建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2000年6月号〉

interview

本道経済の構造改革に着手

度重なるアクシデントをどう乗り切るか

北海道経済部長 長尾明宏 氏

長尾明宏 ながお・あきひろ
昭和17年12月3日生まれ、紋別市出身、立命館大法学部卒。
昭和 40年 4月 北海道職員採用
63年 10月 総合企画部参事(派遣先:(財)食の祭典実行委員会)
平成 2年 4月 総務部情報管理課参事
3年 5月 総務部情報管理課長
5年 4月 総務部知事室国際交流課長
7年 6月 企画振興部企画室長
8年 4月 企画披興部次長
9年 6月 檜山支庁長
11年 5月 総合企画部構造改革推進室長
12年 4月 経済部長
本道の景気は、全国景気より一歩遅れて回復し、一歩先んじて悪化するとよく言われる。それほど経済の基盤が弱いわけだが、全国景気がようやく自律回復基調に向かい始めた矢先に有珠山の噴火や、本道の重要な経済基盤である公共事業発注を担う北海道庁幹部らの逮捕など、北海道拓殖銀行倒産後の悪影響からようやく脱しつつある情勢に水を注すアクシデントが、次々と起こっている。したがって、本道経済は、いよいよ本格的な構造改革に着手すべき時を迎えたと見るべきだろう。その先導役となる長尾明宏経済部長に、今後の方向性と政策について伺った。
――経済部長に就任早々から、有珠山噴火に関する対策で忙しい日々が続いていると思いますが、地域経済への影響をどのように見ていますか
長尾
有珠山の噴火に伴い、住民の避難生活が長期化していることや、被災地域の商店やホテル・旅館などが長期間の休業を余儀なくされていますので、住民生活はもとより、商工業や観光関連産業など、地域経済への影響がかなり大きくなっています。
道としては、関係機関の協力を得ながら、住民の安全確保や企業の経営安定などに必要な対策を講じていますが、国に対しても生活支援対策や雇用・産業対策、さらには財政支援対策についても強く要請しています。
今後についても、現地の状況の的確な把握や、事業主や従業員からの相談へのきめ細かな対応に努めるとともに、中小企業の経営対策や雇用の維持など、必要な措置について万全を期す考えです。
――本道経済は、自主・自律の精神で民間主導の自立型経済への転換を図ることが求められていますが、景気が自立的な回復へ向かいつつある端緒で、北海道は様々なアクシデントに見舞われています。この局面をどう乗り切りますか
長尾
我が国においては、大きな時代の潮流に対応し、規制緩和や地方分権などの行財政改革、経済構造改革、金融システム改革などが進められています。北海道においても、北海道開発庁や北海道東北開発公庫の統合・再編など、これまで長年にわたって道内経済の発展を支えてきた様々な枠組みの変化が現実のものとなりつつあります。
したがって、公的需要に大きく依存した北海道の経済構造は、抜本的な見直しを迫られており、今後は、民間投資に支えられた自立的に発展する構造へと転換を図っていくことが重要な課題となっています。
加えて、景気低迷が長引くなかで、厳しい状況が続いている雇用や経営環境などの改善に取り組むことが当面の緊急課題となっています。
こうした厳しい経済環境や雇用情勢に対処して、本道経済の活性化と自立化を図っていく上で、経済部は全庁的な取組みにおいても極めて重要な役割を担っているものと認識しており、私としても、改めてその重責を痛感しています。
今後とも、北海道通商産業局をはじめ、新たに設置された北海道労働局など国の機関と密接に連携しつつ、新たな産業の創造や雇用の創出、金融支援などを通じた中小企業の振興、多様な観光資源の開発などに積極的に取り緩み、21世紀に向けた経済活力の基盤づくりを進めて、本道経済が自立的に力強く発展できるものとなるよう最大限の努力をしていきたいと考えています。
――本道の失業率は4パーセント超と、国内でも最悪の雇用情勢が続いていますが
長尾
最近の景気に対する政府の判断は、「緩やかな改善が続いている。企業の活動に積極性もみられるようになるなど、自律的回復に向けた動きも徐々に現れている」としていますが、雇用情勢については、完全失業率が高水準で推移するなど、依然として厳しいとの認識が示されています。
本道経済の最近の動向は、鉱工業生産は前年を上回って推移(注1)するなど、持ち直しの動きが続いており、住宅投資も昨年10月から堅調に推移(注2)しています。さらに、公共工事の発注に一服感が見られるものの、工事は順調に推移しています。
しかし、大型店販売が前年を大きく下回って推移(注3)するなど、個人消費の改善が足踏み状態となっているほか、雇用面で依然として厳しい状況が続いており、景気回復には至っていないと認識しています。
特に、雇用状況については、平成11年10月〜12月期の完全失業率が5.3%で、昭和58年以来最高の水準となっているほか、2月の有効求人倍率も0.38倍と推移するなど、依然として厳しいことから、引き続き特別な配慮が必要と考えています。
――そうした厳しい経済・雇用情勢のなかで、本道経済が自由競争に勝ち残るために必要なものは何と考えますか
長尾
本道においては、長引く景気の低迷や金融状況の変動などにより、企業活動も先行き不透明感から脱し得ず、厳しい経営を余儀なくされていますが、中小企業の中には、時代の二ーズや環境の変化に対応して、新分野への進出や経営の革新など様々な取り組みにチャレンジしている企業も数多く見られます。
また、地域での産業クラスターヘの取り組みも活発に行われており、これなどは大変心強いことだと思っています。
いずれにせよ、中小企業が著しい環境の変化に柔軟に対応し、健全な発展を遂げていくためには、技術や資金、人材など中小企業の経営基盤の強化や企業家精神の高揚、起業化や新分野進出などを促進するとともに、産業構造の変化を積極的に乗り切る創造的な中小企業を育成することが必要なことと考えます。
このため、道としても、産業間や産学間の幅広い連携や、産業の横断的な研究開発、新分野を担う人材の育成、新たな市場開拓など、企業家精神あふれた中小企業の取り組みに対する支援を経済界と一体となって進めていく考えであります。
――経済部としては、どのような経済雇用対策を考えていますか
長尾
済部では、本道を取り巻く経済雇用環境などを踏まえ、平成12年度において、「5万人の雇用創出に向けた実施方針の推進」、国の中小企業政策の転換に対応した「新たな中小企業政策」、さらには「エネルギーの安定供給の確保」を重点施策の展開方針としています。
その上で、時代の要請に応える雇用環境の創造、可能性をひらく企業活動の展開、産業技術を多彩に拡げる製造業の新たな展開、豊かな暮らしと産業を支えるサービス・流通業の育成、魅力あふれる北海道観光の形成、エネルギーなどの確保・石炭鉱業の存続・産炭地域の振興の6つの柱に基づいて平成12年度の施策を推進することとし、当初予算で所要経費を計上しています。
――具体的に5万人の雇用を、どう創出するのですか
長尾
雇用創出には、産業界や労働界と一体となって雇用の創出に向けた取り組みが大切ですが、同時に、緊急地域雇用特別交付金を活用し、雇用創出効果の高い情報通信、福祉など新規成長分野を中心に、臨時応急の雇用・就業機会の創出に努めます。
さらに、この事業により臨時雇用された方々の常用雇用化を促進するため、事業終了後も継続雇用した事業主に対し奨励金を支給します。
また、平成12年4月以降の地方事務官制度の廃止に伴い、国や公共職業安定所(ハローワーク)などと連携の強化を図り、道の雇用施策の円滑で効率的な実施を確保するため、本庁に「雇用対策課」を新設するとともに、全道22の公共職業安定所に雇用推進員を配置します。
特に、季節労働者が雇用看数の約1割を占める本道の特性を踏まえ、国の冬期雇用援護制度の活用促進などにより季節労働者の冬期雇用の拡大を図り、通年雇用化を促進します。
また、男女労働者が職業生活と家庭生活を両立させつつ、安心して働き続けられる環境整備を図るため、育児などに関する相互援助活動を行うファミリーサポートセンターの設置を促進するとともに、「仕事と家庭を考えるシンポジウム(仮称)」を開催し、育児・介護休業制度の普及に努めます。
――本道の産業は、今後どのように構造転換していけば良いでしょうか
長尾
本道の産業・経済構造を自律的持続的に発展するものへと転換していくためには、本道の特性を生かした創造的で付加価値生産性の高い、新規成長分野を中心とした新たな産業群の形成を進めることが必要です。
企業活動の段階に応じて一貫した施策として展開する「起業化支援システム」の構築を図るため、起業化セミナーの実施をはじめ、中高年齢者や女性等の開業資金の補助やコンサルティング等を実施するとともに、中小企業振興資金貸付金による新規開業融資枠の増額を行います。
――現代は情報産業に見られるように、ベンチャービジネスが注目の的ですが、ベンチャーにはまさしくベンチャーとしての危険性もあります。実際、急激な株高が経営を圧迫するケースも見られており、成長の安定化に向けてのサポートも必要なのでは
長尾
そうですね、そこで各地域生活経済圏にコーディネート機能を備えた地域産業支援センターの整備を進め、創業や経営革新に関する相談窓口機能として各支庁ごとの商工会議所など16ヶ所に新事業支援センターを整備するなど、きめこまかな相談指導体制を整備して、地域の特色ある産業集積の促進や創業・ベンチャー企業への支援を強化し、地域経済の活性化と、新規成長分野を中心とした新たな産業群の形成を進めます。
――東京都の外形標準課税導入により、金融機関の防衛策として企業・消費者につけが回ることも懸念されていますが
長尾
道としては、新規開業や新事業展開など企業の発展段階に応じた支援を体系的・効果的に行うため、経営面、資金面における幅広い支援をワンストップで提供できるよう、(社)北海道商工指導センターなど既存3機関の統合により中核的支援機関の整備の検討を進めていきます。
昨年12月に、中小企業基本法などが改正され、国の中小企業政策の基本理念が「格差の是正」から「多様で活力ある独立した中小企業の成長発展」に転換されたことなどを踏まえ、創造的中小企業育成条例の対象となる中小企業者の範囲を拡大し、研究開発への補助や事業化資金の貸付などの支援を行います。
――世界規模で経済がグローバル化しつつありますが、それに対応できる本道企業の育成も必要ですね
長尾
道としては、東アジア地域との経済交流の促進をまず当面の課題と捉えています。東アジア地域との経済交流や本道製品の市場拡大を図るため、シンガポール、タイ、カンポジアヘの経済調査団を派遣するとともに、北海道シンガポール事務所を活用しながら現地でのビジネスセミナーや商談会を開催します。
一方、本道の産業振興を支える多様な産業・機能の立地と雇用機会の創出を図るため、北海道企業立地促進条例に基づき、立地企業への助成を行うほか、11年度に引き続きコールセンターなどの開設に対する支援を行い、情報通信関連企業の立地の促進を図ります。
また、本道産業をリードする拠点の形成も必要で、(株)苫東の設立に伴い、新段階を迎えた苫小牧東部地域の開発の推進を図るため、産業技術総合支援センターの整備のあり方や、使用済自動車のリサイクルの共同事業化について調査研究を行うなど、公的プロジェクトを核とした用地分譲の推進に努めます。
石狩清新港地域については、港湾、道路などの基盤整備を効率的に進めていくともに、土地利用計画の弾力的運用を図るなど、企業の立地ニーズに柔軟に対応しながら企業立地を促進します。
11年2月に、テクノポリス法や頭脳立地法が新事業創出促進法として発展的に移行したことに伴い、道央及び函舘テクノポリスや旭川頭脳立地地域において蓄積された技術開発ノウハウを積極的に活用し、道内経済の活性化を図るため、これらの地域に係る高度技術産業集積活性化計画を策定します。
――最近は、北海道の温泉ツアーが台湾国民に人気があると言われています。リピーターとして定着してもらうためには、北海道観光の魅力を向上させることも必要ですね
長尾
そうですね、北海道を国際的にも通用する質の高い観光地を目指す「国際観光立国」として発展させるため、道の基本的な考え方や取り組むべき施策の方向性を明らかにした「北海道観光振興条例(仮称)」の平成13年度における制定に向けた検討を行います。
また、道内外から多数の参加者が見込まれ、観光客振興の面も大きな効果が期待される旭川市の「第8回地域伝統芸能全国フェスティバル」や「国際青年会議所世界会議札幌大会」に対する支援を道の「21世紀記念事業」として実施します。
さらに、国内外からの観光客の誘致を図るため、「北海道イメージアップキャンペーン」と連携を図りつつ、体験観光などに重点を置いた宜伝誘致活動を積極的に展開します。
――ところで、産業を支えるエネルギー政策についてお聞きします。今年になっていよいよ電気事業法が改正され、部分的に規制緩和が実施されるなど、新しい動きが見られるようになりましたが、エネルギー政策としては今後どの方向に向かいますか
長尾
そ地球温暖化が進み、地球環境の保全対策が重要な課題となっていることから、省エネルギー対策の推進と新エネルギーの導入促進を図るため、「省エネルギ―・新エネルギー促進条例(仮称)」を本年度に制定し、普及啓発やアドバイザーの派遣、導入支援などを行います。
また、昨年8月の産炭地域振興審議会の答申を踏まえ、度炭地域の自立的な経済・社会システムの構築に向けて中長期的な支援の実施に必要な資金を確保するため、現在設立されている空知及び釧路産炭地域総合発展基金を増額します。
――最後に、経済構造改革を推進するに当たっての経済部が果たすべき役割についてお聞きします
長尾
経済構造改革のねらいは、公的需要に大きく依存する北海道経済の体質を、活力ある企業活動と民間投資に支えられた自立型経済構造に転換していくことにあります。このためには、産学官がそれぞれの役割を果たし、連携を深めながら具体的な成果を積み上げていくことが重要であり、行政は、経済活動の主体である民間企業が活動しやすい環境整備に努める必要があります。
道としては、こうした観点に立って経済構造改革を推進するため、「産業の新展開を促す」、「研究開発環境を整える」、「産業の生産性を高める」、「人材に投資する」という4つの施策分野で具体的な展開を図ることとしています。
これら4つの施策分野において、経済部では、数多くの重要な施策に携わっており、経済構造改革の推進に向けて期待されている役割を十分に果たすよう最大限の努力をしていきたいと考えています。

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