建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ1999年5月号〉

interview

「保健・福祉・医療」の充実

北海道瀬棚町長 平田泰雄 氏

昭和18年1月31日生まれ、瀬棚町出身、自治講習所卒。
昭和36年から瀬棚町役場に奉職。税務課長、教育次長、教育管理課長、総務課長、町民課長、を経て平成7年1月初当選、現在2期目。
――いよいよ2期目の町政に臨むことになりましたね
平田
そうですね。とはいえ、政策は1期目の継続事業が主体ですから、極端な変更は特にはありません。ただ、マリンタウンプロジェクトをはじめ、下水道事業や公営住宅の建て替え計画にしても、ほとんどが10年以上をかけて実施される大規模事業が多いので、すべてを2期8年間で完了できるものではないでしょう。
それでも、2期目の任期中にはある程度まで推進させるか、事業によっては完了させることで、今まで前町長から引き継ぎ、投資してきた成果が、見えてくると思います。
――就任以来、特に力を入れてきた政策は何でしたか
平田
他町村よりも遅れている「保健・福祉・医療」の充実と瀬棚町の存続に関わる「マリンタウンプロジェクト」の推進が当初からの命題だったと思います。
「保健・福祉・医療」については、確実に計画を推進することができました。温泉を活用した保健施設や福祉センターをすでにオープンさせ、残る医療施設も基本設計まで進んでいますので、「保健・福祉・医療」体系がようやく整います。これにより、安心して生活ができるマチの実現へ近づくことができると思います。
また、ハード面の施設だけではなく、今日、地方では確保が困難とされている医師も関係者のご協力を得て、すでに決まっています。幸運にも、地域医療に対し非常に熱心な方ですので、「人」を得たと思っています。
現在は、仮診療所で通院のみですが、この4月から1年間ほど診療活動に当たっていただきます。そして、通院患者を通して、町民の現状を知っていただき、瀬棚町の医療体制や新しい診療所の位置づけはどうあるべきかを考えていただこうと思っています。また、導入すべき医療機器や隣接町村との連携についても検討していただきます。
来春からは介護保健法も施行されますので、通り一遍の医療ではなく、患者となる町民をはじめ、保健婦や介護士などに対しても医療に対する考え方などについて、ご指導いただきたいと思っています。
――町の基盤を整える公共事業については、とかく批判対象にされますが、どう考えますか
平田
今回の選挙でも争点にもなりましたが、財政問題については、現在政府が「財政改革法」を凍結させてまで、公共事業も含め、景気浮揚対策を行っています。この中で、財政再建を優先させるとなると、事業の実施ができないばかりか、「財政改革法」が復活したときにも事業の実施はできないことになります。政府が財政の立て直しを行うときに自治体として補助金の申請や起債をお願いしても、事業そのものが認められないのですから、瀬棚町の将来はありません。だから、今こそ、一つのチャンスとして、現状の財政危機を乗り越え、切り抜けていくことが瀬棚町の将来につながっていくものと思います。
しかし同時に、財政の健全化計画は立てなければならないと思います。この見通しが無いまま、事業を実施するわけにはいきません。財政問題はこの両面から考えなければならないものと思います。
現在は、「公共事業は悪い」といったイメージを与えていますが、我々としては、そうではないということを知っていただきたいと思っています。というのも、この瀬棚町は、国道の防災対策事業や港湾・漁港整備事業など、国、道、町の予算が年間約50億円にも上ります。この現場などで、瀬棚町民の約200人が働いていますが、平均3人家族とすると約600人となります。この600人の町民が間違いなく公共事業に支えられて生活しているということです。現在、人口は約2,800人ですから、決して少ない数ではありません。
マリンタウンプロジェクトを例に挙げると、毎年約18億円が投資され、このうち、約2.5億円を町が負担しています。この事業で約70人の町民が生活しており、その人達の給料として町負担分の約2.5億円は還元されているといえます。
また、将来に繋ぎ、子ども達に残せる施設もできるわけです。この子ども達が大人になり、漁業や観光で生活していくための施設が必ず必要になります。そうした財産づくりをしているわけですから、決して「公共事業は悪い」とはいえません。
また、下水道事業にしても、漁業で生活している町が、自ら海を汚しているのでは問題です。環境保全への取り組みとしても非常に重要です。
――主幹産業でもある観光の振興策は
平田
観光については、いつまでも「三本杉」と「窓岩」だけでは、リピーターは呼べません。現在、「茂津多林道」の開設を行っていますが、この林道の開設により、「茂津多灯台」への通路が確保できるほか、林道や灯台の周辺の自然を活かした環境整備をすることで、新たな観光資源の創出が可能となるわけです。そうして、灯台から見える、日本海の景観なども活きてくるわけです。
林道を造るからといって、林道本来の目的である森林管理などだけに使用するのでは、もったいない。林道の開設によって灯台を守り、自然を守り、そして観光資源にもなる。一つの種から、いろいろなものにつなげ、幅広く活用されることになれば良いと思っています。
――観光振興には、特産物の開発、育成も欠かせませんね
平田
昨年、この瀬棚のシンボルでもある荻野吟子(我が国の女医第1号)の名を冠した日本酒が、「合鴨農法」によって育てられた米を利用してできました。しかし、この酒を造ろうとして「合鴨農法」を取り入れたのではなく、瀬棚町は中山間地帯なので、農業が国際競争の中で、非常に大変な時期を迎え、勝ち残っていけるような営農がなかなかできません。そこで、付加価値をつけるためにも合鴨を利用した有機農業を行っているわけです。生産された米を自主流通米として販売しているほか、酒米については酒を醸造しています。酒のネーミングは町民から募集したところ、安全性や健康面から日本初の女医であり、瀬棚町に開業した荻野吟子にちなみ「吟子物語」に決定しました。この地酒により、観光面からも瀬棚町のprにもなっています。
このように、有機農業を行おうとしたことから、酒の販売により商工業への経済波及効果、観光への波及効果など、一つのものが連動していくことは理想です。また、同じ荻野吟子の名を冠した商品には、「吟子のロマン」というアイスクリームもあります。これも同じ発想で、有機栽培したカボチャを原料に町直営で作っています。ネーミングの由来も「吟子物語」と同じで、これが第二弾となります。町の流れとして荻野吟子に徹底してこだわっていこうと思っています。

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