建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2001年8月号〉

interview

神戸空港・医療産業都市構想・神戸港のラインで新たなビジネス潮流

環境に十二分に配慮された海上空港の整備

神戸市港湾整備局 空港整備本部 参事 川野 理 氏

川野 理 かわの・おさむ
 生年月日 昭和29年11月1日
 昭和 52年 3月 関西学院大学商学部卒業
  52年 4月 神戸市役所採用
 平成 5年 4月 農政局主幹(神戸市園芸振興基金協会)
8年 4月 生活再建本部主幹(調整担当)
10年 4月 都市計画局庶務課長
13年 4月 港湾整備局空港整備本部参事
阪神淡路大震災で、壊滅的な打撃を受けた神戸市は、現在では住宅の供給や道路など都市インフラも整備され、今や瓦礫に埋まった当時の面影はなく、都市としての機能は復興した。だが、「それは都市の構造上のことで、真の復興はこれからだ」と、神戸空港の整備計画に当たる神戸市港湾整備局空港整備本部の川野理参事は語る。「21世紀に入ったいま、従来の鉄鋼、造船を中心とした産業構造から、新しい21世紀型の産業構造へと転換を果たさなければならない」と力説する。その起爆剤として、現在、整備が進められている神戸空港に寄せられる期待は大きく、責任と役割は重い。「神戸港、ポートアイランド、そして神戸空港を結ぶことで、新しいビジネスの流れを作らなければならない」として、同参事は新たなグランドデザインを描いてみせる。被災都市・神戸が真に21世紀の新しい経済・産業都市として生まれ変わるのは、これからなのである。
――関西は、関西国際空港のほか、大阪市内にも伊丹空港がありますが、さらに神戸市として空港整備を計画することになった背景は
川野
現在の国内航空旅客は、首都圏と関西圏の2大都市圏に全体旅客の約4分の3が集中しており、これらの都市圏を受け持つ羽田、関空、伊丹の3空港はおおむね満杯の状態が続いています。そのため、2大都市圏におけるこのような空港の受け入れ能力の不足が、円滑な航空ネットワークの形成に支障となっています。
こうした場合は、国土に比較的ゆとりのあるアメリカなどの諸外国では、4本から7本の滑走路をもった大規模なハブ(拠点)空港を整備して対応する例がよく見られますが、国土の狭い日本では困難です。このため、個性の異なる複数の空港を整備し、それらが機能分担して航空利用者の増大に対応していくのが望ましいわけです。
わが国政府においても、2大都市圏の複数空港化の方針が示されており、首都圏でも成田空港、羽田空港に加えて、現在、新たな首都圏空港の調査が進められています。
飛行機はビジネス・観光・帰省などに気軽に利用されています。最近では1年間に3人に2人の割合で国内線が利用されています。このことから航空需要は、今後とも長期的に着実な伸びが見込まれており、国の予測では平成17年度(2005年度)には、全国の国内線の利用者数は1億人を突破するものと推計されています。
そうした状況を踏まえた場合、神戸空港は都心に近いので便利で気軽に利用でき、海上空港ということで騒音公害の心配のない理想的な空港です。
関西国際空港は、例えばアメリカやヨーロッパなど国際線を利用するならともかく、神戸市内から出向いて国内線を利用するには、時間や費用がかかります。一方、伊丹空港は周辺地域の環境対策上、発着回数等に制約があります。
 神戸市では、これまで被災された市民の皆さんの生活再建を最優先に住宅、保健・医療・福祉などの対策や産業基盤の復興に全力をあげて取り組んできました。これら市民生活の再建が最重要なことは当然ですが、さらに神戸の将来のためには、単に震災前の姿に戻すだけでなく、雇用の機会が確保された活力と魅力あふれるまちとして復興することも必要です。 21世紀の新しい神戸をつくるための長期的な復興事業として、神戸空港の整備に着手したわけです。
――震災後、神戸の経済はかなりの影響を受けたのでは
川野
実際、神戸港で取り扱っていた貨物が、他の港へ移ってしまいました。それをどう回復するかが課題ですが、神戸港と神戸空港との相乗効果に期待しているわけです。
空港は、人や物、情報、文化が交流するための拠点になります。空港によって神戸を訪れる人が増え、宿泊、飲食、小売りなどの産業をはじめ、情報や観光、ファッションなどの産業も発展します。さらに、地場産業など中小企業の優れた技術力を生かすことにもつながり、新たな「働く場」をつくり出します。現在、事業所ベースでは市内産業の約3割が観光に関連しています。全国から人々が集まる、にぎわいのある「集客都市」づくりが神戸のめざす方向のひとつです。
そのためには、都心に近く利便性の高い神戸空港は、21世紀の神戸の新しい交流窓口として、これからの観光やビジネスに欠かせない都市の装置です。
空港を窓口として多彩な人材が神戸に集い、企業活動や市民文化などの各分野で新鮮な情報が発信されるようなまちづくりを進めます。空港によって人と人の出会いが広がり、例えば異業種交流による新製品開発、新規起業(インキュベーション)などの増大が期待されます。
周知の通り、これまでの神戸は鉄鋼や造船などの産業を中心に発展してきましたが、時代の変化に応じて、産業構造を変えていく必要があります。
その中でも、特に私たちが政策的に力を入れているのが、医療産業都市構想です。今日は全国的に本格的な高齢化社会を迎え、医療・福祉関連産業の重要性が高まっています。そこで、空港に隣接するポートアイランドに、最先端の医療施設や研究施設を立地し、それを核に最新の医療機器などの産業集積や高度医療の研究開発・人材育成の拠点づくりをめざしています。
阪神・淡路大震災では、道路や鉄道が寸断されたため、救援物資の輸送に航空機やヘリコプターが大活躍しましたが、これからは都心に近接した神戸空港を経由して、災害時には多くの食料、医薬品、衣類などが多様な交通手段によって迅速に市街地へ輸送されます。また、重傷者の緊急搬送などにも空港は大きな役割を担います。血液、臓器などの緊急輸送や重傷患者の救急搬送、さらに医療関連企業の立地を促す観点からも大きな力となります。
したがって、グランドデサインのイメージとしては、このポートアイランドを中心に神戸港と神戸空港が連携した形となります。
――神戸空港は、海上空港なので騒音の心配はないと思いますが、最近は特に環境対策が重視されています
川野
現在の宿泊数は年間22万人ほどですが、今後は24万人を目指します。これは広域的に宗谷観光連盟などと協調性を持ちながら、全国のお客さん誘致に出向いた結果が、この基盤づくりにつながったと考えています。今後は、お客さんが自然を満喫できるように自然を守り、接客を大事にすればリピーター客も増えると思います。
また当地の利尻山は、日本名山百選の一つに数えられており、登山客も多くなりました。これらのお客さんについても、登山事故を無くすよう体制を整え、また登山で衣類が汚れた場合は、温泉に洗濯室があるので、入浴の間に洗濯や乾燥ができる仕組みにしています。そうした気配りをしてお客さんを大事にすることが一番大切だと考えます。
食べ物も、加工した魚介類より、活きの良い魚介類を生で食べさせる施設、島ならではの食べ物を提供できればと考えています。その一環で鴛泊漁協は5年前から活ウニの食堂を設け、また今年は鬼脇で活きの良い魚介類の売店所を設け、前向きに観光と漁業のタイアップを図っております。
――神戸空港は、海上空港なので騒音の心配はないと思いますが、最近は特に環境対策が重視されています
川野
そうですね、神戸市では平成7年10月から平成8年5月までの間、飛行場設置及び港湾計画変更に係る環境アセスメントを、また平成10年1月から10月までの間、空港島の埋立に係る環境アセスメントを各々実施しました。
環境アセスメントでは、神戸空港が環境に与える影響について予測・評価を行っており、環境影響評価審査会(専門委員会)から「概ね適切」との答申を得ています。
神戸空港は、航空機騒音の影響が住宅地に及ばないようにポートアイランド沖の海上に建設します。これにより、航空機騒音の環境基準値である「うるささ指数(wecpnl)70」を超える範囲は全て海上に収まり、環境保全目標を満足するとの結果を得ています。
航空騒音に関する規制は、国際的な機関(icao)により「騒音証明基準が設定されており、基準に適合していない航空機の運航は原則として禁止とする規制がなされています。このため、最近のジェット機はエンジンの中に吸音材をつけて発生音を小さくするなどの騒音対策が進んでおり、以前と比べるとその影響はかなり小さくなってきています。しかし、さらに騒音に対する規制が段階的に強化されていますから、今後、騒音がさらに小さくなることが期待されています。
さらに神戸市としては、周辺から騒音などの苦情が出ている航空関連事業所を空港島に移すことにより、市街地の環境改善に役立てます。
大気への影響を予測するにあたっては、航空機のみならず、空港島に設置する旅客ターミナルなどの事業所、空港島に関連する自動車や船舶等の発生源を対象として実施しています。
その結果、例えば、これらの発生源から排出される二酸化窒素が近接するポートアイランド地区に及ぼす影響はおおむね0.001ppm以下であるなど、大気質に及ぼす影響は軽微であり、環境保全目標を満足するとの結果を得ています。
潮流・水質への影響を予測するにあたっては、神戸港周辺はもちろんのこと、明石海峡などを含む大阪湾全体を対象として実施しています。
その結果、流況の変化はほとんどなく、2cm/s以上流速が変化する範囲は空港島周辺に限られておりまた、水質に及ぼす影響も軽微であり、環境保全目標を満足するとの結果を得ています。
空港島の造成にあたっては、環境創造型護岸の整備にも取り組みます。これは空港島周囲の護岸を緩やかな石積みとし、太陽光が届く浅場を幅広くつくるものです。浅場は、人の手によってつくられた場合でも、自然の磯のように豊かな生態系が育まれることが実証されています。豊かな生態系は、生態系がもつ浄化作用を通じて、より良い環境を創造します。そこで、空港島では外周7.7kmのうち、岸壁部分を除く6.7kmを環境創造型護岸とします。
また、空港島の北側の環境創造型護岸の一部については、市民が親しみやすいように階段式とし、あわせて整備する親水緑地とともに、開放的な水辺空間とします。
空港島の西側では人工ラグーンの整備によって海水浄化を図ります。人工ラグーンというのは人工海水池のことで、岩や砂に囲まれ、海水が出入りする浅い海水池のことで、潮の満ちひきに伴い、岩や砂に付着した生物によって海水中の汚濁物質が効果的に浄化されます。
計画では、西側緑地に人工ラグーンと、それを取り巻く砂浜や磯浜を設け、レクリエーション性の高い大規模な親水公園とします。
空港島内の汚水は、全て公共下水道で高度処理し、一部を再生利用することにより、周辺の海の水質保全と資源の有効利用を図ります。また、発電時の排熱を有効利用する省資源型のエネルギー供給(コーシェネレーション)システムを組み入れた地域冷暖房を導入し、大気汚染の防止を図ります。
――都心部とのアクセスについては
川野
都心部と空港島とのアクセスについては新交通システムを予定しています。平成17年度の開港時にはポートライナー(新交通ポートアイランド線)が空港島まで延伸され、三宮から空港の旅客ターミナルまでが結ばれる予定です。
このように、都心部と定時性に優れた公共交通機関で直結する、非常に便利な空港として整備していきます。
 また、既存の神戸大橋や港島トンネルに加えて、計画中の大阪湾岸道路などを経由するアクセスも確保されます。
――これほど大規模な事業では、埋立用の土砂も必要となりますが、どのように確保していますか
川野
市内で発生する建設残土を空港島で受入れ、陸の環境改善に役立てています。空港島の埋立に必要な土砂量は、約6,600万Fと推定していますが、それは西区の複合産業団地造成地や、その周辺で発生する土砂など市内で発生する建設残土を利用するほか、環境保全に配慮するための浚渫土砂や底泥も受け入れています。
――市財政としては、莫大な投資になりますが、資金計画や収支見通しは
川野
神戸空港の建設費は、空港島の造成、滑走路などの空港基本施設の整備、ポートアイランド(第2期)との連絡道路などをあわせて約3,140億円です。しかし建設費の財源は、国の補助金のほか、借り入れ金などで賄う予定ですから、市民の皆さんに負担はかけません。債務については土地の売却によって返済する計画です。
しかし、仮りに処分が予定どおりに進まない場合でも、市税に頼らず、産業団地の造成などを行う開発事業資金で一時立て替えて返済します。
開港後の収支見通しについては、予測している着陸回数1日27回の「着陸料」を基に、運営管理費などの支出は、他の第三種空港の実績をもとに、利用者数や施設規模を考慮して推計した結果、管理収支に問題はありません。神戸空港が開港しましたら、ぜひ全国のみなさんにご利用いただきたいと思います。

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