建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2001年6月号〉

interview

庁舎整備は地域の街並みに調和させて

シビックコアの普及を目指す

国土交通省 九州地方整備局 (前)営繕部長  大塚 知義 氏

大塚 知義 おおつか・ともよし
 出身地 兵庫県尼崎市
 生年月日 昭和24年4月9日生
 昭和 48年 3月 東北大学工学部建築学科卒
昭和 48年 4月 北海道開発局採用
昭和 52年 4月 筑波研究学園都市営繕建設本部計画課
昭和 55年 4月 建設大学校計画管理部建築課
昭和 56年 9月 外務省経済協力局無償資金協力第二課
昭和 58年 7月 筑波研究学園都市施設管理センター
昭和 60年 4月 中部地建営繕部工務検査課長
昭和 61年 7月 建築研究所企画部技術管理課長
平成 2年 4月 北海道開発局営繕部建築課長
平成 5年 5月 宮内庁管理部工務課長補佐
平成 8年 4月 東北地建営繕調査官
平成 10年 4月 関東地建営繕部移転機関営繕管理官
平成 10年 12月 九州地建営繕部長
首都圏では、地価下落によって都心回帰現象が見られるが、九州では今でも中心市街地の過疎化が進む地域がある。そうした問題を解決する上では、国の官庁施設に対する期待がかかる。九州地方整備局の(前)営繕部長・大塚知義氏としても、営繕事業を独走させるのではなく、地域のまちづくり計画と足並みを揃え、あるいはまちづくりを先導する形で庁舎整備を進めたいとしており、その際、シビックコア地区整備制度の導入をアピールすることも忘れない。人の流れを一変させるだけのインパクトを持つ営繕事業において、どのように九州らしさを表現していくか、同部長に伺った。
――国の営繕事業は、地域的な特性を反映させるべく様々に工夫されていますね
大塚
地域の特性を見た場合、九州は、よくアジアに対する玄関口といわれます。アジアとのつながりは歴史的には、欧米よりも古く、縄文・弥生の頃から続いています。そして日本も、各県毎に特徴のある歴史がありますから、地域ごとにそれぞれの個性を持っています。日本の地域性を考える上ではこの二つが重要な要素だと思います。国際的な側面と、歴史を背負った地域の多彩さですね。そして、自然環境は山や海が非常に身近にあり、厳しい自然ではなく、非常に親しみやすい自然が、生活空間の近くにあることも大きな特色です。
一方、同じ自然でも、気候としては、台風が多く、特に九州は台風関連の災害が日本の中でもかなりの部分を占めています。例えば土砂災害を見ると、全国の九割を九州が占めているとされています。
――官庁施設の耐用年数は、50年から30年と幅がありますが、管内の庁舎はどのくらいに設定されていますか
大塚
概ね50年から60年というのが平均ですが、現実には40年程度で建て替えることもあります。傷み具合や使い勝手、狭隘化などが主な原因となります。
――国土交通省として合併されましたが、旧運輸省の港湾建設局などの庁舎が違う場所にあったところは、今なお別庁舎となっていますね
大塚
九州の場合は旧第四港湾建設局が下関にあったので、現在の九州地方整備局港湾空港部は今なお下関市にあります。将来的には、なるべく同じ庁舎に同居した形を取りたいので、営繕部としても早急に実現できるよう努力したいと思っています。
――タイミングとしては、この福岡第二合同庁舎がいよいよ建て直さなければならなくなったときになりそうですか
大塚
私としては、それ以前に、何とかしたいものと思っています。入居官署もいろいろと入れ替えながら無駄にならないように、それでいて外から見てもおかしくなく、我々にとっても仕事がしやすいこと。庁舎整備において重要なポイントはここにあります。
――一つの合同庁舎に集約されることは、国民への利便性向上というサービスでもありますね
大塚
そうなのですが、業務の性格から建設地の選択は難しいものがあります。例えば、関東を見ると、本局の入っている合同庁舎のある大宮は内陸で、港湾空港部は海岸周辺が業務の中心であることもあって、横浜の海浜地区にあります。
その点、福岡市は海に面していますから、どちらにも対応できるという地の利があります。
――地域の特色を官庁施設に反映させていくのは、言うは易しで現実には難しいのでは
大塚
いわゆる街づくりの一環として、それぞれの自治体が描く街並みのイメージに合わせることが基本です。福岡では、古くから続いてきた柳をテーマにしたまちづくりという理念がありますから、そうした基本的なコンセプトに合わせて整備することです。
街としてどんな計画を持っていのるかを聞きながら、その将来像を見据えつつ、国としてもある程度はまちづくりを誘導、先導していけるような、そうしたデザインを考えています。
一方、国際的な視点に立つなら、東南アジアをはじめ、様々な地域の人たちが来ますから、施設の分かりやすさに配慮することも大切です。
――理想的なモデルはありますか
大塚
例えば小規模の庁舎であっても、倉庫や町屋に見られる瓦屋根のようなものを取り付けた事例などがあります。
――郵政庁舎や郵便局には、黒塀を基調とした街並みに合わせて、局の壁を黒塀風に塗装したものがあります
大塚
街として緑を大切にするところでは、緑を活かし、白壁が基調ならそれをモチーフにするということですね。
――それによって、街並みに統一感が出てきますね
大塚
街を歩いても、銀行を含めて公共的な建物のデザインが統一されていると、まちづくりへの意志が感じられます。これは非常に大事なことだと思います。
――国策として見逃せないのは、シビックコア地区整備の将来性と展開ですが、九州ではどの程度、導入されていますか
大塚
九州はその策定が遅れていました。都城市が去年の年末に承認を受け、ようやく一件出来ました。九州は、シビックコアという点では遅れていたのです。
全国的に十分、知れ渡っていなかったこともありますが、第一の問題点は、補助金の手当など、直接的なメリットに乏しいことが大きな要素でしょう。街づくりをするにあたっては、合同庁舎を生かしてもらう考えですが、街づくり自体については、自治体の主体的な努力に負うことになるわけです。
 したがって、直接的なメリットが乏しいのが難点ですが、私たちからいろいろな提案を投げかけて見たり、あるいは合同庁舎を建てるだけでなく、街づくりに寄与する形で導入することが基本です。
――その意味で、各地の自治体から要望などは寄せられますか
大塚
合同庁舎の建設を要望する声は、結構多いのです。というのも最近は九州でも中心市街地の空洞化が進んでいます。そこで行政庁舎を核として再生を図ろうとする試みがよく見られます。
 そうした時には、私たちも必ずシビックの話を持ち出しますが、自治体では、是非とも導入して欲しいとの反応が見られますから、評価はまずまずですね。実を言えば、それによって自治体側も、予算要求した際に承認されやすいのだそうです(笑) 
――合同庁舎は、不特定多数の人々が出入りしますから、かなり人の流れも変わりますね。したがって、人流が少ないところであれば、起爆剤として期待できるでしょう
大塚
都城市の場合も、中心市街地が寂れ、商店街もシャッターが半分くらいは下りてしまい、空き家もかなりあるという状況です。市の中心市街地がそうですから自治体としても放置できないでしょう。そのために、是非とも合同庁舎を建てて欲しいとの要望がありました。
――地元自治体は、それに併せて独自の整備計画を持っているようですか
大塚
いくつかあります。従来の街並みを歩行者優先にして回遊できるような、回廊形式で整備したり、ある部分には広場を作って、人が滞留できるスペースを整備するとか、お祭りや催し物が出来るような場を整備するなどの案が検討されているようです。
――極端に言えば、庁舎や再開発ビルが一つ建てられただけで、地域が全く見違えてしまうことがあります
大塚
そのとおりで、将来像が非常に楽しみですね
――一方、最近、よく話題になるのはランニングコストの負担ですが、即効性のある有効な手法はあるのでしょうか
大塚
九州ではシーガイアの破綻などいろいろ問題も発生していますね。こうしたテーマパークなどは立ち行かなくなっていますが、行政だけでなく、地元の商店街や住民を巻き込んだ形で実施することが大切です。計画も破綻するような背伸びをしたものではなく、地に足のついたものとすることです。
――関係者が多ければ多いほど相乗効果が期待できますね
大塚
やはり、広く手を結んで実行していくのが、最もリスクが少なく済むものと思います。多少、調整には手間取るかも知れませんが、この方が最終的には成功するでしょう。
――世論を見ると、とかく行政庁舎ばかりが新しくなっていることに目くじらを立てる風潮も見られるため、自治体などでは肩身の狭い思いをしながら取り組んでいる事例も見かけます
大塚
自治体自体の財政事情も非常に悪くなっていて、いわゆるハコモノ整備をやめるところが増えてきているというのが実状と思いますが、自治体の役所というのは、地域としてのシンボリックな面があります。地域に対して元気を与えるという面もあるでしょうから、過度な贅沢はないとしても、ある程度のクオリティやシンボル性を持たせなければならないと思います。
――大阪城は、太閤秀吉の治世のシンボルであり、地域に治安上の安心感をもたらす効果を発揮していたと言われますね
大塚
やはり、行政庁舎たるものが「安かろう悪かろう」では問題です。確かに無駄は良くないが、そうした粗末な役所が地域の未来を先導するようになってしまったのでは、世も末という感じになります。
――一方、庁舎というのは防災拠点にもなりますが、阪神淡路大震災の時に神戸市役所の一部が潰れてしまいました。これでは防災の名が泣きます
大塚
阪神淡路大震災の後、様々な基準が設けられましたので、国の庁舎はそれをクリアしています。基準自体がかなり信頼できるものなので、これをオーバーする必要はありません。これをクリアしていれば、阪神淡路のようなものが来ても、まず大丈夫でしょう。
――合同庁舎では、様々な省庁、官署が入りますが、配置や入居階層の割り当てには、何らかの基準はあるのですか
大塚
そうですね、部外者の来訪の多い官署は下に、あまり来訪者のないところは上にというのは基本ですが、設計に際して、それぞれの官署から希望を聞き、逆にこちら側からも説得しながら折り合いをつけているというのが現実です。
というのも、やはり人気のある階というものがあり、外出するのに不便な階は、やはり敬遠されます。
――合同庁舎には、駐車場が付き物ですが、都市部では駐車場が不足しがちなため、週末や休日などの一般開放を求める声もあります
大塚
私たちも本音を言えば、是非そうしたいところで、地元からも要望されています。
ただ、入居管理者としては、セキュリティやその他、考慮しなければならない課題が多いのも現実です。このため無条件に土日解放している事例は、あまり見られないですね。したがって、その対応はこれからの課題だろうと思います。
開放を求める世論が多くなり、風潮がその方向へ向かっていくならばと思うのですが、現時点ではまだ、ガードが堅い一面がありますね。
――有料化して、多少とも庁舎維持費の補足とすることは不可能でしょうか
大塚
なかなか先例のない領域に踏み込むのは難しいものです。民間駐車場との競合という側面も考慮しなければなりません
――規制緩和は、後の影響を考えると実現しにくい面はありますね。以前に、jr駅の近くにできた郵政庁舎の駐車場を、郵便利用の用事がない人が車を止めて駅に行ってしまうケースが多く見られることを聞きましたが、局側は行政サービスの側面から、閉め出しにくく、対応に苦慮しているとのことです
大塚
そうですね。廃車目的で放置されるというケースもあり、また構内で発生した事故の責任の所在や処理の難しさなど、一筋縄ではいかない問題があります。

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