建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2006年2月号〉

interview 

効果的・効率的な社会資本整備と地域協働を推進

地域協働プロジェクトで地域づくりをバックアップ

北海道開発局 札幌開発建設部長 竹澤 謙一 氏

竹澤 謙一 たけざわ・けんいち
昭和27年10月6日生
最終学歴 北海道大学工学部土木工学科 (昭和50年3月卒)
昭和50年4月北海道開発庁北海道開発局小樽開発建設部 採用
昭和61年4月北海道開発庁北海道開発局土木試験所総務部企画課長
昭和63年4月北海道開発庁北海道開発局開発土木研究所総務部企画調整課長
昭和63年6月北海道開発庁北海道開発局札幌開発建設部道路調査課長
平成3年5月建設省東北地方建設局郡山国道工事事務所長
平成5年4月北海道開発庁北海道開発局長官房工事管理課技術調査管理官
(技術調査管理室長)
平成8年7月北海道開発庁北海道開発局石狩川開発建設部次長
平成9年7月北海道開発庁地政課事業計画調整官
平成11年7月北海道開発庁北海道開発局長官房工事管理課長
平成13年1月国土交通省北海道開発局開発監理部開発環境課長
平成14年8月国土交通省北海道開発局稚内開発建設部長
平成16年7月国土交通省北海道開発局留萌開発建設部長
平成17年8月国土交通省北海道開発局札幌開発建設部長
道都・札幌を中心に道央圏の道路、農業基盤、港湾、空港などの整備を担う札幌開発建設部は、単にインフラ整備だけではなく、それらのより効果的な活用に向けて、地域自治体や地域住民と連携してまちづくりに当たる地域協働プロジェクトに多数取り組んでいる。公共事業予算の制限が毎年厳しくなる状況下で、より効果的な投資と同時に、効果的な活用による高い価値を積極的に生み出そうという、新しい使命と役割を担う政策官庁として脱皮した。今や建設専門の組織としてではなく、より地域住民に近い行政組織として地域から期待されている。これまで稚内開発建設部や留萌開発建設部など、郡部の実情に接してきた竹澤謙一部長に大都市圏としてのインフラ整備の課題や地域協働プロジェクトの取り組みについて伺った。
――全国では景況回復など希望のある動向が聞かれますが、北海道はまだ厳しい状況が続いていますね
竹澤
それでも、札幌と地方の視点はかなり違うと思います。人口が札幌周辺にかなり集中しており、地方では高速交通ネットワークの観点から見ても、札幌と同じような利便性は享受できないという状況ですから、やはり高速交通体系、あるいは空港などの整備への要望が今でも非常に強いと感じます。
――交通利便性の向上を求めているのですね
竹澤
それ以上に死活問題なのだと思います。例えば、稚内の場合は高次医療を名寄に依存していますが、脳溢血の患者さんを救急車で名寄まで運ぶには、3時間もかかります。 稚内の人口は4万人を超えているので、当然ながら病院はありますが、高度医療は無理な状況です。したがって、空港も含めてそうした視点に基づく要望が非常に強いのです。
――札幌でさらに必要な公共施設とは
竹澤
道路関係であれば道央圏にありますから、当然ながらいろいろな機能が集中していることを考えてみると、都心あるいは札幌都市圏を中心とした渋滞の緩和などが非常に大きな課題だと思います。また、北海道全体の課題でもある交通事故の減少がポイントになってくると思います。
▲東橋拡幅工事
――都市部などはすでに道路が出来上がり、その周りにはビルなどの建物が張り付いていますが、どのような対策が考えられますか
竹澤
都心部であれば、例えば東橋での拡幅工事、札樽道から札幌新道へ降りて合流する交差点の改良、あるいは今まさに進めている創成川通の連続アンダーパスなど、まだ対策の必要なところはかなりあると思います。 また、私たちが重点的に進めている337号の道央圏連絡道路は、各種物流拠点を繋いで大きく札幌を迂回し、幹線道路や高速道路とも接続する新しい流通経路です。これは大きな意味での渋滞対策、あるいは物流の効率化という観点もあるので、これらが地域の要望であり課題であると思います。
――公共事業も予算は緊縮型になっていますが、その進め方については
竹澤
今日では、公共工事含めて重点化・効率化を重視して進めているので、とりあえず目に見えている部分に重点投資することが先決です。既存の施設をレベルアップしていくかたちもあり、すでに計画をしてかなり進んでいるものを、より一層効率的に推進するということですね。
――その意味では新年度予算に向けての重点項目に関心が持たれます
竹澤
基本的には継続事業が中心になると思います。道路関係で言えば、先にも述べた道央圏連絡道路はポイントです。これを重点的に進めているほか、都市内の重点対策では苗穂交差点の改良などもあります。 また、北海道は災害が多いので、防災面では231号の雄冬防災を進めています。そのほか、災害にも強く、美しい街並みの実現に向けて、電線共同溝の整備も重要です。地下空間に電力線や通信線を共同で使用できる空間を確保する事業ですね。 空港関連では、現在は滑走路の改良などを行っていますが、そのほかに防犯対策のためフェンスの強化なども実施しています。また、千歳空港は年間で約1,840万人に利用されており、なおかつ最近は国外の観光客もずいぶん増加して、国際線の乗降客にとって手狭になっています。そこで、新しい国際ターミナルの建設を、現在東京航空局で検討していますが、それに伴って周辺のインフラ整備も必要になるので、そのための検討も進めているところです。 農業関係では、北海道の代表的なブランドとなっている「きらら397」や「ほしのゆめ」といった良食米を安定的に生産するための農業基盤整備を進めます。これもやはり時間のかかるものなので、引き続き施設整備していく必要があると考えています。つまり国営かんがい排水事業です。
――最近では台湾だけでなく、オーストラリアからの観光客も増えたようですね
竹澤
ちょうど雪のシーズンでもあり、東南アジアの方々は雪を見たいという人々が多いようで、テレビでも観光客が多いと紹介されていますね。しかし、報道では入国の際にかなり時間がかかっていることが課題のようです。
――幹線道路を生かしたまちづくりは、自治体側の課題になると思うのですが、地域のまちづくりに向けてはどう連携していますか
竹澤
今の時代は、インフラ施設を造ったら、国の役割はそれでおしまいとはなりません。造ったものをできるだけ効率的に利用していただき、地域のためにもっと役立ててもらうというのは大きなテーマだと思います。そこで、16年度から地域協働プロジェクトというものをスタートし、今まで我々が造った様々な社会資本、既存の施設などを、もっと活用してもらい、あるいは我々はこれまで培ってきた知恵や経験もあるので、活気に満ち溢れた地域社会を実現するという観点から、いろいろサポートできる方策を地域の方や市町村と連携しながら『地域協働プロジェクト』を進めています。こうした取り組みは、非常に重要ではないかと考えています。
――具体的にハード面での整備段階に入った事例はあるのでしょうか
竹澤
このプロジェクトは、必ずしもハードにこだわってはいません。例えば「道の駅」の活用の仕方や、そのほか札幌開発建設部管内としては、除雪見学会なども行っています。我々は業務上、いつも除雪作業を見ていますが、本州の方や外国の人々は見たことがないのです。そこで、観光客などを対象に行っています。
――地元としては、それだけ国に対して役割分担を期待しているのでしょう
竹澤
そうした意識の表れだと思います。道路関係で言えば、シーニックバイウェイも進めており、公園事業でも、私たちは滝野すずらん丘陵公園を所管していますが、市民の参加活動というかたちで、7つの市民団体に協力してもらい、フラワーガイドなどのボランティアをしていただいています。 農業関係であれば、食の安全確保という観点から、ハーブを利用した減農薬米の生産を始めています。これと私たちの事業として行われる植栽工事とを協働連携し、潤いのある農村地域の形成を支援するプロジェクトも進めています。
――今後の開発行政の課題は
竹澤
入札業務では、各企業の技術力を大いに活用して、価格と品質の両面で総合的に優れた調達方法を追求する必要があるのではないかと思います。例えば、通常の維持的な経費、経常的な経費も当然のことながら削減の対象になっているので、いかにして維持管理の効率化を進めていくかが課題です。予算的には大幅な減額になっているので、維持管理・更新までのライフサイクルを総合的に考えていかなければなりません。そうしたシステムの検討も、現在進めています。  農業関係では、これまで社会資本整備という枠組みの中で、各種施設を造ってきていますが、中には補修・改修の時期に来ているものもあります。しかし、やはり予算的な制約もあるので、維持補修費用の低減や、用水系統の見直しなどで管理費の縮減を図ることが大きな課題ではないかと考えています。
――コスト縮減での代表的な成功事例は
竹澤
道路では線形・幅員の改良で、工法もより安い工法を採用した事例があります。例えば、道央圏連絡道は軟弱地盤の上に乗っているので、これまでは相当の地盤改良を行っていたのですが、当然ながら膨大なコストがかかるので、同じ地盤改良でも安い工法を採用しています。これによって、億単位で差が出ました。
――路盤材を替えたのでしょうか
竹澤
できるだけ混ぜないというかたちで、地盤の改良そのものの仕方を変えてしまうのです。強度においても、問題はありません。
▲札幌雪道ガイド
――いよいよ積雪寒冷の季節になりましたが、現在、札幌開発建設部の取り組みとしてPRしていることは
竹澤
 
現在、冬道の総合的な対策をかなり重点的に行っています。雪国なので、当然ながらどんな場面でも雪がついて回ります。しかし、安全でなおかつ快適でという利用者のニーズも相当あるので、その課題についての意見などを反映しながら総合的な雪道対策を進めています。 具体的には改良型砂箱の増設で、袋の場合は扱いがやや面倒なので、砂を蒔きやすいペットボトル型の砂容器を採用しています。また、情報発信という観点では「つるつる路面マップ」を作成しています。道内の方、あるいは観光で来られている人々に、転倒しないためのアドヴァイスや、あるいは滑りやすい箇所を知らせるPRマップです。そうした多面的な取り組みを進めています。もちろん地域の方にもいろいろなご協力を得ながら進めているところです。
――最近では、路面がソロバンのようにガタガタになって凍る現象も見られましたね
竹澤
気候にもよるのです。溶けたり凍ったりを繰り返す場合と、一度に降って一気に溶けてしまうという場合では路面の性格も変わってきます。中途半端に一度凍ってしまうと、グレーダーをかけても削れないほどになります。
――除雪と併せて排雪という問題もあるでしょう
竹澤
これだけ予算が落ちてくると、今までのような水準で排雪をするのは、かなり難しいだろうと思います。そのため、できるだけ安い費用で、どうすれば効率的・効果的に排雪できるかを検討していかなければならないと思っています。 その場合は、当然ながら国道だけでなく、北海道庁はじめ市町村自治体と連携を取りながら進めたいものです。例えば、交差点回りは特に重点的に行うけれども、郊外部についてはできるだけ扱いを少なくするなど、いろいろな工夫が必要になってくるのです。それを含めて、現在、関係者と調整を進めています。
▲排雪見学会
――お年寄りが転倒する場面に出くわすこともありますが、せめて横断歩道を歩きやすく維持することは、不可能でしょうか
竹澤
ハード面での課題でもありますが、ソフト的なものを含めてのテーマだと思います。凍結路面における注意点を知ってもらったり、地域の方にも協力していただいたり。例えば、先に触れた滑り止めの砂を活用するにも、我々行政だけがこまめに撒いて回るというのは、現実問題としてなかなか難しい。路面の状況も朝から晩まで、様々に変化するので、通勤・通学される人々が自分で「これは危ない」と感じたら、随時、蒔いていただき、我々はそれをきちんと詰め替えるという分担が重要です。 我々行政として、どこまでお手伝いできるか、今までは全てを行政が行っていた時代だったでしょうが、現在はそういう時代ではないので、地域の人々と連携を取りながら、逆によりきめ細かい対応が必要になるでしょう。 シーニックバイウェイで道路脇に花を植えていますが、これもnpoやボランティア団体と連携を取っている例が多いのです。自治体にしても、最近は財政的な制約もあるので、なかなか動けない時代ですから。
札幌開発建設部管内の整備に貢献
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