建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ1999年7月号〉

interview

成熟社会に向けて官民共同の北海道づくりを

北海道知事 堀 達也 氏

昭和 10年 11月 22日生まれ、北海道大学農学部卒
33年 10月 北海道網走支庁上渚滑林業指導事務所
34年 11月 北海道網走支庁上渚滑林業指導事務所長
35年 9月 北海道林務部林業指導課
37年 5月 北海道林務部造林課
42年 7月 旭川林務署
44年 8月 美深林務署音威子府支署業務第三係長
47年 5月 北海道林務部道有林第1課
49年 5月 北海道大阪事務所主査
52年 9月 北海道林務部道有林第1課販売係長
54年 5月 北海道林務部道有林管理室経営管理課販売係長
54年 8月 北海道林務部林政課
55年 4月 北海道林務部道有林管理室業務課長補佐
56年 4月 北海道林務部林産課長補佐
58年 5月 北海道林務部林産課長
59年 4月 北海道林務部道有林管理室経営管理課長
60年 4月 北海道総務部知事室秘書課長
62年 5月 北海道生活環境部次長
63年 4月 北海道土木部次長
平成 元 年 4月 北海道総務部知事室長
3年 5月 北海道公営企業管理者
5年 6月 北海道副知事(〜平成6年11月)
7年 4月 現職、現在2期目

統一地方選も終わり、堀道政の2期目がスタートした。「試される大地・北海道」のキャンペーンとともに、安定成長と成熟社会への移行に向けて、北海道のあるべき姿、目指す方向性などについて語ってもらった。
――これまで北海道は地域開発の遅れを主張し、公共事業費のシェア拡大に努めてきました。ところが最近になって、東京もまた同じ主張をし始めています。不交付団体ということから、地方の整備が促進される反面、都内は財政難によって都内の再整備がないがしろにされているとの不満が聞かれるようになっています。したがって、今後は地方と首都圏との関係に変化が生じるのではないかと思われますが
今までは、東京一極集中を進めることで、高度成長、右肩上がりの経済成長を支えてきました。しかし、今はむしろ緩やかな成長あるいはまた成熟社会に向かっています。したがって、均衡ある安定という方向性でとらえるべきなのです。それをさらに、一極集中を進めるというのは時流に逆行していると思います。
都内で流通する物の多くは、地方で供給しているわけですから、このことを見過ごされてはなりません。
――それを流通ルートに乗せて商業利潤を上げていくのが大都市としての役割で、ある種の地域的分業ということでは
そう考える以前に、過度に一極集中が進んだことに対する反省がまず必要だと思います。
食料も空気も水も地方からの供給なのです。ところが、たとえば北海道本社の企業であれ、みな東京を拠点にせざるを得なくなっています。そうしなければ本来の経済活動ができない仕組みを作ってしまったということです。
しかしこれからは逆に、東京・首都圏がこれまで果たしてきた機能を、今後は地方が担うということがすなわち地方分権であり、そして規制緩和の趣旨ではないでしょうか。
――知事が今回の選挙スローガンとし、試される大地・北海道の基本思想である自主自律は、それを背景としたものでしょうか
それは違うのです。今までは、急激な右肩上がりの経済成長を遂げる中で、北海道もその動向に沿ってきたわけですが、今後は緩やかな成長軌道の下に、社会全体が成熟化に向けて、地域が持っている特性や個性、気候風土も含めて、地域のあり方を考え直さなければならない時代にきているわけです。
その視点で北海道を捉え直すならば、ヨーロッパの一国にも匹敵する面積を持ち、そこに570万人の人口が集積しているわけですから、そうした地勢に対する自覚と気概を持って、北海道創りを進めていくべきだと私は考えているのです。
――アメリカでは現在、成長軌道にあり、今なお諸外国との競争においては一人勝ちの感がありますが、日本は北海道も含めて、今やヨーロッパのような成熟社会の段階に移行したという認識でしょうか
というのも、北海道は全国と同様に少子高齢化の時代を迎えていますから、否応なく成熟社会という社会形態に変化していかざるを得ないわけです。
したがって、北海道もこれからはそれを踏まえつつ、日本の一地域としての存在意義を示しながら、自律していかなければならないということです。
――このキャッチフレーズが、全国広告連盟の広告大賞に選ばれ、今後の道民への浸透において好材料となるものと思いますが、キャンペーンスタート以来、道民の心境に、何らかの変化またはその兆しなどは見られますか
試される大地・北海道のロゴタイプ等について、既に700件近い使用届出が来ています。これは着実に大きな広がりを見せていることの証左だと思います。
このキャンペーンが北海道の自主自律に向けて大きなきっかけとなり、道民の皆さんの意識改革へつながってほしいものです。北海道から北海道に対する情報発信ということへつながっていくものと想定しています。挫けずに頑張っている北海道と、道民の思いが、このキャッチフレーズあるいはロゴタイプの中に込められているのですから。
――最近、不況心理学という研究分野が見られ始めました。不況時の人間の心理を分析し、経済現象としての不況と人間の心理現象との関連性を見いだそうとしていますが、このチャッチフレーズとキャンペーンが、道民の心の支えになり、諸般の苦境を克服していくエネルギーにもなり得るのではないでしょうか
このキャッチフレーズについては、後向きではないかとの批判も聞かれましたが、一方では、前へ進んでいく一つの有様として受けとめる人もいました。最近になってようやく前向きなニュアンスとして認められるようになりましたね。
ただ、従来のキャンペーンは、ただ耳障りの良い覚えやすいキャッチフレーズでしたが、今回は考えさせられるものであり、それ自体が一つのインパクトだったのではないでしょうか。
――そうした精神を根底に持ちながら、現実的な景気対策も行っていかなければなりませんね。ところが、本州自治体が相次いで財政の緊急事態を宣言しましたが、北海道もそうした事態を迎えました。景気対策と財政再建は背反するテーマですが、どう考えていますか
やはり難しいで問題で、簡単に解答は得られませんね。私の立場から言うと、いろいろと制約された中で、地方自治体では中小企業の救援支援とか、公共事業を増額したり、一部ですが雇用対策を行うということを中心に、経済対策を進めてきているものと思います。
道としては、これまでも国の総合経済対策等に沿って、公共投資による需要の創出や金融支援の強化による中小・中堅企業の経営安定化や、さらには雇用の安定などに向けた対策を積極的に講じてきました。これによって、鉱工業の生産量は、公共事業関連のもので改善の兆しが見られ始めましたので、本道の経済は一部で持ち直しつつあると見ています。
しかし、公共事業の進め方一つにしても、今の仕組みでは地域の自主性なり地域事情が、十分配慮されるという仕組みにはなっていません。ですから、国の仕組み全体が変わっていかなければならないのです。その1つが地方分権として法制化されていくわけですが、これもなかなか地域の実状あるいは特性に応じて効率的に仕事ができるような形になるまでにはもう少し時間がかかるでしょう。
また、公共事業も無尽蔵に作るより、これまで作ってきたハードをいかに上手に使っていくかを考える時代になってきました。したがって、いわゆる箱物中心からソフトへと変わっていかざるをえないというのが、これからの時代認識だと思います。
とはいえ、北海道の場合は社会資本整備という面から見ると、新幹線もこれからですし、高速道路もまだまだ整備していかなければなりません。下水道もまだ十分ではありませんから、トータルとして考えれば、これらの公共事業は積極的に進めなければなりません。
ただ、何でもかんでも公費で整備することは難しくなっていますから、最近注目されているpfiなどの仕組みを積極的に導入して、民間の活力も活用することになっていくでしょう。
―― 一方の財政再建については
長く続いた景気の低迷を反映して、道税収入は大幅に減収しています。このまま行くと、平成11年度は、800億円規模の財源不足が生じる見込みで、道財政は、今まさに非常事態に直面しているわけです。
このため、人件費をはじめとする行政コストを縮減し、施策の全般にわたって聖域なく厳しい見直しを行うことになります。
「各種施策の厳しい選択」、さらには、地方交付税や道債などの「歳入の確保」に向けて全庁的に取り組んでいかなければなりません。
とはいえ私としては、道財政の健全化を進めるにしても、道内経済の動向には最大限配意しながら、取り組んでいこうと考えています。一部の県では、企業会計を取り入れて、基盤が安定した段階で回復させようという取り組みも見られます。東京都もそれを取り入れようとしており、三重県ではすでに実施しています。
手法は違いますが、私たちとしては他県と競う気持ちでいます。政策評価の導入もその一つです。各政策に関連する様々な要因を積み上げ、これからの政策の効率性や優先性などをチェックしながら、北海道で何が必要で何をしなければならないのかを取捨選択するということです。
それらを道民の皆さんに積極的に公開することにより、共同作業としてこれからの北海道経営に参画していただきたいと思っています。
――構造改革の終了年限について目安または目標は
出来るだけ早い方が良いのですが、継続性を保ちながら、変えていかなければならないという条件下で進めることになりますから容易には決められません。当面は、第3次北海道長期総合計画の前半期である平成14年度を目途に構造改革への足がかりを確かなものにしたいと考えています。
――市町村の合併も行われることになるのでしょうか
合併ありきということではなく、必要性が焦点になるでしょう。おそらくこれからの時代は、市町村合併も求められてくのではないかと思います。そのため現在、広域連合など、いろいろな仕組みが出来つつありますね。
――介護保険制度の導入によって、そうした仕組みはさらに深みを増していくのでは
ゴミ処理問題にしても介護保健の問題にしても、広域行政というものはこれからさらに求められてきますね。その状況の中で、関係する市町村もその必要性を認識し、また、地域の住民にも理解を得ながら進んでいくのだろうと思います。
ただ、最初から市町村合併ありきでいく話ではありません。むしろ住民意識や市町村の意識がそう変わっていくことが必要なのです。そうした流れの中で、自然に結果として合併が進むことが求められる時代ではないでしょうか。
そして、これからは行政についても、“行政リスク”というものがあることを皆さんに認識してもらわなければなりません。従来の護送船団方式ですべてが順調に治まっていた時代ではなくなってきました。護送船団方式というのは、行政が決して間違いを起こさないことを前提にしているものですから、行政のやることに間違いはないという固定観念は変えてもらわねばなりません。
したがって今後は“みんなで活動するための役所”という認識を持たなければならないでしょう。
【堀道政二期目の新規政策】
テーマ「参加と信頼の道政」「困難を克服する道政」「未来に挑戦する道政」
@「たくましい北海道産業づくりと雇用の創出」
・道産食品の独自の認証制度の確立、安全性を高めるhaccp(ハサツプ)の普及
・厳しい雇用情勢に対処するための、雇用創出につながる新規事業(検討中)
A「活力あふれる道民ベンチャーの創出」
・新しい事業手法としてのpfiの導入検討
・公益的な活動を行うnpo団体の支援
B「21世紀の子育てと人づくり」
・保育など子育ての環境づくり
・教育分野の情報化、不登校児童のサポート事業
C「安心できる北海道コミュニティの創造」
・市町村の支援計画づくりや広域化の取り組み支援
・人材養成や介護サービスの体験機会の設定
・通所施設や訪問サービスの充実など一連の支援策
・児童虐待や家庭内暴力といった問題の対策
D「先進の環境重視型社会の形成」
・道庁としてiso(イソ)14001(環境マネジメントシステム)の取得
・次の世代にひきつぐべき道内の優れた自然や文化を保全、活用する「北海道遺産」構想
E「開かれた交流型社会基盤の整備」
 ・高齢者や障害者に配慮した道道の改修事業や中心市街地・商店街の活性化対策
F「北海道ガバメント」
・1期目に掲げた道政改革
・支庁権限予算の再編統合

HOME