建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2001年6・7月号〉

interview

(後編へジャンプ)

食の安全を守るためにも道路網と治水の整備を促進

北海道は日本の食料供給基地

北海道建設部長 逢坂 禎 氏

逢坂 禎 おうさか・よしみ
 昭和19年1月8日生まれ
 昭和 52年 石狩川流域下水道事務所建設
53年 同 施設各係長
55年 札幌土現道路建設課主査
56年 下水道課下水道第2
58年 同 計画各係長
61年 網走土現事業課長
62年 同 治水課長
 平成 元年 河川課主任技師
4年 帯広土現技術部長
5年 土木部総務課参事
5年 河川課長
7年 釧路土現所長
9年 土木局長
11年 参事監
13年 現職
北海道開発庁が統合され、国土交通省が発足したことで、道内の国道整備体制が若干、変更された。北海道は、国道、地方道含め、以前から「熊、鹿のための道路」と揶揄されてきたが、食料供給基地としての機能と役割を高めていくには、流通基盤となる道路網の整備は欠かせない。そして、全国で最大の耕作地を有していることから、都市部のように人や財産の集中する地域とは違った意味で、治水整備も重要だ。洪水による兵糧庫の水攻めを回避するため、耕作地の安全度を高めなければならない。逢坂禎北海道建設部長に、道内の基盤整備の意義と方針について伺った。
――北海道の道路整備は、本州とは歴史的な背景が異なっていますが、整備状況は、どこまで本州レベルに近づいてきましたか
逢坂
北海道の組織的な開発は、明治2年の開拓使の設置によって始まり、日本の近代化のための資源供給基地という位置づけのもとで、道路などの基盤整備が行われました。昭和25年に北海道開発法によって北海道開発庁が設置されました。その開発庁設置以来、北海道の道路整備は北海道総合開発計画に基づき着実に進んできています。
しかしながら、広大な大地に都市が点在する北海道においては、自動車依存度が高いにもかかわらず、高規格幹線道路の供用率を見ると、全国の約56.0%に比べて29.2%と整備が遅れている状況にあります。
また、道道について見ると、40区間の冬期交通不能区間を抱えるとともに、吹雪などの気象状況によって交通規制を余儀なくされるという状況にあります。
さらに、舗装率においても全国水準を大きく下回っており、全国ベースでは55.3%ですが、北海道は32.8%に止まるなど、北海道の道路整備はいまなお遅れている状況にあります。
――道路の交通需要が低いのでしょうか
逢坂
交通需要の動向は、平成11年度に実施した道路交通センサス結果による北海道の特徴を見ると、全車の走行台キ口つまり、自動車の走行距離の総和ですが、その年平均伸び率は1.1%であり、道内総生産の伸び率がマイナスなのに関わらず、一定の伸びを示しています。
また、車種別の平均交通量割合では、乗用車の割合が平成9年に61.5%だったのに対し、11年では63.6%と増加しています。さらに、走行台キロにおける道路別の利用状況を見ると、高速自動車国道と一般国道のシェアが非常に高く、この二つが全種類の道路総延長に占める割合が8.3%でしかないのに、走行台キ口で見ると48.8%に上っており、かなりの需要を分担している格好です。
――国道も道道も、ともに広域交通を担う役割がありますが、両者のネットワーク化と、機能分担をどう図っていますか
逢坂
  道路は、社会資本全体の効率的な利用を可能にする役割を担った、最も基本的な公共施設です。その基本目標は、高速道路から市町村道に至るまで、体系的な道路網を形成することにより、国土の広域的な利用を拡大し、安全で活力に満ちた社会・経済・生活の実現を図ることにあると考えています。
また、ネットワークを形成するにあたり、その根幹をなす高規格幹線道路や、空港・港湾など交通拠点との連絡を図る機能をもつ地域高規格道路の整備が急務となっています。
一方、道道は、高規格幹線道路や一般国道と一体となって、地方的な幹線道路網を構成しており、四方を海に囲まれた本道にとっては、重要な交通モードの転喚点である空港や港湾へのアクセス道路や、主要な都市、観光地へのアクセス道路として、国道を補完するものとして欠かすことのできない役割を担っています。
こうした基本的な立場を踏まえながら、地域のニーズを基本に、今後とも国・道・市町村など関係機関の連携を一層深め、重点化を図りながら、適切な道路交通ネットワークを早期に形成していきたいと考えています。
――密集度の低い北海道での道路整備に否定的な見解も見られますが、北海道として、優先しなければならない課題は
逢坂
道路というものは、地域の密集度に関係なく、安全で活力に満ちた社会・経済・生活の実現に向けて多様な役割を有しています。北海道として、特に早急に整備しなければならない地域は、第一に、昨年3月に噴火した有珠山周辺地域における非常時の避難路を確保するための道路整備です。
また、本道には、駒ケ岳など他の活火山もありますから、災害に強い、代替性のある道路ネットワークの形成を急ぐ必要があります。
第二に、新たな経済構造の実現を支援するという役割もあります。広大な大地を抱えることによる時間的ハンディを克服するためには、高規格幹線道路をはじめ、地域高規格道路などの幹線道路網の構築を早期に図り、空港などの交通拠点とのアクセス機能を強化し、時間短縮を図る必要があるのです。
また、中心市街地の活性化の支援のため、市街地に相応しい街並みを創出するため、歩道空間の整備を行うなど、活性化への支援を図ることも重要です。
第三には、都市圏の交通円滑化を推進するため、渋滞対策として、連続立体交差事業や狭隘橋梁の整備などを進める必要があります。
そして最後に、依然として多い交通事故に対応し、交通安全施設を効果的に整備するなど、道路交通環境の整備を進めると同時に、冬期間でも安全で円滑な交通の確保を図る必要があります。
こうした課題への取り組みと同時に、各地域の実状も踏まえ、今後とも一層、実効性のある道路整備に努めていきたいと考えています。
――一方、治水整備も地域の安全はもとより経済を守る上では重要ですね。特に食料供給基地として、全国の中でも最大の耕地面積を抱える地域ですから
逢坂
河川の整備は、洪水被害の頻度や流域内の資産の集積度合いなど、河川ごとに事業の緊急性を考慮しながら、優先度を判断して進めることにしています。
確かに、北海道は我が国の約4分の1の農地面積を有し、農業粗生産額は全国の1割余を占めて、第1位にあります。全国の食料自給率が年々低下しているなかで、引き続き我が国の食料安定供給に大きく寄与することが期待されていますから、資産の集中している都市部ばかりではなく、農村部の河川の治水対策もバランスよく推進する必要があります。
――河川管理においては、河川敷を開放する方向へと向かいつつあり、これが時代の要請となっていますね
逢坂
そうです。したがって、河川の整備も、近年の自然環境に対する関心の高まりとともに、水と緑の豊かな空間の確保が求められています。そのため、「北海道の川づくり基本計画」を策定し、瀬や淵、河畔林の保全や創出など、自然環境に応じた川づくりや水辺に親しむことのできる、生きている川づくりを進めています。
また、平成9年に河川法が改正され、地域の意見を反映した河川整備を推進することになり、お互いに役割と責任の分担を明確にした上で地域との連携を緊密にし、協働して河川の整備や維持管理を進めていくことが必要になりました。
――北海道は内陸県と違い、四方を海に囲まれていますから、水際の安全を高める必要もあるのでは
逢坂
海岸保全事業は第6次海岸事業七箇年計画に基づき、津波・高潮や、全道的に侵食の著しい海岸の災害を防止するなど、防災機能の向上を図ると共に、多様化する海辺二ーズや自然環境との調和に配慮して進めることにしています。
特に北海道の海岸は、水と緑に恵まれた広大な景観を有しており、多様な生物が生息して豊かな生態系を形成しています。このような景観や自然環境との調和に配慮しつつ、自然とのふれあいや観光・保養の場として整備し、大切な資産として将来に引き継ぐことが大切だと考えています。
また、平成11年には海岸法が改正され、地域の意見を反映した海岸整備を推進することとなり、平成12年度からは2カ年の「海岸保全基本計画」を、全道9沿岸で策定中です。
今後は、この計画に基づき計画的でかつ整合性のとれた海岸の保全を進めていくことになります。

(後編)

――治水、砂防について伺います。最も注目されるのは有珠山の噴火で、その後、駒ヶ岳の動勢も危ぶまれました
逢坂
北海道は、我が国の活火山76のうち、15の火山が集中しています。海底火山、無人島を除く全国の25%に相当します。周知の通り、12年3月に有珠山が23年ぶりに噴火しました。また、駒ケ岳は過去には、8年、10年、12年の3回、雌阿寒岳は平成10年に小噴火が頻発し、さらに、樽前山、十勝岳の活動の活発化が観測されるなど、北海道内の火山は依然、活動期にあります。
また、十勝岳、有珠山、駒ケ岳、樽前山などは、過去に大規模な火砕流や火山泥流による災害が頻発していることから、活動の活発化により、火山周辺の市町村では緊張感が高まってきてます。
一方、5年1月の北海道釧路沖地震、同年7月の北海道南西沖地震、翌年10月の北海道東方沖地震など、規模の大きな地震が北海道近海に発生したため、地盤がゆるみ不安定になっています。また、火山性の堆積物に覆われた火山域が全道の5分の1を占め、地質が新しく浸食を被りやすいなどから、土砂災害が発生しやすい状況になっています。
このため、観光拠点でもある火山地域における、広域的かつ壊滅的な土砂災害を防止するため、火山地域の防災体制の充実、it防災基盤整備、警戒避難対策として、光ファイバー網の整備や、火山泥流感知ワイヤーセンサーの設置、住民と災害情報を相互に通報するシステム整備が急務です。
のみならず、近年、災害が発生した荒廃渓流においては、再度災害防止を図るための土石流対策や、災害弱者関連施設を保全対象に含む危険渓流などにおける土砂災害対策も進めなければなりません。
――北海道の地盤は、危険な状態なのでしょうか
逢坂
北海道は、道央の産炭地と海岸地帯を中心に地すべりの危険性のある箇所が多数分布しています。一方、道南と太平洋沿岸地方には、がけ崩れの危険性のある、急傾斜地崩壊危険箇所が多数分布しています。しかも、都市の拡大などにより、危険箇所が急増しています。
そのため、近年に災害が発生した土砂災害危険箇所においては、再び災害を繰り返さないよう、災害弱者関連施設を保全対象に含む危険箇所についての土砂災害対策や、河川関連対策などの地すべり対策事業を推進する必要があります。
――一方、治水の対策進捗率は
逢坂
北海道の管理する中小河川は、昭和11年の剣淵川改修工事に始まり、平成11年度末までに、中小河川164河川、小規模河川153河川、局部改良河川677河川に着手しており、中小河川、小規模河川を合わせて215河川について完了しています。
平成13年度は、ヤリキレナイ川、ラウネ川などに新規に着手し、地域の基幹をなす広域河川改修事業などを214河川で実施しています。
しかし、それでもまだまだ追いつきません。北海道は広大な面積に12,000kmを超える長い河川延長を管理していますが、開拓の歴史が浅いため、当面改修が必要な延長7,600qに対し、これまで一定の整備を終えた延長は約2,300qでしかなく、整備率は約30%に留まっています。全国ベースでは57%ですから、未だに低い数値となっています。
道民のかけがえのない生命と貴重な財産を守るためにも、もっと、治水対策を進める必要があります。
――北海道は、全国で最も自然が多いだけに手付かずの未整備地が多いのですね
逢坂
砂防事業は、昭和25年に着手して以来、土砂流出の甚だしい渓流を中心に土砂災害を防ぐため、砂防ダム・床固工1,479基、うち砂防ダム996基、床固工483基を整備し、渓流保全工は172渓流を整備してきました。
13年度は、流域数では63流域、渓流数では85渓流を予定しています。なお、新規渓流数は火山砂防激特が5渓流・1火山、通常砂防が8渓流、火山砂防が2渓流の計16渓流になります。
しかし、それでも土石流の土砂災害危険箇所が道内各地に多数分布しているのに対し、北海道の砂防事業の歴史は浅く、土石流危険渓流1,848渓流の整備率は15%程度で、全国平均の20%に比べると、これもまた遅れている状況にあります。
地すべり対策事業は、昭和32年に釧路町の知方学(ちほまない)で始められ、平成11年度までに全道の地すべり危険箇所437地区のうち50地区について、事業着手していますが、その整備率は8%でしかなく、未だに河川流域に多大な被害を及ぼす恐れのある河川に係わる地すべり地や、宅地化に伴って生じた新たな地すべり危険地帯等が数多くあることから、今後とも、一層の地すべり防止対策事業を推進する必要があると考えています。
――そうした一般土木事業について、PFIを導入する可能性についてはどう考えますか
逢坂
PFIは、公共施設の建設、維持管理、運営等を民間資金、経営能力及び技術的能力を活用し、公共サービス水準の向上や事業コストの低減を図る新しい手法で、現在は神奈川県や千葉市などで、15事業でについて実施方針の公表や事業着手がされていると聞いています。今後、公共事業においての一つの手法として期待されています。
北海道では、道立八雲広域公園(仮称)の管理棟と、情報物産舘の複合施設であるオアシス館とオートキャンプ場の設計、建設、維持管理、そして運営に関する業務について、PFIの可能性があるかどうか調査をしているところです。
検討課題は、従来方式とPFI方式を比較し、公的財政負担の縮減が図られるかどうか、民間のノウハウが活かされた質の高い公共サービスが提供されるかどうかであり、今年度中にも導入できるかどうか、判断を下していきたいと考えています。

HOME