建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2001年7月号〉

interview

子供たちとの交流で新たなまちづくりを展開

鬼脇を福祉の村に位置付け活性化

利尻富士町長 安達 敏夫 氏

安達 敏夫 あだち・としお
 昭和 5年 1月30日生まれ、利尻富士町出身、自治大学校卒
 昭和 22年 鴛泊村役場.東利尻町役場税務係、厚生係、総務係
 昭和 38年 東利尻町役場総務係長
 昭和 39年 東利尻町役場厚生課長
 昭和 44年 東利尻町役場総務課長
 昭和 49年 東利尻町役場助役(2期)
 昭和 57年 東利尻町長に就任(2期)
利尻富士町長(3期) 現在に至る
秀峰利尻山と群青の日本海に育まれた利尻富士町は、基幹産業である観光に町民待望の温泉が加わるなど着実に振興してきた。これからも離島を発展させるために、子供たちの育成や福祉対策に取り組む利尻富士町のあり方を安達敏夫町長に語ってもらった。
――まもなく町長として19年間が経過しますね
安達
助役を約2期務め、町長になり現在5期目で、町政は議会や町民のご協力や支援をいただいたおかげで、無難に政策を行うことができました。町長として満足のいく仕事ができたのではないかと思っています。
――最も自己評価できる施策は何でしたか
安達
一番町民に喜ばれたのは、長年の希望であった温泉ですね。最初は不可能と言われていましたが、水脈探査でなく放射線探査に変更したところ、5箇所ぐらいに反応がありました。ボーリングの結果、40度ほどの温度で水量も豊富な温泉が出ました。
利尻富士は漁業地帯ですから、漁師は体が冷えますし、お年寄りが秋や冬になると青森に湯治にまで行っていたのが、これからは地元で済みます。また、各家庭の据え風呂に、湧き出るお湯を運び、自宅で温泉に入れるサービスも行っており、大変町民の皆さんに喜ばれています。
温泉が湧き出たことは、観光にも大きなプラスでした。離島にして温泉があることから、温泉好きの観光客が駆けつけてきます。景色の良い露天風呂が、大変喜ばれています。やはり温泉が私の政策の中で最も実りが多く、町民にも喜ばれたと思います。
――観光客も毎年伸びているようですね
安達
現在の宿泊数は年間22万人ほどですが、今後は24万人を目指します。これは広域的に宗谷観光連盟などと協調性を持ちながら、全国のお客さん誘致に出向いた結果が、この基盤づくりにつながったと考えています。今後は、お客さんが自然を満喫できるように自然を守り、接客を大事にすればリピーター客も増えると思います。
また当地の利尻山は、日本名山百選の一つに数えられており、登山客も多くなりました。これらのお客さんについても、登山事故を無くすよう体制を整え、また登山で衣類が汚れた場合は、温泉に洗濯室があるので、入浴の間に洗濯や乾燥ができる仕組みにしています。そうした気配りをしてお客さんを大事にすることが一番大切だと考えます。
食べ物も、加工した魚介類より、活きの良い魚介類を生で食べさせる施設、島ならではの食べ物を提供できればと考えています。その一環で鴛泊漁協は5年前から活ウニの食堂を設け、また今年は鬼脇で活きの良い魚介類の売店所を設け、前向きに観光と漁業のタイアップを図っております。
――その漁業の現状はいかがですか
安達
基幹産業の一つですので、海から魚介類がたくさん揚がれば活気が出ますが、逆の場合は漁師も住民も活気が出ません。現状は利尻昆布が磯焼け現象により減産しています。当地のウニは日本でも名を馳せるものですが、そのウニのエサとなる昆布が減少しているので、思うように生産が上がらないのが現状です。
また、漁船漁業では色々な魚種を獲っていますが、水温が変わったことが原因で主体となるカレイやタコ、オオナゴ、ホッケなどが減産している状況です。
しかし現在、道がニシンのふ化実験を行っており、ヒラメの放流実験も順調に成果は上がってきていますから、継続していけば生産性が向上すると思います。これからも漁業関係では、色々とアイデアを持って、育てる漁業ばかりに目を向けるのではなく管理型漁業を行い、熱意と魅力を持って漁業者に取り組んでもらうようprしていきます。
ただ、残念なことは、漁業後継者がいないことで、一番大きな悩みの種です。現在利尻には4つの漁業組合がありますが、漁業者も年々減っている上に、生産性が上がらないので、漁業組合を一本化しようという統合案も検討されています。しかし私としては、元気のある漁業に育て上げたいので、組合側とも相談して、人力で可能な限りの事はしたいと考えています。
――漁業と同様に自治体も合併問題が話題になっていますが、どのようにお考えですか
安達
現在、利尻富士と利尻の合併問題が出ていますが、かつて31年にどちらも合併を経験しており、利尻町の方は仙法志と沓形を合併、利尻富士町の方は鴛泊と鬼脇を合併しました。
その当時も島を1つの町にすることが北海道案として提案されていましたが、役場所在地が決まらず廃案になりました。沓形は人家の密集地域であり漁業基地として栄え、鴛泊は利尻島の玄関口として栄えてきました。現在でもその意識はあり、合併するにしても役場庁舎をどこに置くかがネックだと考えています。
過去の合併は対等合併でしたが、ほぼ吸収された格好となった鬼脇や仙法志が極端に過疎化したという、目に見える形で問題が生じていますから、役場が無くなると、色々とデメリットが出てくると思います。一方そうはいっても、このままでは財政的にも厳しい状況ですから、合併によるメリットも得られると思います。最終的には住民の判断にもよりますが、利尻富士と利尻で十分に話し合いをして、良い方向に向けなければならないと考えています。
――子供たちの育成については、どう取り組んでいきますか
安達
これからはやはり子供たちに目を向けるべきだと思いますが、しかし中学校を卒業すると、子供たちは島を出ていくのが現状です。そこで島に残ってもらえるように島に愛着を持たせるべきだと考えています。
その一環として去年の12月に小学校5年生を対象に町長とのサミットを行いました。その中で子供達は、自然を残してもらいたい、交通の便を向上させてもらいたいなど、彼らなりに、自分が島に残る上での要望を持っていました。その中でも「自分達の手で汚れた町にしない、きれいな町にしよう、それにはボランティアで清掃をするべきだ」という意見には子供ながらも大したものだと感心しました。子供たちは私たちが考えている以上に島のことを考えていると思います。これからも子供達の年代別にサミットを開き、子供たちの意見を取り入れていきたいものです。
また、島に愛着を持ってもらうために、社会教育として親と子のふれあい、地域と地域とのふれあいにおいて、自然を活用してもらい島に愛着、郷土を愛するという心を養ってもらいたいと考えています。
――福祉対策の取り組みについては
安達
先に述べた鬼脇に役場庁舎が無いことによる過疎化の問題対策として、鬼脇を福祉の村づくりの拠点と位置づけて進めています。鬼脇は南向きで風が無く、島の中でも温暖な地域で、福祉施設を整備するには適切な地域だと思います。
これまでも50人収容の特別養護老人ホームやデイサービスセンター、去年は道立鬼脇病院が診療所に格下げになったことから、全額が道の支援による老健施設を診療所の一角に設置しました。また、今年は老人クラブの集会施設の整備も計画しています。
  このように鬼脇を福祉の村として再生することで、かなりの人数が集まり、それが活気につながり、過疎化対策につながればよいと思っています。

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