建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2006年2月号〉

interview

望ましい職業観の育成でニート対策を

緊急を要するアスベスト対策に全庁体制で着手

北海道教育委員会 教育長 相馬 秋夫 氏

相馬 秋夫 そうま・あきお
生年月日  昭和19年2月18日
出 身 地  北海道帯広市
最終学歴  北海道大学法学部(昭和41年3月卒
昭和41年4月北海道職員採用
昭和62年6月総務部人事課長補佐
平成元年4月空知支庁地方部長
平成3年5月総務部知事室参事
平成5年4月 〃 人事課長
平成7年6月 〃 次長
平成9年6月 〃 職員監
平成11年5月網走支庁長
平成12年4月建設部長
平成13年4月総合企画部長
平成14年6月現職
近年は情報ネットワークやデジタル技術の発達などにより、かつて野山に遊んだ子供たちとはまるで異なる生活環境の中で、子供たちは多感な時期を過ごしている。そのため、六本木ヒルズで大成する者もいれば、生存競争の厳しい選別社会の中で、就業年齢に達しても定職を持たず、ニートとなったり引き籠もりとなる若者もいる。その数が60万人を越えるとなれば、いつまでも無策のまま放置することはできない。全国の中でも、とりわけ景況の厳しい北海道で、次代を担う人材をどう教育、育成するのか。若くしてニートや引き籠もりにならないために、何をすべきか。北海道教育委員会の相馬秋夫教育長に伺った。
――次世代の北海道を担う人材づくりについて、どのようなことに重点を置いて取り組んでいますか
相馬
変化の激しい社会の中で、子どもたちが将来への夢・目標を持ちにくくなっていること、美しさや優しさを感じ取る感性が十分に身に付いていないことなどが指摘されています。このような中で、子どもたちが、北海道を誇りに思い、夢と希望にあふれ、主体性と責任感、高い志と向上心を持ち、心豊かにたくましく成長できるよう育んでいくことが極めて重要であると考えています。 道教委としては、このような認識のもと、常に子どもたちの未来を考えながら、人格の完成を目指すという教育の目的に向けて、「確かな学力」、「豊かな心」、「健やかでたくましい心身」の育成を重点として取り組んでいます。
――近年、ニートやフリーターの増加が社会問題となっていますが、このことをどう考えますか。また、このような課題を解決するためのお考えをお聞かせください
相馬
厚生労働省が発表した平成17年版労働経済白書によると、2004年には、フリーターの数は213万人、また、15歳から34歳で家事も通学もしていない非労働力人ロ、いわゆる「ニート」については、64万人となり、こうした若者は、自らを活かす場がないと指摘されています。 このような状況が続けば、若者の職業能力の蓄積がなされず、中長期的な競争力・生産性の低下といった経済基盤の崩壊、不安定就労の増大や生活基盤の欠如による所得格差の拡大、社会保障システムの脆弱化など、深刻な社会問題を引き起こしかねないと考えています。 また、このような若年の無業者等の課題を解決するためには、学校、家庭及び地域社会が、それぞれの役割を果たしつつ、連携して取り組むことが必要であり、特に、学校教育では、児童生徒の発達段階に応じ、望ましい勤労観・職業観の育成を図る教育を充実すること、また、広く生涯学習の観点から、家庭においては、基本的な生活習慣や生活能力などの基礎をしっかり育むよう努めること、地域社会においては、子どもたちが、異年齢の人たちと交流し、生活体験や社会体験を豊富に積み重ねることのできる環境づくりに努めることなどが重要であると考えています。
――道教委では、生徒の勤労観・職業観を育成するため、どのような取組を行っていますか
相馬
道教委としては、各学校が経済団体等との連携・協力のもと、児童生徒の発達段階を踏まえ、学校の教育活動全体を通して、児童生徒の望ましい勤労観・職業観の育成に取り組むことが大切であると考えています。 このため、道教委独自の事業として、平成14年度から「高校生インターンシップ推進事業」を実施するほか、平成16年度からは、14の教育局において、小・中・高等学校各1校を研究協力校に指定し、創造力豊かに自立心あふれる人を育むことを目的に「起業家教育実践研究事業」を実施しています。 また、文部科学省の事業を活用して、小・中・高等学校を通じ、組織的・系統的なキャリア教育を行うための指導方法・指導内容などを研究する「キャリア教育推進地域指定事業」を富良野市で行っています。 さらに、企業での実習と学校での教育を組み合わせた新しい人材育成システムである「日本版デュアルシステム」の研究を旭川工業高校で行っているほか、中学生が5日間以上の職場体験などを行うキャリア・スタート・ウィークを石狩・渡島・上川・十勝管内で実施しています。
――活動内容は
相馬
小学校では、身近な産業や職業の様子について調べたり、見学したりする学習のほか、野菜、水稲の栽培活動を行う農業体験学習などを行っています。中学校では、職場見学や地元の商店で商品の陳列や販売などを行う職場体験活動などが行われています。 高等学校では、自己の能力や適性などを把握する学習、職業についての情報収集や、就業体験などが行われています。 小・中・高等学校とも体験的な活動を重視しながら、児童生徒の発達段階に応じ、望ましい勤労観・職業観の育成を図っています。
――「高校生インターンシップ推進事業」は平成16年度はどのくらいの生徒がインターンシップを体験し、どのような成果が得られていますか
相馬
 
平成16年度は、全日制の道立高等学校240校のすべてで実施し、約27,300人の生徒が、延べ8,320か所の受入事業所等で就業体験などを行いました。実施日数については、約9割の生徒が1日から3日間のインターンシップを体験しています。 また、インターンシップの成果については、実施した学校から、生徒の、働くことや職業に対する理解が深まったこと、職業生活や社会生活に必要な知識・技術が身に付いたこと、進路意識が明確になったこと、などが報告されています。 一方、受入事業所からは、学校や生徒に業務内容等を理解してもらえる機会になったこと、高校生を理解するよい機会になったこと、などの報告をいただいています。 インターンシップの充実を図るためには、体験内容の充実とともに、日数を増やすことが必要だと考えています。 また、知事部局はもとより経済団体等との連携・協力を深めながら、より多くの受入企業等を確保するなどして、インターンシップの一層の推進を図りたいと考えています。
――高等学校における進路指導を充実させるため、どのような支援を行っていますか
相馬
道教委では、各高等学校における進路指導を支援するため、道労働局や経済団体、教員などが一堂に会し、情報交換や協議を行う高等学校進路指導対策会議や、道立教育研究所における中学校と高等学校の教員を対象にした進路指導の研修講座、各学校が開催する生徒や保護者、教職員を対象とした進路講習会などに、教育局の進路相談員を講師として派遣しています。 また、新しい進路指導の考え方や進路情報などを掲載した「進路だより」の配布などにも取り組んでいます。 今後とも、こうした取り組みにより、教員の指導力の向上を図るとともに、進路相談員が相互に情報や意見を交換する場を設けるなどして、資質の向上に努め、高等学校の進路指導を支援したいと考えています。
――今後の教育行政においては何が必要だと考えますか
相馬
近年は少子高齢化社会の到来、産業・経済の構造的変化や雇用の多様化・流動化などを背景として、子どもたちの進路を巡る環境は大きく変化しています。 このような時代を生きていく子どもたちには、こうした変化に対応し、自立した個人として自らの将来を主体的に切り拓いていく力を身に付けさせることが求められます。 それを踏まえて、道教委としては、児童生徒が自分自身の能力や適性を理解して、主体的に進路を選択し、将来、社会人・職業人として自立をしていけるよう、道労働局や知事部局等とも連携を一層深め、児童生徒一人一人に望ましい勤労観・職業観を育てる教育の一層の充実に取り組んでいきたいと考えています。
――教育効果を高める施設整備のあり方と、アスベスト対策について伺います
相馬
学校施設は、児童生徒が一日の大半を過ごす学習の場・生活の場として、極めて重要な空間です。 常に児童生徒の立場に立って、道産材の活用による柔らかで、温かみと潤いのある教育環境づくりのため、道立学校の校舎改築では、床や壁の木質化を推進し、校舎床面積の60%に木材を使用するよう努めており、平成19年度に登別市に開校する道立中等教育学校においては、校舎の7割、屋内体育館の全てを木造建築としたところです。 また、創造的で情報豊かな児童生徒の育成のため、地域の風土や環境、周辺の景観と学校施設の調和を図る、いわゆる「文化的味つけ」に努め、壁の素材や色彩などにも配慮し学校側の意見もお聞きし、画一的な施設整備にならないようにしています。 さらに、教室などの配置や整備に当たっては、生徒一人一人の能力・適性、興味・関心等を生かすための学習二ーズに対応した施設造りが重要です。 このためには、学習関係諸室の位置関係や生徒の動線などを考慮するとともに習熟度別や少人数指導など、多様な学習形態に柔軟に対応できるよう、多目的教室や多様なタイプの講義室を整備しています。 また情報ネットワークの整備や情報機器の導入など、今日の科学技術の進展に対応した施設・設備の整備も重要です。 私としては、国際社会や情報化社会への対応、地域や産業界との連携の重視など、それぞれの学校の特色ある教育目標や運営方針などを反映した施設整備が重要だと考えており、このような取組を通して、将来の北海道を担う子どもたちの学習環境の整備に努めていきたいと思います。
――アスベスト対策は全国的な課題となりましたね
相馬
アスベスト対策については、児童生徒はもとより地域住民の方々にとっても、生命や健康に関わる重要な課題であり、国と地方が一体となって万全の対策をとることが極めて大切だと考えています。 道教委では、7月29日に「教育庁アスベスト問題対策連絡会議」を設置し、庁内あげてこの対策に取り組むこととし、北海道において8月31日に設置した知事を本部長とする「北海道アスベスト対策本部」に参加して、知事部局と連携した取組を進めているところです。 対策本部では、道立施設においてアスベストの使用が確認された場合は、劣化の状況などに応じ、基本的に「除去」するとの方針を示しています。 私としては、この方針に沿って早急な対応が必要と考えており、今後とも、市町村教育委員会や知事部局、関係団体等との連携を密にしながら、児童生徒や地域住民の方々にとって安全で安心できる学習環境の確保に、全力をあげて取り組んでまいります。

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