出資比率が50%で、残りは電鉄、銀行などの民間が出資した第3セクターですが、建設は日本鉄道建設公団が担当しています。
――供用開始の予定は
平成15年度末には全線開通の予定です。とはいえ、これまでに工期を延伸した経緯がありました。というのも、ご承知のように横浜駅は多数の路線が乗り入れています。工事のために営業路線を止めるわけには行きませんから、その調整に非常に時間がかかり、工事も難しい。通常この様なターミナル駅との接続形式は、十字クロス交差したり、t型で止まったりします。しかし、みなとみらい21線は横須賀線の真下に重なって入ります。活線の下で工事が行われるわけですから、全国的にも例のないケースです。
例えば、新幹線工事の上野駅も縦断的に建設路線が入っていますが、上部には余裕スペースが1線分ありました。ところが、横浜駅にはそうしたスペースがなく、横須賀線のすぐ真下を掘るために非常に時間がかかるわけです。
こうした理由で横浜駅の工事に時間がかかるため、他の区間はもっと早く開業できるのですが、横浜駅だけを残して部分開業しても困難な課題が多く、工期を延ばしたわけです。
――確かにこの事業は、昨年一杯で計画変更したようですが、それは工期の延長と言うことだったのでしょうか
それだけではありません。事業費の見直しも行いました。工期の延伸は鉄道事業法に基づいた手続きが行われますが、工事費の増額となると、政府予算の都合もあるので、予算の決定と同時に国の了承を得ることになっていたということです。
――地下鉄工事は、工事期間が長いために物価の変動から、当初の見積りとは異なってくるという事態がよく聞かれます
そうですね。先に触れた横浜駅の工事のように、安全が優先されますので、最初からそれを十分に想定しておけば良かったのではないかと指摘を受けます。しかし、工事を進めて行くと、敷地内には店舗が多数あるため、影響の範囲が大きくなったり、列車のスピードをダウンさせないためには、より強固な工事桁が必要になったり、兵庫県南部地震による耐震設計の変更などもありました。その一方で工事費の削減にも取り組んできたのですが、工期が延びて事業費は増加しました。
また横浜駅とみなとみらい中央駅との間に高島駅を設置する予定ですが、これは鉄道免許を取得した当時には予定されていませんでした。ところが、横浜市からの強い要請があり、新たに設置することに決まったので、事業費が増えた要素ともなりました。こうして総工費は、最終的には2,900億円に上る見込みです。
――1区間の平均距離と車両編成、運行間隔は
1区間はほぼ800mで、横浜−元町間を9分で結びます。元町−渋谷間は40分で結ばれます。
運行ダイヤについては、現在、詳細を検討していますが、おおむね2分30秒から3分間隔での運行を想定しています。車両は8両編成です。
――輸送需要については、どのような見込みですか
この事業は、みなとみらい21地区に来る人、そしてこの地区に立地する企業の需要を中心に据えた開発型の鉄道です。そこで輸送需要としては、開業時にはキロ当たり4万人、熟成期には6万人程度を見込んでいます。
もっとも、需要の見通しについては、できるだけ厳しく想定するように運輸省からも指導を受けています。開発の達成度が若干遅れていることが理由ですが、そうしたマイナス要因と、今後の集積に伴うプラス要因とが混在しています。われわれが試算する際は、それをさらに間引いて慎重に想定するのが適切だろうと考えています。したがって、開業時には半分程度の達成度を予想し、人口もやや少なく見積もった形で想定しています。
――運賃体系などは
まだ決定していません。運賃は開業前に決めますが、ただ、鉄道計画ではすでに収支の見通しを立てていますから、一定の原則で計算し、設定することになるでしょう。
――鉄道建設に伴う初期投資の大きさは宿命ですが、何年で回収する見込みですか
資金収支が25年には好転することを目安にしています。できるだけスリムな経営主体にするのは当然ですが、この鉄道は駅が多く、しかも立地条件も大深度ですから、各駅の構造はできるだけメンテナンスのかからないようにすることが大事です。
計画当時はいわゆるバブルの名残がありました。交通計画上の駅は、結節点としてある程度ゴージャスで、機能よりも人々が憩う場、コミュニティーの場、情報通信の場といった具合に、一つの都市施設と位置付けされ、人間が通過するだけではなく、そこに立ち止まって眺め、集う機能を持たせるという考えが支配的でした。この新線の駅も、そうした思想を反映していますが、これは時代の変化とともに若干修正しなければならないと考えています。それによってコストダウンを図っていかなければなりません。
また、いかに優良な資金を投入するかです。これだけの事業規模ですから、原価主義だけで返済できるものではありませんから。
――確かに営団地下鉄の駅を見ても、駅の構造はなかなか工夫がされています。コストダウンも重要ですが、経営が安定してくれば、新線の駅も将来は付加価値を高めていく考えはありませんか
オプションというのでしょうか、今後の必要に応じてレベルアップを図る余地はあるでしょう。
――ところで、横浜市全体の都市計画の中では、この新線は単にみなとみらい21地区の利便性向上のために独立しているものでしょうか
横浜市の将来構想としては、環状線鉄道の計画がありますので、この構想の一翼を担う路線でもあります。もっとも環状線とはいえ、東京の山手線のように一列車で循環するのではありません。それだけ移動距離の長い人はいないと思います。ただ、なるべく連続して鉄道で回れるようにはしたいものですね。
東京と横浜の鉄道ネットワークの基本的な違いは、東京では山手線内に民鉄線を乗り入れない形態になっているため、乗り換え駅が非常に混雑します。一方、横浜の場合は、かつては横浜駅を中心にいわゆるフィンガータイプ、つまり放射状になっていて、どこに行くにも一度は横浜駅を経由しなければなりませんでした。環状線の構想は、それを環状方向に連結させようということです。
この手法でいくなら、より建設費が安くて需要に合ったシステムとなり、より経済的に早く整備できるというメリットがあります。この新線も、将来その環状線鉄道の一翼を担うことになるものです。
――安全面などについてお聞きしますが、以前に営団地下鉄で発生したオウム・サリン事件は今なお衝撃的に印象が残っています。こうした不慮の危機管理や震災対策、またバリアフリーへの社会的要請もありますが、これらの課題にはどう対処する方針ですか
まだ建設中なので、運営面の具体的な方針は決定していませんが、旅客の安全を第一に考えた施設にしたいと思っています。またエレベーター、エスカレーターの効率的な配置、それから都心部に設置されますので、駅で道路の横断機能を代替させたり、道路施設などとの一体的な整備を進め、道路交通や駅周辺の交通の利便に資する施設を目指したいものです。また、身障者や弱者のためにエレベーターを中心とした移動手段を確保し、全ての人に優しい駅施設を目指していきたいと思っています。
地震については、地下部分は地震の揺れに対して非常に吸収度が高いので、地上より安全ですが、とりわけこの新線については新しい基準に基づいて設計されており、阪神大震災級の地震が起きても十分耐えられる施設になっています。
――この新線の建設、開通に伴い、どんな波及効果を期待していますか
先にも触れましたが、駅周辺の都市事業との一体整備には力を入れているため、道路は必ず駅の近くにあります。そこで、道路の横断機能を取り入れたり、地下駐車場は都市内では限定されているので、掘削の堀山の中に駐車場を入れたり、具体的には元町にはすでに併設した地下駐車場を建設中です。
そして横浜駅は約200万人の利用がありますが、現在は東西自由通路が1本しかないため非常に混雑しています。それが、この鉄道事業と合わせてさらに2本の自由通路を建設し、それを南北につなぐ自由通路も出来るので利便性は飛躍的に向上します。
その他、みなとみらい地区の24街区については、ビルの中に駅を取り込んで整備を進めています。
鉄道事業は確かに投資額が大きいのですが、このインセンティブによりいろいろな事業が芽吹いてきますから、鉄道事業のチャンスを利用して、他の都市施設整備などを一緒に進めるようにしています。

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