建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2006年1月号〉

interview

30メートルの天然ダム解消と土砂流下防止に取り組む
防災力の向上と地域の復興を視野に入れた災害復旧を

国土交通省 北陸地方整備局 湯沢砂防事務所 副所長 本臼 茂 氏

本臼 茂 もとうす・しげる
新潟県上越市出身
昭和 59 旧建設省北陸地方建設局採用
平成 12 4 北陸地方整備局 羽越河川国道事務所 調査課長
平成 14 4     同      高田河川国道事務所 工務第一課長
平成 16 4 より現職
中越地震の災害復旧が進んでいる。特に土砂災害が多数発生した芋川でも、いたる所で重機が稼働し、来年の9月の避難解除に向けて精力的に作業が進められている。その最前線で指揮をとる湯沢砂防事務所の本臼茂副所長は、「まずは土砂の流下を防止することが最優先だが、それだけでなく地域の復興に役立つ災害復旧を目指したい」と語る。
――管内は台風、水害、地震、そして豪雪と踏んだり蹴ったりでしたね
本臼
日本全国がそうでしたが、この管内は特に災害が多かったですね。
▲東竹沢地滑り上流の湛水池を
台船により重機搬入を行う
――被害の大きかった芋川の概略をお聞きしたい
本臼
芋川は信濃川水系魚野川の支川です。流れ自体はそれほど速くはなく、緩やかに地すべり地帯を流れる川で、延長約17kmですから小規模です。 私たちの湯沢砂防は、この信濃川水系の魚野川流域、中津川流域と清津川流域を所管して砂防工事を行っていますが、芋川は湯沢砂防事務所の担当外で、震災までは新潟県が担当していたのです。 しかし、平成16年10月23日の震災直後に、地すべりで上流に水が溜まる河道閉塞の状態になり、東竹沢では規模が30mと言われる大きな天然ダムの状態になりました。それが越流した場合、被害はさらに深刻になります。そのため、今回の工事も当初は新潟県で対応していたのですが、対処が困難であるため、昨年11月2日に新潟県知事から国の直轄事業として担当して欲しいとの要請があり、11月5日から我々湯沢砂防事務所が現地入りすることになりました。芋川は河川としての格付けは一級河川ですが、直轄での砂防事業はもう少し険しい困難な箇所を担当していたのです。
――権限代行事業ということになったのでしょうか
本臼
災害関連の緊急事業です。何しろ、河道閉塞が52箇所もできていました。その中でも大規模箇所が5箇所ほどあり、寺野と、東竹沢などは、高さが30mくらいの閉塞状況となっていました。これが決壊すると、下流が危険な状況になるのですけれども、昨年12月末までに100年に1回発生する洪水にも耐える仮水路を完成させ、緊急工事は終了しました。 今年度になってからは、芋川流域での、砂防工事全体を国で実施することになり、以降私たちが担当しています。
▲応急対策工事完成間近の様子
――被害状況は
本臼
崩壊が842箇所、地すべりが124箇所で、至る所が地震で崩れました。これらの砂防工事を私たちが担当し、地すべり対策は新潟県と農林水産省の治山工事等として行う予定です。 芋川流域は、上流には旧山古志村、中流には小千谷市と川口町、下流には魚沼市があり、川沿いには集落が4つもありますが、それ以外は山上に位置しているので、とりあえず我々の砂防工事には影響はありません。 山古志村の被災者は約2,200人で、全体では最大10万人を越える住民が避難されています。全村避難しているのは山古志村だけです。 去年の緊急工事直後に雪が降ってしまったので、雪解けを待って調査にとりかかりましたが、その結果、新たな崩壊も確認されています。 とりあえず今回の災害で、私たちが執行しているのは災害関連緊急事業で約96億円ですが、それだけでは済まないものと予測しています。
――昨年の地震後、なぜいつまでもクレーンその他の重機が現場で稼働する様子が見られないのか、不審がる声も聞かれました
本臼
当時は道路も寸断されてしまっていたので、工事車両も通行できない状況でした。自衛隊の支援を受けてヘリで重機を運んだり、自ら重機の進入路をつくりながら現地に入りました。資機材の搬入優先で、私たちが現場へ監督に出向いても、仮説事務所さえ設置できる状況にはなく、昼食時なども傘をさしたまま立って弁当を食べるといった有様でした。今年からの本格復旧においても、いたる所で道路は崩壊したままです。そのため、それらの復旧が遅れるようであれば、場合によっては、工事に必要な最低限の道路を独自に整備してでも作業にとりかかりたいと思っていましたが、道路といっても県道もあれば村道もあり、狭いエリアに様々な管理者があり、それぞれが施設整備の使命を持っているので、お互いの連携が課題でした。 そうなってくると、やはり連携会議というかたちでお互いに情報交換しないと上手くいかないものですが、現在は12箇所の工事発注契約が終了し、施工に取りかかっています。
――復旧工事の完了は、いつ頃の見通しですか
本臼
芋川全体の復旧はしばらくかかると思います。とりあえず来年9月には、全村避難を解除して帰村される予定なので、目標はそれまでに一定の安全度を確保することにあります。
――復旧は流域住民の居住地を優先しているのですか
本臼
地域全体が荒れていますが、優先順位としては、芋川本川に5箇所の大規模な河道閉塞があったので、崩壊の土砂が下流に流れないよう、大崩壊箇所の下流に堰堤を整備します。また、支川沿いは集落があるので、集落を守るための堰堤を造るなど、保全対象がある地域を優先しています。 それをまず来年9月を目途に完成させて、その後に順次、必要な箇所を手当していくことにしています。
――河道掘削によって、川幅を拡幅しては
本臼
この芋川は、完全な沢地になっているので、拡幅は少し難しいかもしれません。上流からどんどん土砂が流れてきているので、とりあえずは土砂が下流に流れないよう、堰堤で土砂を溜めることが先決です。状況によって、その場に適した砂防えん堰というものも考えてはいますが、基本はコンクリート構造になります。 一方、工事により、大量に土砂が発生するので発生土砂を有効利用する砂防えん堤も施工します。
――河川水は有効利用されるのでしょうか
本臼
下流では農業用水に利用しており、その意味では水資源でもあるのです。また養鯉池もあるので、それにも利用されています。
▲芋川流域の崩壊などの状況
――工法的な特色はありますか
本臼
私たちが常に留意していることは、まずは地域を安全にすることです。いまだに斜面に残っている土砂もあり、川に溜まっている土砂もあるので、それが下流に流れることによって、さらに集落に土石流が発生する可能性もありますから、まずは安全が最優先です。 そして、復旧だけでは終わらせず、復興が大切です。復旧だけでは、同じ震災が起きれば、またも同じ被害を受けてしまうので、例えば防災に役立つ施設など、同規模の地震がもし起きたとしても、地域の防災力が向上して、対応できるような物を造りたいと思っています。 また、単に安全性だけを考えて整備したのでは、非常に味気ない地域になってしまいます。山古志村の闘牛や棚田、養鯉で全国的にも注目される地域の文化と共存できる景観や、自然の植生をなるべく生かすようなかたちにしたいと考えています。 ただ、幸いにして砂防堰堤自体は、今回の地震でも壊れてはいないのです。したがって、施設自体は従来の設計方法でも十分だと思いますが、ケースバイケースで、砂防でどこまでできるかが検討すべき課題ですね。
――砂防ダムを上手く活用する地元町村の計画などは見られますか
本臼
要望では、砂防事業で発生した土砂を、窪地に盛土して避難できるような場所を造ったり、ヘリポートとして利用する計画も聞かれます。今回の山古志村での救助活動では、ヘリコプターの着陸できる場所が地元になかったため、わざわざ着陸地までお年寄りも含めて歩かなければなりませんでした。このために、そうした要望があります。私たちにできることは基盤整備までですが、何らかのかたちで地域の防災に役立てるようなものができればと思います。 今回の砂防工事も、単に地域を守るということだけではなく、荒れたものが下流に流れると魚野川なり、信濃川本川に流れ、土砂で流出を悪くしたり、川底を上げたりして同じ雨がきても溢れる可能性があるので、被災地だけではなく、「水系砂防」として信濃川水系全体のバランスを考えた砂防工事を行うことが必要です。
――芋川だけを見た微視的な砂防であってはなりませんね
本臼
そうです。湯沢砂防事務所、芋川だけでなく、地震前から担当してきた直轄砂防として全国一広い管内があります。技術系職員だけでなく、用地課を含めた全職員、全員で頑張っています。
湯沢砂防事務所管内の災害関連復旧事業に貢献
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