建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2006年2月号〉

interview

東京港で着実な基盤整備が進む新海面処分場

東京都港湾局 東京港建設事務所長 余湖 由紀夫 氏

余湖 由紀夫 よご・ゆきお
昭和25年生
昭和50年3月東京都立大学大学院土木工学修士課程修了
昭和50年4月東京都入都 港湾局
昭和61年4月都市計画局
平成2年4月武蔵村山市都市整備部参事
平成7年10月建設局道路建設部道路計画担当副参事
平成10年7月港湾局港湾整備部計画課長
平成12年4月中央区土木部長
平成15年6月(財)東京港埠頭公社環境事業部長
平成16年8月(財)東京港埠頭公社埠頭建設部長
平成17年7月東京港建設事務所長
東京港で整備されている新海面処分場は、現在西側gブロックの整備に取りかかっている。将来、処分場の西側部分は大水深岸壁となり、東側には港湾関連施設等が整備される予定だ。また、豊洲・晴海地区は、土地利用が変更され、複合的な都市機能を持つ空間へと生まれ変わりつつあり、そのため高潮対策として防潮護岸が整備されている。また有明北地区では近自然型工法が採用されており、親水機能とともに水生生物の棲息環境も再現される計画だ。このように、外見では見えない水面下では様々な工夫がされており、前例を見ない画期的な技術も導入されている。その前線に立つ東京都港湾局の余湖由紀夫所長に、ダイナミックな港湾土木の現状と新技術などについて伺った。
▲豊洲地区防潮護岸
――新海面処分場の概要とその進捗状況についてお聞きしたい
余湖
東京都23区の廃棄物の処分場は、陸地には設けられないので、東京港内の海面を埋め立ててきました。中央防波堤の内側埋立地に続き、外側廃棄物処分場もすでに満杯になってきたので、新海面処分場の整備を進めているわけです。
総面積は480haほどで、それをAブロックからGブロックまで7つのブロックに分けています。全体計画としては、1億2,000万m3ほどで、浚渫土砂やごみの他に、公共工事に伴う建設発生土を処分しています。
処分場の整備はすでに半分近く進んできましたが、ゴミの処理・処分というのは一日たりとも停滞することはできません。そのため、ブロックごと段階的に、約70haずつ埋め立てしながら進めています。
現在、東京港は港湾計画の第7次改訂作業が大詰めにきており、その中で、第一航路に面した中央防波堤外側埋立地及び新海面処分場に船舶の大型化に対応したコンテナ埠頭を整備しようと考えています。
そのため、これらのブロックは浚渫土砂と建設発生土の土砂だけで埋め立てていきます。将来の使い勝手を考慮し、A.P※+6mの高さで整地します。逆に東側については、都民の日常生活や経済活動で発生する廃棄物で、焼却処分したものを主に受け入れる計画で、その基盤は浚渫土砂や建設発生土を投入し、その上に廃棄物をa.p+30mの高さまで埋め立てることになります。
―― 家庭のゴミと処分エリアを分けているのですね
余湖
家庭系の一般廃棄物は、全てaからeブロックで処分されます。産業廃棄物は事業者処理が原則ですが、その中でも中小企業などで適切に中間処理をしたものについては受け容れるという、ルールを持ちながら対応しています。
計画では、各ブロックの埋立高さは、A、F、GブロックはA.P+6mで、BからEブロックはA.P+30mの丘にする予定です。ゴミから汚水などが流出して外海に出ないよう、構造はもちろんのこと、管理も非常に厳しくしており、水処理を行っています。その負担を軽減するために、陸域化した後に、排水処理なども組み合わせて進めている状況です。
現在、整備中のGブロックは、護岸構造が二つあります。西側護岸は二重鋼管矢板構造で、地盤改良はサンドコンパクションで1工区は110mくらいの規模になります。一方、南側護岸はrcケーソンで施工しています。
――ゴミの排出量の動向については、どのように見込まれていますか
余湖
経済環境の変化により、事業活動が非常に厳しくなってきたこと、また、環境に対する意識が高まり、古紙などをはじめ、ペットボトルなどのリサイクルが進展したことも要因となって、ゴミの量が減少し、当初は1億2,000万m3くらいと見込まれてたのが、現在の計画では平成14〜28年度までの15年間で4,000万m3くらいの見通しで、3分の1程度になっています。
したがって、Cブロックのときまでは、ハイペースで整備を進めていましたが、Gブロックではそうした情勢や財政状況を考慮して、護岸整備を進めています。
現在Cブロックには浚渫土砂を入れています。浚渫というのは、毎年コンスタントに行わなければならないもので、比重としても浚渫土砂の量はかなり多いのです。
――かつては、最終処分地の寿命が心配されましたが、今後の見通しは
余湖
処分場として有名な夢の島、今は地名が若洲になっている新夢の島と続いてきましたが、この新海面が東京港内最後の処分場で、これ以外に廃棄物処分の空間を求めるのは、非常に困難です。そのため、我々としてはハード面では容量拡大による処分場の延命化に向けて様々に工夫しています。あわせてソフト面ではゴミの焼却から始め、灰の溶融処理でさらに容積を減らすなど、減量に努めることが必要です。
――基盤の造成に用いる建設発生土や浚渫土砂は、東京都の工事によるものに限定されているのでしょうか
余湖
建設発生土などは、公共事業で発生するものを優先しています。一方、近年は確かにマンションも多く建築されていますが、民間工事で発生したものは、各事業者自身で処理してもらうことを基本としています。
したがって、各事業者の皆さんに総量を減らしていただくと同時に、新海面処分場容量拡大策として二つの施策を実施しています。その一つは海底の地盤を深掘するものです。深堀りした土砂は比較的良い土砂なので、それを例えば土質の悪いエリアに覆土して、海域が汚濁されるのを防止したり、あるいは水生生物の生息環境を守るために浅場を設けることに有効利用します。このように深堀りした量が追加分の容量として、容量を増大させています。
もう一つは、東京港は沖積平野で海底地盤が軟弱なので、バーチカルドレーンを打ち込み、沈下を促進して増量する計画です。まだ試験段階ですが、ドレーンはプラスティックでできており、地盤に打ち込むのですが、内部を真空にすると水が抜けやすくなります。Cブロック内で17年、18年度で試験を行い、成果を反映させて19年度から本格的に導入し、延命化を図っていく方針です。
――全国でもこうした取り組みは珍しいのでは
余湖
このように大規模なものは、あまり見られないのではないでしょうか。今はちょうど試験工事にとりかかったところですから、成果はこれからです。これで良い成果が得られれば、今後のモデルケースになると思います。
ご承知のように、これまでの羽田空港の沖合展開事業でも、ドレーン材や地盤固化処理を行っているので、そうした事業で蓄積されてきた技術や、民間の施工会社も技術開発によって新技術ができていますから、そうしたものとタイアップして試しています。
――西側を土砂・発生土に限定している理由は
余湖
西側を土砂系に限定し、地盤高を低くしているのは、埠頭として利用される将来像を見越しているためです。
東京港は、平成10年から7年連続でコンテナ取扱量が日本一で、かなり健闘しています。とはいえ、上海や釜山と比べると国際競争において非常に厳しい状況にあります。
そうした中で、どのように国際競争に立ち向かえるか、港湾局としても港湾計画を様々に検討していますが、その動向を睨みながら場所を用意するというのが、私たちの使命と考えています。
――インフラとともに、港湾手数料を安くしたり、入出港手続きのスピードアップなど、サービスのレベルアップも課題ですね
余湖
港湾局ではそうした様々なインセンティブを持たせる施策を行っていますが、当建設事務所は東京港の施設全般を、第一線で実際に形にすることが使命ですから、そうした経営戦略を支える基盤を整備する立場ですね。
したがって、新海面処分場も廃棄物等の処分場所であると同時に、将来の土地利用に合わせた護岸構造を確立しなければならないわけです。
――最近では大型の岸壁では−16mと聞きますが、ここでもそれを整備する計画はあるのですか
余湖
−15mから−16mという範囲で港湾計画が検討されています。現行の6次改訂でもその数字となっており、全面的に大水深にできるかたちで造っていきたいと考えられています。
――中央防波堤内側地区には、海の森(仮称)という構想もあるとのことですが
余湖
この構想はゴミの処分地を使って、海上に森を実現させようという考え方です。下がゴミ地盤ですから、これを自然の力を徐々に借りながら30年かけて大きな森にしようという構想です。
――植樹に着手できるのは、いつ頃を予定していますか
余湖
まずは土壌改良が必要です。地盤が生ゴミ系で埋め立てられたところなので、土の性質を良いものに改良していかなければなりません。
例えば街路樹や公園の木を剪定すれば、葉や枝が残ります。これをチップ化して発酵させることで、良質の堆肥にするのです。それを土に混ぜながら、まずは土づくりから始まります。それから都民に参加してもらうことになるでしょう。
――東京港の中央に森林が出現するというのも画期的な発想ですね
余湖
晴海埠頭に入港する客船や、飛行機が羽田空港に降下してくるときに、「あの緑の大きな島は何だろう」と注目されるでしょう。景観形成にも役立てつつ、環境回復を目指すというコンセプトです。
―― 一方、豊洲・晴海防潮護岸の整備は、どのような計画ですか
余湖
豊洲・晴海地区は都心から非常に近く、5kmくらいの距離です。これまでは東京ガスなどが使用してきましたが、時代の変化にあわせ、土地利用計画や用途を大きく転換しようという目的から整備計画が策定されました。
築地の中央卸売市場を豊洲に移転する計画も含めた形で全体構想は動いています。
その前提としては、まず基盤を確実に整備することが必要です。水際を利用するために、高さがA.P.+4mの土地ができたのですが、人が居住したり活動するとなると、高潮に対する安全を確保しなければならないため、防潮機能を高める防潮護岸を整備することになったのです。
この豊洲地区では新たに周囲を幅が50m〜30mで鉢巻き状に埋め立て、親水性のある緩傾斜型の防潮護岸を整備して、緑の潤いのあるまちにしようという計画です。
――堤防で囲むような形ですか
余湖
堤防と言うよりは、全体の地盤を上げているので平地になります。この地域に隣接して、臨海副都心の有明北地区があり、かつての貯木場跡の水面が埋立てられ、昨年9月に埋立が竣工しました。
――全体的に盛土するわけですね
余湖
臨海部の護岸は高さを確保することで防潮機能を持たせながら、緩傾斜方式にして、人が住むための空間として理想的な環境にしようという方針です。豊洲・晴海地区も有明北地区も基本的に同じようなかたちになるとイメージしていただければ良いでしょう。
――交通アクセスはどうなっていますか
余湖
アクセスを大きく改善する放射34号線晴海通りと環状2号線といった大規模な道路整備も進められており、さらにはゆりかもめも通っています。そのゆりかもめは、現在は新橋からレインボーブリッジを通って、国際展示場まで運行していますが、今年春にはさらに北上する形で延伸し、東京メトロ有楽町線豊洲駅に直結することで、両サイドが既存の交通機関につながることになります。
このように、中量輸送軌道と、2本の一般道の軸が整備されますと臨海部内のアクセスが格段に改善され、魅力ある地域となります。
物流機能が徐々に沖合に展開することで、地下鉄有楽町線など、いろいろな鉄道路線が、従来とは異なる価値を持ち始めます。今までは港湾物流の専用空間として、業務だけに特化していたものが、住宅、商業、オフィスなどが入ることで、どんどん変わってきます。
かつては、有明やお台場などに貯木場がたくさんあって、水面を占有していました。しかし、今では原木は、ほんのわずかしか輸入されず、みな製材して手間のかからない形態にして輸入されるなど、物の流れの形態そのものも時代とともに変わってきてますから、土地利用も新たな考え方を打ち出して整備していくことが時代の要請でもあります。
▲カニ護岸
――防潮堤の整備は、どんな形で行われていますか
余湖
 
防潮機能の向上だけではなく、緩傾斜での景観・環境に優しい防潮護岸整備を目指しています。昔からの旧防波堤の景観も活かしながら緑が濃くなっていけば、かなり良い都市空間になるでしょう。
有明北地区ではカニやハゼなどの水生生物にも配慮しようと、護岸構造にはかなりの工夫をしています。一つは汐入りという小さな入江を造り、ここに芦原のようなものを整備しています。これによって、魚類や鳥類や水鳥などが戻ってくることが期待されます。もう一つは、この護岸は一見すると海面に垂直の護岸に見えますが、近自然型護岸というもので、この護岸の前面に穴の多いパネルを用いて、その後ろに石を詰めてあります。それによって水や空気が入ると同時に、カニなどが生息できることから、通称「カニ護岸」と呼んでいます。最近はかなり水生生物が戻ってきている状況も確認されており、こうした工法で、棲息環境を復元することもできると考えています。
生態系の確立によって、水質も自然に浄化されていきますから、棲息していた水中生物や環境全体に配慮すべく、工夫もしているわけです。
――豊洲・晴海地区の護岸構造は
余湖
5つのブロックに分かれており、豊洲地区はAからDまでで、晴海地区はeブロックとしています。基本的な構造は2パターンで、地盤条件が良いところはケーソン、その他は鋼矢板を用いています。
地盤改良はサンドコンパクションを中心にして、裏込、根固めをし、あとは建設発生土で6m50pまで盛土します。
これは伊勢湾台風クラスの高潮を想定し、東京港の各々の地点で必要な防潮堤計画高ということです。
――新規の技術的工夫はありますか
余湖
ケーソン内に銅スラグを使用していること、サンドコンパクションの中詰材には徐冷スラグスラグを使用しているのが技術的特徴でしょう。
これであれば経費が安くなり、かなりコスト縮減できるのです。これを使った箇所では、ケーソンの躯体幅を短くしたり、鋼矢板の長さを縮小できたことによって、約3%のコストが縮減できました。
こうした新工法、新材料を検討する組織が局内にあり、そこで検証しながらケーソンの中詰めなどに使用しているわけです。
――この銅スラグとはどんなものですか
余湖
スラグは鉄や銅を溶鉱炉で溶かしたときに、残滓物が徐々に冷えて出てきたものです。
――今までは廃棄していたのですね
余湖
基本的にはこれはどこかに廃棄しなければならず、そのために、また廃棄場所を確保しなければならないのです。近年、徐冷スラグは道路の路盤材に使われるようになりました。それをサンドコンパクションとしても使おうと導入された点が、豊洲・晴海地区の整備において、技術的に目新しいところです。もちろん有害物質がないこと、溶け出さないことを確認した上で再利用しているのです。
――今まで捨てていたものを上手く活用できるとなれば、まさに東京都が目指している資源循環型社会の一例と言えますね
余湖
私たちは、このように見えないところで、さまざまな工夫と取り組みにチャレンジしているのです。一般の方々の目に触れるのはそのごく一部でしかありませんが、今までに蓄積され、確立された基本技術を中心にしながら、さらに新工法、新材料を生かす整備に、地道ながらも取り組んでいるのです。
首都圏の活力を支える21世紀の処分場 東京港豊洲・晴海地区の開発に貢献
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