建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2005年8月号〉

interview

中越地震被害者3,000人の生活再建へ向けて国道291号の災害復旧工事がスタート

地域の復興計画にも貢献

国土交通省北陸地方整備局 長岡国道事務所改築担当副所長 奥住 雅彦 氏

奥住 雅彦 おくずみ・まさひこ
昭和 53年 4月 建設省北陸地方建設局富山工事事務所採用
平成 10年 4月 北陸地方建設局 企画部 建設専門官
平成 11年 4月 財)国土技術研究センター 出向
平成 13年 4月 北陸地方整備局 企画部 事業調整官
平成 16年 4月 現職
昨年の中越地震で、多くの人々が生命・財産を奪われ、産業も生活も破壊され、その上に異例の豪雪で地域住民は打ちのめされたが、積雪の消滅を待って、長岡市(旧山古志村)と小千谷市を結ぶ幹線国道291号の復旧工事が始まった。迂回道路が無く、昨年の暮れに一時帰村などのために復旧した道路を工事用道路として使用するというハンディを負いつつも、住民の早期の帰宅を実現させるべく、24時間体制で工事が進められている。工事の陣頭指揮に当たる長岡国道事務所の奥住雅彦改築担当副所長に、復旧工事のポイントなどを伺った。
▲長岡市古志竹沢地先より梶金方向を望む
――国道291号が、ようやく復旧工事に着手しましたね
奥住
中越地震の震源地は川口町を中心としたエリアですが、それに隣あわせの旧山古志村、小千谷市でも大きな被害を受けました。新潟県知事から、復旧事業を直轄で担当してもらいたいとの要請があり、国道291号については平成16年11月11日から北陸地方整備局で権限代行による復旧事業を行うこととなりました。整備局に中越地震復旧対策室が設置され、芋川の河道閉塞対応などの砂防事業と合わせて一括して対応してきました。
この4月1日から長岡国道事務所で国道291号の復旧事業を担当することになり、復旧対策課を新設し全力で工事を進めているところです。
――復旧事業のための予算は、どのように措置されましたか
奥住
16年度の補正予算で災害復旧費として約100億円を計上しています。
――今後に備えて、耐震度、その他施設のレベルアップは期待できますか
奥住
甚大な被害を受け高度な判断を必要とする箇所が多くあったため、学識経験者、専門家で構成する「国道291号災害復旧技術検討委員会」を設置し、委員の意見を参考に復旧計画を策定しました。計画は災害復旧ですから、災害前の状態に戻すことを原則としています。ただし、技術検討委員会での意見を踏まえ、被害の程度が大きい2箇所については、新しいルートを計画しています。
一箇所は竹沢から梶金までの区間で、291号が斜面に沿って河川に落ちた形になっています。工期、コスト等を考慮し、トンネルを含む新しいルートとしました。
もう一箇所は、マスコミの報道等でご存じだと思いますが、芋川で河道閉塞が起きて、上流の木籠(こごも)集落が水没した箇所です。砂防事業による対策後も計画水位が高くなり、既設の新宇賀地橋が水没するため、道路の計画高を上げた新しいルートとしました。
これらの新しくなる部分については耐震基準などを始め、現行の基準等に沿った整備を行います。
――この291号というルートは、地元ではどのように位置づけられていますか
奥住
現在、旧山古志村を通る国道は291号と352号があります。352号は未改良で車が通行できない所があり、旧山古志村を東西に走る291号がこの地域のメインルートでした。
震災直後は、291号だけでなく他の県道、市道なども通れなくなったことは、新聞報道などで周知の通りです。
――地域住民の生活にも深刻な影響と損害をもたらしましたね
奥住
地震直後は、道路が寸断され車では村外に出られず、住民は着の身着のままヘリコプターで脱出するという事態になりました。豪雪地帯ですから被災を受けた住宅は雪の重さで倒壊する危険性があり、本格的な降雪前に自家用車をはじめ衣服などの日常生活品を自宅から避難所へ持ち出したいと言う要望がありました。年末までに車一台が通れる道路を緊急的に整備し、車などを運び出すことができました。今年は19年ぶりの豪雪で、3月下旬から除雪を行いながら本格的に工事を始めたところです。
――このルートの崩壊で、どれくらいの人々が影響を受けましたか
奥住
291号に関係するエリアで、旧山古志村の全村、690世帯約2,200人と小千谷市の209世帯約800人が、現在、仮設住宅などに避難しています。
――このエリアでは、どんな経済活動が行われていましたか
奥住
棚田での米作りを中心とした農業、錦鯉の生産、闘牛などの観光が行われていました。特に錦鯉の生産は、日本国内だけではなく、世界における「錦鯉発祥の地」として、イギリスやアメリカなどの業者や愛好家が訪れ長期滞在するなどこの地域を代表する産業でした。
――流通ルートにもなるので、それが寸断されたのではかなりの影響がありますね
奥住
現在291号は、道路法に基づき一般車は通行止めとなっています。応急復旧により工事車両は通れる状況にはなっていますが、一般車両が安全に通行できる状況にはありません。国土交通省、新潟県などの復旧工事関係者のみ通行を許可しています。
ただ、避難指示は出ていますが地元住民の方々には、錦鯉の養殖作業や農作業、自宅の整理などのため、日中に限り帰宅が認められていますので、通行を許可しています。
――ルート全体における工事のポイントは
奥住
291号を復旧する訳ですが、291号はこの地域の災害復旧を行う多くの工事で利用する工事用道路としての役割もあります。このため、最低でも1車線を確保した上での施工が求められます。また、災害復旧ですから基本的には今年度内に完成する必要があります。
被災の中心は、地滑りや崩落です。規模があまりにも大きく、1箇所で15万m3もの切り土が必要であるなど施工には困難を極める部分もあります。
また、他の事業、林野庁による山林整備や、砂防事業と一体となった地滑り対策箇所もあり、関係機関と調整が必要です。
代表的な構造物としては先ほどお話ししたトンネルの新設が1箇所、新設橋梁は2箇所ですが、その他に架け替えを行う橋が1箇所あります。それ以外にも下部工が被害を受けたものについては補強修復をします。
――現時点での進捗率はどのくらいでしょうか
奥住
工事は昨年度末から発注を行い概ね終わりました。今年は豪雪の影響もあり雪が消えたのが5月連休明けだったので、それまで工事が進められない状況でした。現在、各工事で本格的な施工に着手した所です。
291号それ自体を工事用道路として使用しなければならないことが、工程のネックになります。そのため、障害になる部分の施工担当会社には、24時間体制で他の工事への支障を最小限にするよう要請しています。
――平常時の新規路線整備とは、事情が違いますね
奥住
災害復旧工事ですから、元に戻すことを基本として、その中で山古志らしさ、地域らしさが残るようなかたちでの工夫しながら整備を進めていきたいと考えています。地域と一体となって復興を行うために、北海道で行われているシーニックバイウェイの発想を取り入れることも考えています。
整備にあたっては、自然景観に配慮し改変面積を小さくするとともに、補強土壁や、厚層基材吹き付けなど自然の植生が期待できる工法を中心に行います。
――それによって、外見上はどのように見えるのですか
奥住
土の中に一部コンクリートの枠が見えると言った感じでしょうか。草木が生えてくれば、枠も目立たなくなると思っています。
――地域自治体では、このルートを活かした復興計画はありますか
奥住
平成17年3月に旧山古志村が山古志復興プラン「帰ろう山古志へ」を作成していますし、合併した長岡市でも平成17年4月に長岡市復興計画 骨子を作成しています。我々も極力プランを支援していきたいと思っています。
――道路管理者として、道路利用者に伝えておきたいことはありますか
奥住
小千谷市では、早く避難勧告を解除してもらいたい、家に帰りたいとの話が聞かれます。旧山古志村についても来年の9月には全員が村に戻るとの目標を立てています。
これらの要望に応えられるよう、国土交通省としても、来年秋までに復旧工事を終えることを目標にしています。ただ9月までに全ての復旧工事を終われるのかというと、難しい部分があります。しかし、道路の復旧がなければ日常生活も復興もできません。何とか来年9月までには工事用道路の利用も含め通常の社会活動ができるようし、秋には全ての工事が完了するようにしたいと考えています。

HOME