建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ1999年8月号〉

interview

行政サービス向上に向けて大胆なる行財政改革を断行

札幌市長 桂 信雄 氏

昭和 5年 生まれ、札幌市出身、北大法経卒。
昭和 28年 市役所入庁
47年 北区長
50年 企画調整局長
54年 教育長
58年 助役
平成 3年 4月 札幌市長に初当選
11年 4月 3選を果たす
4月11日の統一地方選を経て、札幌市の桂市長は3期目を迎えた。札幌市を取り巻く社会情勢や経済情勢は大きな変化を見せ、桂市政にもそれに対応した、新たな政策が求められることになるだろう。政令指定都市・札幌市の市長として、どんな都市像を目指すのか。地方分権、介護保険など新規の政策テーマにどう取り組んでいくのか。
――いよいよ3期目を迎えましたが、この間に社会情勢もかなり変わってきたのでは
そうですね、私たちを取り巻く社会・経済は、予断を許さない景気の動向、規制緩和による自由競争の激化、少子・高齢化の急速な進行、さまざまな環境問題の発生など多くの課題が山積しています。いまだかつて経験したことのない厳しい状況ですが、札幌に明るい未来を築いていくよう、全力を尽くしていきたいと思います。
21世紀は地方分権の時代です。ただ、真の地方分権社会は市民の自治の精神に支えられてこそ達成できるものです。したがって、先人から引き継がれた豊かな自然環境を、市民自らの手で守り育てること。市民が自立と支えあいの心をもって、より質の高い生活を主体的に求めていくこと、すなわち「環境と文化」を軸に据えたまちづくりが、これからの札幌にとって最もふさわしく、また望ましいことなのだと考えています。
そうした精神を市民自治の支柱として、子供や若い世代が将来に夢と希望を託し、高齢者も生き生きと暮らし、世界中の人々があこがれるような「人輝き、心響き合うまちさっぽろ」を目指していきます。そして、その実現に向けて築かれていく市民との信頼関係、パートナーシップによって、輝かしい21世紀を迎えたいと考えています。
――今後の市政運営で、早急に推進しなければならない政策は何ですか
まず第一にしなければならないのは、大胆な行財政改革です。市民へのサービス向上を第一とした効率的な行財政運営を進め、市民・企業・行政のパートナーシップによる行政運営、地方分権に対応し得る都市経営基盤を確かなものにしていきたいと思っています。
地方分権時代の主役となる市民が、札幌に誇りを持ち、建設的な議論を重ね、手を携えて札幌のまちを築き上げていく環境づくりが必要なのです。そのために、行財政は市民に開かれた運営でなければなりません。
――具体的にはどのような施策を考えていますか
まず、市民に開かれた透明な行政運営を進めるため、「市の情報は市民のもの」という基本に立って、インターネットなどを使い、市政情報を積極的に提供するための環境整備を行います。そのために、基幹情報ネットワーク整備や行政情報共有システムの開発など、行政内部の情報化を進めることにしています。
――直接的な対市民サービスとなる福祉政策については
「快適・安心・安全」で、ぬくもりのあふれる高度な福祉都市をつくっていこうと考えています。そのため、高齢者が安心できる社会づくり、子どもを産み育てることに希望を持てる社会づくりが必要となります。
6月に施行しました「札幌市福祉のまちづくり条例」を市民・企業の参加で進め、ハンディキャップがある方も暮らしやすい、バリアフリーのまちにするとともに、その経験や能力を十分に生かすことのできる都市づくりを進めていきたいと思っています。
また、介護保険の導入が間近に控えています。これを確実、着実に誰もが安心できるように実施するとともに、施設福祉、在宅福祉を一層、充実させるつもりです。
さらに地域福祉を支えていくマンパワーの養成・確保に向けてボランティア研修センターを整備することにしています。
そこで、在宅福祉の推進や市民意識の醸成、民間活力の導入といった観点から、福祉機器の展示や情報の提供を行う「(仮称)いきいき福祉さっぽろ2000」を、来年5月に開催する予定で準備を進めています。
――介護保険といえば、国保と医療の問題と同様に、地方に暮らして保険料を払っていた人々が、サービスを受ける時には施設やサービスが充実している都市部に移住し、会計を圧迫するという懸念もあるのでは
地方においても広域的な取り組み、高齢者保健福祉計画や介護保険事業計画によるサービス基盤の整備などを進めていますので大きな懸念にはならないと思います。
――障害者の福祉については、障害者をどう社会的に位置づけるかの問題でもありますが、市としてはどんな政策を考えていますか
障害者福祉を充実させるには、障害者の権利擁護に配慮しなければなりません。そこで「障害者あんしん相談」を新たに開設すると同時に、障害者の雇用を促進する施策を充実していきます。市としては、障害者雇用支援センターに対する運営支援を行うほか、障害児教育を計画的・体系的に進めていくための基本調査などを行うことにしています。
――福祉以外では、どんな政策を考えていますか
「市民の心豊かな暮らしの実現」が、大テーマとなります。私は、暮らしや環境の向上を目指した市民の活動が社会に溶け込み、市民自ら考え、取り組んでいくことのできる仕組みづくりや、児童・生徒が伸びやかに育つ環境をつくり、芸術、文化、スポーツが市民の暮らしに根づくように方向付けたいと考えています。
一昨年の夏にオープンした国内最大級のパイプオルガンを備えているコンサートホール「キタラ」は、北の都の音楽の殿堂として大変喜ばれており、この3月までに62万人の方々が入場しています。
世界の3大教育音楽祭の一つとして定着しましたpmfも今年は10周年を迎えます。このキタラを中心に今年は道内外で47回のコンサートを開催します。
昨年のモエレ沼公園に続きこの7月には芸術の森が3期15年にわたっての整備を完了します。
現在建設中の札幌ドームは雪国に住む市民にとって念願の全天候型で、2002年のワールドカップサッカーやプロ野球公式戦にも対応できる世界的な施設です。市民のスポーツ文化の核として、この施設の活用を考えていかなくてはなりません。
21世紀のさっぽろを担う子供たちのためには、児童会館やミニ児童会館をはじめとした様々な活動の場の充実に努める方針です。
7月1日から放課後や休日における子供たちの活動を支援するため、体育館、プール、青少年科学館など市内38の公共施設について、中学生以下の個人使用料を無料にしました。大いに学び、遊んでほしいと思います。
また、同じく7月1日から中央図書館・地区図書館・区民センター図書室の開館時間、開館日を延長・拡大しました。生涯学習の基盤の一つとして図書館をもっと利用していただきたいと思います。
――最近の子供たちは、いじめ、不登校などの問題が指摘され、以前では考えられなかったような内容の非行、犯罪に走る者も見られ、そして学校では学級崩壊といった深刻な事態も見られるようになりました
このことは、私自身も大変深刻な問題として受け止めています。今、「心の教育」の推進を急いでいます。新しい教育研究所の機能拡充や学校・家庭・地域の協力体制強化により、いじめや不登校の児童・生徒に対する援助を行うほか、生徒の心の悩みなどの相談に応じる体制づくりを進めています。
――ところで、最近は環境問題もクローズアップされており、特に、ダイオキシンに対する市民の関心は高いと思いますが、この問題にはどう対処しますか
環境も防災も含めて暮らしの安全と健康を守ることは、行政として当然の使命です。小型焼却炉の排ガス調査など、ダイオキシン類や環境ホルモン対策を総合的に推進します。また、地域住民と行政とのパートナーシップによる保健活動をさらに推進するため、住民が主体となって行う地域健康づくりモデル事業の企画、運営などの支援を行うことにしています。
さらに、防災面では、災害時の迅速な初動体制の確立やその後の災害対応を的確に行うための防災支援システム整備を推進することにしています。
――環境問題といえば、市長が初当選当時から重点を置いていた政策は、ごみ対策でしたね
特に環境問題は、今までもそうでしたが、市民の協力なしでは解決できません。ごみ問題、環境保全への取り組みの基本精神は、私だけでなく、一緒にこれまで取り組んできた市民の大きな力のもとに、豊かな自然を資産にした、世界に誇れる「環境都市」を築くということにあります。今後も一層、市民との継続的な協力関係を大切にしながら豊かな緑ときれいな水、さわやかな空気など、美しい環境を次世代に受け継いでいかなければなりません。
そのために、まず、地球温暖化防止に向けた具体的実行計画を策定することにしています。また、環境保全条例の制定に向けての準備に着手するほか、産業廃棄物の適正処理と、リサイクルの一層の推進に向けての実態調査や、市民の自発的な環境保全活動に対する助成を行うことにしています。
もちろん、限りある資源やエネルギーの有効活用も重要です。廃プラスチックの分別収集を来年度から実施するため、準備を進めます。また、民間が建設する収集後の選別を行う施設を買い取り、廃プラスチックの再商品化事業を目的に設立された新会社に対する出資も行うことにしています。
その他、札幌駅南口で新たに熱供給を行う新会社に対して、出資や施設建設補助を行うなど、「環境文化都市さっぽろ」の実現に向けた取り組みを推進していきます。
――いま市民が最も悩み、気にかけていることの一つには経済や景気の状態の問題があります。市としては、税収の減少による財政再建の必要性もありますが、市民の所得と税収は相関関係にありますから景気対策のための支出も避けられませんね
難しい問題ですが、企業の元気とやる気を引き出す産業・経済政策がまず大事ですね。私は、中小企業経営の強化と新しい事業に挑戦できる環境づくり、情報・環境・福祉など新時代に対応する産業の育成、そして、札幌の魅力向上による集客交流産業の振興によって、市民の雇用の確保と地域産業の活性化に努めたいと考えています。それは「北の暮らしを支える産業を育て、札幌の活力を高める」ことにつながります。
――今回の補正予算では、情報産業への投資が目立っていますね
福祉産業や情報通信サービス産業など、今後成長が期待される産業分野について、実態を調査し、その振興策の検討を進めるほか、新しい事業に挑戦する意欲ある起業家などを支援する「フロンティア事業支援資金」の創設や、情報関連企業と他の産業分野の企業との連携・共同事業化を仲介・調整する(仮称)札幌市情報ビジネスセンターの開設準備を進めていきます。
さらに、今後は電子商取引が普及・拡大していくでしょうから、札幌に関心を寄せる全国の方々を組織化する「サッポロ新市民10万人事業」を展開し、地元企業の販路や事業機会の拡大を図る方針です。
――札幌といえば、イベント開発の可能性も期待できるのでは
そうですね。札幌は世界の人々を引きつける魅力を十分兼ね備えた街であることを確信しています。今年度は、核兵器廃絶平和都市として世界の軍縮・平和に貢献するため、「中央アジア非核兵器地帯国連札幌会議」の開催を支援し、スポーツではワールドカップバレーボール女子札幌大会への補助など、国際的なイベントの開催を支援することにしています。
今後も、こうした国際会議やイベントを積極的に誘致し、「世界と結ぶ交流の拠点」として世界の人々が集う街を目指していきたいと思います。

HOME