建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2000年7月号〉

interview

行財政改革に自信、16年度から単年度黒字に

あえて嫌われ役を演じ続ける

北海道釧路市長 綿貫健輔 氏

綿貫 健輔 わたぬき・けんすけ
昭和21年6月13日生まれ、釧路市出身、早稲田大学第一法学部卒
昭和44年鰍「綿貫商店入社
昭和46年鰍「綿貫商店代表取締役
昭和52年釧路市議会議員に初当選
昭和56年釧路市議会議員に2選
昭和58年北海道議会議員に初当選
昭和62年北海道議会議員に2選
平成3年北海道議会議員に3選
平成7年北海道議会議員に4選
平成8年釧路市長に初当選
北海道内のほとんどの自治体は、高度経済成長・バブル期の「投資」のツケに苦しんでいる。各首長はそれぞれ行政改革に取り組んでいるが、大なたを振るうことはなかなか難しい。古い体質を変えることは容易ではないからだ。3年半前、前市長時代にインフラ整備をほぼ終えた釧路市も財政再建が急務だった。綿貫釧路市政は、まさに大なたによる行財政改革でスタートした。「子供たちの将来に借金は押しつけられない」と語る綿貫市長に、1期目の成果と次期に向けてのビジョンを語ってもらった。
――非常に厳しい財政繰りの中ですが、釧路市の12年度予算のポイントはどこに置かれましたか
綿貫
釧路市は過去、道路・下水道・公共の建物などの社会資本整備を短期間で相当精力的に行ってきました。バブル経済が弾けて現在、その支払いがピークを迎えています。また釧路市は、1960年代に様々な産業が急成長した背景があって、その頃に非常に多くの人、職員を採用しており、その皆さんが卒業する時期のピークにもなっています。さらに税収も厳しい状態。いわゆるトリレンマの状態で、大変な時期だったものですから、3年半前に市長に就任して、まず行財政改革を行いました。それは、削ることだけでなく新しい仕事を進めるためにも必要だったのです。前年のいろんな事業を見直して、約10億8千万円ほどの財源を確保できました。福祉予算や様々な補助金を削り、無料だったこどもの医療費や検査費用も一部ご負担頂いたほか、職員の待遇にも厳しく手を入れました。
こうして捻出した財源をもとに12年度予算では、将来に向けてどうしてもやらなければならない事業に着手しました。まず、ごみの最終処分場を新たに建設しています。現在使用している処分場が、あと2年しかもたないため、去年から工事を始めて13年度で終了します。また、火葬場の改築にも着手します。
この他、現在の青少年科学館が老朽化しており、昔の児童館プラスアルファの機能を持った施設の基本設計をコンペで決めました。「こども遊学館」という名称で、「遊び」、「学び」がコンセプトです。現在、管理運営について住民の皆さんと一緒に検討しています。それから工業技術センターもこれから実施設計に着手したいと思っています。さらに、市内3つ目のコミュニティーセンターが今年中に完成します。
しかし、これらの事業についても、見直しをしていかなければなりません。その時には、市民の皆さんにもご負担をお願いしなければなりません。それに反対であればきちんと代案を出してもらいたいと思っています。今まで行ってきたことはそのまま実施し、新しい施策にも取り組め、それでいて、費用の負担増はまかりならないのであれば、どうすればいいのですか。これについて、とかく一般会計で何とかならないかと言われます。しかし、それは、自分たちだけが好きな物を全部食べて、あとの支払いは子供たちに任せるということと同じです。これは、今は絶対できません。
――市民に応分の負担ということは一方では行政への積極的な市民参加とも言えるでしょう。現在、釧路市の将来のビジョンを市民と一緒に作ろうとしているのですね
綿貫
そうです。私の一番の願いは市民と共働するマチづくりです。そのために、全ての情報を公開しています。公開して不備なところがあれば議会を含めて指摘を受ける。その代わりに市民の皆さんにも積極的に役割を果たしてもらわなければなりません。
平成9年に総合計画の策定にあたり、今までは各業界の代表者、団体の代表者など100人くらいの皆さんに集まって頂く度に、5千円から6千円の費用弁償をしながら行政の考えを提示して、アドバイスを頂いた上で計画を作っていました。それを今回は、無料で全員公募しました。そうしたら職員がそれに大反対だったのです。「大事なことを公募でとは」と言うのです。
しかし、私は、きちんと情報公開して文字通り皆さんのご意見を中心に計画をつくるわけですから心配はしていませんでした。公募で無料ということは、市民の皆さんは個人の立場ですから会議で話す用意をしなければならない。うちの職員も残業手当のつかない管理職が対応するということで募集したところ、144人が応募して下さいました。しかも、地域的にもバランスがとれていたし、男女の比率も7対3。最年長が80歳、一番若い方が16歳の高校生という内訳で、これは結構な数字です。
このみなさんに、約1年かけていろいろ意見を出して頂きました。そのほかに地区懇談会や、業界ごとにお話を聞くこともしました。これらの意見を合わせてつくったものが総合計画です。これは、文字通り市民の皆さんが参加されてつくられた総合計画だと思います。この計画が向こう10年の柱になっていくわけです。ただし、世の中の流れは早いですから、これを3年ごとに見直していきます。
――ところで、太平洋炭坑の存続が決まりましたね
綿貫
そうです。おかげさまで存続が決まりまして、13年度からベトナム、中国、インドネシアから1年間250名前後の研修生も受け入れます。地元の支援策としても単年度で2億5千万円、2年間で5億円の基金を作ります。
また釧路港では今、西港でマイナス14メートル岸壁をつくっています。西港整備は産業の柱、原動力になります。その港を生かすために高速道路網の整備など、相乗効果を考えながら進めています。おかげさまで、国会議員、道議会議員の皆さんには、地域のために非常に強力な運動展開をしていただいておりますので、大変有り難いことだと思っています。
――地方都市が抱えている問題の一つに都市中心部の空洞化がありますが、釧路市では対策は進んでいますか
綿貫
ええ、一つは中心市街地活性化法で、民間の皆さんが空きビル対策の導入と、デパートなどと協力して、立体駐車場の整備計画が進んでいます。中心街というのは最も多くの社会資本が投入された歴史がありますから、あらゆる物がそろっています。
行政としても、そこに市民が集まれるような、市民プラザや福祉の事務所、npoなどの活動の舞台を作りたい。また、中心街の道路一本隔てたところにjrの操車場跡がありまして、ここに現在、シビックコアとして、国の合同庁舎を建設中です。その隣に「こども遊学館」をつくるわけです。さらに、道の合同庁舎をつくってほしいと要望しています。いわば官庁街をつくっていく。合わせて芸術館など文化芸術の地域にもしたいと考えています。
――地方分権に対してはどのように考えておられますか。既に本州では合併や広域連合の取り組みも見られるようですが
綿貫
合併の問題は北海道と本州とを同一にはできません。エリアが広いですから合併のメリットも難しい。ただ、釧路市と釧路町との問題は、私はいつも公式の場でも釧路市と釧路町は一緒になったほうがお互いにいいと主張しています。吸収合併ということではありません。釧路町の成り立ち自体が釧路市のベッドタウンとして発展してきた要素も大きいわけです。これからさらに広域行政の必要性が唱えられて、福祉の問題や廃棄物の問題、医療の問題などを、2つの自治体でそれぞれ対処するより、1つの自治体として対処したほうが、効率的なサービスができると私は思います。
現実に、釧路町に住んでいて釧路市に働きに来る人は4,400人、釧路市に住んでいて釧路町へ働きにいく人が2,000人くらいいます。それなら、私は一緒になったほうが良いと思います。ただ、これに関してはあまり行政が合併に深く主導権を取るより、住民、議会で十分に検討した上で、合意出来るのがいいと思います。そのために、一歩踏み出す方法論を現在考えています。
――釧路市長としてまもなく1期目を終えられるわけですが、これまでの政策の成果をどう自己評価しますか
綿貫
前市長による19年は、釧路市は完全な行政主導型になっていました。地域で最も大きい団体は市役所です。特別会計も含めて年間約1,400億円の予算を全部使い切るわけですから、次第に行政の発言力が大きくなる。行政だけでなく、あらゆるものが官主導型になってしまう。予算をより多く、できるだけ住民の負担を少なくという発想だったわけです。
しかし、バブルがはじけ、今までの発展を遂げた支払いを誰が責任を持つのかが問題です。もう対策の先送りは許されません。当然、痛みを伴うということを行政も市民の皆さんも我が事として、やはり感じていかなければならないのです。
私の考えの基本は、民間企業としての発想です。「何かあったらまずやってみよう。うまくいったらいいし、駄目だったらすぐ方向転換しよう」という考え方です。
しかし、物事にはやはりコストがかります。今までの予算の分捕り合戦は、声の大きい人、力の強いところにどうしても振り分けられてしまう。当然、首長の選挙にも関わってきます。そのために、とかく自分の任期中は嫌なことは、問題を先送りして、とにかく喜んでもらうことはするということになりがちです。
しかし、先送りはすなわち、市民の見えないところでどんどん市民の将来、子供たちへの負担が増えていくということです。これはもう絶対に阻止しなければなりません。ですから今、財源がないものはできない。私は、そういう面では市民にも嫌われる役を演じなければなりません。職員の待遇は悪くなる、民間のいろんな団体の補助金を削る、事業も削減し、市民の皆さんの要望もなかなか実現できません。このため、みんな不満でしょう。しかし、私の政策は1期4年ばかりではなく、5年後10年後に結果が出てくるのです。
今までの行政に対する評価は、目に見える建築、土木事業への評価でした。しかし、私は敢えて行革を断行しました。行革で財源を確保し、必要不可欠なものだけを作ってきました。それをもし今までと同じような状況でやっていたら自治体も、民間で言うと倒産です。そうならないような布石を打つことができたと思います。
――次期に向けての構想をお聞かせ下さい
綿貫
もうしばらくは、行財政改革を続けなければなりません。それで捻出した財源で必要不可欠な事業に取り組みたい。さらに情報公開を進めます。市長の交際費も全部公開しています。現状を市民の皆さんにも知っていただきたい。第3セクターを含めて外部団体、市関係の事業全ての情報公開をして、いわゆる負の部分も明らかにして対応策をこれから精力的にまとめていきます。
平成15年までが、支払いなどのピークです。平成16年からは必ず単年度黒字にできます。その時、私のような手を打てない、打たない自治体との違いが必ず出てきます。
厳しい時代に自分の故郷のまちづくりを市民の皆さん、職員と一緒にやっていけるというのは、非常にやりがいのあることです。なんとか財源を捻出しながら、市民の皆さんに喜んでいただけるような将来に向けてのマチづくりを進めていきたいと思っています。

【釧路市の事業】

釧路市教育委員会
(仮称)釧路市こども遊学館
釧路市住宅都市部
愛国小大規模改造工事
釧路市住宅都市部
中部地区コミュニティーセンター(完成予想図)
釧路市環境部
新高山最終処分場(予定地)

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