建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2001年5月号〉

interview

本州との一体化で道路整備が加速

道路整備に医療、福祉の視点

国土交通省 四国地方整備局 道路部長 三宅 篤 氏

三宅 篤 みやけ・あつし
生年月日  昭和25年5月13日生
本籍  岐阜県
昭和 48年 3月 岐阜大学工学部土木工学科 卒
昭和 48年 4月 関東地方建設局 千葉国道工事事務所 調査課 採用
昭和 50年 4月 宮城県
昭和 52年 4月 建設本省 道路局 地方道課 係長
昭和 53年 6月 米国スタンフォード大学留学
昭和 55年 7月 中国地方建設局 企画部 工事検査官
昭和 55年 9月 中国地方建設局 岡山国道工事事務所 調査設計課長
昭和 56年 7月 京都府 土木建築部 道路建設課 主幹
昭和 59年 4月 近畿地方建設局 道路部 計画調整課長
昭和 60年 5月 建設本省 大臣官房 技術調査官
昭和 61年 12月 石油公団 備蓄計画部 調査役(技術総括)
平成 元年 4月 九州地方建設局 長崎工事事務所長
平成 3年 4月 建設本省 道路局 企画課 建設専門官
平成 3年 5月 マレイシア国 派遣
平成 5年 6月 職務復帰
平成 6年 4月 北陸地方建設局 新潟国道工事事務所長
平成 8年 11月 関東地方建設局 横浜国道工事事務所長
平成 10年 4月 四国地方建設局 道路部長
四国は明石大橋をはじめとする本州四国連絡橋が整備されてからは、本州と四国との交流が飛躍的に増大し、新たな市場の形成とビジネスの萌芽が見られるようになった。道路整備のメリットが端的に顕れた格好だが、問題は四国内のネットワークの充実だ。八十八カ所巡りで有名な四国の道路整備とまちづくりについて、四国地方整備局の三宅篤道路部長に語ってもらった。
――本州と橋でつながったことで、人や物の流れはどう変わりましたか
三宅
橋が一本増えるたびに交通の流れも増え、瀬戸大橋が開通した頃に比べると1.6倍になっています。通常、開通直後に急激に増えた後は、その反動で若干、減少するものですが、全体の傾向としては増えています。明石ルートもしまなみ海道も同様ですね。
 単に交通量の問題ではなく、たとえばある地域の野菜が、今までは産地が遠すぎたために市場が成り立たなかったのが、通行が可能になったことで市場が開けて生産量が増えたとか、通行時間の短縮により、朝取り野菜をそのまま出荷できるようになり、新鮮さという付加価値をつけることが可能になりました。
――四国の経済圏は、どのように形成されていますか
三宅
特に、香川・愛媛・徳島は、それぞれ近県との結びつきが強くなっています。香川は岡山と、徳島は神戸・大阪といった具合ですが、全体的には関西との経済的な結びつきが強いようです。
――本四架橋の利用状況は、本州からの移入と四国からの移出とではどちらが多いでしょうか
三宅
両方ありますが、ショッピング目的では出ていく方が多く、観光目的となると入る方が多いですね。
――地元の自治体などは、橋のおかげで道路ネットワークの整備にかなり力を入れているようです
三宅
道路という意味でいえば、これは橋だけ架けてもダメで、橋と四国内の道路網との一体化が必要です。したがって当然、接続部分には力が入るわけですね。
――国道のネットワークは完成したと言えるのでしょうか
三宅
全般的に言えるのは、高速道路と、その骨格となる部分についての整備は、最近ピッチが相当あがっています。この1,2年で、高速道路の供用率は、ほぼ全国並みとなります。ただ、その他の道路の整備率は、いまだ全国よりは遅れている状況で、高速道路も現実には地域的な偏りがあります。
 本州に繋がる箇所や都市部に近い箇所は整備が進んでいますが、都市部から離れたところではこれからです。
――都市部はある程度手が着いたと言うことでしょうか
三宅
四つの県庁所在地は、直接、高速道路で繋がりました。ただ本州とは、直接、自動車専用道路で繋がっていない部分があります。明石もまだ鳴門では繋がっておらず、しまなみ海道も大島島内や、今治の陸上部分も自動車専用道路としてはまだ欠けている所があります。
――早急な完成が望まれますね
三宅
そうした箇所を最優先で進めなければなりません。
――道路の幅員は十分でしょうか
三宅
交通量は、他地域に比べると少ない方ですから、当面は暫定2車線でとにかく延長を伸すことが先決課題です。そこで、四国の中でも比較的交通量の多い所は4車線化を進め、それ以外は暫定的に2車線で整備し、後に追加的に4車線化していくという手法で進めます。
――その意味で、四国管内の重要路線はどのルートになりますか
三宅
整備局としての基本的な考え方は、幹線についてはいち早く全国ネットに繋げることです。本州との接続部分で欠けているところを早く繋ぎ、それから高速道路、高規格道路の欠けている部分、例えば四国の西南部などです。高速道路網計画としては、8の字を横にした形で計画されていますが、現在はx部分までが完成している状況ですから、あとは両端を繋いで8の字にすることです。
――東京都では、道路整備によって走行速度が平均18qから30qに上がると5兆円の経済効果があるとprしています。四国ではどのように考えていますか
三宅
道路整備にあたっては、単に需要がある、交通量が予想される箇所を優先的に整備するという単純な発想ではならないと考えています。もちろん、交通量、交通需要のあるところには整備しなければなりませんが、そもそも国土計画、あるいは地域計画、国づくり・地域づくりとはナショナルミニマムを考慮して進めなければなりません。
 そのためには、交通量が少なくても安全で、定時制が確保された道路が必要なのです。経済性だけを最優先するという発想は、行政の施策としては十分ではありません。
――確かに道路に求めるものといえば、どうしても経済性という画一的な見方しかされていませんね
三宅
経済的に発展するためだけに基盤整備があるのではなく、四国各地、あるいは日本各地に住んでいる人たちが幸せになる、充実した人生が送れる、そのための基盤を整備することが大前提です。経済的に自立していかなければならないので、確かに流通の円滑化も必要ですが、それだけではなく福祉、医療といった面からも配慮しなければなりません。
例えば、雨が降ったために止められてしまうような道路では無意味です。また、街の中では緑化も必要であり、電線類を地中化してすっきりとした街並みにするなど景観の向上も必要です。あるいは経済生活の基本である通勤、あるいは様々な施設、病院、学校など、生活する上で基本的な施設にも配慮しなければなりません。
 さらには空港、港湾などの交通拠点もあり、そうした施設に対して、一定レベル以上のアクセスを最低限確保しなければならないという使命が、道路にはあるのです。
――道路の持つ機能として最近、注目されているものに道の駅もありますね
三宅
高速道路のサービスエリアが15キロから20キロ間隔で設置されていますが、道路利用者へのサービスという点から見ると、それくらいが目安とも考えられます。しかし、食堂その他のサービス施設が不必要に競合しないことも必要ですが、一般道路の場合は、高速道路よりももう少し短い距離間隔で良いと思います。
 四国では、現在50数カ所に出来ていますが、密度を考え、また、四国といえば八十八箇所巡りですから、それに因んで、88箇所くらい在っても良いのではないかと考えています。
――道の駅は、基本的にドライバーのための利便施設と考えて良いのでしょうか
三宅
大きくいえば、ドライバーのための施設でもあり、それから地域活性化のための施設でもあるのです。ドライバーにとっては、食品その他の特産品の販売提供、トイレなどのサービスや、地域の情報など、様々な利便がありますが、地域としては、地元の特産品の販売と、雇用創出、あるいは情報発信によって、いろいろな地域の施設が利用されるなどの利点があります。
――道路を情報ネットワークとして活用する構想が進んでいますが、どんなイメージになるのでしょうか
三宅
例えば情報boxでは、道路管理者や河川管理者、下水管理者などが、施設を管理する目的で光ファイバーを敷設しています。その敷設する空間に空きがあるので、他の企業の光ファイバー等を収容しています。また行政が敷設した光ファイバーの空きを民間に提供したり、それとは別に民間が独自別にルートで光ファイバーを敷設したりして情報化に備えているわけです。
 いろんな情報通信の手段がこれから増えてきていますので、どれを使うかは別にして、いろんな情報源と繋げて集めた情報をいろんな情報提供手段で提供するという方向性です。
――情報ボックスが四国全体に行き渡るのは、いつ頃のことになりますか
三宅
国の道路管理者が、道路管理用に使う光ファイバーについては、すでに9割ほど敷設が終わっています。この1,2年で100パーセントになるでしょう。そこで、国の光ファイバー網に県や市町村も繋げて一緒に使うべく、県や市町村に呼びかけています。
――自治体側の反応は
三宅
地域によって温度差がありますが、高知県が最も積極的なようですね。高知県は国を後追いするのでなく、県独自で進めていたほどですから。
――道路の構造も変わってきました。舗装にしても、雨が降ってもはねたり反射しないため、悪天候でも視界の良い道路が増えてきました
三宅
透水性の舗装はいろいろな面で利点があります。迅速に排水するので滑りにくく、事故が起こりにくい。また、空隙があるので、タイヤと路面とから発する音が乱反射して、騒音があまりでにくい。さらに、ある程度水が下に浸透する事によって、降雨時に水が流出しずらいため、防災効果も期待できます。その他、植樹されているところでは、雨水が浸透するので散水の量が少なくて済み、エネルギーや水の節約ができます。
 そうした利点があるので、出来るだけ需要が大きいところ、交通量があり民家もあり、騒音を抑えなければならない地域、あるいは、事故の多発地域などでは積極的に活用しています。
――コストが若干、かかるのが難ですね
三宅
しかし、費用がかかるから機能を下げるのではなく、安全性を高めたり、その他の必要な機能を確保することが大切ですから、その予算確保の努力はしなければなりません。
 一方では、そうした機能をより経済的に獲得する努力はしていかなければならないので、技術開発や、発注の仕組みなど、さまざまなコスト削減に向けての努力は続けています。
――道路整備におけるPFIの可能性をどう考えますか
三宅
それはケース・バイ・ケースだと思います。道路について言えば、例えば、東京湾横断道路は一つの形ではないかと思いますし、それから、中部空港と陸地を繋ぐ橋も一種のpfiです。その意味で活用できる部分はあると思います。
――ところで、道路整備についてはとかく路線をめぐって様々な論議が起こりがちですが、四国の地域住民の意識は
三宅
一部で総論反対各論賛成と言う状況に遭遇します。私の印象では、基礎的な科学的な議論を離れ、データに基づかない理念的な議論がされているように思います。各論となる個別の事業では、多くの人が政党の枠を超えて必要だと主張します。
 こういう状況があるので、現物を、実体をよく見て判断していただきたいと思うのです。そのためにも、もっと科学的で客観的な議論が必要で、我々もそのために情報を提供していかなければならないと思います。
――最近、行政のアカウンタビリティが非常にクローズアップされてきていますね
三宅
例えば、PI(パブリック・インボルブメント)として、計画段階から地域の人たちに参画していただいて、基本的方向性を決めている例もあります。もちろん、決めるのは計画主体、事業主体ですが、地域の人たちの意見を大いに参考にしようと四国でも行っています。国道11号の大内白鳥バイパスもその方式でやりました。概略ルートの提言ををいただき、それに基づいた計画決定の手続きを行っているところです。
――事業に反対者がいる場合、反対意見の一つ一つに丁寧に対処するのは、大事なこととは思いますが、本当にエネルギーのいることですね
三宅
日本の公共事業が難しいのは、単に地形条件が厳しいだけではなく、物事を決めていくルールや筋道の煩雑さにあります。欧米と異なり、公共の事柄があまり重視されていないことが背景にあるのでしょう。また、他国では、この土地の所有区分が明確ですが、日本の多くの場合は、個人の所有地の境界線が正確に測量され決められていないのです。このため、公共事業用地を取得する際に、関係者に現場に来ていただいて現地で確認していただかなければならないのです。その際に論争が起こることも少なくないため、非常に時間とエネルギーが必要となります。
 用地買収の難しさは、地方によって様々です。歴史的背景や、地理的・物理的な要因に従い、程度に差があるようです。
――逆に、国道ができたのを契機に、沿線の商店街組合が、閑散としていた商店街をリニューアルして、再生を図っている地域もあります
三宅
四国では松山が好例です。この地域の環状道路がパンク状態なので、外環状を整備しなければならない段階にあります。環状線は一般道路ですが、外環状線は自動車専用道路として考えています。
その際に、道路づくりも含めてまちづくりについて、松山で色々と議論していただいているのですが、都心部の商店街の人たちは、一般的に道路が出来ると、そこに大型量販店が進出し、中心街の衰退に繋がることを心配していますが、このような議論を通じて、望ましい計画ができてくると思います。
 また、地方部では一本のバイパスが街の骨格的な施設になるわけですから、バイパスづくりと一緒に街づくりも考えていかなければならないわけで、その意味でも先に述べた大内白鳥バイパスなどは、街づくりを考えながら地域の人たちがどこにルートを設定すべきかを考えた結果、決まったものとして理想的な形と言えますね。

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