建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2001年5・6月号〉

interview

(後編へジャンプ)

心豊かな美しい国家の実現に資する人材育成

科学技術創造立国を目指す

文部科学大臣 町村 信孝 氏

町村 信孝 まちむら・のぶたか
昭和19年10月17日生まれ
昭和44年 東京大学経済学部を卒業後、通産省入省
昭和 57年 4月 通産省退官
昭和 58年 12月 衆議院議員に初当選
平成 元年 6月 文部政務次官
平成 9年 9月 文部大臣
平成 10年 7月 外務政務次官
平成 11年 10月 党副幹事長
平成 11年 11月 衆議員予算委員会理事
平成 12年 3月 内閣総理大臣補佐官(小渕内閣)
平成 12年 4月 内閣総理大臣補佐官(森内閣)
平成 12年 6月 6期目当選
平成 12年 7月 党国会対策委員会筆頭副委員長
平成 12年 12月 文部大臣兼科学技術庁長官
平成 13年 1月 文部科学大臣
21世紀を迎えた今日、世界は科学的に大きく進歩した結果、グローバル化が進み国境がなくなってきている。それに対応できる国際的人材の育成が求められる今日、わが国の教育はそれにどう対応していくのか、文教政策担当の閣僚として2度目の就任となる町村信孝文部科学大臣に、今後の教育、研究の方向性などを伺った。
――文教政策を担当する閣僚への就任は2度目ですね
町村
そうですね、私は昨年12月5日に文部大臣と科学技術庁長官を拝命しましたが、この1月の中央省庁再編によって、初代の文部科学大臣に就任しました。
――21世紀はどんな世紀になると想定し、どんな文教政策が必要だと考えますか
町村
21世紀は、経済社会が急速に進展し、人類が克服しなければならない数多くの課題に直面する激動の時代になると予想されます。その中でわが国が目指すべき方向は、主体性を持って国際社会に貢献し、世界から尊敬される「心の豊かな美しい国家」の実現だと考えます。
また、社会の少子高齢化が進んでいる状況ですから、国際競争力を維持し、経済社会の持続的発展を達成するための人材の養成、知的資産の創出を進めることが、存立基盤となります。
したがって私は、これまで旧文部省が担ってきた教育、学術、スポーツ、文化の振興と、科学技術庁が担ってきた科学技術の振興に関する施策を早急に進め、今日のような激動の時代の中にあっても、子どもたちに夢を与え、我が国の明るい未来を切り拓いていくことが、新しい「文部科学省」の使命だと考えています。
――わが国の教育は、戦後の民主化以来、どのように変化したと見ていますか
町村
日本の教育は第二次大戦後、機会均等の理念を実現し、国民の教育水準を高め、経済社会の発展の原動力になりました。
しかし、現在は、国民や社会の教育に対する信頼が大きく揺らいでおり、我が国の教育は危機に直面しています。
新世紀を迎えた今、「国家百年の計」である教育を、根本に立ち返って見直し、我が国の進路に誤り無きを期す必要があります。
――そのために、現在どんなアクションが起こされていますか 
町村
昨年末に、「教育改革国民会議」が最終報告を取りまとめました。これを受けて文部科学省は、その提言を踏まえ、「二十一世紀教育新生プラン」を策定しました。今後は、これに基づき「教育の新生」を目指し、「学校が良くなる、教育が変わる」という実感が持てるような教育改革を果断に実行していきます。
また、中央教育審議会においては、新しい時代における教養教育の在り方について、引き続き審議していただくほか、社会奉仕体験活動の充実や、今後の教員免許制度の在り方などについて検討頂きたいと考えています。
一方、新しい時代にふさわしい教育基本法の見直しについては、「教育改革国民会議」最終報告を踏まえ、省内で検討を行った上で、中央教育審議会などで幅広く国民的な議論を深めながら、成果を得ていく方針です。
――近年の学生や若者の行動には、以前には見られなかった状況があります。社会経済の不安定さや風紀の乱れが影を落としているようにも見えます
町村
そうした状況を見るにつけ、人間性豊かな日本人の育成が重要だと痛感します。そのため、社会奉仕体験活動や自然体験活動などの一層の充実を図り、「心のノート」を全児童生徒に配布するなど、道徳教育の充実を図っていこうと考えています。
さらに、子どもたちの問題行動などに対応するため、スクールカウンセラーの配置の拡充など、教育相談体制の充実を図るほか、出席停止制度の改善のための法的整備を図る方針です。
青少年を取り巻く状況が著しく変化する中で、未来への夢や目標を抱き、豊かな社会を創る営みに積極的に取り組むことのできる青少年を育成するため、「子どもセンター」の全国展開など「全国子どもプラン緊急3ヶ年戦略」の推進や、子どもの体験活動などを支援する「子どもゆめ基金」の創設、青少年を取り巻く有害環境への対策などに取り組んでいきます。
また、運動部活動や地域におけるスポーツ活動の充実に努めると同時に、児童生徒への健康相談活動、薬物乱用防止教育、性教育、食に関する指導など健康教育を充実させる方針です。
そして、人間形成の基礎が培われる幼児期の重要性に鑑み、幼児教育の充実に努めていきます。
一方、全ての教育の出発点である家庭教育の充実も重要です。そのため、子育て講座の開設や、親の悩みや不安に対する相談体制の整備など家庭教育の支援を推進していきます。さらに、家庭や地域の教育力向上も必要です。異世代間の交流の推進、ptaや青少年団体の支援などの施策を積極的に展開します。
――現代は経済に限らずグローバル化が進んでおり、それに対応し得る人材が求められています
町村
そこで、実践的コミュニケーション能力の一層の育成を目指した外国語教育の充実を図っています。また、2005年度までに全国の学校の全ての教室にコンピュータを整備して、インターネットにアクセスできる環境を実現するなどの「ミレニアム・プロジェクト」を推進します。
この他、中高一貫教育校や単位制高等学校、総合学科など特色ある高等学校の設置促進、コミュニティスクールなどの新しいタイプの学校についての検討、高等学校入学者選抜方法の改善、特別支援教育の振興、人権教育、環境教育の推進、読書指導の充実、教育内容・方法の多様化に対応した学校施設の整備等を推進していきます。
――昨年は、教員の問題行動も多く見られ、懲戒処分が増えたり、学級崩壊など資質・能力が問われることもありました
町村
教員の資質向上については、養成・採用・研修を通じた施策の充実、特に教員の社会体験研修の拡充や、社会人の一層の活用を促進していきます。児童生徒への指導に当たることが不適切な教員については、分限処分など迅速にして適切な人事上の措置が講じられるよう取り組むとともに、教員以外の職にスムーズに異動させるための方途についても法的整備を図る方針です。
――最近は、大学や大学院の機能強化に力が入れられていますね
町村
そうです。高等教育については、社会の多様な期待や要請に応えつつ、各大学がその役割を適切に果たし、国際的競争力のある「個性輝く大学づくり」ができるよう、これまでも教育研究システムの柔構造化や、責任ある意思決定と実行を可能とする組織運営体制の整備、第三者評価を含む多元的な評価システムの確立に努めてきました。
今後も競争的環境の下で、大学の自主性・自律性や国際通用性をさらに高めることが必要です。そのため、昨年11月の大学審議会の答申「グローバル化時代に求められる高等教育の在り方について」などの提言を踏まえながら、国立大学の講座の組織編成の柔軟化や、大学への17歳入学、大学院への学部三年修了時からの入学の促進について、関係法律を改正したいと考えています。
また、教育研究拠点としての大学院の重点的整備、大学評価・学位授与機構による第三者評価の実施など、一層の大学改革に取り組んでいく方針です。
――高齢化社会の進む今日、国民の生涯学習への意欲も高いようです
町村
そうですね。人々が生涯にわたり自己実現を図っていくためには、生涯のあらゆる時期に学習機会を選択して学ぶことができ、その学習の成果が適切に評価される生涯学習社会を築いていくことが重要です。
そのため、情報社会に対応した生涯学習の環境整備や、大学などへの社会人の受入れの促進、放送大学の充実、専修学校教育などを充実させなければなりません。
――最近、IT産業が隆盛を誇るようになってからは、国際間での特許競争が激化していますね 
町村
科学技術と学術は、我々に新しい発見や知識をもたらし、それを様々な問題の解決や、より豊かな暮らしのために活用することを可能にします。我が国が国際的な競争環境の中で、持続的に発展し国民の生活水準を向上させていくとともに、その成果を世界に向けて発信し、人類共通の問題解決に貢献していくためには、我が国の最も貴重な資源である「頭脳」によって世界をリードする「科学技術創造立国」を目指して、絶ゆまぬ努力をしていくことが必要です。
現在、総合科学技術会議において、21世紀における我が国の科学技術振興の基本となる総合戦略が検討されており、3月末に、新しい「科学技術基本計画」が策定されました。文部科学省としては、この計画に基づき、政府における研究開発の主体を担うという立場から、科学技術と学術それぞれの長所を活かしつつ、両者の調和と融合を図り、創造性に富んだ世界最高水準の成果を生み出すための研究開発を総合的に推進していきます。
このため、科学研究費補助金をはじめとする競争的資金の拡充などによる競争的研究環境の整備、若手研究者の活躍機会の増大、産学官連携の強化、研究成果の社会還元の推進、研究評価の充実と透明性の確保、大学などの研究施設の重点的整備など、我が国の科学技術システムの改革に努めています。
一方、基礎研究も重要で、地域の資源やポテンシャルを活用した、地域における科学技術の振興施策も展開していきます。
そして、あらゆる科学技術の基盤となるナノテクノロジー・材料、社会全体のIT革命を先導する情報科学技術、地球温暖化などの環境問題の解決に資する研究開発などを重点的に推進します。
そして、国民の安全な生活の確保にとって重要な地震調査研究などの防災科学技術の研究も積極的に推進していきます。
――遺伝子研究が終了し、新しい科学分野が確立されましたが、こうした成果が与えるインパクトは大きく、また裾野が広いですね
町村
21世紀は「生命科学の世紀」と言われるように、生命についての理解は、医療、食料、環境などの分野に大きな変革をもたらすものです。我が国がこれらの分野でリーダーシップを発揮し、健康で活力ある社会を実現するため、ゲノム科学、免疫・アレルギー・感染症研究、脳科学などのライフサイエンスを重点的に推進していきます。
 なお、生命倫理の問題については、人の尊厳の保持などに重大な影響を与えるクローン人間の産生の防止をはじめとして、国民の幅広い意見を汲み上げながら、慎重に取り組む考えです。

(後編)

――新科学技術基本計画のポイントは
町村
科学技術創造立国を目指す国のあり方として、知の創造と活用により世界に貢献できる国、国際競争力があり持続的発展ができる国、安心・安全で快適な生活のできる国と、3つの理念を追求するものです。
知の創造と世界貢献として、国際的科学賞の受賞者の増加を目指します。例えばノーベル賞受賞者を、向こう50年で30人輩出するといった目標を立てています。
国際競争力と持続的発展のためには、公的研究機関発に基づき数多くのベンチヤー企業が創設されることが理想です。安心・安全で快適な生活のためには、疾患遺伝子の解明と、これに基づくオーダーメイド医療の基盤が形成されることが必要です。
――それらを実現するために必要な条件は
町村
基礎研究の推進によって、公正で透明性の高い評価による研究水準の向上が必要です。同時に、国家的・社会的課題に対応した研究開発の重点化も必要ですね。例えば今日の情勢から言えば、ライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材料といった分野に力を入れていくべきでしょう。
一方で、急速に発展し得る領域には先見性と機動性をもって的確に対応することも重要です。
――そのために、行政サイドとしてはどんな施策を考えていますか
町村
競争的資金の倍増と30パーセントの間接経費の導入や、また、研究者の流動性向上のための任期付任用と公募の普及、原則任期を3年から5年に延長し、各研究機関毎に計画を作成するといったことです。
その他、若手研究者の自立性の向上のため、若手を対象とした研究費の拡充と、研究に関して助教授と助手が独立して研究できる環境の整備を考えています。透明性・公正さの確保と、より適切な資源配分に向けた評価システム改革も必要です。
一方、産業技術力の強化に向けて、産学官の連携を強化し、技術移転を推進します。特許の機関管理への転換、実施料収入からの発明者への還元の改善なども有効でしょう。その他、大学などの研究機関そのものの改革も必要だと思います。今後は、経済社会の変化に自律的・機動的に対応できる運営が必要になるからです。
そのためにも、大学などの施設整備を最重要課題と位置付け、整備計画を策定して計画的に実施します。
――整備のための財源を、どう確保しますか
町村
政府の投資の拡充と効果的・効率的な資源配分が必要で、政府による研究開発への投資総額は、対GDP比1%、GDP名目成長率3.5%と仮定した場合、約24兆円になります。
毎年度の投資については、一層厳しさを増している財政事情を考慮し、研究システム改革や財源確保の動向などを踏まえながら検討しなければなりません。
そのため、研究開発投資の重点化・効率化・透明化の徹底が必要になるわけで、その上で研究開発の質を向上させることが求められていますから、それを実現すべく努力していく方針です。

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